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文化庁月報
平成25年8月号(No.539)

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連載 「日本の伝統美と技を守る人々 重要無形文化財保持者編」

重要無形文化財「常磐津節浄瑠璃(ときわずぶしじょうるり)」 保持者 常磐津(ときわず) 一巴太夫(いちはだゆう)

京都市立芸術大学名誉教授 久保田敏子
常磐津 一巴太夫

常磐津 一巴太夫

重要無形文化財「常磐津節浄瑠璃」
指定年月日:平成7年5月31日


保持者:明田(あけた) (あきら) 芸名:常磐津 一巴太夫
認定年月日:平成7年5月31日
(生年月日)昭和5年生(在住)滋賀県大津市


【重要無形文化財および保持者のプロフィール】

 常磐津節は,三味線音楽の語り物である浄瑠璃の一つで,主として江戸の歌舞伎舞台での出語りを主とする歌舞伎音楽として発達し音楽的に洗練され,さらに歌舞伎や舞踊の舞台を離れて独立した音楽としても演奏されるようになって現在に至っています。
 明田昭(常磐津一巴太夫)氏は,昭和23年に本格的に修行を始め,同27年に常磐津一巴太夫を名乗り関西を中心に活動し,同53年に歌舞伎座初出演以後関東はじめ全国的に活躍しています。平成7年には常磐津節浄瑠璃の技法に精通し高度に体現していることから保持者に認定され,また一般社団法人関西常磐津協会理事長をつとめ常磐津節の普及・振興,後継者の育成にも尽力しています。

『三世相(さんぜそう)錦繍(にしき)文章(ぶんしょう)』福島屋の段 店先(平成22年4月27日 紀尾井小ホール)

三世相(さんぜそう)錦繍(にしき)文章(ぶんしょう)』福島屋の段 店先
(平成22年4月27日 紀尾井小ホール)

 常磐津(ときわず)一巴太夫(いちはだゆう)(本名・明田(あけた)(あきら))さんは,無類の歌舞伎好きで,旧制中学の頃から(せい)(きん)(学生)歌舞伎で名を馳せ,一時は役者になるつもりだったそうです。その昭少年は,今では最高峰の常磐津節の太夫(語り手)として第一線で活躍しています。
 常磐津節は,江戸歌舞伎とともに発展してきた浄瑠璃(三味線での語り物音楽)の流派のひとつで,京都に生まれ京都の浄瑠璃を身に付けた(みや)()()()()太夫(たゆう)が江戸に下って,1747年に「常磐津」という新しい名前で江戸中村座に旗揚げしたのがその始まりです。
 したがって常磐津節は,京都と江戸,両方の気風を取り込んでいるのが第一の特徴です。つまり,はんなりして情緒豊かな上方風の浄瑠璃に,江戸好みの豪放さと軽妙さが加味された幅広い表現力と柔軟性のある音曲です。
 一巴太夫さんは京都祇園の生まれですが,ごく普通の家庭の子供でした。とはいえ土地柄,三味線の音を子守唄代わりに聞いて育ち,耳の肥えた少年でした。また,当時の上方の習慣では6歳6月から教養として芸事を始めるのですが,昭少年は謡曲を習い,腹式呼吸を仕込まれました。その後,長唄三味線も修得しています。こうしたことの全てが,今日の一巴太夫さんの芸の肥やしになったと推察できます。
 旧制中学を卒業後は親戚の経営する印刷会社に乞われて就職し,主に経理畑の仕事をするサラリーマンになりました。ある時,常磐津()()(いち)(ろう)師が稽古場にしていた集金先から聞こえて来た浄瑠璃に釘付(くぎづ)けとなり,師から誘いを受けて稽古を始めたのがこの道への切っ掛けだったそうです。
 常磐津の稽古では,浄瑠璃と三味線だけでなく,役者が語ったセリフも稽古してもらえることが特有の魅力であり伝統でした。昭青年は,持ち前の美声と音感に加え,身に付けていた歌舞伎の素養も役立って,1952年1月,名取となり,ここに常磐津一巴太夫が誕生します。
 その才能を高く評価した師匠の理解もあって,3世常磐津()()(はち)(後の3世常磐津(りん)(ちゅう))師や常磐津(ぶん)(ぞう)師,常磐津吾妻(あずま)太夫師にも師事して,各派の節を修得。1995年には,重要無形文化財保持者(いわゆる人間国宝)の認定を受けます。声よし,節よし,堅実で誠実,しかも機転の利く語り口と,(けん)(だい)(した)から響いてくる低音の迫力は他者の追随を許さない魅力です。
 早くも1961年からは,太夫としては異例の作曲にも挑戦。作品は40曲近くあります。近年は,京都市に隣接する滋賀県大津市に居住していますが,県の誇る芝居小屋・(ちょう)(えい)()でもよく公演し,地域の古典芸能の活性化にも尽力しています。2012年秋には自作の《近江(おうみ)(はっ)(けい)》を初演して喝采を浴びました。
 大物役者や舞踊家から引っ張りだこで,地方(じかた)を勤めるほか稽古もされていますが,いつも視線は市井の人々にあって,学校(まわ)りにも気さくに出かけ,決して敷居は高くありません。いつでも気軽に声がけして下さいと,長い眉毛の下で優しい瞳が輝いています。

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