2017年6月12日
「鬼とにらめっこ」で新しい発見に挑戦!
北上市立鬼の館 主任学芸員 後藤美穂
常設展示室には500を超える鬼がずらり。北上市立鬼の館は,様々な鬼を集めた博物館です。鬼は怖いものと思われがちですが,―どうして鬼が生まれたのか,どんな鬼がいるのか―に思いをはせると,鬼の面白さが見えてきます。
展示室では各地の鬼がお待ちかね
当館では資料を観察して対話することから多くの発見を得てほしいという思いから文字情報を控えています。そのため,「説明が少ない」と言われてしまうことが悩みでした。
そこで手始めに取り組んだのが「鬼とにらめっこスケッチの会」という小学生向けの教育事業です。お面をじっくり観察し,鑑賞を深めてもらうプログラムです。個々人で同じお面を観察した後,参加者全員で気づいたことを発表し合います。周りの人とどんな気づきがあったのかを共有した後,それぞれが選んだ好みのお面をスケッチしてカレンダーにするというものです。
本番に先立ち,職員でリハーサルをしました。お面を鑑賞して気づいたことを発表し合ってみると,角の特徴や髪型,肌の質感など,お互いに「そんなふうに見えていたの?」や「そこに注目していたの?」と新しい発見があって思わず笑ってしまいました。毎日机を並べていても,お互いが資料の違うところに着目していることに私たちは気づいていなかったのです。また,進行役職員の問いかけ方も当初は「このお面からどんなことがわかりますか?」でした。しかしこれは,正解を求められているような圧迫感があるという意見が出され,「この鬼はどんな鬼だと思う?」「どんなところからそう思ったの?」と鬼の性格に迫るような問いかけに変え,誰でも発言しやすいものにしました。
迎えた本番。2分間の個別鑑賞タイムの後に,お互いの発見を発表してもらいました。「牙が鋭くて怖い」や「歯を食いしばっているように見える」など一通りの発表が終わると,子供たちから「もう一回見たい!」と催促の声が上がりました。当日は急きょ,観察して発表するというプロセスを2回繰り返しました。お友達の発見を共有することで,もっと新しいことが見つかるかもしれないという期待感がこみ上げているのがわかり,こちらも嬉しくなりました。
お友達の発見にも耳を傾けます
参加前は,鬼は怖いものという感想を一様に抱いていた子供たちでしたが,鬼の顔も少しずつ違っているという面白さに気づいてくれたようです。発表後のスケッチでは,どの参加者の鬼も生き生きと親しみを込めて描かれていました。
お気に入りの鬼をじっくりスケッチします
作品はどれも生き生きしています
この事業は,私が参加した「第6回ミュージアム・エデュケーター研修」の中間課題として取り組みました。何度訪れても新しい発見があり,また行きたくなる博物館になるにはどうしたらいいのかと悩んでいましたが,展示室での発見を誰かと共有することで鑑賞が深まることを研修で実感し,職員と試し,実際の事業にも取り入れてみたものです。今年度からは毎月第3日曜日を「鬼ッズの日」として教育活動に意識的に取り組む日としました。子供たちの「もう一回見たい!」が聞けるように更に改良を重ねていきたいです。
北上市立鬼の館
(住所)〒024-0321
岩手県北上市和賀町岩崎16地割131番地
- 問合せ
- 0197-73-8488
- 交通
- JR北上駅より車で約20分,東北自動車道北上江釣子ICより車で約15分
- 開館時間
- 9:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 12月から翌年3月までの月曜日と国民の祝日の翌日,年末年始,臨時休館日
- 観覧料
- 一般¥500(¥400),高校生¥240(¥180),中・小学生¥170(¥120)
※カッコ内は20人以上の団体料金 - ホームページ
- http://www.city.kitakami.iwate.jp/docs/2014052902531/