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文化庁月報
平成25年11月号(No.542)

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連載 「鑑 文化芸術へのいざない」

新国立劇場
新国立劇場2013/2014シーズンバレエ開幕公演

バレエの魅力を伝える「バレエ・リュス ストラヴィンスキー・イブニング」

新国立劇場舞踊芸術監督 デヴィッド・ビントレー
デヴィッド・ビントレー舞踊芸術監督

デヴィッド・ビントレー舞踊芸術監督

 新国立劇場バレエ団の舞踊芸術監督としての私の最後のシーズン開幕公演は,20世紀の偉大なバレエ音楽家ストラヴィンスキーの祭典となります。 バレエの歴史の流れを変えたカンパニー,ディアギレフのバレエ・リュスで活躍したフォーキン,バランシンそしてニジンスカという偉大な3名の振付家による独創性(あふ)れる『火の鳥』,『アポロ』,『結婚』という味わい深く見応えのある作品を上演いたします。

 バレエ・リュスは,20世紀で最も革新的なダンス・カンパニーであり,芸術家,作曲家,振付家,デザイナーとの画期的なコラボレーションを通じて,舞台芸術を新たなレベルへと引き上げました。

 バレエ・リュスは,音楽,舞踊,デザインにおけるルネサンスのきっかけになったと言われています。当時の最高峰の振付家,作曲家,画家は,20年にわたり目覚ましい創作活動に関わり,世界的なバレエ旋風を巻き起こし,バレエ愛好家に,近代バレエの傑作の数々をのこし,ほぼ1世紀を経た現在でも高い人気を誇ります。

 ロシアの興行師ディアギレフが創立したバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)は,1909年,パリ・シャトレ座での旗揚げ以来,ロシアと西洋の伝統に最先端のモダニズムを融合させて,20年にわたり観客を熱狂と興奮の渦に巻き込みました。

「火の鳥」 新国立劇場公演より 撮影:鹿摩隆司

「火の鳥」 新国立劇場公演より
撮影:鹿摩隆司

 バクスト,ゴンチャローワ,ピカソ,マティス,デ・キリコらは,大胆な舞台美術や精妙な装飾を施した衣裳(いしょう)をデザインし,未来派,キュビズム,シュルレアリズムなど20世紀前半の主要な芸術運動をバレエの舞台に取り入れました。バレエ・リュスは主にロシアから移住した舞踊家や振付家を中心に,音楽や振付における革新の拠点となりました。ディアギレフはドビュッシー,プロコフィエフ,サティ,リヒャルト・シュトラウスらの作曲家にバレエ音楽を依頼する一方,フォーキン,ニジンスキー,マシーン,ニジンスカ,バランシンらが振付の語彙を劇的に押し広げ,世界のトップレベルのダンサーの驚くべき身体能力,テクニック,芸術性を遺憾なく発展させました。

 しかしながら,ディアギレフが発掘した最高の逸材は,若きストラヴィンスキーでした。リムスキー=コルサコフの弟子だった彼は,1910年,ディアギレフの依頼を受け,エキゾチックなロシア民話を基に初のバレエ音楽『火の鳥』を作曲し,ヨーロッパに旋風を起こし,瞬く間に師匠を超える名声を確立します。 以来20年,彼の多くの作品がカンパニーの主要演目となり,ヨーロッパの芸術,劇場界で変わりゆく音楽や舞台の流行を反映にとどまらず,それらの流行を作り出しました。ロシアの歴史に基づく謝肉祭や寒々とした草原を舞台とした『ペトルーシュカ』,『春の祭典』から,ペルゴレージの音楽に触発され,陽気なイタリアの仮面劇(コメディア・デッラルテ)をテーマとした『プルチネラ』,チャイコフスキーへのオマージュのような旋律で奏でるスイスを舞台とした『妖精の接吻(せっぷん)』から,農村の婚礼を厳粛ながらも驚くほど現代的に描いた『結婚』,東洋風の甘い旋律の『ナイチンゲールの歌』から,新古典主義の「白い音楽」と呼ばれる『アポロ』まで,ストラヴィンスキーは20世紀の偉大な天才画家ピカソと同様,生涯を通じて賛否両論を巻き起こし「自己改革」を続けながら,その後に続く人々にとって簡単には超えられない功績を残しました。

