2016年7月19日
繋がっている
映画監督 熊谷まどか
間もなく開催される(2016/7/16~)「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016」のオープニング作品として念願の長編映画『話す犬を、放す』を監督いたしました。「認知症による幻視」を見るようになった母親と,それを見守る娘の物語です。認知症といっても,深刻な話ではありません。クスッと笑えるコメディです。犬も出てきます。犬好きの方には堪らないハズです。
『話す犬を、放す』
©2016埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2008」で監督した『嘘つき女の明けない夜明け』もそうだったように,これまでずっと私が興味を持って描いてきたのは,「自分の内面を解放する」人々の姿でした。
『話す犬~』のテーマもまた「手放して再生する」ですが,解放の瞬間だけでなく,その後の再生の兆しを含めて,さらに母と娘の二つの人生を重ねて描いたのは,私がこの歳になってようやく人同志の繋がり,世界との繋がりを意識できるようになったからかも知れません。
『話す犬を、放す』
©2016埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
この物語は,私自身の80代の母が昨年「レビー小体型認知症」という幻視を伴う病を発症したことに想を得て書きました。老いた実親の病気という切実な問題をすかさず映画のネタにして,患者本人に根掘り葉掘り聞きまくり,付添いのふりして通院に同伴し実はシナハン(シナリオハンティング)している私はヒドイ娘に違いありません。ですが,そうやって現実を物語に落とし込む作業を通し,客観化することで直視しやすくなるという側面も大いにあると思うのです。
『話す犬~』の中で「この世の中,目に見えるものが全てとは限らないかもよ」というセリフを書きました。これは,母が話す実にヘンテコな幻視の内容を聞いて私が感じた率直な気持ちです。もし私が映画という「非現実を映しだすモノ」に携わっていなかったら,「幻視」に対してもっと恐怖心を抱き,母の「異常」を受け入れられなかったかも。
日々生きることで得たネタで,映画を作る。
映画を作ることで得た力で,日々を支える。
この幸福な循環の中に,更に「作品を観てくださる方」を組み入れて繋がっていければいいなと,切実に願っています。
【プロフィール】
大阪府生まれ。CM制作会社に3年間勤務の後,様々な仕事に就く。
2004年より映画の自主制作を始める。
2005年 『ロールキャベツの作り方』(DV/17分)
ぴあフィルムフェスティバル2005ベストエンタテイメント賞受賞 2006年 『はっこう』(DV/28分)
ぴあフィルムフェスティバル2006 グランプリ
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 オフシアター 審査員特別賞受賞
香港インディペンデント・ショートフィルム&ビデオアワード審査員特別賞
2009年 『嘘つき女の明けない夜明け』(35mm/29分)
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2008」にて制作
2013年 『世の中はざらざらしている』(HD/30分)
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013入選
第16回ソウル国際女性映画祭入選
他,短編作品を中心に,ドキュメンタリーやPVなど