2016年10月7日
美術館との幸せな“出会い”のために
~学校団体鑑賞プログラムの試み~
呉市立美術館 嘱託学芸員 佐々木弓子
「みんなは“びじゅつかん”のこと,知ってる?」「初めて“びじゅつかん”に来た人,手をあげて!」子供たちへのこんな問いかけから,小学4年生を対象にした団体鑑賞プログラムは始まります。「あるよ!」「なーい!」などと口々に答えてくれますが,多くの子供にとってはこの日が初めての美術鑑賞,つまり美術館デビューの日なのです。
呉市では,子供の美術的感性を育成する目的で,平成25年度から「美術作品ふれあい事業」を実施し,呉市立美術館は市内全校の小学4年生の団体鑑賞を受け入れてきました。子供たちが歓声をあげながら徒歩や貸切りバスで来館し,美術館の玄関前に整列する姿はおなじみの光景となっています。
これからいよいよ美術館の中に入ります!
これまでの取組では,ワークシートや学芸員との対話を通して,子供たちが楽しみながら美術作品に向き合う活動を行ってきました。しかし,この事業は美術館の主催ではなく,また対象となる学校も非常に多いため,学校ごとの打ちあわせや事前学習などのきめ細かい対応はできません。美術館(学芸員)の視点だけでプログラムを実施しているため,鑑賞に対する思いを子供や先生と共有できていないのでは…という印象がありました。
学芸員から展示についてのお話を聞いています。
引率した先生方にお話を聞くと,「ふだんの授業と関連性がないので,何をどう教えたらいいのか…」「子供はもちろん,私自身にも美術鑑賞の経験があまりなくて…」という戸惑いの声が一番多く聞かれました。まずは学校側の戸惑いをなくし,子供と先生に鑑賞のイメージを持ってもらう工夫が必要です。忙しい先生方にも一読してもらおうと,鑑賞の目的やマナー,展覧会の見どころなどをなるべく簡単にまとめた資料を事前に配ることにしました。また,子供の理解度を考えてワークシートの書き込みを減らし,「○○を見つけよう」という「発見型」の設問を中心にしました。ちょっとした工夫ですが,子供たちが作品の前に立ち止まるきっかけになり,友達同士で「見つけた!」「○○に見えない?」と,1点ずつじっくりと向き合う姿が多く見られるようになりました。授業や学活の時間を利用して事前学習をしてくる学校も増え,鑑賞への導入がスムーズになった印象です。
「見つけた!」「ほら,ここ!」鑑賞に熱中している子供たち
こうした学校側の視点による見直しに加え,更に変化をもたらした第三者の視点があります。昨年発足したばかりの市民ボランティアスタッフに,団体鑑賞サポートに協力してもらったことで生まれた「見守り」の視点です。「子供の発想って面白いのね!今日は私の勉強でした」と笑うボランティアさんは,子供の感動や疑問をそばで受け止める身近な大人として,自然に対話を引き出してくれます。ボランティアさんと子供たちの交流を通して見えてくるのは,美術館が作品との出会いの場であると同時に,人との出会いの場であるということです。
ボランティアさんと子供たち
自分自身の感性を信じて発した言葉を受け止めてもらうことは,子供にとってきっとうれしいことでしょう。初めて訪れた美術館という場所が,子供たちに幸せな記憶として残っていくことを願い,彼らの心の中に小さな美術の種を植えるような気持ちで活動しています。
呉市立美術館
(住所)〒737-0028
広島県呉市幸町入船山公園内
- 問合せ
- 0823-25-2007
- 交通
- ・JR広島駅から呉線快速で30分,JR呉駅下車徒歩12分
・広島東ICから広島呉自動車道(クレアライン)経由で30分 - 開館時間
- 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週火曜日(祝日の場合は翌平日が休館) 年末・年始(12/29~1/3)
- 観覧料
- コレクション展:一般¥300, 高校生¥180, 小中生¥120
特別展:展覧会ごとに設定 - ホームページ
- http://www.kure-bi.jp/