2019年4月19日
国宝(くにのたから)の展覧会
国宝の殿堂 藤田美術館展
曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき
奈良国立博物館 学芸部情報サービス室長 岩井共二
今年も奈良公園に春がやってきました。奈良公園の鹿たちの毛が生え替わり,角も生えてきます。そして,今年も春の特別展が開催されます。
今回の展覧会の一押しの名品は「小さな宇宙」国宝・曜変天目茶碗です。
国宝 曜変天目茶碗 中国・南宋 大阪・藤田美術館
直径12センチの濃い青色の茶碗の中に,まるで大宇宙の中にある星雲のような,青いまだらの文様が見られます。この文様は茶碗を窯で焼くときに,窯の中でいろいろな条件が重なってできるものです。(ふつうは「窯変」(ようへん)と書きますが,きらきら輝くという意味で「曜変」と書きます),このような色がどうして出来るのかは,まだよく分からないところがあるそうです。中国で,南宋(1127~1279)の頃に作られたといい,日本では,室町時代に,大変高い評価を受けていました。この国宝「曜変天目」茶碗というのは,世界に三碗しか現存しません。一つは京都の大徳寺龍光院,もう一つは東京の静嘉堂文庫美術館,そして,3つ目が,今回紹介する藤田美術館の曜変天目茶碗なのです。
国宝 曜変天目茶碗 中国・南宋 大阪・藤田美術館
このお茶碗は,かつて,徳川家康が持っていて,そのあと水戸徳川家が持っていましたが,大正7年(1918)に藤田平太郎という人が買って手に入れました。この藤田平太郎さんと,平太郎さんの弟の 徳次郎さん,そして,その父親の藤田傳三郎さんという親子三人で集めた美術品を所蔵している美術館が,今回の展覧会のタイトルにもなっている,大阪市・藤田美術館なのです。
藤田傳三郎さんは,幕末に長州の萩(山口県萩市)で生まれました。
明治時代に入って大阪で様々な事業を始めました。傳三郎さんはいろいろな事業をしています。また,JR山陽本線(国に買い取られて国鉄になるまでは私鉄でした),南海電鉄,関西電力,毎日新聞,大成建設など多くの企業の設立に関わっており,岡山県の児島湾干拓という大規模な土木事業も手がけ,明治時代の経済界をリードした人でした。
そんな傳三郎さんは,美術愛好家で美術品を集めるのを趣味にしていました。でも,この美術品集めの趣味は,傳三郎さんにとっては,大きな意味を持っていました。傳三郎さんは,生前こんなことを言っていたそうです。
「私が大阪で仕事を始めた頃というのは,明治維新の真っただ中。天と地が入れ替わるほど世の中が大きく変わった時代だった。各藩主は版籍奉還をし,それに伴い多くの武士や豪商,更に神社仏閣の多くが没落した。そのため,そうした旧家社寺で古くから大事にされてきた貴重な美術品が売りに出されるようになった。ところが多くの人は,それらを見向きもせず,壊されたり,粗末に扱われたり,外国人が安く買って国外にたくさん持って行ってしまっている。そこで私は,こうした「国宝(くにのたから)」を集めておかないと,いつかきっと後悔すると思い,買い集めて収集しようと思ったのである。」
そんな思いで傳三郎氏が集めた藤田美術館のコレクションには,意外に思えるほど奈良のお寺や神社にあった文化財がたくさんあります。今回の展覧会は,この藤田美術館の所蔵品のうち,曜変天目茶碗をはじめとした国宝9件,重要文化財53件とともに,仏教美術の名品に焦点をあてた展覧会です。美術品としてすばらしいものだけでなく,ほかのところにはない珍しいものや,今まで紹介されることのなかったものなど,いろいろありますよ。
重文 地蔵菩薩立像 鎌倉時代 大阪・藤田美術館
今回の展覧会の「国宝の殿堂」という展覧会タイトルには「国宝をたくさん持っている美術館」という意味と「国宝(くにのたから)を集めて,多くの人に見てもらいたい」という傳三郎さんの願いによって設立された美術館という二つの意味があります。
藤田美術館のことを,よく知っている人も,名前を初めて聞く人も,美術ファン必見の展覧会であることは間違いありません。是非見に来てください。
奈良国立博物館
(住所)〒630-8213 奈良県奈良市登大路町50番地
- 問合せ
- 050-5542-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 近鉄奈良駅下車 登大路町を東へ徒歩約15分
JR奈良駅又は近鉄奈良駅から市内循環バス外回り(2番)「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ - 開館時間
- 午前9時30分~午後5時まで
※毎週金,土曜日は,名品展のみ午後8時まで
(入館は閉館の30分前まで) - 休館日
- 毎週月曜日(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日。)
- 観覧料
- 一般520円(410円),大学生260円(210円)
- ※( )内は20名以上の団体料金
- ※高校生以下及び満18歳未満,満70歳以上の方は無料です。(年齢のわかるものが必要です)
- ※障害者の方とその介護者各1名の方は無料となります。(障害者手帳が必要です)
- ※高校生以下及び18歳未満の子供同伴の方は団体料金が適用(親子割引)
- ホームページ
- https://www.narahaku.go.jp/
特別展「国宝の殿堂 藤田美術館展 曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき」
- 開催期間
- 4月13日(土)~6月9日(日)
- 開催時間
- 午前9時30分~午後5時まで
※毎週金曜日は午後7時まで
※入館は閉館の30分前まで - 休館日
- 毎週月曜日,5月7日(火)
※ただし4月29日(月・祝),5月6日(月・振休)は開館 - 観覧料
-
一般 高校・大学生 小・中学生 当日 1,500円 1,000円 500円 団体 1,300円 800円 300円 - ※観覧券は,当館観覧券売場のほか,近鉄の主要駅,近畿日本ツーリスト,JR東海ツアーズ,PassMe!,dトラベル,日本旅行,ローソンチケット(Lコード53880),チケットぴあ(Pコード769-466),イープラスなど主要プレイガイド,セブン-イレブン他コンビニエンスストアで販売いたします。(チケットの購入時に手数料がかかる場合もあります)
- ※団体は20名以上です。
- ※障害者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料です。
- ※この観覧料金で,名品展(なら仏像館・青銅器館)も観覧できます。
- ※奈良国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は,当日券を400円でお求めいただけます。観覧券売場にてキャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出,学生証を御提示ください。
- 展覧会詳細
ページ - https://www.narahaku.go.jp/exhibition/2019toku/fujita/fujita_index.html