2015年11月4日
「地域」のための博物館―企画課の活動―
土佐山内家宝物資料館 館長 渡部 淳
当館では,基幹資料である旧土佐藩主山内家伝来の資料を扱う学芸課に加え,3年前に地域連携を担当する企画課を設置しました。過疎高齢化が急速に進む高知県では,深刻な課題の一つに歴史文化の継承問題があります。この現在的課題に対応できる博物館でありたいとの思いからの企画課設置でした。ここでは,その事業の中から,「歴史資料保存相談窓口」と「地域記録集」を紹介します。
「歴史資料保存相談窓口」は,相談があれば早速に現地を訪れ,保存方法,用具紹介から目録の作成まで,時と場合に応じてあらゆる協力を行う機動部隊です。戦前の役場文書の目録作成,神社の土蔵整理,お堂の経典手入れや家伝来の系図修理など,持ち込まれる内容は様々ですが,それが歴史資料であれば内容のいかんにかかわらず,最大の手立てを尽くすというのが相談窓口の姿勢です。緊急を要する場合には,資料の一時預かりを行うこともあります。
資料保存相談窓口のチラシ
ある公民館資料の場合,住民と地元の大学生も参加して目録作成を行い,勉強会や説明会を開催,ついには当館展示室における企画展と関連行事として現地散策会も実施しました。
公民館資料の調査風景
公民館資料による展示会
また,特異な事例としては,外地引揚者の記憶継承の相談をうけ,NPOと共同して体験の聞き取りも始めています。このような活動で知り合った人から「やっと博物館の扉が,私たちに開かれた感じがする」の一言は,地域にとって私たち博物館がいかに閉鎖的存在であったかを気づかせてくれました。
一方,相談対応だけではなく,博物館が主体的に地域に関わっていく活動も始めています。そのために,博物館と地域との関係そのものを分析し,企画提案する企画員を配置しました。学芸員の専門が人文科学であるのに対し,企画員は社会科学を援用し,学芸員が博物館から地域を見るのに対し,企画員は地域の視点から博物館を考えるといってよいかも知れません。その企画員の提案から始まったのが「地域記録集」の発刊です。
記録集について地元の人と打合せ
地域の人と現地調査
これは,江戸時代の村を単位として古代から現代までの地域の歴史をまとめる活動です。地域社会の危機を目の当たりにしたとき,地域住民の実感ある生活域,言い換えればアイデンティティの基礎は,合併を繰り返した明治以降の行政単位ではなく,江戸時代の村(現在の集落)ではないかというのが企画員からの提案でした。住民とともに現地見学や資料調査を行い,1 年に1集落の記録集を発刊し始めました。記録集は集落全戸へ無料配付し,説明会と散策会を開催します。自分たちの集落の歴史を初めて知ったという声ばかりでなく,都会にいる子供や入院している親へも送ったとの報告は,何よりもうれしいものでした。土佐藩の村はおよそ1100ヶ村,記録集も1000年計画の事業ですが,幾つかの集落では,同様のものを自主的に作成する動きもあるようです。
記録集第1号の表紙
博物館のための地域でなく,地域のための博物館とは何かを考える活動は今始まったばかりです。
土佐山内家宝物資料館
〒780-0862 高知県高知市鷹匠町2丁目4番26号
- 問合せ
- 088-873-0406
- 交通
- 自動車
高知自動車道ICから20分,電車通り「グランド通」交差点南へ200m,左手鳥居を入る
路面電車・路線バス
とさでん交通電停・バス停「グランド通」下車,南へ200m,左手鳥居を入る - 開館時間
- 午前9時~午後5時
- 休館日
- 12月26日~1月1日
※当館の資料は,平成29年3月開館予定の「高知県立高知城歴史博物館」に移動します。その引っ越し準備のため,現在展示室は閉室しています。講座や資料閲覧等の詳細については,ホームページで御確認ください。