文化庁月報
平成25年7月号(No.538)
連載 「若手映画監督の声」
あたらしい扉を開けてくれた「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」
<映画を必要としている人間は,映画の世界にだけ居るわけではない>
まず最初に撮りたい映画があった。
ndjc2012 『んで,全部,海さ流した。』
32才。普段はTVCMのディレクターをしています。ショートフィルムの経験はありましたが,劇映画をつくったことはありませんでした。経歴でいえば今回のプロジェクトの中で,いちばん映画から遠い人間だったかも知れません。
しかし自分には,なによりも撮りたいと思う映画がありました。自分の故郷・石巻で今しか撮れない映画がある。それを完成させたいという一心で,ndjc:若手映画作家育成プロジェクトへ応募しました。
もしかして,こんな事を言ったら怒られてしまうかもしれませんが,“育成”の場である事は,当初ほとんど意識していませんでした。今の石巻を35mmフィルムで残せる。個人では難しい規模の作品を,映画のプロとともに製作できる。そんな意識ばかりが先行していました。
しかし,プロジェクトを終えた今振り返ってみると,この半年間のプロジェクトの中で,多くの方々に
独特なndjcシステムの中で変化する意識
ndjc2012 現場写真
ndjcは日本に
撮影所の監督育成システムが失われ,映画を志す者たちはまずはアマチュアからスタートするという流れが一般的になっている現在,ndjcのシステムは非常にありがたい,そう思います。
まずは脚本指導から始まり,その後,制作プロダクションへと引渡され,最終的には実際の劇場にて自作が一般公開されます。その過程は実習とはいいながら,実戦そのもの。アマチュア作家が突如プロ集団の中に投げ込まれ,覚悟と才能を試されるのですから,並のプレッシャーではありません。猛者たちに揉みくちゃにされながら,映画への愛情やシビアな現状,第一線の技術,酒を飲みに行く大切さなどを知るのです。
ndjcのありがたさというのは,アマチュア作家が商業作家へと移行する際にぶつかる“社会性の壁”。それを短期間に実体験できる点にあります。与えられた予算。独りよがりは許されないシナリオ。プロデューサーとの
もうひとついえば,自分のような“勤め人”が,数ヶ月会社に休みをもらって参加できたのは「文化庁」という印籠に効き目があったように思います。(もちろん会社の皆の大きな理解あってのことでしたが!)
『んで,全部,海さ流した。』 完成
2013/6/15 石巻での上映会にて
自分が撮りたかったのは,大きく傷ついた故郷・石巻を舞台にした映画。震災後の“
もともとのストーリーを振り返ると,自分としてはもう少し個人的な話を描こうとしていました。普遍性について考えながらも,突き詰めれば自分,そして身近な人たちのために作りたかったのです。しかし本作の制作を引き受けてくださったシグロの山上徹二郎プロデューサーと製作を進めていく中で,石巻の人以外にも意味のある,届く映画にしたいと徐々に思うようになりました。
「自分たちなりの希望をどうみつけるか」というテーマが明確になったが故に,自分の中で外へ伝えたい気持ちが強くなったのではないかと思います。結果として,もともと思い描いていたカタチではないけれど,撮りたかった映画が撮れた,という不思議な充足感が得られました。「映画は人に観てもらって完成する」何度となく聞いた言葉が胸に迫っています。
今,自分が感じているのは,「本気で撮りたい映画がある人ほど,ndjcに参加して欲しい」ということです。実習という場ではありますが,こちらの本気に応えてくれる方ばかりです。自主制作出身でも助監督出身でもCM出身でも,受け入れてくれる土壌があります。それぞれにとっての,あたらしい扉が開かれると思います。
VIPOの皆さん,シグロの皆さん,スタッフ陣,俳優陣,所属会社であるRooftopの皆,石巻の方々,感謝しています。
この経験が
「んで,全部,海さ流した。」![]()
6月15日に石巻で完成記念上映会を行いました。10月より東京・渋谷ユーロスペースを皮切りに全国公開が決定。
その後,静岡・三島での上映も予定しています。

