2017年5月17日
キッズスタジオで「見よう×作ろう」
金沢21世紀美術館 エデュケーター 木村健
金沢21世紀美術館での子供たちの基地となっているのが「キッズスタジオ」です。「子供たちとともに,成長する美術館」を目指す中で,美術館を訪れた子供たちが作品の鑑賞とともに自分自身の表現にも取り組めるように,様々なプログラムを行っています。週末の休日には「ハンズオン・まるびぃ!」と題して,幼児~小学生を主な対象に,展示中の作品に見られる技法や季節に沿った素材などに関連したテーマで造形プログラムを行っています。
今回は2016年春の「コレクション展2 歴史、再生、そして未来」で展示された三瀬夏之介さんの作品《日本の絵 ~執拗低音~》に関連して行った際のプログラムを紹介します。
三瀬夏之介《日本の絵~執拗低音~》2015年 金沢21世紀美術館蔵
撮影:木奥惠三 画像提供:金沢21世紀美術館
《日本の絵~執拗低音~》は不ぞろいな輪郭をもつ大小の和紙同士がこよりでつなげられたもので,巨大な作品は広い展示室の中央につり下げられ,その周囲を歩き回りながら両面を鑑賞することができます。それぞれの紙片では,金銀の下地や別々の絵を貼り込んだり,墨をたらし込んだりなどの表現が組み合わされ,また中央にある空洞は大きな円をかたどったようにも感じられるなど,見ているうちにいろいろなことに気づきます。
このコレクション展示に合わせてキッズスタジオでは,三瀬さんの作品を見てから来場した人に自分の作品を作ることを誘ったり,あるいは作品を作ってから三瀬さんの作品を見たりすることも勧めることで,鑑賞の時間も表現の時間もより刺激的になるようなプログラムを行いました。三瀬さんの作品に見られる和紙という素材や,幾つかの部分を集合させるというコラージュ的な技法を,子供たちが自分の表現に取り入れながら親しめることを念頭に用具や手順を組み立てました。
【タイトル】「ちぎって ならべて おこのみパルプワーク」
【実施時期】2016年4月~6月
【 内 容 】パルプや包装紙,雑誌などを素材に,紙漉きやコラージュの技法を組み合わせて作品を作ります。
【作りかた】
①包装紙や古雑誌から好きなところをちぎって集めます。
②バットに敷いた網の上に水で溶いたパルプ生地を流し,ちぎった紙片を並べます。
③網を引き上げて水気を切り,ガラス壁に貼り付けて乾かしながら鑑賞します。
ここでは和紙の作られ方にも興味を持てるようにパルプから紙を漉くプロセスを軸にして,包装紙や古雑誌を素材に加えてちぎり絵やコラージュの要素を組み合わせました。これはいくつもの要素が集まってできている今回の三瀬さんの作品の構成にも近い形です。また,紙漉きの用具として市販されている四角い枠を使うのではなく,大きめのバットに水切りネットを敷いた上に溶きパルプを流し広げるスタイルにしました。このため作品は真四角でない不定形な輪郭になり,所々に穴が空いたりもして,これも三瀬さんの作品との近さを感じさせる部分です。また,キッズスタジオのプログラムとしてはなるべく特殊な用具を使わず身近なものの組合せでできる表現だと知ってほしいという理由もあります。
制作を始めると,紙漉きの過程ではフレーク状の乾いた楮のパルプに触れることや,水溶きパルプを混ぜるためにボトルを振るアクションは小さな子供たちも興味を持ちます。また,包装紙や雑誌のグラビアなどの画像や文字を自由にちぎって,網の上に流し出したトロトロのパルプの上に並べていくコラージュの過程は正に「お好み焼き」作りを楽しむようで,参加者も真剣な表情になっています。また実際に作り始めると,溶きパルプの流れ方などで思わぬ素材の動きも生まれます。こうして,想いを込めて作る部分と思いがけない表情が生まれる部分が合わさりながら,輪郭も色合いも一つ一つ異なる作品が生まれていきます。このときスタッフは,子供たちとともに紙片とパルプの重なり方を注意深く見守りながら,生まれてくる作品の表情を観察して子供たちの気づきに一緒に驚いたり,スタッフが感じ取った子供の工夫への感想を伝えたりします。
このパルプワークは,漉き上げた作品をガラス壁で乾かしながらの鑑賞にも特徴があります。まだ湿った作品をガラス壁に貼って光を透かせて見ると,表と裏の様子が重なって見えます。雑誌など裏表のページの図柄や,色などが合わさって見えることで,表側,裏側からの見え方とともに両面の合成という新たな表情にも気付きます。このような自分の表現活動を通した物の見え方を展覧会場での作品鑑賞にもつなげてもらえるよう,スタッフからは三瀬さんの作品を改めて鑑賞することも勧めました。(当館のコレクション展は高校生以下は無料で入場できます。)
参加者の保護者へのアンケートでは「小さい子供も集中して取り組めた」「出来上がったものが皆それぞれ違い,一つとして同じものができないのが面白い!」「展示を見た後ですぐに手を使って遊ぶスペースがあると,想像力などをいつもよりふくらまして遊んでくれそう」などの言葉をいただきました。今回紹介したようなキッズスタジオ・プログラムについては金沢21世紀美術館webサイトでも紹介しています。毎月のスケジュールのほか,過去の内容は「事業報告」で御覧いただけます。
金沢21世紀美術館
(住所)〒920-8509 金沢市広坂1-2-1
- 問合せ
- 076-220-2800
- 交通
- JR金沢駅バスターミナル 東口3番,6番乗り場よりバスにて約10分「広坂・21世紀美術館」にて下車すぐ。
- 開館時間
- 展覧会ゾーン:10:00~18:00(金・土曜は20:00まで)
交流ゾーン:9:00~22:00 *各施設の開室時間はそれぞれ異なります。 - 休館日
- 展覧会ゾーン:月曜日(休日の場合は直後の平日),年末年始
交流ゾーン:年末年始 *各施設の休室日は展覧会ゾーンに準ずる。 - 観覧料
- 美術館の建物への入館(交流ゾーン)は無料です。
展覧会ゾーンへの入場は展覧会観覧券(有料)が必要です。 - ホームページ
- http://www.kanazawa21.jp