2014年9月1日
ジャポニスムとダンディズム―19世紀欧米画壇の巨匠
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
京都国立近代美術館主任研究員・池田祐子
「美の物語は,パルテノンの大理石が刻まれ,北斎が扇に描かれた富士山の麓に鳥の刺繍をしたときにすでに完成している」と述べ,ホイッスラーは,美の規範を古代ギリシャと日本美術にみとめました。彼は,絵画を,伝統的な物語や教訓を伝える道具としての在り方から解放し,それ自体の美しさ,画面における色や形さらには構図の調和を目指しました。「芸術のための芸術」を目指す,このような彼の立場を「唯美主義」と呼びます。ホイッスラーは,作品のタイトルに「シンフォニー」や「ノクターン」といった音楽用語を使っていますが,そこには,特定の人物の肖像画であれ,特定の場所の風景であれ,絵画をその説明物ではなく,色と形が織りなす造形物として見てほしい,という彼の願いが込められています。それは伝統的な絵画の在り方からの大きな転換を意味していました。そしてその転換を促す重要な起爆剤となったのが,当時欧米で熱狂的に受容された浮世絵をはじめとする日本美術だったのです。
《白のシンフォニー No.3》
1865-67年,バーバー美術館(バーミンガム大学附属)
The Barber Institute of Fine Arts, University of Birmingham
《ノクターン:青と金色―オールド・バターシー・ブリッジ》
1872-75年,テート美術館 (C)Tate, London 2014
ホイッスラーは,ロンドンだけではなくパリにも居を構えて英仏の先進的な画家たちと交流し,ジャポニスムをはじめとする,当時の芸術の動向を牽引するリーダー的存在でした。前髪の一部だけを白く染め,口ひげをたくわえて,山高帽にフロックコートで街を闊歩する彼は,自らの作品を酷評した芸術批評家ラスキンと絵画の在り方をめぐって法廷闘争まで繰り広げた挙げ句に破産するなど,社会にゴシップを提供する時代の寵児でもありました。今回の展覧会では,約130点の作品でホイッスラー芸術の全貌を伝えるだけではなく,絵画における美を追究し,自らの行動に一貫してダンディズムを求めた彼にふさわしい会場の構成を目指しています。具体的には,作品が最も美しく見えるよう塗り分けられた壁の色や,とりわけ,ホイッスラーが手がけた室内装飾で唯一現存する「ピーコック・ルーム」を三面プロジェクターで映し出すコーナーなど,会場全体でホイッスラー芸術を感じられる仕掛けに御注目ください。また,彼は日本の家紋にヒントを得て,蝶と自らの名前のイニシャルを組み合わせた花押を画面や所持品に描き込みました。その蝶を探しつつ,会場をめぐることも,本展覧会の楽しみ方のひとつだと言えるでしょう。
《灰色のアレンジメント:自画像》
1872年,デトロイト美術館
(C)Detroit Institute of Arts, USA/
Gift of Henry Glover Stevens/
The Bridgeman Art Library
《青と金色のハーモニー:ピーコック・ルーム》
1876-77年,フリーア美術館
(C) Freer Gallery of Art, Smithsonian Institution,
Washington DC: Gift of Charles Lang Freer, F1904,61
《バルコニーの傍で》
1896年,シカゴ美術館
Photography (C) The Art Institute of Chicago
京都国立近代美術館
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町
- 問合せ
- 075-761-4111
- 交通
- JR~バスを御利用の方
■JR・近鉄京都駅前(A1のりば)から
市バス5番 岩倉行
「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
■JR・近鉄京都駅前(D1のりば)から
市バス100番(急行)銀閣寺行
「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
阪急電鉄・京阪電鉄~バスを御利用の方
■阪急烏丸駅・河原町駅,京阪三条駅から
市バス5番 岩倉行
「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
■阪急烏丸駅・河原町駅,京阪祇園四条駅から
市バス46番 平安神宮行
「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
市バス他系統御利用の方
「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車徒歩5分
「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約10分
地下鉄御利用の方
地下鉄東西線「東山」駅下車徒歩約10分 - 開館時間
- 午前9:30~午後5:00 ※9月20日(土)・21日(日)は午後8時まで開館
(入館はいずれも閉館30分前まで) - 休館日
- 毎週月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は翌火曜日)
(ただし,9月22日(月),10月14日(火),11月4日(火)は開館) - 上村松篁展
観覧料 - 当 日 一般1,500円,大学生1,100円,高校生600円
前売り(販売期間:8月1日~9月12日) 一般1,300円,大学生900円,
高校生400円
団 体(20名以上) 一般1,300円,大学生900円,高校生400円
※本料金でコレクション展も御覧いただけます
※中学生以下,心身に障害のある方と付添者1名は無料(要証明) - ホームページ
- ホイッスラー展ホームページ
http://www.jm-whistler.jp/
京都国立近代美術館ホームページ
http://www.momak.go.jp/