文化庁月報
平成26年1月号(No.544)
連載 「若手映画監督の声」
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」
があるから,今がある
このプロジェクトに絶対参加したかった!!
このプロジェクトを知ったのは,ndjc2008参加の熊谷まどか監督「
最初は何げなく参加しましたが,初めて見る35mmフィルムの現場にかなり興奮しました。キャストスタッフが作品作りに一丸となっているのです。そこにはただならぬ雰囲気が漂っていました。その時の撮影監督が以前に仕事をさせていただいた上野彰吾さん(『ぐるりのこと』『時をかける少女』)で,撮影の合間に「いいですね,35mm。私もやりたいです!!」なんて話をしたら,「来年,一緒にやろう」と言っていただきました。
まさか,その言葉が1年後,現実のものとなるとは!!
もちろん,その時点では本当に次の年に自分が監督として35mmフィルムの現場にいられるとは思いもしませんでした。
運良く(?)2009年度の製作実地研修参加作家に選んでいただき,意気揚々と映画製作に取りかかったのですが,まずは第1の関門がありました。
それは脚本指導でした。プロの脚本家の方々,プロデューサー陣から指導を受け,脚本をじっくり煮詰めていく作業は,今まで自分だけで全て完結していた脚本作りしかしてこなかった私には本当に厳しいものでした。実に29稿まで書きました。後にそれを知った主演の草村礼子さんの「29稿?!若いってすごいねー」という言葉には救われました。
「脚本は設計図だ」という言葉があるとおり,何回もの意見交換,指導が入ることによって,脚本に厚みと深みが出てきて,出来上がった作品を改めて見てみると,あの時間がどれだけ大切だったのかが分かります。
35mmフィルムでの現場写真
その後,私以外全員がプロフェッショナルという環境で,撮影が始まりました。ロケ地は静岡県小山町。撮影中,一つのカットを撮った後にほっとしていた時に,撮影監督の上野さんに「次のカットへの準備を見逃さない方がいい。まるで戦争だよ」と言われたのが今でも忘れられません。撮影部,照明部,演出部の次のカットを撮るための集中力はものすごいものでした。
撮影は6日間,その後,編集,整音,効果音,音楽・・・と仕上げ作業を経て,作品が出来上がっていく過程では,正に我が子が少しずつ成長していく喜びを感じました。
『そぼろごはん』という作品
私はおばあちゃん子で,祖母にとても大事にされた記憶があり,その祖母が年老いて認知症になり,寝たきりになり最期には亡くなりました。晩年のつらい体験もあったのですが,自分と祖母との距離感とその日々を作品の中に入れ込みたいと考えました。そこで真っ先に思い付いたのはそぼろごはんの思い出でした。祖母がよく作ってくれた,今は失われつつある家庭の味です。
出来上がった作品は,祖母との記憶のごく一部にしかすぎませんが,大好きな作品になりました。作品の始まりは個人的思いからでしたが,脚本指導の先生,そしてキャストスタッフの皆さんのおかげで,たくさんの方に共感いただける普遍性のある物語に昇華したと思います。
ndjc2009『そぼろごはん』
映画は作るだけでなく,見られて完成するという思いが強くあります。合評上映会では全ての会場に行き,観客の様々な反応を肌で感じてきました。さらにその後,ニューシネマワークショップ配給のndjc作品3本立て「三色映画」として劇場公開していただき,多くのお客さんに見てもらい,喜んでいただくことができました。「自分もおばあちゃんを思い出した」「フィルムで撮ったそぼろごはんはとてもおいしそうだ」と評判をいただきました。
思い出の中で,食べ物は印象的に色濃く残るのですね。そして,次の作品も食べ物が絡んでくるのです。
そして,『しもつかれガール』
へ。
2012年に行われた「第5回栃木・蔵の街かど映画祭」で『そぼろごはん』を上映していただきました。幾つかあるndjc作品の中でこの作品が選ばれたのは,どこにでもある恋の話だったからではないでしょうか。誰しも恋をします。誰かが誰かを好きになるという行為は,人と人のコミュニケーションのミニマムな形だと思うのです。ndjcの脚本指導で「人間を描く」ことの大切さを痛感した私は「恋愛」というジャンルで人間を描いたのです。
上映後,スタッフの方々の案内で栃木市の蔵の街を歩き,京都と似た「小京都感」,昔からある蔵や街並みの素晴らしさと,喫茶店,雑貨屋,家具屋の妙にシャレた
『しもつかれガール』の栃木での撮影現場
そんな強い思いが届いたのか,縁あって,栃木青年会議所創立55周年記念事業として作られる作品の監督を務めました。
主演は,谷村美月さん,徳永えりさんです。何回か栃木に訪れ,地元の人たちに話を聞いているうちに,「しもつかれ」という変わった食べ物を知りました。栃木に昔からあるというのに,地元の人たちの間でも「好き嫌い」が分かれていると言うのです。これをコミュニケーション・ツールとして,生まれも育ちも栃木で県外に出たことのない女と,一度は東京に出たが何らかの理由で戻ってきた男の,幼なじみながらも思いを告げられない二人に,たまたま東京から来た女が絡んだ「好き嫌い」の恋愛模様を描いてみたくなりました。栃木はもちろん,どこの地方都市の人にも共感していただけるような普遍的な話に昇華させるべく,地元の人たちにたくさんお話を聞き,物語を作っていきました。
今作は,2013年11月に栃木市にて初上映され,今後各地でも順次上映していく予定です。
『そぼろごはん』『しもつかれガール』で,個人的思いから始まって作った作品が,キャストスタッフの皆さんが関わることによって普遍性を持っていく様を目の当たりにしました。10年後も20年後も残っていく作品を作っていきたいと思っています。
遠山浩司プロフィール
1970年秋田生まれ。幼い頃に,アルジェリア,パリで生活。
1997年から8年間,小劇場界で脚本家,演出家として活動。
佐藤佐吉賞2001最優秀脚本・演出賞,他主要8部門受賞。
満を持して,2005年より短編映像を製作し始める。
2008年『昼からビール』で,第2回TOHOシネマズ学生映画祭グランプリ受賞。
2009年「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に参加し,『そぼろごはん』を製作。
2013年一般社団法人栃木青年会議所の創立55周年記念事業作品として,栃木オールロケで『しもつかれガール』を製作。

