2018年11月22日
「アジアにめざめたら:
アートが変わる、世界が変わる 1960-1990年代」展が
開幕しました
東京国立近代美術館 主任研究員 桝田倫広
ワサン・シッティケート《私の頭の上のブーツ》1993年
作家蔵
撮影:マニット・スリワニチプーン
東京国立近代美術館で「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960-1990年代」展が10月10日に開幕しました。この展覧会はアジア各地の現代アートの黎明期である1960 年代から1990 年代に焦点をあてた展覧会です。もちろん日本を含む10を超える国と地域から,激動の時代に生まれた挑戦的かつ実験的な約140点の作品を集め,その共通点と違いを発見していくというものです。この展覧会は東京国立近代美術館,国際交流基金アジアセンター,韓国国立現代美術館,ナショナル・ギャラリー・シンガポールが共同で企画した展覧会で,東京での展示が終了したあとで,ソウルとシンガポールに巡回します。
調査のため,ジョグジャカルタ(インドネシア)の
インドネシア・ヴィジュアル・アート・アーカイヴを訪問した時の様子
2016年
この展覧会は日本,韓国,シンガポールのキュレーターたちが共同で研究・企画して,実現しました。数年の歳月をかけて,私たちは東京で,ソウルで,そしてシンガポールで会議を重ね,そして,共にアジア各地を旅し,作家と出会い,作品を調査しました。それぞれがみな等しい立場で意見を交換し,それぞれの強みを生かして,ひとつの展覧会を作り上げました。ちなみに協働作業を通じて,いまや,規模,スタッフの人数,予算のどれをとっても,韓国,シンガポールの国立美術館は,日本のそれを上回っていると肌で感じました。
ところで美術館にとって研究活動は,活動の根幹です。新しい知見や発見がなければ,新しい発想は生まれません。そして発想なくしては新しい展覧会など構想できません。いまや美術ないし美術史研究は,ひとつの国や地域だけで完結することはありえません。研究活動自体,そしてそれを背景にした美術館活動は極めてグローバルな広がりを見せています。
10月13日,展覧会開幕に合わせて,当館の講堂で開催された国際シンポジウムの模様。
展覧会担当者のほかに,アメリカのキュレーターやマレーシアの大学講師もお招きし,
議論を深めました。
このように国際的な研究連携とその成果を展覧会として作り上げることは,美術館活動においてとても大事なことです。ところが「稼ぐ」美術館などという考えが,美術館の仕事の隅々にまで浸透しつつある日本にあって,このような研究活動が軽んじられているのではないかと危惧を覚えるのは,決して美術館で働く私だけではないでしょう。世界の大美術館は,旅行者目線ではよく整備された観光地のひとつに過ぎないかもしれませんが,いま,研究,収集,保存といった本来の役割もますます充実させています。そして何より収益には直結しないこれら地道な仕事こそが,美術館の存在価値を高め,最終的によい結果をもたらしているように見えます。現場で働く私たちは,このような地道な研究,国際的文化交流の取り組みが今後も続けられるよう,引き続きがんばっていきます。みなさんも気軽に美術館に足を運んでくださいね! そのことがなによりの励みになります。
東京国立近代美術館
(住所)〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
- お問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口徒歩3分
- 開館時間
- 10:00~17:00(金,土曜日は20:00まで)
入場は閉館30分前まで - 休館日
- 月曜日(ただし12月24日は開館)
- 観覧料
- 一般 1,200円(900円),大学生 800円(500円)
( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。高校生以下及び18歳未満,障害者手帳を御提示の方とその付添者(1名)は無料。 - ホームページ
- http://www.momat.go.jp