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文化庁月報
平成25年7月号(No.538)

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【インタビュー】紺野美沙子・文化審議会新委員に聞く

【インタビュー】紺野美沙子・文化審議会新委員に聞く

文化庁政策課

 この度,第13期文化審議会の新委員として,女優の紺野美沙子さんに御就任をいただきました。紺野委員は,女優として御活躍される一方,「朗読座」を主宰され,被災地でも,朗読活動を通じて,人々の心を勇気づける復興支援にこれまで御尽力されてきています。
5月27日(月)には,今期第1回目となる文化審議会文化政策部会が開催され,紺野委員から,「東日本大震災からの復興のための取組」というテーマで,これまでの被災地での御活動の姿をスライドにより御報告をいただきました。
 紺野委員から,これまでの文化関係の御活動や,文化審議会委員としての今後の抱負などをお伺いしました。
 〔聞き手:文化庁政策課文化広報・地域連携室長 内田 広之〕

(聞き手)
 この度,文化政策の方向性を審議する文化審議会の委員に御就任いただきましたが,今後の抱負はいかがですか。

紺野美沙子委員

紺野美沙子委員

(紺野委員)
 かつて,近藤誠一文化庁長官の就任を報じる新聞記事を読み,「外務省出身の文化庁長官」というご経歴に興味を抱いておりました。UNDPの親善大使を務めていますので外務省の皆さんにはお世話になっているからです。その後,東日本大震災後に文化庁ホームページに掲載された長官のメッセージ(http://www.bunka.go.jp/commissioner/index.html)を拝見し,ビジョンが明確で,心に響く言葉があり,いざという時には無力だと感じていた自分にも出来ることがあると励まされました。
 一人一人のそれぞれの立場での活動が重要なのだと思います。
 私も実演家の一人として,舞台や「朗読座」など「現場」で体験してきたことを,文化審議会でお伝えできればと考えております。

(聞き手)
これまで,紺野委員は,実演家としての御経験を活かされて,被災地支援などに御尽力されてきておられます。「文化芸術の持つ力」で世の中を活気づけていくことについてのお考えをお話しいただいて宜しいでしょうか。

(紺野委員)
 私が主宰している「朗読座」は,音楽家やアニメーターの方など様々な立場の方が参加しています。これからは,地域に根付いている伝統文化やそれを支える方々とも(つな)がっていきたいと思いますが,そのなかで大事だと思うことは,「1+1+1」を「3」ではなく,「10」や「100」に出来る力,「繋げてもっと大きな力に」することだと思います。
 文化審議会文化政策部会(5月27日(月)開催)でも話題になりましたが,最近では,文化芸術分野における「ファシリテータ」という専門家の必要性が提案されています。この「ファシリテータ」の役割の一つが,敷居が高いと捉えられがちの文化芸術を,より分かりやすく,面白くかみ砕いてコーディネートすることと理解します。
 被災地も含め,昨今では,人々の「伝える力」,「つなげる力」が大事であるのに,実演家,芸術団体,文化庁,地方公共団体など,それぞれ異なる立場の人をつなげて発信していく力が,今は弱いのではないでしょうか。そういう力を持つ人材が不足しているように思います。「文化」というと「高尚」なもののように思われがちで,敬遠されているところもあると思います。「文化」を身近なものにする,上手に伝える,発信する力が求められているのではないでしょうか。
 「文化」は「明日への糧」になり得るものです。分かりやすい包み紙に包んで提供することも大事だと思います。初見の人でも印象に残るような工夫が必要ですし,それが次世代を育てることにもつながるのではないでしょうか。「文化」を体験できる「入り口」まで子どもたちを連れて行き,そこで興味を示した人に何を見せるか。「退屈で難しい」という評価がなされれば,それはアーティスト側の責任だと思います。本当に良いもの,今日触れたことによって,明日も頑張ろうという気持ちになるようなものをつくっていくことが実演家の役割だと思います。

(聞き手)
 これまで,紺野委員が,被災地で取り組まれてきた「朗読座」の御活動について,お話しをいただけますでしょうか。また,被災地での支援活動を通じて,どのようなことをお感じになりましたか。

