2016年7月20日
聖なるもの,俗なるもの メッケネムとドイツ初期銅版画
国立西洋美術館研究員 中田明日佳
本展では,ドイツの初期銅版画家イスラエル・ファン・メッケネム(c.1445-1503)を御紹介します。15世紀後半から16世紀初頭にライン河上流の町ボッホルトで活動したメッケネムは,今日伝わっている例だけでも500点以上にのぼる非常に多くの作品を手掛けて,ヨーロッパ中に流通させました。1430年代頃に登場した銅版画の普及に,彼は極めて重要な役割を果たしたと言えるでしょう。
メッケネムの版画の多くは,他作者の作品のコピーです。オリジナリティーを重んじる今日,その価値を評価するのは難しいかもしれません。しかし,当時のコピーに対する意識は,現在とは大きく異なるものでした。本展では,「コピー制作者」としてのメッケネムの姿を通して,中世末期のコピー制作のあり方にも目を向けます。
マルティン・ショーンガウアー
《中庭の聖母子》
エングレーヴィング
ミュンヘン州立版画素描館
Staatliche Graphische Sammlung München
イスラエル・ファン・メッケネム
(マルティン・ショーンガウアーに基づく)
《中庭の聖母子》
エングレーヴィング
ミュンヘン州立版画素描館
Staatliche Graphische Sammlung München
コピー,オリジナルを含めて,メッケネムの版画の多くはキリスト教主題をもちます。病や災難に直面した際に加護を与えると信じられた聖人の像などからは,平穏な日常を願う人々の切実な思いが知られます。一連のキリスト教主題作品の中には,セット買いされることを強く意識した連作も認められますが,それらの作品には,人々の信仰心も利用しつつ,自作の販路拡大を図ったメッケネムの商魂も透けて見えるかもしれません。
イスラエル・ファン・メッケネム《聖アントニウスの誘惑》
エングレーヴィング
ミュンヘン州立版画素描館
Staatliche Graphische Sammlung München
また,大量のキリスト教主題作品の一方で,メッケネムは非キリスト教的,すなわち世俗主題の作品もしばしば手掛けていました。なかでも男女の関係を風刺する主題は当時,高い人気を博したらしく,彼も多くの作品を残しています。それらの諸作品からは,同時代の風俗や人々の関心事が生き生きと伝わってくるでしょう。
イスラエル・ファン・メッケネム《曲芸師とその妻》(<日常生活の諸場面>より)
エングレーヴィング
ミュンヘン州立版画素描館
Staatliche Graphische Sammlung München
更に多様な登場人物やモティーフを隅々まで描き込んだ饒舌なまでの物語表現,蔓草や花,人物,動物や鳥などを組み合わせた華麗な装飾デザインのひな型など,メッケネムの版画作品の魅力は尽きません。
本展では,ミュンヘン州立版画素描館をはじめとするドイツの美術館・博物館,大英博物館,更に当館の所蔵品もあわせ,版画,油彩,工芸品など100点余りから,メッケネムの全貌に迫ります。ショーンガウアーやデューラーら同時代の芸術家たちの作品とも比較しつつ,彼の芸術とその時代を多角的に検証します。
国立西洋美術館
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