2016年2月5日
キューバの映画ポスター 竹尾ポスターコレクションより
東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員 岡田秀則
キューバという国名を聞いてまず多くの方が思い浮かべるのは,音楽やダンス,葉巻,ラム酒,そしてカストロやチェ・ゲバラに象徴されるキューバ革命あたりではないでしょうか。しかし,キューバを語る際にもう一つ欠かすことができないのが映画です。1959年の革命以降,国立の映画芸術産業庁(ICAIC)を拠点に次々と先鋭的な映画を送り出し,毎年「新ラテンアメリカ国際映画祭」が開催される首都ハバナはラテンアメリカ映画の中心地のひとつとなっています。
映画:『ルシア』(1968年/キューバ/ウンベルト・ソラス監督)
ポスター製作:ラウル・マルチネス(1968年)
そのキューバは,映画の宣伝においても“革命的”な手法を取り入れました。映画ポスターといえばまず集客のための効率性が期待されますが,この国の映画ポスターは<宣伝>であると同時に,<表現>であることにも常に意識的でした。ポスター制作には様々なデザイナーや画家が招かれ,大量印刷向きのオフセットではなく手刷りのシルクスクリーンが採用されました。一国の映画宣伝を手作りの技術に託し,映画プロダクションがシルクスクリーンの工房や職人を抱えた国など世界の他のどこにもありません。しかし,映画からの刺激を通じて生み出されたその豊かな色合いと華やかな表現は,いまや世界中のグラフィック・アートの愛好家から高い評価を受けています。
映画:『ファン・キンキンの冒険』
(1967年/キューバ/フリオ・ガルシア・エスピノーサ監督)
ポスター製作:エドゥアルド・ムニョス・バッチ(1967年)
また,これらの映画ポスター作りを支えてきたもう一つの要素が,盛んに外国映画を輸入しようとした映画芸術産業庁の方針です。友邦となったソビエト連邦だけでなく,西欧諸国の映画や日本映画もふんだんに公開していたことはこの展覧会からもよく分かるでしょう。キューバ国民は勝新太郎が主演した「座頭市」シリーズをこよなく愛したことでも知られていますし,また同時に,本数は多くないものの,アメリカが輸出を禁じていたハリウッド映画さえなぜか公開されているのです。
映画:『座頭市兇状旅』(1963年/日本/田中徳三監督)
ポスター製作:アルフレド・ゴンサレス・ロストガルド(1968年)
映画:『白鯨』(1956年/アメリカ/ジョン・ヒューストン監督)
ポスター製作:アントニオ・フェルナンデス・レボイロ(1968年)
この展覧会では,フィルムセンターと京都国立近代美術館の共催により,多摩美術大学に寄託されている竹尾ポスターコレクション所蔵作品を中心に,革命期から1990年前後までに制作された85点の映画ポスターを紹介します。知られざる「映画ポスターの楽園」を散策してみませんか。
また,1月16日から2月28日までの土・日曜日には関連上映企画「キューバ映画特集 革命映画から映画革命へ」を開催します。キューバ映画の豊かさを知る絶好のチャンスとして,併せてお楽しみください。
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- 1月7日(木)~3月27日(日)
毎週月曜日は休室 - 開室時間
- 火曜日~日曜日 11:00~18:30(入室は閉館30分前まで)
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