2017年9月1日
黒川能 18年ぶりの邂逅
国立能楽堂企画制作課 佐藤恵一
国立能楽堂11月特別企画公演では,18年ぶりに黒川能を上演します。
黒川能は,山形県鶴岡市黒川に同地の春日神社の神事能として,実に500年以上の長きにわたり受け継がれてきました。現在中央で演じられている五流の能のいずれにも属さず,能を演じることを職業としている能楽師でなく,春日神社の氏子たちの手により独自の伝承を続け,演式や演目,あるいは能面や装束の着装等の技法面にも古い様式が残されています。氏子は上座と下座の二つの宮座に分かれ能座を形成し,両座が能太夫を中心に運営され,役者数,演目数,面装束の所持点数いずれをとっても民俗芸能の域を越えた他に類を見ない大きな規模を保持し,昭和51年には国の重要無形民俗文化財第1号の一つに指定されています。
今回の公演は,上座,下座両座出演により,毎年旧正月に現地で夜通し能が上演される旧例祭(王祇祭)を模した三部構成で御覧いただきます。

「式三番」
第1部の最初は五流の能で「翁」に当たる「式三番」です。黒川能では,翁と三番叟の役者が上下別の能座から出演するという形式が取られています。翁,三番叟ともそれぞれを演じる家のみに伝承されており,最も重く扱われている儀式性の強い演目です。続く能「高砂」は五流の能でもおなじみの演目ですが,謡や囃子,面装束にも黒川独自の技法がうかがえます。能「獅子」は,同じく文殊菩薩に仕える霊獣・獅子が登場する「石橋」とは異なる展開で,五流の伝えていない稀曲です。

「こんかい」
第2部,能「木曽願書」は,現在観世流で上演されている「木曽」とはシテ(主人公)が別人で,また後半に戦場の場があるなどの大きな違いがあります。続く狂言「こんかい」は現行の「釣狐」の別名で,狐の姿や罠の形に古風が残っています。能「鐘巻」は大曲「道成寺」の原曲で,道成寺の縁起を語る舞が入るなどの違いがあります。

「土蜘蛛」
第3部は,世阿弥の代表作,能「井筒」から始まります。五流とは異なる女性役の装束の着方にも注目です。狂言「節分」は,女の役にも面を着けるなど,五流のものとは異なる味わいがあります。そして,本公演の掉尾を飾る能「土蜘蛛」は,五流では直面で演じられる前シテが,黒川能特有の土俗的な能面を着けて演じられるなど,見た目にも印象深い作品です。
各部とも初めて能を見る方にも,ふだん能を見慣れた方にも,親しみやすく,そして新たな発見がある多彩な内容でお届けします。物語の鑑賞のみでなく,その特有の技法,面装束から能の古い姿や源流をも垣間見ることのできるこの貴重な機会に,是非国立能楽堂に御来場ください。
平成29年度(第72回)文化庁芸術祭主催
国立能楽堂11月特別企画公演 黒川能
出演=公益財団法人黒川能保存会
(住所)〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1
- お問合せ
- 《国立劇場チケットセンター》(午前10時~午後6時)
0570-07-9900,03-3230-3000[PHS・IP電話] - 交通
- JR(総武線)千駄ヶ谷駅下車・徒歩5分
都営地下鉄(大江戸線)国立競技場駅下車A4出口・徒歩5分
東京メトロ(副都心線)北参道駅下車出口1又は2・徒歩7分 - 公演日時
と演目 - [第1部]11月10日(金)午後5時30分開演
式三番(両座)/能 高砂(下座)/能 獅子(上座)
[第2部]11月11日(土)午後1時開演
能 木曽願書(上座)/狂言 こんかい(上座)/能 鐘巻(下座)
[第3部]11月11日(土)午後6時開演
能 井筒(上座)/狂言 節分(下座)/能 土蜘蛛(下座) - 御観劇料金
-
一般 正面5,100円/脇正面4,100円/中正面3,100円
学生 脇正面2,900円/中正面2,200円
セット料金(同一席種を同時購入の場合のみ)
[2公演]正面9,600円/脇正面7,800円/中正面6,000円
[3公演]正面14,400円/脇正面11,700円/中正面9,000円 - ホームページ
-
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2017/11224.html
【インターネット予約】
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