HOME > 文化庁月報 > 連載 「地域日本語教育の現場から−全国リレー紹介−」

文化庁月報
平成25年9月号(No.540)

文化庁月報トップへ

連載 「地域日本語教育の現場から−全国リレー紹介−」

日本地図

 現在,日本の外国人登録者数は200万人以上,日本語学習者も13万人を超えています。
 日本全国津々浦々で,日本語を学ぶ外国人と,日本語を教える日本語教師が日々奮闘しています。文化庁では,そんな地域の日本語教室の様々な取組を支援しています。ここでは,各地の日本語教室の取組と日本語教師,外国人学習者,ボランティアの方々の声を北から南へリレーで繋いで紹介していきます。

神奈川県横浜市 「多文化まちづくり工房」

多文化まちづくり工房 代表 早川 秀樹

1.地域及び団体の紹介

○ いちょう団地という地域特性

 横浜市泉区から大和市にまたがる神奈川県営いちょう団地は,全79棟,約3600戸が敷地面積27万平方メートルに広がる大規模団地です。また,このいちょう団地の3500余りの入居世帯のうち,約2割が外国籍世帯という外国籍住民の集住地域でもあります。
 大和市にインドシナ難民の定住促進センターがあったこともあり,ベトナムを中心にインドシナ三国の出身者が多く住んでいます。また,中国帰国者の関係者や,日系の南米出身者なども住んでおり,住民の国籍は20か国以上とも言われ,多言語・多文化の集住地域です。

 団地に住む日本人住民は高齢化が進んでおり,若い世代の比率で見ると外国籍の住民の方が高いために,実際の世帯構成比率以上に多文化な地域という印象を受けます。例えば,横浜市立いちょう小学校では,全校児童161名中,外国につながる子供が122名おり,全体の約75%にもなっています。この傾向は,年齢が下がるほど強くなっており,現在も外国籍の若い世帯が増え続けている状況や出生状況などを考えると,今後も強まるだろうと考えられます。

○ 多文化まちづくり工房について

 多文化まちづくり工房は,1994年から数名の学生で立ち上げた日本語教室を軸にして,このいちょう団地周辺で活動を続けてきました。2000年からは,いちょう小学校の目の前に事務所を借り,「多様な文化背景を持った人たちが,それぞれの個性を出し合い,ともに楽しく暮らせる『まち』をつくる」を目的に,常に地域の空気を感じ取りながら,その時々に気がついた課題や可能性に対して取り組むことで活動を広げてきました。

小学校入学前の児童を対象としたプレスクール。一緒に参加している保護者にとっても学びの場となっています。

小学校入学前の児童を対象としたプレスクール。一緒に参加している保護者にとっても学びの場となっています。

 日本語教室に子供がやって来たのをきっかけに補習教室を始めたり,日本語の力を身に付けた若者の力を生かして生活相談や防災活動,多言語による情報発信を行ったり,あるいは,活動を通して知り合った人たちがサッカーや地域交流行事への参加によって交流を深められるように場を作ったりと,事業を通して生まれたつながりを生かして新たな場を作ってきたと言えるのではないかと思います。

○ 地域における教室の位置付け(行政や関係する団体との関わり)

 私たちがまだ学生で,勢いだけで活動を始めた頃は,日本語教室を運営するだけで精一杯でした。しかし,活動を続ける中で,少しずつ学習者の方たちの生活や地域の状況が見え始め,日本語教室以外の時間や空間こそが生活の大半で,その生活の時間や空間を変えていかないと,学習者が抱える問題の根本的な解決にはならないのではないかと考えるようになりました。

 そこで活動の拠点をより生活の場に近い場所に移し,地域の自治会や学校,行政ともつながりを持ちながら,教室だけでなく「まち」そのものが居場所になるように,「多文化まちづくり工房」として活動を展開してきました。

