2016年3月1日
芹沢銈介のいろは―金子量重コレクション
東京国立近代美術館主任研究員 今井陽子
芹沢銈介(1895-1984)は日本を代表する染色家であり,その評価は国内にとどまらず,生前,大成功を収めたパリ展をはじめ,アメリカ,イギリス,ロシアなどでも個展が開催されています。1956年,重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定に当たって「型絵染」という概念を引き出した作風は,堅固な型と確かな構図に特徴があり,華やかな色,楽しい配色,晴れやかでありながら底に深さと静けさを見る…実はこれらは芹沢が紅型について語った言葉でしたが,ここに描述された様相はそのまま芹沢の作品に重なるようです。恐らくそれは染色の道を選ばせ,生涯憧れ続けた世界観を,芹沢が自らの仕事の中で追求し,実証していったからではないでしょうか。
型染伊呂波文六曲屏風 1958年
本展は2015年に金子量重氏から御寄贈いただいた芹沢作品167件430点を核として構成いたします。アジア民族造形研究の先だちである金子氏の選択眼,そして芹沢との深い信頼関係が築き上げたこの貴重なコレクションは,屏風やのれん,型染本,カレンダー,装幀からスケッチ,下絵,本の割り付けイメージまで多種多彩です。
のれん集下絵(上2冊),のれん集 1963-65年
そして題材の広さも芹沢銈介作品を見る楽しみの一つです。風景や動植物はもちろん,文字や日用品など,芹沢が模様にしなかったものはないのではと思わせるほど。そして芹沢の目,すなわち型のフィルター越しに捉えなおした事物は何とも新鮮で,そんな美しさがそこにあったのかと周囲を見まわしたくなります。芹沢は次のような言葉を残しています。
「この道具たちにも皆何か生きていて,美しい文様を感じるのです。」
縄文藍地芭蕉布着物 1958年
それらをじっくり味わっていただくために,本展覧会ではキーワードを3つ御用意しました。「模様」「もの」「旅」――いずれも芹沢の主要なテーマです。しかし形式だけでなく,技法,年代,作域のいずれについても幅広い内容は,異なるイメージを結びつけたり,反対に寸断し,更新させたりするかもしれません。
沖縄壺屋 1943年
ちょうど「文字文」への取組において芹沢が文字の機能を解体し,新たな相を見せながらその本質へと向かったように,今回の展示を御覧になった皆さんが,芹沢の様々な側面と出合い,文脈を結びながら,それぞれの芹沢銈介像を描かれることを期待しています。
東京国立近代美術館工芸館
(住所)〒102-0091
東京都千代田区北の丸公園1-1
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ竹橋駅(1b出口)徒歩8分
- 開館時間
- 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(ただし,3/21,28,4/4,5/2は開館),3/22(火)
- 観覧料
- 一般\550, 大学生\350
※高校生以下及び障害者手帳をお持ちの方とその付添い者(原則1名)は無料。 - ホームページ
- http://www.momat.go.jp/cg/exhibition/serizawa/