文化庁月報
平成25年9月号(No.540)
連載 「若手映画監督の声」
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」
での経験
35mmフィルムへの想い
私は,30歳を目前に会社を辞めて映画監督を志しました。
渡米してニューヨークのフィルムスクールに行くことを決めた時,自分の中で明確に定めた目標が「35mmフィルムで自分の作品を撮ること」でした。満を持して挑んだ卒業制作では,フィルム撮影を行いましたが,学生の自己資金では16mmフィルムが限界でした。35mmフィルムで作品を撮ることは,すなわち自主制作ではなく,「プロ」として映画を作ることを意味していたのです。
帰国し,自主映画の作品が国内外の映画祭で評価され始め,「プロ」として映画に関わる機会も生まれつつありましたが,時代は移り変わり,急速にフィルムからデジタルへの移行が進んでいました。フィルムで映画を撮ることはもしかしたらもう不可能かもしれないと感じるようになっていました。そんなときに,この「ndjc: 若手映画作家育成プロジェクト」のことを知ったのです。
撮影までの道のり
「35mmでの短編映画の制作を通じて映像制作を学び,新たな才能を発掘する」。自分にとっては夢のようなプロジェクトでしたが,聞かされたのが締め切り直前だったので,慌てて脚本を書いて提出したこともあり,まさか自分が製作実地研修参加作家の1人に選ばれるとは思っていませんでした。
愛知県篠島での撮影
選ばれたという喜びもつかの間,その後にこれまで経験したことのないような
プロフェッショナルとの仕事
完成作品『RAFT』
入念な準備を経て映画『RAFT』の撮影へと臨みました。撮影,照明,美術,録音…全てのスタッフが経験豊富なプロフェッショナルで,最初は苦労すると思っていましたが,結果は逆でした。スタッフの方たちは,私の意図を
イカダを海に浮かべるシーンがこの作品のクライマックスなのですが,自主映画や低予算の映画だとしたら,きっとイカダを浮かべることに気をとられて監督という仕事に集中できなかったでしょう。しかし,スタッフの完璧な仕事に支えられ,イカダを浮かべての海上撮影に成功することができました。
この作品で,私はフィルムを現像するときに「銀残し」という方法を選択しました。コントラストを高め彩度を落とす効果を出すためです。しかし,デジタルとは異なり,現像を行えるのは一回限りです。リスクもありましたが,デジタルでは表現できない質感を出すことができたと満足しています。
映画制作の原点
編集もデジタルではなくフィルムで行いました。実際にフィルムをカッターで切って
『RAFT』では撮影後に音声を入れるアフレコの手法を取りました。再会した俳優さんたちと,サウンドステージと呼ばれる大きなスタジオでの録音作業はとても興味深いものでした。
そして,フィルムの1コマ1コマに思いを込めた作品が完成しました。映画館の大きなスクリーンで上映されたときは,感慨深い思いに駆られました。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013授賞式
ndjcの研修を終えた後,私は俳優のワークショップを通じて短編作品『もはや ないもの』を監督し,この作品はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013で奨励賞を受賞しました。また,現在準備中である1930年代のブラジル移民を題材にした長編企画『構成家族』は,NHKの推薦を受けてアメリカのサンダンス・インスティチュートへ提出する予定です。
『構成家族』は,企画段階から『RAFT』のプロデューサーにアドバイスをもらっています。こうしてndjcを終えたあとも,サポートしていただける関係が築けたことは,私にとって大きな財産となりました。
念願の長編映画の企画を,ndjcを共にしたプロデューサーと実現することが,現在目の前にある私の目標です。
三宅伸行
京都府出身。会社勤務を経て,渡米。ニューヨーク市立大学院にて映画制作を学ぶ。2008年,長編作品『Lost & Found』がオースティン映画祭にてグランプリに輝く。同年,監督として参加したオムニバス企画『掌の小説』は,東京国際映画祭に選出された。2010年,文化庁「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に参加し,短編作品『RAFT』を監督した。短編作品『もはや ないもの』は国内外の映画祭に選出され,SKIPシティDシネマ国際映画祭2013で奨励賞を受賞。現在,長編企画『構成家族』を,NHKの推薦を受けてサンダンス・インスティチュートへ提出予定。