 もちろん最初は何の実績もなく,地域にすんなりと入ることができたわけではありませんでした。しかし,地域の行事や行政主催の会議などに参加を続け,準備や後片付けを手伝ったりするうちに少しずつ学校や地域の方からも声を掛けていただけるようになりました。

消防署の方による救命講習の様子です。皆真剣そのものです。

消防署の方による救命講習の様子です。皆真剣そのものです。


夜の日本語教室の様子です。グループやペアになって,学びあう場になっています。

夜の日本語教室の様子です。グループやペアになって,学びあう場になっています。

 日本語教室も,文化庁「生活者としての外国人」のための日本語教育事業の委託をきっかけにして,学習者の学習スタイルや生活パターンに合わせて,午前の時間帯の教室やクラス形式で学べる教室,就学前の児童と保護者が学べる教室など,活動の幅を広げることができました。

 これらの教室活動や生活相談,多言語情報の発信など,様々な活動を通して,自治会や学校,消防署,警察,図書館など様々な機関と情報交換をできる関係作りをしてきました。今では,接日本語教室に来てもらい,情報提供や救命講習,通報訓練など実践的な取組をしていただくこともあります。このように,私たちの力だけで全てを解決しようとするのではなく,地域に関わる多くの人たちの力を巻き込みながら活動を展開していくことが,地域で生活する外国につながる人たちの生活をより良いものに変えていくことにつながるのではないかと思います。

 また,日本語教室という活動があることで,地域の若い外国籍の人たちがつながるきっかけになるのはもちろん,そこに()かれて集まる大学生や社会人,周辺地域の人たちがつながる場ともなります。高齢化が進む地域の中で,活動を通して集まる人たちは,国籍や年齢はバラバラですが,地域にとって新しい形の青年団のようなものであるのかもしれません。

2.私たちの目指す活動

 私たちは活動を通して,様々な形で,居場所を作り出したいと思っています。日本語教室やサッカーなどの活動は,「日本語を学ぶ」,「サッカーをする」ということと同時に,人の出会いを作り,生活の世界を広げる,その手伝いをする場なのではないかと思います。

 また,私たちは,地域の内外の人の交流を行いつつ,地域内での力の循環も大事にしたいと考えています。日本語教室では,日本語の力を付けた外国籍の若者が,新しく日本に来た同国出身者に,母語を通じて日本語を教えることも多々あります。また,生活相談や情報の提供という場面では,通訳あるいは翻訳者としても活躍してくれています。同時に,プレスクールや補習教室を行うことで,地域にとっての新しい「人財」を育てることで,大人から子供までの大きな力の循環を作っていきたいと思っています。

3.支援に関わっている方(スタッフ)の声

日本語学習サポーターたちの学習の様子です。外国籍の若者もサポーターとして多数関わっています。

日本語学習サポーターたちの学習の様子です。外国籍の若者もサポーターとして多数関わっています。

○日本語学習サポーターの長谷部さん

 日本語教室には,本当に様々なバックグラウンドを持つ人がやってきます。日本語のレベルは様々ですが,参加している人は,皆,楽しんでいるように思います。

 私はできるだけ,学習者の皆さんの関心に対して,私自身が関心を向けるようにしています。
 10代で日本に来た学習者なら,アイドルグループの話をすることもあります。また結婚で来日した人なら,家族のことを説明してもらったりします。少しでも身近な,生活に近いテーマの話をすることで,より日本語を「話そう」「勉強しよう」と思ってもらえるかなと,思っているからです。

 私自身,ここに来る皆さんの話を聞くのが純粋に楽しくて,この活動を続けています。「教えてあげる」と言うよりは,教えてもらっています。いつも,今日はどんな話が聞けるかな,とわくわくしながら,活動に参加しています。

