2014年11月5日
ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑
東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員 岡田秀則
すべての台詞 が歌われるという画期的なフランス産ミュージカル映画『シェルブールの雨傘』(1964年)は,今も多くの映画ファンに愛されています。今年はこの映画が公開されて50年の節目を迎えますが,この傑作を生み出したのが日本でもいまだ高い人気を誇る監督ジャック・ドゥミ(1931-1990)です。続く『ロシュフォールの恋人たち』(1967年)とともにフランス映画にミュージカルの 歓びをもたらし,分身ともいえる作曲家ミシェル・ルグランらとの共同作業を通じて,1988年の遺作『想い出のマルセイユ』までファンを魅了してきました。女優カトリーヌ・ドヌーヴを世界的スターにしたドゥミは,フランス映画を革新した“ヌーヴェルヴァーグ”世代の一翼と見なされながらも,パリを中心に活動してきた他の若手監督と異なり,フランス各地の美しい都市に密着してきた“ヌーヴェルヴァーグの地方作家”でもあります。
『シェルブールの雨傘』(1964年)
ニーノ・カステルヌオーヴォとカトリーヌ・ドヌーヴ
©1993 Ciné-Tamaris
『ロシュフォールの恋人たち』(1967年)
カトリーヌ・ドヌーヴとフランソワーズ・ドルレアック
©1996 Ciné-Tamaris
『想い出のマルセイユ』(1988年)
イヴ・モンタン
©1988 Pathé Production
しかしその映画作家としての全体像は,とりわけ日本では,これまで必ずしも明らかにされていませんでした。商業的なヒット作に恵まれず,映画の企画自体が途絶えそうになっていた1970年代,そして苦闘の中で新たな表現を模索し続けた1980年代の仕事は,それまでの「栄光の時代」と切り離せないばかりか,実はドゥミの仕事を語る上で本質的なものです。また,記録映画作家ジョルジュ・ルーキエの弟子であり,アニメーションの巨匠ポール・グリモー(代表作『王と鳥』)の薫陶も受けたドゥミは,一見ミュージカルとはかけ離れたこうした分野からも創造性を汲み出しています。
この展覧会「ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑」は,昨年パリのシネマテーク・フランセーズで行われた展覧会の初のアジア巡回で,そうした映画作家の仕事全体に光を当てるものです。スチル写真や撮影スナップ,美術デッサンや製作資料,更にドゥミ本人のアート作品も紹介しながら,色とりどりのファンタジーを観客に届けてきたその生涯と業績全体を振り返ります。特に,不遇の時期に日本からもたらされた企画『ベルサイユのばら』(1979年日本公開)は,フランスでは公開されなかったものの,ドゥミの再起の一作として改めて注目に値します。シネマテーク側との協議のもと,日本での展覧会ではこの作品のために特別なコーナーを設けました。
歌うことの歓びをちりばめながらも,成就しない恋の苦さも同時に描き続けた,繊細なドゥミの世界に触れてみてください。
『ベルサイユのばら』(1979年)
カトリオーナ・マッコール
©1979 Riyoko Ikeda/ Filmlink International
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