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文化庁月報
平成25年9月号(No.540)

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連載 「著作権トピックス」

「視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」(仮称)の採択について

文化庁長官官房国際課

 6月18日から28日まで,モロッコのマラケシュにおいて,視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するための条約成立のための外交会議(議長:ムスタファ・カルフィ モロッコ王国通信省大臣)が開催されました。概要は以下のとおりです。

1.新条約(視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)(Marrakesh treaty to facilitate access to published works for persons who are blind, visually impaired, or otherwise print disabled))の概要

(1)採択までの経緯
 WHOによれば,世界中に視覚障害者は3億1400万人おり,そのうちの90%は発展途上国に居住しています。2006年の世界知的所有権機関(WIPO)の調査によれば,60か国未満の国しか,国内の著作権法において視覚障害者に関する権利制限規定を設けていませんでした。(なお,我が国の著作権法は,第37条で視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者のための複製等に係る権利制限規定を既に定めています。)
 そしてこれまでは,権利制限規定を用いて各国で作成された点字図書や録音図書の輸出入を行うための統一的なルールは存在せず,各国が自国で作成した点字図書や録音図書を,国境を越えて海外の視覚障害者のために活用することが困難な状況でした。
 このような中,2009年にWIPOの著作権等常設委員会(SCCR)において,中南米諸国が,視覚障害者等のための著作権の権利制限に関する条約案を提案しました。2010年には,米国やEUも相次いで提案を行ったことから,急速に議論が加速しました。その後の会合においても議論が継続され,昨年12月に開催されたWIPO臨時総会では条約採択のための外交会議の開催が決定され,同会議は本年6月18日から28日までモロッコのマラケシュで開催されました。この外交会議において最終的な交渉が行われた結果,加盟国間で合意に達し,「視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」(仮称)として採択されました。

(2)本条約が成立することの意義
 本条約は,視覚障害者又はその他の読字障害者による著作物へのアクセスと利用の促進を目的とするものです。本条約の成立は,これらの方々が著作物にアクセスする環境を向上させ,また,これらの方々にとって利用しやすい形式となった著作物の複製物の国境を越えた利用につながるものです。

2.本条約の主要事項

(1)対象となる著作物
 本条約の対象となる著作物は,書籍や雑誌等のテキスト形式のものです。

(2)受益者
 本条約の受益者は視覚障害者等であり,具体的には視覚障害者,読字障害者,肢体不自由者(身体障害により,書物を支えること,または扱うことができない人)が対象とされています。

(3)国内著作権法における権利制限
 本条約の締約国は,その国内の著作権法において,視覚障害者等のために著作権(複製権・譲渡権・利用可能化権)の権利制限規定を設けることとされています。

(4)視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物の輸出入
 本条約の締約国は,視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物(点字図書やDAISY図書等)について,締約国間で輸出入が円滑に行われうる制度を整備することとされています。
 具体的には,A国(輸出国)の国内法の権利制限規定等に基づいて作成された,視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物を,A国の“Authorized Entity”と呼ばれる団体(点字図書館や図書館等が想定されている)が,B国(輸入国)にいる受益者に,直接または“Authorized Entity”を通じて,その複製物を提供するようにできることが,条約上求められています。 (下記参考図参照)

(参考図)視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物の輸出入の仕組み

(参考図)視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物の輸出入の仕組み

(5)視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物の不正流通を防止する規定
 ベルヌ条約等の著作権条約に加盟していない締約国については,視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物の国境を越えた不正流通を防止するために,上記(4)の仕組みを用いて輸入された視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物について,受益者以外の人が不正に利用できないようにする等の規定が設けられています。

(6)本条約の発効
 本条約は,20か国が締結した後に発効することとされています。

3. 最終文書への署名

 外交会議閉会後,署名式典が開催され,最終文書に署名した国・政府間機関は129,条約に署名した国・政府間機関は51となりました。我が国は,柳谷在モロッコ大特命全権大使が最終文書に署名を行いました。

4.文化庁としての対応

 本条約は,我が国の視覚障害者等の著作物へのアクセスの向上に資するものであり,条約が採択されたことを歓迎しています。今後は,関係省庁と連携しつつ,条約締結に向けた必要な対応を行うことを検討しています。

 なお,本会議の資料等は,WIPOのホームページ別ウィンドウが開きますに掲載されています。

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