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文化庁月報
平成25年11月号(No.542)
連載 「いきいきミュージアム 〜エデュケーションの視点から〜」
「教育は,学びの環境を作ること」
初めて出会う友達の前では,学校での発表とは一味違った雰囲気でプレゼンテーションする。
子供の提案によって成長する公園「コロガルパビリオン」
「僕の提案は,『突風地獄』です。ボタンを押すと突風が吹いて来ます!」
コロガルパビリオンに設置する新しい遊びを考えるために,子供だけで行われる企画会議「子供あそびばミーティング」に,何度も参加してくれているJくんが,これまでにない迫力でプレゼンテーションを行っていました。私は普段,子供が頑張っている姿などに余り感動したりしない質ですが,昨年の「コロガル公園」から1年越しの熱い思いを形にしようと必死に訴えているその姿には,さすがに込み上げてくるものがありました。
発表の場では,聞くことも大事だけど,実際には発表前のみんなはそわそわ。
作品は,この場で遊ぶ子供たちの姿
2013年7月,子供たちのアイデアで仕掛けや内容が変化していくメディア公園「コロガルパビリオン」が山口情報芸術センター[YCAM]前の山口市中央公園に仮設パビリオンとして登場しました。前年度に開催された「コロガル公園」※1の成功を受けての,「開館10周年記念祭」企画の一つです。公園といってもいわゆる「使い方の決まっている遊具」は設置されておらず,不定形の床面に埋め込まれたスピーカーやマイク,空間の色を変化させるLEDライト,カメラやモニターといった映像機器など,フィジカル(身体)的な遊びと,メディア的な遊びが分け隔てなく滑らかに融合した空間で,目一杯遊ぶ子供たちの姿や知恵をひねって新しい遊びを考え出す営みは,人間の知的活動に対する愛おしさを呼び起こします。
YCAMが目指すエデュケーションとは
山口情報芸術センターは「メディアアート」と呼ばれる新しい表現を生み出す施設として,2003年の開館以来10年間にわたって市民やアーティストとともに,メディアと表現にまつわる創造活動を続けてきました。教育普及活動にも力を入れており,展示解説補助というよりも,ニューメディア登場以降,表現や社会,そしてコミュニケーションが,いかにメディアに影響を受けて来たか?といった視点から,鑑賞教育及びメディアリテラシー教育に重点を置いた活動を行ってきました。具体的にはオリジナルワークショップのデザインや,エデュケーションプログラムの開発,展覧会の開催などです。普段,味わうことのできない表現や体験を可能とする,ミュージアムにおける教育普及活動はそれだけで非日常的で刺激的ですが,YCAMが目指すのは「今や日常生活の一部になっているメディア環境と,どう付き合っていくかの知恵やセンスを,自然に身に付けてほしい」という現実的な目標です。YCAMのプログラムに参加することで,参加者はメディアテクノロジーの勘所をつかみ,日々の暮らしを取り囲むメディアとうまく付き合えるようになるのと同時に,メディアアート鑑賞のコンテキストも得る,という成果を挙げることを目指しています。
社会の変化と不即不離の関係で
メディアが一般市民の日常生活に深く関わるようになったのは,90年代中盤頃からでしょうか。現代人の時間の使い方は,まさにメディアとともにあると言えます。デジタルネイティブと呼ばれる,80年代以降生まれの,物心ついた頃からメディアテクノロジーに囲まれている世代にとっては,年長者にとってのそれとは違い「後からやってきた訳の分からないもの」ではなく「始めから私の周りを取り囲んでいる環境」です。新しいツールが社会に生まれた初期段階では,実際のユーザーの中で使われ方が試されます。そして徐々にその社会にとってふさわしいルールやマナーが生まれてきます。TwitterやFacebookといったソーシャルメディアも,世界共通の仕様であったとしても,国ごとに使われ方のルールや風習が微妙に異なります。これらの差異を生み出しているのが「文化」であるとも言えます。重要なのは,使われ方のルールやマナーについては,専門家が上から押し付けて来るものではなく,エンドユーザー同士が意見をすり合わせながら提案と選択を繰り返すことで,徐々に風土や文化に適した形になっていく,ということです。こういったメディアの特徴について,体験を交えながら理解を深めていく機会を提供することは,学校だけではなくコミュニティスペースやミュージアムの大きな役割だと考えています。
利用者とともに成長していく
コロガルパビリオンは,「決まった遊び方」というのは提供されません。YCAMがパートナーとして選んだ「建築ユニットassistant」と共に,不定形な床や光,音といった周囲の環境が子供たちの「その気」を引き出して,何か新しいチャレンジをしてみようという思いを全身全霊でぶつけられるように設計しました。冒頭に紹介したJ君は,それまで仲間の後ろに隠れているような控えめな子供で,何度も提案してきたアイデアがなかなかミーティング内でも認められずに採用されてきませんでした。今回の「子供あそびばミーティング」での迫力は,何としても自分のアイデアがこの公園で採用されてほしい!という強い思いがあってこそのものでした。結果として『突風地獄』というアイデアは採用されて,技術集団である「YCAM InterLab」のメンバーによって3日後にはパビリオンに追加設置され,今では利用者たちに大人気の仕掛けとなっています。
見たことがない環境の中でアイデアやルールを生み出し,時には利害を粘り強く調整しながら,多くの仲間と一緒に楽しむ姿は,これからのメディア社会を生き抜く子供たちの,しなやかな
※1 コロガル公園:山口情報芸術センター教育普及展覧会「glitchGROUND」展(2012)にて発表。
山口情報芸術センター[YCAM]
〒753-0075 山口県山口市中園町7-7
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