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文化庁月報
平成25年11月号(No.542)

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連載 「地域日本語教育の現場から−全国リレー紹介−」

長野県 飯田市公民館
公民館活動から共生社会を目指す 〜地域で支える日本語教室〜

飯田市公民館 学習支援係 社会教育コーディネーター 熊谷 文世

1 飯田市と公民館活動

“小さな世界都市” 飯田へ

 日本の中央,長野県の最南端に位置する飯田市は,南アルプスと中央アルプスに抱かれ,諏訪湖を源に南北へ天竜川が貫く,豊かな自然と雄大な景観に囲まれたまちです。古くは東山道,三州街道をはじめとする陸運や天竜川の水運に恵まれ,東西・南北交通の要として繁栄したことで,水引などの伝統産業,神楽や人形浄瑠璃といった民俗文化が独自に発展し,今なお人々の暮らしの中に息づいています。

 平成39(2027)年のリニア中央新幹線開通に伴う飯田駅設置と,愛知・静岡・長野を結ぶ三遠南信自動車道の全通を見据え,これらによるグローバル化を生かし,世界に通じる地方都市となるべく,“小さな世界都市”の実現を目指しています。

外国人住民の現状

 飯田市における総人口は,平成25(2013)年9月末現在,105,610人(世帯数39,154)で,うち外国人住民の人口は2,073人(世帯数808)となっており,総人口に占める割合は2%となっています。

 国籍は24か国に上り,中国籍が1,062人で最も多く,外国人住民全体の51%を占め,次いでブラジル籍385人(19%),フィリピン籍368人(18%)と続きます。中国籍が多い理由は,戦前から飯田市とその周辺の下伊那地方において全国で最も多くの満蒙(まんもう)開拓団員を送り出した歴史的背景により,中国から帰国者が多いことにあります。

 在留資格別では永住者が1,056人(51%),定住者が344人(17%),日本人配偶者等が225人(11%)となっており,外国人登録者のうち80%以上が飯田市に定住しています。

公設民営の飯田市公民館

 長野県における公民館の数は,平成23(2011)年現在,1,236館で全国一です。昭和21(1946)年に日本で最初の公民館と言われる妻籠公民館(木曽郡南木曽町)が創設されると,昭和28(1953)年までには県内全ての市町村に公民館が設立されました。

 昭和12(1937)年の市制施行以来,6回の合併を経て15の町村が一つになった飯田市では,合併後も旧町村単位で市役所支所(現自治振興センター)と共に公民館を配置し,“学びや交流の場”として地域に根ざす活動に取り組んでいます。公民館の数は,おおむね小学校区に20館と,連絡調整を担う1館で構成されます。

 飯田市公民館は,「地域中心」「並立配置」「住民参画」「機関自立」の四つの運営原則に基づき,運営されています。中でも,「住民参画の原則」が,飯田市公民館の最大の特徴と言えます。地域住民から選出された「文化」「広報」「体育」などの専門委員が中心となって公民館事業を企画・運営し,その取組を同じく地域住民から選出され,教育委員会より任命される館長と,市役所職員である公民館主事が支える体制は,“公設民営”とも称されます。

公民館活動としての多文化共生事業

 飯田市公民館で多文化共生事業が始まったきっかけは,戦後50年の節目でした。平成7(1995)年,飯田市は「平和フォーラム 飯田発地球市民への道」を開催し,戦後50年を出発点に平和を考えるという視点から,中国帰国者をはじめ外国人住民や,異なる文化の中で暮らしてきた人たちとの共生をテーマに掲げました。これを受けて平和学習や中国帰国者の生活問題について意識が高まる中,飯田市公民館では平成8(1996)年に「異文化交流セミナー」を開講し,外国人住民を講師に料理や音楽を通じて彼らの文化を学びました。更に平成9(1997)年には,中国帰国者のための居場所と日本語学習の拠点を目指し,「異文化交流セミナー」を深化させる形で,公民館事業初の日本語教室「わいわいサロン」が始まりました。

 同じ頃,外国人住民の要望により日本語教室が開設された地区もあります。竜丘地区には市営住宅があり,中国帰国者関係の方が多く住んでいました。ある日,公民館へ1通の手紙が届きます。「国策による満蒙(まんもう)開拓に参加した帰国者が,帰国後の日本で言葉の壁に苦労している状況を,公的な教育機関である公民館にもっと取り組んでほしい」という内容でした。そこで竜丘公民館は,公民館長と主事,文化委員が地区に住む中国帰国者の家庭を個別訪問して聞き取り調査を行い,結果に基づき平成10(1998)年に,日本語学習と交流とを結び付けた「好友会(はおゆうかい)」を設立しました。

