2017年12月18日
大学生と授業をつくる―文化財ソムリエの訪問授業―
京都国立博物館 研究員 水谷亜希
京都国立博物館にはソムリエがいます。と言っても,ワインをお勧めしてくれるわけではありません。「文化財ソムリエ」という愛称で活動する,訪問授業の講師のこと。2017年の現在,18名の大学生・院生が活動しています。京都国立博物館は2009年から,この文化財ソムリエとともに,NPO法人京都文化協会,京都市教育委員会と協力して,京都市内の小中学校への訪問授業を実施してきました。
訪問授業の様子
いつもの教室に現れた屏風。慎重な手つきで開くと,子供たちから「おぉ!」「風神雷神や!」と声があがります。そう,教材は俵屋宗達筆の国宝「風神雷神図屏風(建仁寺蔵)」です。もちろん実物は持ち出せないため,これは複製ですが,最新のデジタル技術と伝統の技で制作された質の高いものです。金地の部分には職人の手で金箔が貼られており,「本物の金なんだよ」と伝えると,子供たちの目もキラキラと輝きます。
訪問授業の様子
授業に向けて,講師は作品について勉強してきました。しかし実際の授業は,知識を伝えるのではなく,質問を投げかけ,子供にどんどんしゃべってもらうというスタイルで進みます。「どっちが風神でどっちが雷神?」,「二人はどこにいる?」と問いかけると,子供たちはじっと作品を見つめ,気づいたことを口々に話します。講師は,絵をよく観察するためのヒントや,作られた当時を想像するための情報を,適切なタイミングで投げかけながら授業を進行します。
授業を終えて,子供からは「最初に見たときあまり興味がなかったけど,いろいろなことに気がついて面白くなった」,「宗達さんのほかの絵も見たい」などの意見が寄せられました。「文化財に親しむ授業」は,子供と文化財の初めての出会いを,楽しいものにすることを目指しています。初めての出会いが楽しい思い出になったなら,きっとその先も自分からいろいろな文化財と出会い,何かを感じ,考えてくれると期待しています。
博物館での勉強会の様子
得意分野について教えあうことも
講師を経験した文化財ソムリエからは,「それまで私が思いつかなかったような作品の見方をたくさん知ることができた」,「作品の魅力を人に伝える難しさ,楽しさを学んだ」といった感想が寄せられています。卒業生の中には,博物館や教育機関に就職する人も多くいます。そうした道に進まなかったとしても,扱う対象(作品)をよく理解し,どうしたら相手(子供)に伝わるか試行錯誤した経験は,将来,人とのやり取りを伴う様々な場面で力となることでしょう。
「文化財に親しむ授業」は,子供たちへの教育の場としてだけでなく,博物館活動に興味を持つ,意欲的な大学生・院生の学びの場としても機能しています。彼らが力を発揮し,経験を将来につなげられる場としても,この活動を続けていきたいと考えています。
京都国立博物館
(住所)〒605-0931 京都府京都市東山区茶屋町527
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- 9:30~17:00(特別展期間中は9:30~18:00)
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- 休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し,翌火曜日休館),年末年始
※場合により臨時休館や,名品ギャラリーを休館する場合があります。随時ウェブサイト等でお知らせします - 観覧料
- 一般¥520(410),大学生¥260(210)
※( )内は20名以上の団体料金
※高校生以下及び満18歳未満,満70歳以上は無料
※特別展は別料金 - ホームページ
- http://www.kyohaku.go.jp/jp/index.html