2023年6月23日
現代美術を通して「ホーム」を考える
国立国際美術館 学芸課長 植松由佳
私たちにとって「ホーム」とはどのような意味をもち、どのような存在なのでしょうか?国立国際美術館では国内外で活動する現代美術作家たちが参加する特別展「ホーム・スイート・ホーム」展を開催中です。
2020年初頭に登場した新型コロナウイルス感染症拡大は、私たちの生活に大きな変化をもたらしました。いわゆるビフォアコロナ期には普通であった行動も、「不要不急」という言葉によって制限されました。2023年5月8日をもって5類感染症に移行したことで、コロナ対策は一定の区切りがつけられましたが、かつての生活に完全に戻ったとは言えないのではないでしょうか。
鎌田友介《The House》(2018年) “How Little You Know About Me” Courtesy of MMCA, Korea / Photograph by Moon June Hee (参考図版)
こうして生活様式が変化する中で、感染症拡大の初期には予防の観点から「ステイホーム」という言葉が頻繁に使われるようになりました。この「ホーム」には、私たちが過ごす物質的な家、また家に集う集合体である家族、故郷そして祖国の意味もあります。私たちが留まることを求められたホームですが、パンデミック期以前に比べて長い時間を過ごす上で、またウイルス感染という病により生と死が身近になる中、「ホーム」が含む意味に対して意識的、無意識的に思いをめぐらす機会も増えたのではないでしょうか。パンデミック以前から世界各地における難民問題はありましたが、昨年2月のウクライナへのロシア侵攻も多数の新たな難民を生み出し、祖国・故郷というホームの別義に含まれる意味を私たちにも突きつけました。
アンドロ・ウェクア《Levan Portrait》(2017年)油彩・シルクスクリーンインク、アルミニウムパネル©Andro Wekua, Courtesy of the artist, Gladstone Gallery, Sprüth Magers, and Take Ninagawa
本展「ホーム・スイート・ホーム」では、歴史、記憶、アイデンティティ、私たちの居場所、役割等をキーワードに表現された作品群から、私たちにとっての「ホーム」--家そして家族とは何か、私たちが所属する地域、社会の変容、普遍性を浮かび上がらせることを試みます。
出品作家の1人、鎌田友介は日本、韓国、台湾、ブラジルなどに建てられた、20世紀の歴史が交錯する日本家屋をリサーチ。忘れ去られようとする現代日本の歴史を展示室内に作品を通じて再構築します。またジョージア出身ドイツ・ベルリン在住のアンドロ・ウェクアは、ロシアの侵略により故郷を追われた体験から独特な世界観を絵画、彫刻を通じて見せます。
タイトルの「ホーム・スイート・ホーム」は、愛しい我が家などとも訳せられ用いられてきました。ビターな社会が続く中で、私たちのホーム・スイート・ホームを見つめ直します。
マリア・ファーラ《テラスのある部屋》(2021年)油彩、麻 国立国際美術館所蔵
国立国際美術館 「ホーム・スイート・ホーム」
(住所)〒530-0005
大阪市北区中之島4-2-55
- 問合せ
- 06-6447-4680
- 交通
- 京阪電車中之島線「渡辺橋駅」(2番出口)から南西へ徒歩約5分
- Osaka Metro四つ橋線「肥後橋駅」(3番出口)から西へ徒歩約10分
- JR「大阪駅」,阪急電車「大阪梅田駅」から南西へ徒歩約20分
- JR大阪環状線「福島駅」から南へ徒歩15分,東西線「新福島駅」(2番出口)から南へ徒歩約10分
- 阪神電車「福島駅」(3番出口)から南へ徒歩約10分
- Osaka Metro御堂筋線「淀屋橋駅」,京阪電車「淀屋橋駅」(7番出口)から西へ徒歩約15分
- 大阪シティバス「大阪駅前」から,53号・75号系統で,「田蓑橋」下車,南西へ徒歩約3分
- 開館時間
- 10:00~17:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで
- 休館日
- 月曜日(ただし、7月17日は開館、翌18日は休館)
- 観覧料
- 一般1,300円(1,100円)、大学生800円(500円)
- ※( )内は20名以上の団体および夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00-20:00)
- ※高校生以下・18歳未満無料(要証明)・心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)
- ※本料金で、同時開催のコレクション展もご覧いただけます。
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