 現在も「わいわいサロン」「好友会」では,日本語支援ボランティアと学習者が集まり,おしゃべりや交流を通じて日本語を勉強しています。平成22(2010)年には,「平日の昼間は仕事で参加できない」という学習者の声から,文化庁委託事業にて夜間日本語教室「わいわいサロン[2]」を開講しました。以来,夜間日本語教室は現在まで続いており,仕事が終わってから日本語を勉強する多様な国籍の学習者が集います。平成25年度は,『ゴミ分別のルールや環境について考えよう』『地元の獅子舞について』といった地域に密着したテーマで学習を進めています。また今年度は,外国人向け子育て講座「子育てとにほんご」も新たに開講しました。子育て世代の日本人と外国人住民が企画委員となり,子育てに必要な知識と日本語を学ぶ講座を企画・運営し,多文化共生社会における子育ての在り方を模索しています。

飯田市 地域との協働による日本語教育推進事業

 飯田市には,公民館,民間団体,中国帰国者支援関係の団体が主催するボランティア日本語教室が4か所存在し,それぞれ約15年間活動しています。

 しかし,教室の数に限りがあるうえ,大学・日本語学校等の専門機関もないため,十分な日本語学習の機会の提供に至っていないのが現状です。

 そこで,飯田市公民館では,行政や生活・地域活動に関する機関・団体,既存の日本語教室等と手を組み,学習内容の検討や情報の共有を図ることで,地域との協働による日本語教育を推進しています。

2 地域日本語教育に関わる人の声

(1)コーディネーター,日本語講師
獅子舞保存会の方から伝統を守る熱い思いをお聞きした

獅子舞保存会の方から伝統を守る熱い思いをお聞きした

平成22年度文化庁地域日本語教育コーディネーター研修修了
飯田市日本語教育コーディネーター,日本語講師
大澤 志那子

 平成24年度から,「学習者が生活の場面で,日本語を使ってできることを増やす」ことを教室のテーマに据えた教室活動をしています。そして学習者が地域社会で自立し,地域に関わっていければいいという願いも同時にあります。

 前述の目標を達成するため,教室活動を学習者と支援者だけの活動で終わらせない仕掛けが必要でした。学習テーマの中に,全ての人の命に関わる「防災」や「健康」に関することを盛り込み,関係者にゲストとして教室に参加していただくことを手始めに試みました。

 消防署や薬局の方に教室までお越しいただき,緊急通報の練習や薬の購入場面の練習相手をしていただきました。事前に打合せに行くと,どこでも大変協力的であったことに少し驚きました。外国人への対応をどうしたらいいか,翻訳や通訳が要るのではないか,などという気持ちはあっても,実際は何をどうしていいか分からなかった,と皆さんおっしゃるのでした。そして,実際に教室へ参加していただくと,学習者はより現実味のある会話練習ができたり,いざという時の対処法についても学ぶことができたりして大変好評でした。ゲストの方々は,直接外国人の声を聞くことができ,ニーズを感じ取れたようでした。この取組を通し,細いけれども風穴が開いたような,トンネルがつながったような,そんな感覚を覚えました。そして同時に,日本語教室が持つ可能性が見えてきました。

 平成25年度は「地域の一員として暮らす」ために,地域自治の仕組みや公民館活動,地域の祭についてなどを教室のテーマの中に組み込みました。現在まだ進行中で,獅子舞保存会で熱心に活動している熱いおじさんがお話をしてくださったり,日本語教室の参加者皆で祭の練習に参加したりという企画もあり,楽しみです。こうやって一歩ずつ,少しずつですが,私たちの活動が広がっていったらうれしいです。

(2)日本語支援者
ゴミ分別啓発市民ボランティアを講師に、分別のルールを学習

ゴミ分別啓発市民ボランティアを講師に、分別のルールを学習

わいわいサロン[2] 日本語支援スタッフ ジャロ 京子

 飯田市には,中国やブラジル,フィリピンの方が多く住んでいますが,日本に長年住んでいても,同じ出身地同士で固まってしまう傾向が強く,私の周りにも日本語を余り話せなかったり,読み書きができなかったりする人がいます。子供が保育園に通っている時は,クラスの半数の子供の親が外国籍で,会話が余りできず,文字も書けない人がほとんどでした。また,小学校では,多くの外国籍の親は,配布物を子供に読んでもらっていることも知りました。そんな時,日本語支援の取組を知り,応募しました。

