2016年5月12日
文化財を撮る―写真が遺す歴史
奈良文化財研究所 飛鳥資料館 研究員・西田紀子
文化財を守り,伝える上で,文化財写真は重要な役割を担っています。奈良文化財研究所では,埋蔵文化財をはじめ,文献史料,建造物,庭園など様々な文化財の調査研究にあたり,多くの写真を撮影し,学術情報として保存してきました。本展覧会では,その一端を御紹介したいと思います。
飛鳥寺跡の塔心礎と埋納品
奈文研の文化財写真の撮影は,写真室に配属された専門の技術者たちが担当しています。彼らは,文化財の持つ色や形を正確に,そして質感などの情報を最大限に表現するために,屋外やスタジオで,太陽光や照明,アングルなどに工夫を重ねながら,文化財写真撮影のノウハウを培ってきました。
キトラ古墳の壁画の撮影
今日では,文化財を撮影した写真そのものが,歴史資料として文化財の範疇に加わるようになりました。なかでも,既に失われてしまった文化財の写真は,写真そのものが実物に匹敵する重要な価値をもっています。写真記録は,地中に埋め戻された遺跡の様相や,文化財の経年変化を知る上でも欠かせぬ資料となっています。このような資料写真の一方で,文化財の新たな魅力や,文化財への新たな視点を引きだす鑑賞用の写真も,文化財写真技師たちの腕の見せ所です。
飛鳥池工房遺跡出土 富本銭
また,近年の技術革新の波は,フィルムカメラからデジタルカメラへの急激な移行を迫っており,フィルムやデジタルデータをどう保存し活用していくかが,大きな課題となっています。このため,奈文研では,写真資料の残し方も,文化財の保存と同様の長期的視野のもと,フィルムの現像や保管方法の研究,フィルムのデジタルアーカイブの作成などを進めているところです。
ガラス乾板の保存
文化財の魅力を多くの人々,そして未来に伝える文化財写真。本展覧会では,重要文化財に指定された全国の文化財写真や,奈良文化財研究所が飛鳥藤原地域で撮影してきた文化財写真を展示しています。カラーフィルムで撮影された昭和30年代の発掘調査の現場写真は必見です。また,文化財写真技師の仕事を体感できるコーナーも設置します。文化財写真の価値と面白さを御堪能ください。
■飛鳥資料館 平成28年度春期特別展「文化財を撮る―写真が遺す歴史」
会期:平成28年4月26日(火)~7月3日(日)
奈良文化財研究所初代カメラと山田寺東回廊
奈良文化財研究所 飛鳥資料館
(住所)〒634-0102 奈良県高市郡明日香村奥山601
- 問合せ
- 0744-54-3561
- 交通
- 近鉄・橿原神宮前駅,飛鳥駅から「かめバス(周遊)」飛鳥資料館下車
JR・近鉄桜井駅から石舞台行バスで飛鳥資料館下車 - 開館時間
- 9:00~16:30(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日 ただし5月2日(月)は開館
- 観覧料
- 一般¥270,大学生¥130
※高校生及び18歳未満,65歳以上:無料(年齢のわかるものが必要です)
障がい者とその介護者各1名は無料(手帳の提示が必要です)
- ホームページ
-
http://www.nabunken.go.jp/asuka/