紺野美沙子委員

(紺野委員)
 私は3年前に,「朗読座」を旗揚げしました。心に染み入る物語や,美しい日本語の作品を紹介することによって,観客と「心潤うひととき」を共有したいと思っています。そして若い人たちに思いやりの気持ち,優しさ,見えないものを見る力,想像力を培ってほしいという思いもあります。
 この「朗読座」が,2012年2月末と3月に東北公演を行いました。東北に行こうと思い立ったのは2011年3月の東日本大震災の後に,『さがりばな』という一冊の写真絵本に出会ったことがきっかけでした。この本は,命の循環を伝える作品であり,また,さがりばなの花言葉は「幸せが訪れる」というそうで,この作品を朗読作品にして宮城県の名取市,岩手県の陸前高田市,福島県の会津若松市の3か所で公演をしました。
 観客参加型の手法をとり,お客様が朗読を聴くだけではなく一緒に体を動かしたり,曲のリクエストを受けたり,みんなで合唱をしました。公演前後には,現地スタッフとの懇親会を行い,交流を深めました。その時,被災地の皆さんも,リフレッシュして明るい表情をされていたと思います。一番求めておられるのは,人と人とのコミュニケーションだと実感しました。年数が経つにつれて益々孤立を深める方もいらっしゃると思いますので,継続的な文化芸術の支援が必要であると感じました。

(聞き手)
 東日本大震災から,2年3月余りが経過しようとしております。先ほどの問いとも重複するかもしれませんが,今,被災地に求められていることや,今後,求められてくることについて,どのようにお考えでしょうか。

(紺野委員)
 「皆さんのことを忘れていない」ということを伝え続けることが大切ではないでしょうか。
 アーティストが出向く,また,文化庁の職員が,または観光客が,被災地へ足を運び,仮設住宅を訪問して住民と世間話をする。それだけで被災地の人たちは喜んでくださると思います。
 「目を向ける」ことはもちろんですが,それを「継続すること」が大事であると思います。

(聞き手)
 少し哲学的な話になってしまうかもしれませんが,人間にとって力を持つ「文化芸術の力」とは,どのような力なのでしょうか。

(紺野委員)
 「創造力」と「想像力」が重要なキーワードではないでしょうか。例えば,古い文化財を子どもたちに見せる。それを見て,何故,貴重なのか,今までどういう人たちがその文化財に触れ,守るために手をつくしたのかなど,想像する楽しさを体験してもらいたいです。その「想像力」が,見えないものを見る力になる。東日本大震災の被災地や,経済的に貧しい国,お年寄り,障害者など,弱い立場の人たちに目を向けることで,それが一人一人の「創造力」,実際の行動へと繋(つな)がっていくのではないかと思います。

(聞き手)
 子ども達が文化芸術に触れる機会を用意したり,子ども達が文化芸術に興味を持ってくれるような環境を醸成していくことが重要だと思います。紺野委員が子どもの頃に,演劇を志すに至られたきっかけがありましたら,教えていただいて宜しいでしょうか。

(紺野委員)
 小学校の演劇クラブ顧問の先生のご指導がきっかけです。小さいときから朗読が好きで,演劇クラブに入りました。入部した5年生の時すぐに,青少年演劇コンクールに出場することになり,(もり)鴎外(おうがい)の「山椒(さんしょう)大夫(だゆう)」の安寿の役を演じることになりました。先生にはとても厳しくご指導いただきました。その厳しさがあったからこそ,このうえない達成感を味わえました。その気持ちが忘れられずに,ゼロから皆で1つの作品を作り上げることの醍醐味(だいごみ)を知り,演劇を志すに至りました。
 これからの子ども達には,文化芸術を体験する機会を多く持って欲しいと思います。

(聞き手)
 今後,文化審議会においては,紺野委員より,これまでの実演家としての御経験,被災地での御経験などに基づく御識見を幅広く賜り,文化庁が文化政策を創っていく上で,様々な御示唆,御指導を賜りたいと考えております。どうか宜しくお願い申し上げます。

紺野美沙子委員インタビュー
紺野美沙子委員インタビュー

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