2018年7月17日
王道への挑戦
映画監督 藤村享平
映画「パパはわるものチャンピオン」が9月21日に公開になります。今回の作品は,まさに王道! プロレスに人生をかける父と,その家族の物語。熱狂,笑い,そして大きな感動が詰まった素敵な作品に仕上がりました。
改めて「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に参加してから8年,まさか自分の長編デビュー作が,王道映画になるとは思ってもいませんでした。そもそも僕は「変な映画」が大好き…2010年にndjcで撮った「逆転のシンデレラ」も,絶世の美女がブス好きの男を落とすために奮闘する,一風変わったラブコメディでした。

『逆転のシンデレラ』 ©2011 VIPO
そんな僕が王道映画を作るなんて…企画を頂いたときは不安で一杯でした。しかしそんなときに,学生時代に講師から言われたある言葉を思い出しました。
「お前は奇をてらいすぎる。奇をてらうには,まず正を知れ」
そう考えてみると,確かにこれは「正」を知る絶好の機会。そう自分に言い聞かせ,ひとまずは片っ端から王道映画を見まくりました。そしてその分析をしてみると,王道映画の構成は,驚くほどシンプルだということに気付きます。
まず第一幕で平凡な主人公が何かに出会い,失敗を繰り返して成長していく。そして第二幕では大きなチャンスが与えられ,一度は挫折して主人公はどん底に陥る。そして第三幕で主人公は再び立ち上がり,周囲の力を借りて最後に大団円を迎える。
この単純なストーリーに,なぜ人は心を奪われるのか?
必死に考え,僕なりにひねり出した答えが「登場人物の感情」です。
王道映画の中でも名作と呼ばれる作品群は,登場人物が自分の「意志」と「感情」で道を選択して,結果的に王道のストーリーを踏襲しています。
対して同じ王道映画でも,名作になりきれていないものはストーリーが先にきてしまい,それに合わせて都合良くキャラクターの感情が変わっているため,観客が感情移入しきれず,俯瞰で物語を見てしまうから次の展開が読めてしまう。
つまり王道映画は,構成そのものが優れているのではなく,それを気にさせないように映画に没頭させる,ディテールと感情描写が重要なのだと気付いたときに,初めて今回の脚本を書くイメージが浮かびました。

『パパはわるものチャンピオン』 © 2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会
そうして何とか創り上げた今回の映画が,果たしてどこまで過去の名作に近づけたのか…是非劇場で確かめていただきたいです。

【プロフィール】
1983年石川県生まれ。日本映画学校にて加藤正人,池端俊策に師事し,脚本作『引きこもる女たち』が2007年函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞でグランプリを受賞。2008年に監督作『どん底の二歩くらい手前』と2009年『アフロにした,暁には』で,SKIPシティ国際Dシネマ映画祭短編コンペティション部門に2年連続ノミネート。2010年には文化庁が主催する「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で制作された短編映画『逆転のシンデレラ』が高い評価を受け,国内外多数の映画祭で上映される。2011年に若手映像クリエイター育成プログラム「D-MAP」の監督に採択され,劇場映画『バルーンリレー』の脚本・監督を手がける。
その独特の世界観や繊細な演出は映画界以外からも注目され,人気バンド「SEKAI NO OWARI」のプロモーションビデオ(宮崎あおい出演)の演出を任された。
そのほか,2013年テレビドラマ「たべるダケ」(テレビ東京)ではメインディレクターと全体構成を担当。2014年テレビドラマ「ああ,ラブホテル」(WOWOW)で演出を担当,同作が好評につきレギュラー化し,第1話・第2話・の監督・脚本を手がける。2015年4月からはテレビドラマ「恋愛時代」(読売テレビ・日本テレビ系)にてメインディレクターを担当,高評価を得た。2018年4月からも,テレビドラマ「ラブリラン」(読売テレビ・日本テレビ系)のメインディレクターをつとめている。
また,初の商業作品となる『パパはわるものチャンピオン』(出演:棚橋弘至,寺田心,木村佳乃,仲里依沙)が2018年秋公開予定。