2016年5月6日
「常用漢字表」を知っていますか。
―「常用漢字表」シリーズ①―
文化部国語課
平成28年2月29日に文化審議会国語分科会から「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」が発表されました。今回から「言葉のQ&A」は,この指針の内容を含め,「常用漢字表」をテーマにして連載を続けます。あなたは常用漢字表のことを御存じですか。
- 問1
- 「常用漢字表」という言葉は時々耳にするのですが,どのような漢字表なのですか。
- 答
- 「一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示す」表です。
常用漢字表の前書きを読んでみましょう。
1 この表は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである。
2 この表は,科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。ただし,専門分野の語であっても,一般の社会生活と密接に関連する語の表記については,この表を参考とすることが望ましい。
3 この表は,都道府県名に用いる漢字及びそれに準じる漢字を除き,固有名詞を対象とするものではない。
4 この表は,過去の著作や文書における漢字使用を否定するものではない。
5 この表の運用に当たっては,個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである。
常用漢字表は,現代の国語を書き表す場合に使用する漢字の範囲を「目安」として示したものです。「目安」ですから,専門分野や個々人の表記,また,固有名詞における漢字使用にまで及ぼそうとするものではありません。常用漢字表には,2,136の字種とその字体,4,388の音訓(音2,352,訓2,036),加えて,付表に116(123の表記)の熟字訓(2字以上で読み方が決まるもの)や当て字などが示されています。
常用漢字表は,こちらで御覧になれます。
- 問2
- 「常用漢字表」はどうして必要なのですか。
- 答
- 使用する漢字の範囲を共有しておくことで,漢字を用いた情報交換を円滑にするためです。
情報化社会の進展によって,漢字は「書く」時代から「打つ」時代になったと言われます。以前であれば,辞書を引いて調べる手間が必要だったものが,現在では,読み方が分かり,変換候補から正しく選択できさえすれば,使いたい漢字をモニターに映し出すことができます。難しい漢字を使った文書も,容易に作れるようになりました。
そんな時代に,もう漢字表など要らないのではないか,といった意見を聞くこともあります。範囲を決めておかなくても,自由に漢字が使えるではないかという意見です。しかし,むしろたくさんの漢字を自由に使えるようになった情報化社会だからこそ,「常用漢字表」の役割が高まっている面もあります。
情報機器で使われるJISコードの漢字は,1万を超えます。これは,小型の漢和辞典に匹敵する漢字数です。現在,情報機器の助けを借りれば,漢字を自在に駆使して文書が作れますから,発信する側にとっては大変便利な状況にある,とも言えるでしょう。しかし,そのように作成された文書を受け取る側はどうでしょうか。1万もの漢字の範囲には,ふだんの生活ではまず見掛けないような文字がたくさん含まれます。そのような漢字が散りばめられた文書を読むことになったら,多くの人は困るでしょう。
情報交換においては,ある程度の漢字の範囲を定め,それを共有しておいた方が便利です。発信する側は,その範囲の漢字を使うことによって,安心して相手に伝えたいことを伝えられます。また,受け取る側はその範囲の漢字を身に付けておくことで,困ることなく受信した情報を理解できます。常用漢字表は,主に日本語を母語とする人たちが,漢字を用いたコミュニケーションを円滑に行えるようよう,共有しておきたい漢字の集合なのです。特に,不特定多数の人を対象として発信される情報においては,こうした目安が必要になるでしょう。法令や公用文(役所が作成する文書)が常用漢字表の範囲に基づいた表記をするのはそのためです。(この「言葉のQ&A」も常用漢字表に従って書いています。)新聞や放送などのマスメディアでも常用漢字表を基本とした表記が行われています。
- 問3
- 「常用漢字表」の範囲だけを覚えれば十分なのでしょうか。
- 答
- 社会で実際に使われている漢字の延べ総数のうち,96%以上が常用漢字であったという調査結果があります。専門分野や固有名詞に用いる漢字については別に学ぶ必要がありますが,常用漢字表の漢字を身に付けておけば,困ることはそう多くないと考えられます。
平成22年に常用漢字表は改定されました。その改定に当たって,文化庁では,社会で漢字がどのように使われているかを広く調査し,その結果を審議の資料としました。その際,基本資料としたのは,「漢字出現頻度数調査(3)」(平成19年3月 文化庁国語課)です。これは,凸版印刷株式会社が平成16~18年の間に作成した書籍,雑誌,教科書等の組み版データのうち,860冊分に出現する延べ約5,000万の漢字を全て調査し,出現した漢字を頻度数の高い順に並べたものです。
この調査の結果,当時の常用漢字表(昭和56年内閣告示第1号)の1,945字で,対象となった約5,000万字のうちの96%強をカバーしていることが分かりました。現在,常用漢字は191字増え2,136字になっていますから,カバー率がもう少し上がっているとも考えられます。もちろん,常用漢字は漢字全体のほんの一部ですから,専門分野や固有名詞に用いられる漢字については別に学ぶ必要がありますが,常用漢字表の範囲を身に付けておけば,社会で用いられる漢字の96%程度は理解できるという見方もできるでしょう。
では,常用漢字は,どのように習得されるのでしょうか。実は,常用漢字表は,学校教育における漢字の習得目標にもなっています。2,136字のうち,1,006字を小学校で学び,その1,006字を中学校の卒業までに使いこなせるように,また,他の常用漢字の大体を読めるように学習します。高校を卒業するまでには,2,136字の全てが読め,小中学校で書けるようになった1,006字以外の主な常用漢字も書けるようになります。
常用漢字表は,社会で用いられている漢字の調査に基づいて定められ,学校教育を通して習得されます。そして,漢字使用の目安として機能することによって,実際に社会で用いられる漢字の大部分が常用漢字であるという循環が生まれています。すなわち,漢字表,漢字の習得目標,社会で実際に使用される漢字の三つが,ほぼ重なっているとも言えるのです。ふだんから常用漢字表を意識して生活しているような人はほんの僅かです。しかし,多くの人々がそれとは気付かぬまま,常用漢字表に基づいてコミュニケーションを行っているのです。
「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」を是非お読みください。 |
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平成28年2月29日に,文化審議会国語分科会は「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」を取りまとめました。この指針は,一般の社会生活における漢字使用の目安である「常用漢字表」の「(付)字体についての解説」の内容を,詳しく説明するものです。その趣旨は,大きくまとめると次の2点です。 ○手書き文字と印刷文字の形には表し方の習慣に違いがあり,どちらか一方だけが正しいというわけではない。 ○手書き文字の形は多様であり,その文字としての骨組みが認められるのであれば,細部の違いによって誤りと判断すべきではない。 指針では,いろいろな書き方がある漢字を構成要素別に整理した上で,問題になりやすい点をQ&A方式で分かりやすく解説しています。さらに,常用漢字表が掲げる2,136字全てについて,印刷文字のバリエーションや手書きされた字形を例示しています。 漢字の文化に親しむ機会として,また,字体・字形に関する具体的な問題に直面した際に役立つ実用的な指針として,是非,活用してください。指針は,下記リンクから御覧いただけます。 |
URL https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/joyokanjihyo_shosekikanko.html |