2017年1月13日
1/30秒と,30秒と,30分と。
監督 吉野耕平
今から15年ほど前。
ものすごい頭痛と吐き気でうんうん唸っていた夜がありました。
ある映画祭でたまたま賞をもらい,長編映画の企画に挑戦する機会が巡ってきた時のことです。当時20歳そこそこだった私は,連日連夜サボりもせずに明け方まで必死に考えてみたのですが,数週間経っても,ついに何ひとつ浮かばず,最後は押し寄せる頭痛と吐き気に唸りながらぼう然とチャンスを見送るしかありませんでした…。
今思えば無理もなく,当時私が作った作品は最長で5分,それもストーリーもほとんどない実験映像のようなものばかり。その頃私が知っていた映像の世界はあまりに狭く,そして小さいものでした。
「夜の話」
21世紀の初め,デジタル編集の進歩の恩恵を受けて,私は独学で映像を作り始めました。コマ撮りから手描きアニメ,CGから実写まで,約1/30秒のコマの連続で表現できることの面白さに魅了され,思いつくことを一人で作って楽しんでいました。1/30秒の世界は,言葉になる前の感性や感覚がそのまま息づく映像の原点のような場所で,そこで色や形の面白さを追求するのは,今も変わらず大好きです。しかし映像の更なる面白さや奥深さに出会うには,そこから一歩踏み出さなければなりませんでした。
「A」,「NEWTOWNBLOCKS」,「Slide Show」
そんな1/30秒の世界に浸って数年後。「映像を仕事にしたい」と,広告の世界に入りました。30秒を基本単位にするCMの世界。そこで待っていたのは意外にもひたすら続く文字と言葉の作業。30秒の世界では,映像を輝かせるために映像以外の力が要るらしい…。アイデア,構成,感情の起伏。無理やり一言でいうと「ストーリー」で,それを味方につけなければこの先は進めない…。文字と言葉で映像が広がる面白さ。それを生み出す苦しさと楽しさ。映像の新しい魅力を知りました。
「栓」,「日曜大工のすすめ」
30秒の世界との出会いからさらに数年後,「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2014」で作品「エンドローラーズ」を撮らせていただきました。CGもアニメーションも登場する『30分』の短編映画。私が知っていた1/30秒と30秒の世界を詰め込んだ作品でした。完成後おぼろげに見えてきたのは,30分から先の世界では,また別の何かを味方にする必要があるらしい,ということ。まだうまく言葉にできませんが,それは「時間そのものの重み」のような気がしています。
「エンドローラーズ」
頭痛と吐き気に唸るしかなかった夜から15年。当時手も足も出なかった「長編」に,今は少し近づけた気がします。2016年,初めて書いた長編脚本で幸運にも第42回城戸賞で賞を頂きました。1/30秒の世界,30秒の世界,30分の世界。そこで知った映像の楽しさ,苦しさ,奥深さ。全てを使い,これからまた長編に向かえればと思っています。
次は何が見えるのか…映像の新しい面白さに出会いたいと願っています。
【プロフィール】
1979年生まれ,大阪府出身。00年「夜の話」でPFF審査員特別賞。
11年「日曜大工のすすめ」が,釜山国際映画祭短編部門でスペシャルメンション授与。
flumpool「解放区」「free your mind」,関ジャニ∞「涙の答え」,伊藤忠都市開発「CREVIA」など,実写・アニメを問わずCMやMVディレクターとして活躍中。
映画「君の名は。」CG参加ほか,映像作家としても活動。
16年,長編オムニバス「スクラップスクラッパー」内の「ファミリー」を監督。
また,長編脚本「サムライボウル」が第42回城戸賞で準入賞。