2016年2月10日
ちひろの水彩技法体験ワークショップ
気づき,描き,見る喜びを
ちひろ美術館・東京
主任学芸員 原島恵
ちひろ美術館・東京は絵本専門美術館として1977年に開館しました。現在,当館のコレクションは33の国と地域の203人の画家による約26750点にのぼります。その出発点となったのが,絵本画家・いわさきちひろ(1918~1974)の作品です。
柔らかな色彩の水彩画を得意としたちひろは,生涯,子供をテーマに描き,平和な光景の中で輝くいのちそのものをとらえました。誰にとっても身近で親しみやすい子供を描いたちひろの絵は,多くの人から共感を得ていますが,意外とその技法については深く知られていません。そこで,ちひろの絵の魅力をもっと知ってもらうために行っているのが水彩技法体験ワークショップです。
にじみの体験
このワークショップはちひろの絵に特徴的な「にじみ」の水彩技法を体験することを目的としています。これまで,当館では対象年齢の設定や,画材をアレンジして様々なプログラムを実施してきました。以下で5歳以上の人を対象とした基本的なプログラムを紹介します。
まず,赤,青,黄色の透明水彩絵の具を多めの水で溶いたものを用意します。刷毛でたっぷりと水を刷いた紙に,筆先から絵の具を滴らせると,瞬時に絵の具が波紋のように広がります。「わあ,きれい!」と,子供も大人も歓声をあげます。水に溶け,にじむという水彩絵の具の特質をいかした実に明快なプログラムですが,漫然と絵を見ているだけでは,この原理にすら気がつかないものです。たった3色でも,にじませると豊かな色彩のヴァリエーションが生まれます。実際に,色数が多いように見えるちひろの絵も,紙の上でいくつかの絵の具をにじませることで複雑な色合いを表現しているものがあります。にじみは偶然の要素に左右され,水分の量を調節し,紙を傾けたりすると,刻々と変化していきます。「絵は苦手だから」と,最初は自信がなさそうだった参加者も,いつしか,にじみの変化に夢中になっていることもあります。
紙を傾けてにじみを変化させる
次に,にじみをドライヤーで乾かします。鮮やかな色も,渇くととても柔らかな色に変化します。「ちひろの絵みたいでしょ?」と,誇らしげな声も聞かれます。
にじみを乾かすと柔らかな色彩に
にじみを体験したあとは,好きな部分を切り取って,ポストカードやしおり,缶バッジなどを制作します。ここで活用しているのが当館オリジナルの「にじみスコープ」です。四角や丸などの形の窓を切った黒い台紙をにじみの上に重ねてみると,微細な色の重なりにも目がとまります。
「にじみスコープ」を使って,お気に入りのにじみを探す
にじみでつくったキーホルダー
にじみでつくったしおり
ワークショップを終えた参加者は,再びちひろの絵を見ようと,展示室へ向かう姿がよく見られます。絵を描いたことがない人でも,にじみは誰にでも体験できます。しかし,そのにじみを使って形や質感,遠近感や情感を表現することは誰にでもできることではありません。ワークショップを体験することで,ちひろの水彩画の高い技巧に気づき,絵を見る喜びにつながっていけばうれしく思います。
ちひろ美術館・東京
〒177-0042 東京都練馬区下石神井4-7-2
- 問合せ
- (03)3995-0612
- 交通
- 【電車の場合】西武新宿線上井草駅下車徒歩7分
【バスの場合】JR中央線荻窪駅より西武バス石神井公園駅行き(荻14)上井草駅入り口下車徒歩5分/西武池袋線石神井公園駅より西武バス荻窪駅行き(荻14)上井草駅入り口下車徒歩5分 - 開館時間
- 10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
- 休館日
- 月曜日(祝休日は開館,翌平日休館) 年末年始(12/28~1/1) 冬期休館あり
- 入館料
- 大人800円 高校生以下無料 グループ(有料入館者10名以上),65歳以上の方,学生証をお持ちの方は100円引き 障害者手帳御提示の方は半額,介添えの方は1名まで無料 視覚障害のある方は無料 年間パスポート2500円
- ホームページ
- http://www.chihiro.jp/