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文化庁月報
平成25年12月号(No.543)

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連載 「鑑 文化芸術へのいざない」

世阿弥(ぜあみ)生誕650年 に寄せて 【国立能楽堂1月公演】

国立能楽堂 大貫誠之

世阿弥生誕650年

 「初心忘るべからず」「秘すれば花なり」。能を御覧になったことのない方でも,きっと耳にされたことのある言葉ではないかと思います。どちらも今年生誕650年を迎えた,能の大成者(たいせいしゃ)・世阿弥の言葉です。
 世阿弥は室町時代に活躍した能役者ですが,今年は哲学者の梅原猛氏が国立能楽堂委嘱作品としてスーパー能「世阿弥」を,また50年前の生誕600年祭に際しては劇作家の山崎正和氏が戯曲「世阿弥」を書き下ろすなど,魅力ある,また謎めいた人物として,今を生きる私たちにとっても,興味をそそられる大きな存在と言えましょう。
 役者であると同時に,生涯に多くの能の作品を書いた世阿弥ですが,平成26年の新春を寿(ことほ)ぐ国立能楽堂1月公演では,「国立能楽堂開場30周年記念《月間特集・世阿弥生誕650年》」として,世阿弥作による能の名曲を(そろ)えて特集上演いたします。

スーパー能「世阿弥」

スーパー能「世阿弥」

世阿弥ゆかりの「面(めん)塚(づか)」(奈良・川西町結崎)

世阿弥ゆかりの「(めん)(づか)」(奈良・川西町結崎)

世阿弥の生涯

 世阿弥は貞治(じょうじ)2年(1363年)に生まれたとされます。父は観阿弥(かんあみ),能の音曲の改革に功績を残し,猿楽(さるがく)(当時の能)をほかの芸能を押しのけるほどの地位まで高らしめた存在です。観阿弥・世阿弥の父子は奈良を中心に活動していた大和(やまと)猿楽(さるがく)の一座に属していましたが,足利(あしかが)(よし)(みつ)やその周辺の側近たちの贔屓(ひいき)を得て,やがて都・京都へ進出し,華々しい活躍を見せます。(おう)(えい)15年(1608年)に将軍・義満が急逝し大きな後ろ盾を失いましたが,その後も世阿弥の活躍は続き,また芸論の執筆や能の創作にいそしんだのもこの時期です。
 順調とも見えた人生に大きな変化が現れたのは足利義持(よしもち)後嗣(こうし)として,足利義教(よしのり)が将軍職に就いてからでした。将軍・義教は世阿弥の(おい)である,観世(かんぜ)三郎元(さぶろうもと)(しげ)音阿弥(おんあみ))を重用し,世阿弥とその子息・元雅(もとまさ)を疎んだようです。そのような中で,元雅は(えい)(きょう)4年(1433年)に伊勢にて客死,翌々年には世阿弥自身が佐渡(さど)流配(るはい)となります。殊に,晩年の世阿弥は多くの謎に包まれ,佐渡から帰還したかも定かではなく,また没年とされる()(きつ)3年(1443年)も推定にとどまり,今なお確証となる資料に乏しいのです。

世阿弥の革新性

 世阿弥は多彩な活動で知られますが,その活躍は次の三つの面から捉えられるのではないでしょうか。(1)能の演者として,(2)能の作者として,(3)能の理論家としての世阿弥です。演者としては父・観阿弥は言うに及ばず,同時代の名人たちの芸を柔軟に取り入れ,庇護者(ひごしゃ)である将軍やその周辺の人物たちをその芸で魅了したとされます。
 能作者としては「能の本を書くこと,この道の命なり」(『風姿(ふうし)花伝(かでん)』)と述べるほど積極的に能の新作や古くからの曲の改作に取り組み,次の項で紹介する曲も含め,その多くは現在でもほぼ同じ()(しょう)(謡の文句)で上演されていることは特筆すべきと言えるでしょう。
 また『風姿花伝』など,理論書を含む世阿弥の伝書は20種ほどが今日まで伝わっていますが,その理論の中心は,冒頭に挙げました「秘すれば花なり」にも見える「(はな)」でした。「花」とは能の魅力とも,能の与える感動ともされますが,世阿弥の理論は机上の空論でなく,やはり役者・実演者としての努力や工夫に裏打ちされていることで,十分な説得力を持ち,今なお読む者の心を捉えて離さないのです。

国立能楽堂1月公演

 現代の私たちが受ける最大の恩恵はやはり能作者としての世阿弥の功績でしょう。その世阿弥が書いたとされる50曲以上の能の作品のうち,国立能楽堂では明年1月に次の5曲を取り上げて特集上演いたします。世阿弥がもともと拠点としていた奈良ゆかりの曲を多く取り上げるのも特徴です。

◎〔定例公演〕1月7日(火) 能「当麻(たえま)
 有名な「中将(ちゅうじょう)(ひめ)伝説」による作品で,舞台は奈良・当麻寺(たいまでら)。同寺を参詣した行者の前に現れた老尼(ろうに)は寺の来歴,そして中将姫が祈願した曼荼羅(まんだら)の縁起を語ります。行者が礼拝をすると,経巻(きょうかん)を持った中将姫の霊が歌舞の菩薩(ぼさつ)の姿で現れて,仏法の有り難さを説きます。気品高く演じられ,また清々(すがすが)しさにも満ちたこの大作は,まさに新春にふさわしい作品と言えましょう。

