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文化庁月報
平成25年11月号(No.542)

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連載 「若手映画監督の声」

助監督を経ての「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」

映画監督 藤澤浩和(ndjc2011年度参加)

助監督から監督になるチャンス

 僕は井筒和幸監督『パッチギ!』の現場にボランティアスタッフとして潜り込み,その時のスタッフに拾ってもらって助監督になりました。
 助監督の仕事はスケジュール管理から準備パートとの打ち合わせ,撮影時の段取りなど多岐に渡ります。撮影行為を指揮する監督として必要な現場勘を養え,様々な監督の演出方法を見られるので非常に勉強になります。
 しかし,この業界に入った当時,先輩に言われたのは「今,助監督は一番監督に遠いよ」という言葉でした。仕事を始めてすぐの頃は現場についていくのに必死で気にする余裕も無かった言葉が,年を経るごとに「自分は監督になれるのだろうか」という焦りとなっていきました。

35mmフィルムでの撮影現場

35mmフィルムでの撮影現場

 そんな時,「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」別ウィンドウが開きますの話を聞きつけ,チャンスをモノにするには今しかないと思い,応募しました。
 1度目の挑戦では書類選考で落選しました。それなりに落ち込んだのですが,次の年までにはもっと良いものを提出できるようにと現場をやりながら脚本を書き,2度目の挑戦でワークショップに参加し,さらに製作実地研修にまで進む事ができました。
 助監督を始めて8年が経っていました。

・七転八倒した脚本作り

 監督になりたくて助監督になったはずなのに,日々現場を進めることが目標になっていて,常々マズいなと思っていました。知り合いのプロデューサーの方から「監督になりたいんだったら,ホンや企画を持ってこないと」と言われながらも,今一つどうすればいいのか分かっていませんでした。
 基本的に助監督が作品に参加するのは脚本がある程度できた後,撮影準備と現場が主なので,脚本を作るということがどういうことなのかはっきりとは分かっていませんでした。本当は学ぶタイミングはあったはずですが・・・。
 こんな始末なので,ndjcに参加してからも脚本作りには大いに苦労しました。短くまとめたプロットを何パターンか出しては駄目出しをされ,翌週新たなものを持って行って駄目出しをされ,の繰り返し・・・。
 脚本指導では,講師の方々からいろいろな意見を言われます。自分のやりたかったことから離れていくのではと不安に思ったりもしますが,商業映画の企画を進める際には,もっと多くの立場の意見を擦り合わせて作っていかなければいけません。ndjcはそのための訓練の場であり,予算等の制約はありますが,基本的には僕のやりたいことをより良く表現するにはどうしたら良いかを考えた上での意見でした。
 せっかく選考に残ったのに作品を撮れないのではないかと生きた心地がしなかったのですが,「脚本を作る」とはどういうことなのかを集中的に教えてもらったのだと思います。

・監督としての現場と上映会

 脚本ができてからは楽しくやらせてもらいました。現場は初監督作品への御祝儀だと言って多くの先輩,仲間が手伝ってくれました。編集,整音,音楽のいわゆる仕上げの作業については,助監督時代に数えるほどしか就いたことがなかったので,いろいろ教えてもらいながら作っていきました。分からないことを分かりませんと言える環境は有り難かったです。

完成作品『嘘々実実(きょきょじつじつ)』

完成作品『嘘々実実(きょきょじつじつ)

 多くの方々に叱咤激励(しったげきれい)を受け,初監督作品『嘘々実実(きょきょじつじつ)』がなんとか無事完成しましたが,ここから「作品を観てもらう」というもう一つの壁が待ち受けていました。
 完成した後の試写はとても緊張しました。助監督の時にはただ楽しみにしていたものですが,いざ自分が監督となると,スタッフやキャストはどう思うのかと考えて気が気でありませんでした。
 一般の方々に見せる上映会となると,不安も倍増して更に緊張したことを覚えています。作品がコメディーだったので,劇場で笑いが起きたときは素直に嬉しかったです。そのときお客様に頂いたアンケートの感想・意見は,ためになるものばかりでした。

・ndjcから今までの活動と,これから

『砂をつかんで立ち上がれ』舞台挨拶にて

『砂をつかんで立ち上がれ』舞台挨拶にて

 ndjcの研修が終わった後,映画人材育成ワークショップ「映画24区」で中編作品『砂をつかんで立ち上がれ』別ウィンドウが開きますを監督し,この夏に公開しました。宣伝費もなく,俳優部の方々とビラを配ったり,飲み屋でイベントを開いたりと,作品を観てもらうまでにできることをいろいろとやってみました。
 『嘘々実実(きょきょじつじつ)』の上映後にも思ったことですが,「映画は観てもらって完成する」ことを肌で感じることは何事にも代え難い経験です。ndjcに参加したからといってそれですぐに長編デビューできるものではありません。現在,いろいろ企画を進めようとしているものの,監督としてだけでは生活は成り立っておらず,助監督を行ったり来たりしています。ただ,助監督としての実績だけでなく,自分で監督し人々に観てもらった作品があることで進む話があるのは事実です。

 僕は助監督として現場に育ててもらい,ndjcで作品を発表する機会を与えてもらいました。現場はもちろんですが,脚本指導や上映会,講評会での経験はndjcに挑戦したからこそ体験できたことだと思っています。それぞれで学んだことを生かして,次の作品作りへと進んでいきたいと思います。

プロフィール
 関西学院大学社会学部卒業。大学在学中から自主映画を制作する。卒業後『パッチギ!』(監督:井筒和幸)にボランティアスタッフとして参加。その後上京し,助監督として崔洋一,金子修介,深作健太,矢口史靖,ミシェル・ゴンドリーなど多くの監督の下で経験を積む。
 「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で『嘘々実実(きょきょじつじつ)』を監督。各地での合評上映会をはじめ,湯布院映画祭や釜山で行われた「アジアにおける日本映画特集事業」などで上映される。
 2013年8月,「映画24区」で制作した『砂をつかんで立ち上がれ』が新宿K'sシネマで公開。秋から渋谷アップリンクのほか京都,神戸,大阪でも上映予定。

ndjc:NEW DIRECTIONS IN JAPANESE CINEMA

『砂をつかんで立ち上がれ』別ウィンドウが開きます から

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