2015年12月28日
「あさぬま,それ本当に面白いの?」
映画監督 浅沼直也
昔,よく遊んだ友達と今はまったく連絡を取ってない。
どこで何をしているのか,誰を愛して,誰と何を見ているのかなんて想像もできないし,どんな仕事をやって,どんな人生を歩んでいようと知ったこっちゃない。
けど,いろんな経験はそいつとした。
初めてタバコを咥えたり,初めてバイクのかっこ良さを教えてくれたのも,そいつだった。
そいつの親はどーしようもなく飲んべえで,毎日毎日酒を飲んでは暴れていた。だから,そいつは夜が怖いと言ってよく泊まりに来た。
親に黙って泊めていたから,もちろんひもじくて,なんとか冷蔵庫からくすねた冷凍の餅をストーブで焼いて,醤油に砂糖を溶かした砂糖醤油で餅を食った。おいしかった。
おいしいおいしいと言って指先に付いたタレまで舐めていた味は,砂糖醤油ではなくて二人の友情だったんじゃないかなーっと,思う。
ボクが東京へ上京して,そいつは地元に残って,いつの間にか疎遠になって,いつの間にか,連絡取らなくなって,いつの間にか,何をやっているのかも,どこで何をしているかも分からなくなった。
先日,上映を終えた商業デビュー作オムニバス映画「4/猫-ねこぶんのよん-」の一篇『一円の神様』と,『鉄馬と風』(「ndjc:若手作家育成プロジェクト2013」完成作品)の共通のテーマは,“再会”でした。
「一円の神様」
(オムニバス映画「4/猫-ねこぶんのよん-」の一篇)
©2015 埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
どうして“再会”がテーマになったのかは,わからないけど,きっと心の片隅に置いてきた人がいるのだろう。というようなことを言ったら,オフィス・シロウズの久保田さん(ndjc2013完成作品『鉄馬と風』プロデューサー)が「あさぬま,それ本当に面白いの?」と,投げかけてくる。
『鉄馬と風』の脚本作りは,壮絶を極め,ボクは開始早々帯状疱疹にやられ,チクチクと痛む胸を抑えながら,必死に,猛烈に,あたふたとしながら「このシーンはこういう意味でして」「それは伝わらない!」などとやりとりしながら,“面白い”とは,何か。に真摯に向き合う意味を学びました。
「鉄馬と風」
©2014VIPO
『一円の神様』は『鉄馬と風』と繋がっていると思います。
「あさぬま,それ本当に面白いの?」という声を何度も何度も反芻し,苦虫をかみ潰したような顔を想像しながら,“面白い”を追いかけた結果,今ボクが思う“面白い”の尻尾が見えた様な気がします。
会わなくなった友達のことを思い出しながら,この文章を書いていると,フト,聞こえてきます。
「あさぬま,それ本当に面白いの?」
【プロフィール】
1985年,長野県生まれ。
2011長編作『HeartBeat』では,ゆうばりファンタスティック映画祭,SKIP国際Dシネマ映画祭で上映。第6回田辺・弁慶映画祭で市民審査賞を受賞。ハンブルグ日本映画祭正式招待上映。テアトル新宿から全国公開する。
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2013」の実地研修に選出され,『鉄馬と風』を完成させる。
同作は,香港インディペンデント短編映画&ビデオアワード映画祭の審査員セレクションにて上映。
商業デビュー作「4/猫-ねこぶんのよん-」の一篇『一円の神様』が公開。