◎〔普及公演〕1月11日(土) 能「野守(のもり)留之伝(とめのでん)
 能「野守」は,奈良・春日野(かすがの)を訪れた山伏の前に,鬼神が鏡を持って塚の中から現れて,山伏の求めに応え,天上から地獄までを鏡に照らして見せるという,大変にスケールの大きな作品です。世阿弥は奈良を中心に活動した大和猿楽の出身ですが,「鬼の能」はその大和猿楽が得意とした芸とされ,『風姿花伝』では鬼の能について「(いわお)に花の咲かんがごとし」として,恐ろしさと美しさとが同時に備わってあるべきであると力説しています。

◎〔定例公演〕1月17日(金) 能「井筒(いづつ)
 世阿弥が自著『申楽談(さるがくだん)()』の中で「上花也(じょうかなり)」(最上級の作品)と自賛するほどの作品がこの能「井筒」です。舞台は奈良・在原寺(ありわらでら)。旅僧の夢に(きの)(あり)(つね)の娘の霊が現れ,在原業平(ありわらのなりひら)の形見の衣を身に付けて舞を舞い,そして二人の恋物語を懐かしみます。極めて洗練された作詞と作曲がなされた,「伊勢物語」による秋の名曲で,舞台先に置かれる井筒の(つく)(もの)(舞台装置)に挿された(すすき)の醸し出す,すがれた雰囲気も印象に残る作品です。

◎〔企画公演〕1月23日(木) 能「呉服(くれは)
 廷臣(ていしん)たちが摂津・呉服(くれは)の里にたどり着くと二人の女が機織りをしています。この二人は実は(おう)(じん)天皇の御代(みよ)織女(しょくじょ)呉織(くれはとり)綾織(あやはとり)の再来でした。呉織は織り上げた錦を大君にささげ,御代を祝福します。舞台に据えられる織機の作リ物には5色の糸が掛けられ,その鮮やかさも目を()きます。往時の治世讃美(ちせいさんび)の曲で,明るい曲調に当代を寿(ことほ)ぐ満ち足りたさまを感じられることでしょう。また,当日は世阿弥が深い関わりを持った「禅」について,臨済宗(りんざいしゅう)相国寺派(しょうこくじは)管長(かんちょう)有馬(ありま)頼底(らいてい)氏をお招きし,「世阿弥の花と禅」のテーマの下にお話を頂きます。

◎〔企画公演〕1月30日(木) 能「西行桜(さいぎょうざくら)杖之舞(つえのまい)
 能「阿古屋松(あこやのまつ)」(昨年4月に国立能楽堂にて復曲初演)と並んで世阿弥が「後の世,かかる能書く者や(ある)まじき」と記した能「西行桜」(『申楽談儀』)。西行の歌に着想を得て,歌人と花の精との心の交流を描く作品で,老翁(ろうおう)の姿をした桜の精は,歌問答を交わし,桜の花を(たた)えながら舞を舞います。花の精が老翁の姿で現れる,能ならではの独特な表現に魅力を覚える一曲です。
 この公演では能の上演に先立ち,『申楽談儀』で言及され,その後上演の途絶えていた「玉水(たまみず)」を仕舞(しまい)(能の一部分を紋服(もんぷく)姿で囃子(はやし)なしに舞う形式)として復曲再演し,また,平成5年に「能劇(のうげき)()」で復曲された西行ゆかりの「実方(さねかた)」を今回は連吟(れんぎん)(能の一部分を数人で謡う形式)で上演いたします。

世阿弥の魅力 能の楽しみ

 当代きっての名手による舞台はどれも充実した時間を約束するものです。また,公演によっては能の上演前に解説や講演などを設けることで,世阿弥を様々な角度から迫れるような構成にいたしました。
 この世阿弥生誕650年の記念年を一つのきっかけとして,能・狂言の舞台を是非お楽しみになってみてはいかがでしょうか。開場から30周年を迎えた国立能楽堂も,能の「花」を秘せずに扉を広く開け,皆様の御来場を心よりお待ちしております。

能「西行桜」

能「西行桜」

国立能楽堂

国立能楽堂

国立能楽堂1月公演  国立能楽堂開場30周年記念《月間特集・世阿弥生誕650年II》 ※全公演字幕付

〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1

問合せ
国立劇場チケットセンター(午前10時〜午後6時)
0570-07-9900,03-3230-3000[PHS・IP電話]
交通
JR(総武線)千駄ヶ谷駅から徒歩5分,都営地下鉄(大江戸線)国立競技場駅から徒歩5分,
東京メトロ(副都心線)北参道駅から徒歩7分
公演日時
平成26年
〔定例公演〕 1月 7日(火) 午後1時開演  素謡「(おきな)」・狂言「寝音曲(ねおんぎょく)」・能「当麻」
〔普及公演〕 1月11日(土) 午後1時開演  解説・狂言「鬼継子(おにのままこ)」」・能「野守留之伝
〔定例公演〕 1月17日(金) 午後6時30分開演  狂言「鴈礫(かんつぶて)」・能「井筒」
〔企画公演〕 1月23日(木) 午後6時開演     講演「世阿弥の花と禅」・能「呉服」
〔企画公演〕 1月30日(木) 午後1時開演     おはなし・仕舞「玉水」・連吟「実方」・能「西行桜杖之舞
入場料金
〔定例公演・普及公演〕
正面  4,800円/脇正面 3,100円(学生:2,200円)/中正面 2,600円(学生:1,800円)
〔企画公演〕
正面 6,100円/脇正面 4,700円(学生:3,300円)/中正面 3,100円(学生:2,200円)
※全公演障害者の方は2割引です。
ホームページ
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