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文化庁月報
平成25年9月号(No.540)

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日本の宗務行政

寄稿  現代社会における宗教法人の役割

中央大学法学部教授 新井 誠

4つの課題

 「現代社会における宗教法人の役割」という大きなタイトルを掲げましたが,ここでは宗教法人の本来的な役割を正面から論ずるのではなく,筆者の問題意識に沿いつつ,宗教法人が抱える2つの解決すべき課題と2つの実現して欲しい課題について思いつくままに管見を述べるものです。宗教法人法は,憲法が保障する信教の自由・政教分離原則を根拠として,宗教法人に法人格を付与し,各団体が自律的に宗教活動を行える物的基礎の確立を目的としています。その目的のためには,一方において適正な管理運営・情報開示が,他方において公益性が要請されています。解決すべき課題は前者からの要請であり,実現して欲しい課題は後者からの要請です。

休眠宗教法人問題の解消

 解決すべき課題の第一は,休眠宗教法人への対応です。宗教団体に法人格を付与するのは,主体的な宗教活動を行うための法的枠組みが必要だからです。したがって,宗教活動が行えないような状況になったら,法人は解散すべきです。
 しかし,毎年備付け書類の提出が義務づけられているのに,その義務を履行しない宗教法人が増加しています。これらの宗教法人の法人格がブローカーによって売買されているとの報道もあります。売買された宗教法人格が悪用され,とりわけ脱税の温床になっています。
 所轄庁は,実態調査を実施して「不活動宗教法人」と認定し,法人関係者の協力を得て,解散命令請求を含む,様々な対応を行っています。しかし,自治体の人員不足もあって,対応が困難な面もありますが,迅速かつ抜本的な解決が急務です。
 国民の宗教法人制度への信頼を確立するために,所轄庁と宗教界が手を携えて確固とした対応をとることが期待されます。

財産管理の透明性

 解決すべき課題の第二は,厳格な財産管理への対応です。宗教法人法は,宗教活動の基礎である宗教団体の財産の保全を目的としています。したがって,財産の投機的な運用によって宗教法人の財産を減少させることがあってはなりません。宗教法人の財産は,宗教法人自身の財産であって,代表役員,責任役員個人のものではなく,彼等はあくまでも宗教法人のための財産管理者に過ぎません。また,分別管理といって宗教法人の財産と管理者個人の財産は明確に分別して管理しなければなりません。
 しかるに,近時,宗教法人の投機的資産運用がマスコミを(にぎ)わしていますが,このような事案があると,国民の宗教法人に対する視線は厳しいものとなるのではないでしょうか。宗教法人の財産管理は,法人の自律に委ねるのが基本であるべきでしょうから,宗教界が一丸となって財産管理・運用の透明性を確保することを強く望みたいものです。

福祉活動の強化

 実現して欲しい課題の第一は,福祉活動の強化です。超高齢社会である我が国が必要としているのは福祉の充実です。宗教法人の社会活動の一環として福祉活動は明確に位置づけられるべきではないでしょうか。
 ドイツにおける宗教団体としては,いわゆる「二大教会」と呼ばれるローマカトリック教会,ドイツ福音主義教会の2つが圧倒的な地位を有していますが,ともにきわめて熱心に社会奉仕活動を行っています。具体的には,ローマカトリック教会では「ドイツカリタス」,ドイツ福音主義教会では「ディアコーニシェス・ヴェルク」がそれぞれ教会の社会奉仕活動を担っています。ドイツカリタスの活動の基礎は,キリスト教の教義である「隣人愛」であり,その活動もドイツ国内に限定されず,外国に対する支援活動も行っています。ディアコーニシェス・ヴェルクの基本的な目的は,人々の貧困救済と社会的不公正の是正にあります。
 我が国の宗教法人がドイツに倣う必要はありませんが,質量ともに圧倒的な福祉活動を提供しているドイツの宗教団体の実践に思いをいたし,彼我の相違の大きさから謙虚に学ぶ姿勢が肝要ではないでしょうか。

宗教上の死生観

 実現して欲しい課題の第二は,死生観に関する啓発活動の強化です。
 超高齢社会においては人々が長生きするのにともなって,死の意味が問われています。それは,死を通して生の意味を問うことでもあります。
 死生観にもいろいろな立場があり,一様ではありません。しかし,宗教者が死生観についてわかりやすく話すのが最も受け容れやすいのではないでしょうか。肉親の死に際して宗教者が筆者に語りかけてくれたことを鮮明に,かつ印象深く記憶しています。人々が宗教に求めているのは,我が国の風土の中で人々がいかに生きるべきかを宗教者が真摯に説く姿ではないでしょうか。宗教法人の存立意義もまたその辺りにあるのではないかと愚考しています。

新井 誠氏

新井(あらい) (まこと)
 中央大学法学部教授,筑波大学名誉教授。
 千葉大学法経学部教授,筑波大学法科大学院教授(院長)等を経て,平成23年4月から現職。宗教法人審議会会長,日本成年後見法学会理事長,信託法学会常務理事。平成18年フンボルト賞受賞。現在の研究分野は,高齢社会における信託制度の活用,成年後見制度利用促進の理論構築。主要著書に『信託法(第3版)」((ゆう)()(かく),平成20年),『信託法制の展望』(共編著,日本評論社,平成23年),『成年後見法制の展望』(共編著,日本評論社,平成23年)等がある。