写真中央のハーさん,通訳や日本語学習サポーターとして日本語や母語を生かして活躍しています。写真左は長谷部さん。

写真中央のハーさん,通訳や日本語学習サポーターとして日本語や母語を生かして活躍しています。写真左は長谷部さん。

○通訳兼日本語学習サポーターのハーさん

 私自身,来日した当初は,日本語で様々な困難に直面しました。私の両親は今でも,日本語で困ることが多くあります。私の家族だけでなく,私自身も苦労してきた日本語を同じ状況に置かれている人に教えることができるのは,とても光栄であり,何よりも喜びです。

○自治会関係者の堀江さん

 多文化まちづくり工房とは,常に連絡を取り合い,情報交換をしています。団地の行事には,外国につながる若者たちが参加してくれます。団地祭りなどの一大行事のときには,多文化まちづくり工房に関わる人たちを中心にテントの設営や後片付けなど,大いに手伝ってくれています。また,自治会内の情報を翻訳してもらったり,代議員会で通訳してもらったりすることもあります。

自治会長の堀江さんも,教室で地域のルールや案内などをしてくださいます。

自治会長の堀江さんも,教室で地域のルールや案内などをしてくださいます。

 私も自治会の人間として,日々,同じ自治会の若い子たちには,声を掛けるようにしていますが,日本語教室などを通してのつながりから得られる情報や人のつながりは大きく,とても助かっています。今後とも,多文化まちづくり工房とは,情報交換をしながら,活気あるいちょう団地にしていきたいと思っています。

4.日本語教育プログラム受講者の声

これからもっと日本語を勉強して「多文化まちづくり工房」を手伝えるようになりたいと話すアンさん。

これからもっと日本語を勉強して「多文化まちづくり工房」を手伝えるようになりたいと話すアンさん。

アンさん

 日本語が分かるようになって,いろんな日本の人と会話ができるようになりました。また,日本語が分かるようになったことで,日本の人と近付きやすくなり,理解し合えるようになってきたと思います。それだけでなく,日本での生活に慣れ親しみやすくなり,生活がしやすくなりました。

写真中央のリンさんは,教室でも会社でも元気で明るいムードメーカーです。

写真中央のリンさんは,教室でも会社でも元気で明るいムードメーカーです。

リンさん

 会社の人と話せるようになり,仲良くなりました。だから,日本語の勉強ができることがとても楽しいし,うれしいです。それから,日本語教室に参加し,日本語の勉強をしたおかげで,今は一人でも市役所に行ったり,簡単な手続きをしたりすることができるようになりました。以前,日本語が分からないときの私はとても臆病で,何をするにも心配でしたが,今はいろいろとできるようになり,強くなれたと思います。

5.プログラム実践者が活動を通して思うこと 「思い」

多文化まちづくり工房が目指しているまちづくりとは
毎年恒例のバーベキュー大会

毎年恒例のバーベキュー大会

 この活動を長く続けていると,外国人日本人問わず,多くの人とのつながりができます。活動を始めた頃に小学生として教室に来ていた子が,大人になって結婚し,その子供が私に挨拶をしてくれることもあります。いつの間にか私にとっても,このまちは大事な居場所になっていました。挨拶をしたり言葉を交わしたりできる相手がたくさんいるということが,生きる上でとても大事なことなのではないかと思っています。このまちに暮らす人たちが,国籍や言語に関係なく,人と人とがつながりを持って楽しく暮らせるまちにしたいと思っています。

【次回予告:11月号は長野県です。お楽しみに。】

多文化まちづくり工房

活動場所
いちょうコミュニティハウス国際交流室,いちょう小学校など
活動日時
夜の日本語教室 毎週水曜日・土曜日 19:00〜20:40
朝の日本語教室 毎週火曜日・金曜日 10:00〜12:00
その他,学習補習,生活相談,交流イベント等を開催しています。
問い合わせ先
多文化まちづくり工房
 TEL:045-805-4323
 Email:tmkobo@gmail.com
URL
http://www.tmkobo.com/別ウィンドウが開きます

トップページへ

ページトップへ