「アポロ」 写真提供:バーミンガム・ロイヤル・バレエ photo by Bill Cooper

「アポロ」 写真提供:バーミンガム・ロイヤル・バレエ photo by Bill Cooper

 ストラヴィンスキーなしでは,バレエ・リュスが世界にこれほど影響を与えることはなかったでしょうし,バレエ・リュスがなければ,現在のようなバレエ界も存在しません。世界最高峰のバレエ団の多くが,ディアギレフの活動と精神を直接受け継いだ人々により設立され,発展しています。

 ニューヨーク・シティ・バレエの創設者バランシン,英国ロイヤル・バレエの創設者ド・ヴァロア女史,パリ・オペラ座バレエ団の芸術監督を務めたリファール,現イングリッシュ・ナショナル・バレエの創設者マルコワ女史とドーリン(きょう),バレエ・リュス・ド・モンテカルロの主席振付家を務めたマシーン,ニジンスカやバレエ・ランベールの創設者のランベールは,若きアシュトンを育て,後の世代に芸術を伝えた偉大な舞踊家や指導者は数知れず,バレエ芸術に与えた影響は計り知れません。
 バレエの歴史におけるディアギレフの重要性は,どれほど評価しても足りないほどで,彼の下で革新的な傑作を生み出した作曲家,振付家,デザイナー,ダンサーは,芸術史に輝かしい名を残しています。

「結婚」 写真提供:マリインスキー劇場 photo by Valentin Baranovsky

「結婚」 写真提供:マリインスキー劇場 photo by Valentin Baranovsky

 ディアギレフのバレエは,かつて日本のバレエ団で上演されていますが,私の考える新国立劇場バレエ団の重要な使命の一つは,素晴らしい音楽,舞台,バレエと優れた資質を兼ね備え,全ての時代の作品を受け継ぎ,新しい観客,ダンサー,音楽家に,これらの重要な作品に触れる機会を定期的に提供することだと,今回のプログラムによって,皆様に強く訴えたかったのです。日本のバレエの観客は19世紀の作品を好まれますが,その関心の少しを,20世紀前半の傑作に向けていただくことが大切だと思っています。
 今回の3作品を通して,ストラヴィンスキーが,作曲家としての秀でた才能だけでなく,様々な色彩を見せる彼の音楽が持つ,その驚くほどの多様性で,バレエ・リュスの成功に大きな役割を果たしたと御理解いただけるでしょう。同様にバレエ自体も,スタイルの大きく異なる振付家の才能が遺憾なく発揮された傑作です。フォーキンの素晴らしい演劇的想像力と大勢のダンサーを操る息を呑む振付,ニジンスカの厳粛かつ凝縮された表現と打楽器的なトゥシューズの使い方,バランシンの振付初期の独創的な表現。その全てがストラヴィンスキーの非凡な音楽によって(つづ)られます。(あふ)れる才能と壮大な舞台設備を併せ持つ新国立劇場でのみ実現できる,非常に魅力的な音楽,舞台,デザインで繰り広げる夕べになることでしょう!

バレエ・リュス ストラヴィンスキー・イブニング
火の鳥/アポロ[新制作]/結婚[新制作]

※特設サイトはこちらから別ウィンドウが開きます

新国立劇場 オペラパレス
公演日程:2013年11月13日(水)7:00,15日(金)7:00,16日(土)2:00,17日(日)2:00(全4公演)
チケット料金:S席 12,600円,A席 10,500円,B席 7,350円,C席 4,200円,D席 3,150円

音  楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
指  揮:クーン・カッセル
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合  唱:新国立劇場合唱団(『結婚』)

主な出演:『火の鳥』 火の鳥:小野絢子(13,16日),米沢唯(15,17日)
イワン王子:山本隆之(13,16日),菅野英男(15,17日)
『アポロ』 アポロ:福岡雄大(13,16日),コナー・ウォルシュ(15,17日)

 ■デヴィッド・ビントレー プロフィールはこちら別ウィンドウが開きます

新国立劇場

〒151-0071 東京都渋谷区本町1-1-1

問合せ
03-5352-9999(ボックスオフィス)
交通
京王新線(都営新宿線乗入)「初台駅」中央口(新国立劇場口)直結。
開館時間
07:30〜23:30
休館日
年末年始,電機設備の法定点検日(年1回)
ホームページ
http://www.nntt.jac.go.jp別ウィンドウが開きます

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