2014年8月22日
いつか見た映画,これからの映画
映画監督 北川帯寛
「○○監督が好きだというのは分かったけど,オリジナリティを感じなかった」。
「若手映画作家育成プロジェクトndjc2013」に参加し,「カオリと機械油」という作品で初監督をしました。
先に書いたのは知人の監督に見ていただいた時の感想です。
確かに,言われた監督は僕が大尊敬する方でしたが,嬉しいというよりは「ヤバいな」と,少し複雑な気持ちになりました。他の方からも同じような感想をもらったからです。
僕の場合,最初に提出していたシナリオがある理由から撮れなくなるという珍事があったので,こうなったらとことん自分の好きな世界だけで作ろうと思って書いたのが,「カオリと機械油」という小さな物語でした。
シナリオを書くのもほとんど初めてで,プロットを書いている時から今まで見てきた映画の記憶にあるものばかり浮かび,またそれをやりたいという気持ちもあるのですが,そこからどう自分だけの映画にするか悪戦苦闘していました。
撮影直前まで脚本に悩んでいましたが,モヤモヤとした気持ちのままロケハン,オーディション,セットの建て込みなど,製作準備は容赦なく進んでいきます。今までに浴びた事のない勢いで,無数の質問のシャワーが脳みそを叩きました。
製作中,カメラマンの方に何度も同じ質問をされました。
「監督,これはシリアスなん? コメディなん?」。
つくづく,こういう時にはっきりと答えるのが監督なのだろうと思いましたが,自分でもこの物語がシリアスなのか喜劇なのか分からず,勝手に有名監督の言葉を借りて「重喜劇です」,と言って逃げ回っていました。テーマを聞かれても,確かなことが言えない。つい先日も,「君の映画,1行で言ってみてよ」,と言うオジサマの質問にあたふたとして,10行ぐらいの言葉で返し,挙句に「弱いね」と言われる始末です。
その時はさすがに監督に向いていないかもと悩みましたが,次こそは観た人に「北川映画」と言われるような作品を作りたい。オリジナリティとは何かを模索中です。
現在,次回作の脚本とにらめっこしています。
プロフィール
1989年兵庫県尼崎市生まれ。農業高校を経て,日本映画学校映像ジャーナルコース卒業。在学中から映画宣伝会社の手伝いやドキュメンタリーの撮影現場に関わりながら,2009年には森崎東監督作品「喜劇 特出しヒモ天国」の自主上映会を企画。その後,フリーの演出部として主にピンク映画・Vシネマを中心に池島ゆたか,浜野佐知,西川美和など多くの監督の作品に携わる。