2015年7月1日
たくさんの“完璧ではない人生”へ
映画監督 岨手由貴子
今年の5月30日,長編デビュー作にあたる「グッド・ストライプス」が公開になりました。
この映画の脚本を書き始めたのは4年前,「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で「アンダーウェア・アフェア」を撮った後でした。地方から出てきて都会で生きるアラサー世代のリアルな結婚,サブカル娘の終わったはずの青春…など,「どうしても撮りたい!」とあふれ出てきたテーマをどうにか初稿に落としこみ,「アンダーウェア…」でお世話になった西ヶ谷プロデューサーに鼻息荒く提出したのがきっかけでした。
©2010VIPO
「アンダーウェア・アフェア」
そこから3年,企画はなかなか進展せず,8割を書き上げた脚本を持ったままバーでアルバイトをしたり,本を読んだり映画を見たり,そして結婚したり…。そんなことをしているうちに急に話が進んで撮影することが決まり,そこからは無我夢中で作品を仕上げ,ようやく公開までたどり着いたのです。
トントン拍子とは真逆の進行をしていた作品ですが,思い返してみると撮影に至るまでの4年間は自分自身の準備期間だったように思います。結婚モノの映画を撮るということ,新人監督としてスタッフとコミュニケーションを取ること,そもそも新人監督がオリジナル脚本のデビュー作を撮るということ。ただ待っていただけのような時間の中に,この作品を撮る上で出会わなければならなかった人,経験しなければならなかったことがたくさんありました。
©2015「グッド・ストライプス」製作委員会
「グッド・ストライプス」
「映画監督になりたい」
自主映画を撮り始めた10代のときに思っていたことが,デビュー作が公開された今も叶った気がしないのは,当時思い描いていたイメージとかけ離れているからかもしれません。現実の映画の世界は厳しい…!
それでも,そんな“完璧ではない自分”を「…うん。悪くない!」と思えるのは,同じように日々小さな挫折を味わっている多くの観客に共鳴してもらえる作品を撮れたからかもしれません。
月並みですが,一人でも多くの人に見てもらいたい!きっと“完璧じゃない”自分の人生を少し好きになれる映画になっているから。そして,見てくれた人が劇場を出て駅まで歩くうちに,大切にしているものをフッと思い出してくれたら嬉しいです。
【プロフィール】
1983年長野県生まれ。大学在学中,篠原哲雄監督の指導の元で製作した短編『コスプレイヤー』が水戸短編映像祭,ぴあフィルムフェスティバルに入選。 08年,初の長編『マイムマイム』がぴあフィルムフェスティバルで準グランプリ,エンタテインメント賞を受賞。 バンクーバー国際映画祭,香港アジア映画祭の他,国内外の映画祭でも上映される。09年文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で,初の35mmフィルム作品『アンダーウェア・アフェア』を製作。また,12年公開のオムニバス映画『BUNGO~ささやかな欲望』内の『乳房』の脚本を担当。その他,ドラマの脚本執筆やミュージックビデオの監督等,多岐にわたる活動をしている。