 「わいわいサロン[2]」で支援者として参加し始めた頃は,緊張して学習者とどう接したら良いか毎回悩み,会話も長続きせず,理解してくれているか不安でした。しかし,実際には学習者の方が私以上に緊張していたことを知り,それからは,易しい言葉を使い積極的に会話をするようにしました。そのため,グループ学習の際に話が盛り上がって脱線してしまうこともよくあります。そんな会話も,日本語で自分の気持ちを伝える良い練習になっていると思います。

 以前,ある学習者が,『薬局で薬を買おう』というテーマで勉強した後,薬局に行って実践したことを話してくれました。「お店の人に症状を言って薬を買いました。」とうれしそうに報告してくれた時には,うれしさと同時にやりがいを感じました。「わいわいサロン[2]」は,学習者だけでなく支援者も一緒に成長でき,毎回,発見や感動できる場になっていると思います。

(3)子育て講座 企画委員
子育て講座企画会議。日本・ブラジル・ベトナム・韓国出身のママが意見交換

子育て講座企画会議。日本・ブラジル・ベトナム・韓国出身のママが意見交換

「子育てとにほんご」 企画委員 グェン トック グェ トゥ

 私は2004年にベトナムから来日しました。2010年から主人の実家がある飯田市に住んでいます。子育てをして2年半経ちました。いつも一人で,悩みがあっても誰に相談したら良いのか分からなくて困っていました。

 「子育てとにほんご」の企画委員になってから悩みが解決でき,韓国やブラジル,日本のお母さんと意見交換し,母国の常識と日本の常識の違うところを理解できて非常に役立ちました。各国の文化や習慣の違いを意見交換することで,講座の組立てができて良かったと思います。

 子育て講座では,毎回のテーマを医者など専門家の方から説明を聞いて,自分の子育てで理解できなかったところがもっと深く分かるようになりました。一番役立ったのがお弁当作りの実習で,娘の秋遠足でのお弁当作りを楽しみにしています。

食育の先生からお弁当作りを学ぶ。「簡単なのに可愛くできた」と好評

食育の先生からお弁当作りを学ぶ。「簡単なのに可愛くできた」と好評

 妊娠時期から子供が1歳2か月になるまで,近所付き合いや友達付き合いが全くできず本当に辛かったです。友達がなく,移動方法もなく,母国語で話す相手もいなくて,生活が“真っ黒”でした。子供にいつも怒ってばかりで,(たた)く時もありました。日本語教室や子育て講座に参加してから友達が増え,ストレス解消や子育ての情報交換ができました。子育て中の外国人には「是非日本語教室や子育て講座に参加してください」という声を掛けたいです。

 様々な方の支援を頂き心から感謝しています。外国人の日常生活は,国や市から支援が必要だと思います。しかし,企画がいくつあっても外国人が集まらないことは非常に残念で,広報活動も必要だと思います。他に飯田に住む外国人にとって一番難しいのは移動方法です。バスや電車の本数が少なく,車を持っていないと外国人が集まりにくいことが課題だと思います。

(4)行政の視点から
男女共同参画課 多文化共生係長 氏原 理恵子

 飯田市では,「小さな世界都市」の実現,「多様な主体との協働による地域づくり」を目指す地域像として掲げ,多文化共生施策を推進しています。中でも,コミュニケーション手段としての日本語の習得は,外国人住民が地域で安心して心豊かに暮らしていくためになくてはならないものであり,日本語教育の推進は最も重要な項目です。

 近年の様々な社会的要因により,外国人住民の数は減少しているものの永住者数は増加傾向にあります。母国でも他都市でもなく,ここ飯田に住み続けることの覚悟を決めている外国人住民は,この地域を支える"人財"であるとの認識を持つことが重要であると考えています。

 公民館が地域づくりの拠点として大きな役割を果たしている当市において,「地域との協働」というテーマで日本語学習を切り口に外国人住民と地域住民がつながる機会を提供することは,お互いの中に地域づくりの担い手であるとの意識が芽生え,外国人住民の地域参画が更に進むものと期待しています。

