2015年2月4日
東京国立博物館コレクションの保存と修理
保存修復室・主任研究員 沖松健次郎
東京国立博物館では,収蔵する文化財を未来に伝えていくために,次の3つの活動を核とした臨床保存の理念のもと保存修復事業を行っています。
(1)文化財の状態及び展示室や収蔵庫の環境に関する調査・診断
(2)調査・診断の結果に基づいて展示・収蔵環境の整備を行う予防保存
(3)文化財をより安定した状態で公開・収蔵できるよう,虫損跡や切れた紐の繕い,折れの緩和,糊浮き箇所の接着など軽微なもの(対症修理)から全体の解体を伴うもの(本格修理)まで状況に応じた修理を行う修理保存
この特集では,そうした当館の保存修復事業の成果の一端として,近年本格修理を終えた絵画,書跡,工芸,考古などさまざまな分野の作品を,修理のポイントや工程,その過程で得られた情報をまとめたパネルとともに展示いたします。また,対症修理の例として,和綴じ本の綴じ直しや洋書の保存箱の作製などの実例も展示いたします。
<左:修復前,右:修復後>
重要文化財 四季山水図(夏) 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀
東京国立博物館蔵
展示期間:2月17日(火)~3月15日(日)
本館特別1室
解体を伴う本格修理では,通常作品の内部に隠れてわからない過去の修理の痕跡や,構造・材質・技法などに関するさまざまな知見を得ることができます。それらの情報は作品をより深く理解する上で貴重なものであるだけでなく,より適切な修理仕様を採用していく上でも重要なものです。今回展示の作品でも,「四季山水図」(重文 4幅 絹本墨画淡彩 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀,うち展示は春・夏)は,修理前は4幅でそれぞれ見え方の印象が違い,それが何によるものなのかはっきりわからない状態でした。解体により,本紙の裏に貼ってあった肌裏紙の色がそれぞれ違っていたこと,更に本紙裏面に,春・夏の2幅では透明な糊が斑状に,秋・冬の2幅では茶色の糊が絹目にめり込むほど全面に付着していたことが見え方の印象の違いに影響していたことがわかり,十分な検討を経てそれらを改善する方針をとることとなりました。修理後は本来の見え方に近い統一感のある画面となりました。
<修理後>国宝 檜図屏風 狩野永徳筆 安土桃山時代・天正18年(1590)
東京国立博物館蔵
展示期間:2月17日(火)~3月15日(日)
本館2室(国宝室)
また,平成26年3月末に修理を終えた「檜図屏風」(国宝 4曲1双 紙本金地着色 狩野永徳筆 安土桃山時代・天正18年(1590))が本特集と同期間に本館2室(国宝室)にて展示されます。こちらはバンクオブアメリカ・メリルリンチ文化財保護プロジェクトからの助成金で実施された修理で,屏風の修理工程の詳細をパネルにて紹介するとともに,新規唐紙を制作するために宮内庁京都事務所から借用した版木,また,その版木で刷った実物の唐紙,新旧の縁金具なども展示いたします。こちらも修理中に得られた情報をもとに調査を行い,作品により縁の深い意匠を唐紙の制作に反映することができた例といえます。
見どころ満載の展示をどうぞごゆっくりお楽しみください。
東京国立博物館
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- 観覧料
- 一般620円(520円),大学生410円(310円)
※( )内は20名以上の団体料金です。
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