2018年2月5日
さまざまな映画のかたち
東京国立近代美術館フィルムセンター 主任研究員 大澤浄
私たち東京国立近代美術館フィルムセンターの使命は,映画を「アーカイブ」することです。アーカイブとは,映画を「集め」「守り」時には元の姿に「戻して」,みなさんに「見せる」ことを言います。最後の「見せる」,すなわちフィルムセンターが上映や展示を行っていることは,よく知られています。対して,最初の三つの活動「収集」「保存」「復元」は,通常,みなさんからは見えないところで進行しています。
その意味で「発掘された映画たち2018」は,それら三つの活動の一端をみなさんにも分かち合っていただける貴重な上映企画です。このシリーズ企画は1991年に始まり,今回で記念の10回目を迎えました。
NFCカレンダー2018年2月号表紙
上映される作品の中には,映画に非常に詳しい人でも聞いたことのないようなものも含まれています。世の中にこれほど多様で大量の映画が存在していたのかと,“めまい”すら覚えるほどです。
例えば,昭和天皇がまだ皇太子だった大正10(1921)年,欧州各国を訪問した様子が記録映画として残されています。英国で釣りをしたり,パリでエッフェル塔に上ったり,そしてなんと映画の撮影機を自ら回したりもしていたのです!
『皇太子渡欧映画 総集篇[仮題]』
あるいは,17.5mm幅のフィルムで撮られた映画。映画フィルムは通常35mm幅――他には16mmと8mmがよく知られています――ですので,これはちょうど半分の大きさになります。
17.5mmフィルム
17.5mmフィルムは,大きさ以外にも35mmフィルムと異なる点があります。何だと思いますか? 35mmフィルムがどんなかたちをしているか知っていればすぐ分かりますので,自分で調べてみてください。ヒントは「穴」です。
名匠・小津安二郎監督が昭和34(1959)年に撮った『浮草』。今でもDVDなどで簡単に見ることができますし,褪色がひどいわけでもありません。ですが今回私たちは,この作品の「復元」に協力しました。一体何を「復元」したのでしょうか? それは,「色」です。より正確に言うなら,「公開当時の色」です。
『浮草』ⓒKADOKAWA1959
映画の最終的な色は,フィルムを現像・焼付けする段階で決まります。フィルムにも種類があり,この作品で使用されたのは「アグファ」という会社が当時販売していたカラーフィルムでした。現在は入手できませんし,現在入手できるフィルムとは発色の特徴が異なっています。
そこで私たちは,小津監督が本当に見せたかった「色」を復活させるために,当時のアグファフィルムの特徴を文献で調べました。そのデータを基に,現像所が,今入手できるフィルムに当てはめ,デジタル技術を用いてより正確な「色」を再現しました。ほとんど化学実験のようです。
実際,映画とはサイエンスとアートのアマルガム(混成物)なのです。映画のすばらしさを伝える,残すということは,フィルムに刻まれたこの二つの活動を記録し,調べ,みなさんに発信し続けることに他なりません。私たちのそのような日々の営為が結晶した「発掘された映画たち2018」を,是非お楽しみください。
東京国立近代美術館フィルムセンター
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- 所蔵作品上映:一般520円,大学生・高校生・シニア310円,小・中学生100円
- 特別上映:一般1,050円,大学生・高校生・シニア840円,小・中学生600円
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