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連載 「鑑 文化芸術へのいざない」
公演日時:平成26年2月8日(土) 14時開演
国立劇場おきなわ 企画制作課専門員 上地和夫
中国の皇帝が「汝を琉球国の王に封ずる」と中国皇帝からの辞令書を携えて来琉する使者を「冊封使」と呼び,彼らを歓待するために仕組んだ芸能を「御冠船舞踊」といいます。冊封使歓待に際し首里王府は,官僚の中から御冠船舞踊全体を指揮する「踊奉行」を任命し,上流階級の子弟の中から芸能に達者な者を選び,鍛錬の後,芸を披露させました。この御冠船を迎えるという制度が沖縄の芸能を洗練させたことは間違いありません。
「組踊」という沖縄独特の演劇形態も,冊封使歓待のための芸能として出発しました。1719年,その前年に踊奉行に任命された玉城朝薫が,尚敬王冊封のため来琉する中国の冊封史一行歓待のために,組踊を創作するのです。
組踊には「仇討物」と「世話物」があり,仇討物とは,野心を抱く者によって主君や父親を闇討ちにされた主人公が,仇討ちを果たす内容の組踊をいいます。仇討物の組踊はたくさんありますが,その舞台の派手さからお正月や祝い事,記念行事などに好んで上演されるこの「大川敵討」は,仇討物の代表格の一つといえます。
仇討ちの原因となるのは殺人事件です。殺された者は血を流して死にますが,神は血を流すことを嫌います。そこで殺された者の近親者は殺した者を追って仇を討ち,穢れを祓い,自らに降りかかる物忌みを解くのです。結局,仇討ちは残された自分たちのためにしている行為といえます。
また,「禮記」に「子にとって父は天でありその天を殺した者とともに天を戴く者は孝子ではない」という一節がありますが,封建時代の徳目が「忠孝」ですので,親の仇討ちは個人の名誉の問題でもありました。組踊には,儒教道徳に基づいた展開を持つ作品も多くありますが,そこには宗主国・中国に対して,その支配論理である儒教道徳が琉球に浸透していることを示し,王府の称揚・王朝賛美を示すという要素も求められていました。
組踊「大川敵討」糺の場
組踊「大川敵討」谷茶の按司と大川の旧臣達の立ち回り
久手堅親雲上の作で知られるこの「大川敵討」は1838年・尚育王冊封の「戌の冠船・重陽の宴」で上演されています。この作品は,1)美文の作品,2)間の者の面白さ,3)長編大作物であることが特徴としてあげられます。「大川敵討」は通称「忠孝婦人」とも呼ばれますが,廃藩置県後の沖縄の芝居小屋,「仲毛芝居」で上演された組踊の中で最も人気を集めたのは,この「忠孝婦人」でした。上演時間が長く出演者も多いことから,ほかの組踊より上演に手間も費用もかかりましたが,客の入りが悪い時には,役者を集め費用を捻出してこの大がかりな作品を上演し,決まって大入りになったといいます。「大川敵討」がいつの頃から「忠孝婦人」と呼ばれるようになったかは定かではありませんが,組踊の中で最も長編でありながら,飽きさせずに観客に受けた理由は,主人公・乙樽の忠義に厚い賢婦人ぶりに感情移入し,その起伏に富んだ進展が見せる面白さゆえでしょう。乙樽をはじめ多くの忠臣たちの機転と活躍で,晴れて仇討ちを果たすという筋立てが人気を集めるこの作品は,正に「琉球の忠臣蔵」といえる作品です。
百姓出身の谷茶の按司は,人望厚い大川の按司を急襲して大川城を乗っ取ります。大川の按司の部下である村原の比屋の報復を恐れた谷茶は,更に大川の若按司(息子)を虜にして,村原をおびき寄せ討ち取るつもりでいます。旅先で大川の変を聞いた村原は,大川の旧臣を集め仇討ちの計画を練ります。村原の妻・乙樽は密偵となり,大川の若按司の乳母と偽って谷茶の城に赴きます。谷茶の部下である満納の子は,乙樽が村原の妻である事を見抜き,捕らえるよう谷茶に進言しますが,乙樽の色香に迷った谷茶は,逆に満納に嫌疑をかけ殺してしまいます。乙樽からの内通により谷茶城の警備の手薄な時期を捉えた村原は,大川の旧臣らと谷茶城を攻め,若按司と乙樽を救出し,谷茶を生け捕りにして主君の仇を討ち,慶び舞って城に戻ります。
この作品は4段に分かれ,組踊の中でも最も多い14曲が使用されています。特に1段目は出羽の「散山節」から始まり「仲間節」「仲村渠節」「子持節」「東江節」「伊野波節」と大節が6曲も使われます。地味ですが,地謡の粋を集めた場面といえます。1段が「歌」で進むのに対して2段目は「台詞」劇です。「糺の場」と呼ばれ,谷茶城内で乙樽を満納の子と谷茶の按司が詮議糾明するところからこの名がつきました。乙樽と谷茶側との緊迫感のあるやりとりは作品中最大の見せ場でもあります。3段目は2段目の緊張感をほぐす間の者・泊の登場です。特殊な「間の者言葉」を多用し,端役ではありますが,役者としてはもうけ役といわれます。4段目は,討ち入りの手配りの場で始まり,だんだんと高揚感が増す演出がなされ,ついに敵討の場となり念願成就となります。
上演時間が3時間にも及ぶ大作で,出演人数も多いため,全編通しての上演は組踊界をリードしてきた大先輩方でも指折り数えるほどの舞台経験だとききます。国立劇場おきなわ開場10周年記念特別公演としてふさわしい,正に「琉球の忠臣蔵」とも譬えられる超大作です。なお,この公演は4月19日・20日の両日,東京の国立小劇場でもキャストを一部替えて上演いたします。豪華な配役と壮大な音楽,琉球語のセリフ回しの美しさが光る組踊「大川敵討」。4年ぶりとなる舞台に御期待ください。
国立劇場おきなわ開場10周年記念特別公演 組踊「大川敵討」
〒901-2122 沖縄県浦添市勢理客4-14-1
- 問合せ
- 国立劇場おきなわチケットカウンター (窓口:10時〜18時,電話受付:10時〜17時30分)
TEL.098-871-3350
- 交通
- ◆バスの場合:市外線 勢理客バス停(国道58号線沿い)下車徒歩10分
◆タクシーの場合:那覇空港から約20分
- 公演日時
- 平成26年2月8日(土) 14時開演
- 観劇料
- 3,500円 ※学生割引,障害者割引,他各種割引有り
※インターネットからもチケットが御購入いただけます。詳細は劇場HPを御覧ください。
- ホームページ
-
http://www.nt-okinawa.or.jp/

