令和元年10月1日
地球家族会議が拓く新しい博物館のカ・タ・チ
~対話展示の可能性~
ふじのくに地球環境史ミュージアム 学芸課 教授 山田和芳
ある日の地球家族会議,終盤に差し掛かった頃。
「今から20年後の日常です。お風呂に入りたいけど,環境が悪化して1日に使える水の量は50リットルしかない。今と同じにするなら200リットルが必要だ。さあ,みなさん,どうする?」とインタープリターが問いかけます。
会議に参加した方は,「4日に1回にする」「湿らせたタオルで体だけを拭く」「いやだけど,みんなの分を足して,みんなで入る」とそれぞれ発言します。
「じゃあ,みんな聞くけど,それって我慢してない?我慢は長続きしないよ」とインタープリターが更に問いかけます。
「うーん」と唸る声の後,しばし沈黙。やがて,インタープリターが口を開きます。「実はね,解決する方法があるよ。さあ自然のドアをノックしてみよう。」と次の展示室を指さして移動していく。
地球家族会議の日常的風景
ふじのくに地球環境史ミュージアムでは,地球温暖化など昨今の様々な地球環境リスクの実情や対処方法を展示しています。展示室にセットされた会議テーブルで,主に展開される地球家族会議と呼ぶ展示は,モノではなく,ヒトが介在する全く新しい「対話展示」です。来館者は,地球環境を守ることと,社会・生活を維持発展することの間に生じる「環境ジレンマ」を実感し,その解決方法の一つとして,生物模倣などを通じて豊かな暮らし方のヒントを知ります。この会議は,総勢15名のインタープリターが,日々工夫を凝らしながら実施しています。会議テーブル上の地球儀のビーチボール,自然史標本,ぬいぐるみなどを使って,学級会のような雰囲気で,老若男女問わず,楽しく考えてもらう展示が進められています。開催回数は既に5千回を超えました。今やすっかり,当館の目玉展示です。中には,通算100回を超える常連会議参加者もいますし,噂を聞きつけて,この会議に参加するためだけに来館する方もちらほら。
会議テーブルにならぶ様々な道具(展示室9)
実際に会議に参加したお客さんの反応はまずまずです。
「楽しかった。別のテーマの話も聞きたい」(9歳・女の子)
「最近新聞でよく見るSDGs(持続可能な開発目標)のことがよく分かった」(40代・男性)
「子供や孫たちの未来は,今を生きる私たちがしっかり考えなくちゃね」(70代・女性)
対話展示風景(展示室10)
地球家族会議スケジュールと,
インタープリターの案内板
どちらかといえば博物館というは静的なものです。しかし,対話展示は,ワイワイガヤガヤが基本です。スタッフと来館者間の双方向コミュニケーションが,まるでにぎやかな商店街のように,常に好奇心を刺激する“動的”な博物館を生み出しています。博物館は,知が集積する場所にすぎません。対話展示は,未来のつくり方をすべての人たちとともに考えていきたいという私たちの思いが伝わっている感じがします。
未来の入浴「あわのお風呂」
さて,インタープリターが指さした自然のドアをノックした先とはいうと…モリアオガエル,アワフキムシが教えてくれた「泡のおふろ」のようです。未来の生活に我慢は必要ありません。
ふじのくに地球環境史ミュージアム
(住所)〒422-8017 静岡市駿河区大谷5762
- 問合せ
- 054-260-7111
- 交通
- JR静岡駅北口バスターミナルから「ふじのくに地球環境史ミュージアム」行で終点下車(約30分,大人370円)
東名日本平久能山スマートICから約5分(駐車場約200台収容可能,無料) - 開館時間
- 10:00~17:30(最終入館17:00)
- 休館日
- 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は次の平日),年末年始
- 観覧料
- 常設展一般300円,大学生以下・70歳以上無料
※団体(20名以上)一人につき200円
※身体障害者手帳,療育手帳,精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方とその付添者1名は,常設展無料 - ホームページ
- https://www.fujimu100.jp/