自治会について勉強。学習者から率直な質問や意見が出た。

自治会について勉強。学習者から率直な質問や意見が出た。

総務部 地域づくり・庶務課
丸山自治振興センター 所長 深尾 仁

 日本語教室「わいわいサロン[2]」に講師として参加させていただきました。テーマは,『“自治会”って何?』ということで,外国人の方々と一緒に勉強しました。担当者から今回のお話をいただいた時は,どのように話をしたら参加者の方々に分かっていただけるのか,また言語の問題もあり,とても不安でした。当日,会場に出向くと参加者の皆さんはとても明るく,積極的な方も多く,気持の良い挨拶を交わすことができました。

 私は,現在飯田市内20地区にある自治振興センター担当の一人として,地域と行政とをつなぐパイプ役としての仕事と,地域コミュニティの基盤整備及び自治の振興を図るための基本となる,自治活動組織加入促進事業を担当しております。今回の日本語教室では,「回覧板って何?」や,「自治会の組織,まちづくり委員会の実際の活動内容」についてのお話をさせていただきました。参加者の皆さんのほとんどが勉強家で日本語が理解でき,とても気さくで,和やかな雰囲気の中で開催することができました。質問も積極的に出され,前向きな姿勢が感じられました。中には,既に組合に加入して地域の方々と一緒に活動している方もいました。

 今後,社会情勢が変化する中で,外国人の方々を含めた地域コミュニティの強化をどのように進めていくかという課題はありますが,地域の中でそこに住む方々がお互いに助け合いながら,安全・安心な生活が営まれるようにするために,今回のような講座を開催する必要性を強く感じました。

3 学習者の声

美容院での会話を寸劇で学習。右が杉浦さん

美容院での会話を寸劇で学習。右が杉浦さん

わいわいサロン[2] 学習者 杉浦 麻州男

 「わいわいサロン[2]」に参加してとても良かったです。スタッフの方たちにいろんな心配を掛けたと思いますが,毎回公民館に行くのが本当に楽しみでした。新しい仲間と会話することができたので良かったです。その中で一番心に残ったのは,『“自治会”って何?“公民館”ってどんなところ?』での会話でした。飯田市のまちづくりや自治会の話に感動しました。たくさんの人の力でこのまちを良くしていることが分かりました。

 いつもボランティアの方たちが働いているのを見ますが,皆さん楽しく働いています。でも,どうやって人を集めたり役割を決めたりするか分かりませんでした。私は組合に入っていませんので,分からないことが多いです。こんな私でも,いつか飯田のまちづくりのために何かできればいいと思います。

4 飯田市公民館が目指す地域日本語教育

 飯田市公民館では,地域日本語教育について各地区公民館の地域性を認識しながら,行政から自立した市民運営体制を整えるとともに,外国人住民と日本人がお互いに地域の担い手として参画する,コミュニュティ意識の醸成を目指しています。

 しかし,飯田市で地域日本語教育を推進するには課題がいくつかあります。例えば,市内公共交通機関は電車・バスの路線や本数が限られているため,主な交通手段が車です。「車がないから日本語教室に通えない」「家から近いところで日本語教室をやってほしい」といった声が聞かれますが,解消に至っていません。外国人住民の集住地区の公民館で,日本語教室を開催するのが望ましいのかもしれませんが,それにはまだ人材不足のため,現在人材の養成を行っているところです。他に,ある外国人住民の集住地区では,自治会をはじめ地域活動を外国人住民と共にできないことが課題となっています。

 これらを地域課題として地域住民一人一人が認識し,自分たちの力で解決の糸口を見出すことができるように,飯田市公民館では地域日本語教育に取り組んでいきます。

長野県 飯田市公民館

活動場所
市内公民館
活動日時
「わいわいサロン」 飯田市公民館
毎週月曜 午前10時〜12時
「わいわいサロン[2]」(文化庁委託事業) 鼎公民館
月3回程度月曜 午後7時〜9時
「子育てとにほんご」(文化庁委託事業) 鼎公民館,伊賀良公民館
月2回不定期 午前10時〜12時
「好友会」 竜丘公民館
毎週金曜 午後7時〜8時30分
毎週水曜 午後2時〜3時30分
問合せ先
飯田市公民館
〒395-0085長野県飯田市吾妻町139
電話0265-22-1132 FAX0265-22-1022
URL
http://www.city.iida.lg.jp/別ウィンドウが開きます

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