HOME > 文化庁月報 > 連載「アニメーション分野の人材育成」
文化庁月報
平成23年7月号(No.514)
連載「アニメーション分野の人材育成」
平成22年度育成事業の成果
アニメーターの「人材育成」について,具体的に何を行い,結果としてアニメーション文化の未来にどういう期待がもてるのか。「若手アニメーター等人材育成事業」として2011年2月に完成し,劇場公開とTV放映,DVDチャリティー販売を行った4作品に関し,制作当事者に取材して記事作成を行った経験をもとに振り返り,解説してみたい(作品題名,監督,制作会社等は前回参照)。
「背景に相当する部分も、動きのあるキャラクターも、アニメーターが白紙から生み出した線画がもとになっている」
「おぢいさんのランプ」より
(アニメーション制作:テレコムアニメーションフィルム)
各25分弱の完成作品を見ていただければわかることだが,物語内容,映像効果,そして何より育成の中核となる「作画」と,いずれも素晴らしい出来映えとなっている。若手育成とはいえ,よく受ける誤解のように習作目的ではないのは一目瞭然だ。その点,学校の卒業制作とは根本的に異なっている。
制作された作品の著作権はプロジェクト終了後,各制作会社に帰属されて各社による商業展開が可能とされた。その結果,制作会社側としてはいわゆる「パイロット版」(試作品)を意識して公募した作品もある。アニメーションの企画は書面や止まった絵でプレゼンテーションすることに限界があるため,作品化して見せた方が早いからである。
こうした条件も完成品には高いクオリティが求められた点で育成にプラスに作用した。各社では専用の現場(ライン)を構築して育成用の作画ワークフローとしたが,それ以外は通常のプロダクション工程を適用している。また,作画面においてもプロジェクト用に選抜された若手・新人アニメーターだけで作り上げたわけではなく,監督,作画監督など要所に指導的なベテランをおき,若手と相談しながらアウトプットに入念なチェックをかけている。
育成を終えた若手の仕事が今後も継続することを考えれば,そうした環境が好ましい。「通常業務の育成と何が違うのか」という疑問に対する回答も,完成作品から見てとれる。「ふつうのTV用作品とは違う」ということが,おもにキャラクターの丁寧な演技と,かもし出される感情の中から見てとれるはずだ。ある種,理想化された制作環境があれば,日本のアニメーションはここまですぐれた表現力が示すという点でも,驚きがある。
通常より潤沢な期間・予算・作画枚数をかけたのも,理由のひとつだ。しかし,最大のポイントは「ワークフロー」にある。毎週放映されるTVアニメの場合,限られた時間で最大効率を目指さなければならない。ことにDVD等の商品化が前提となって以後,「キャラクターが崩れていないか」という点がユーザーに強く求められるようになった。その結果,この10数年でキャラクターのチェックを入念に行うために工程が細分化されている。場合によっては作業場所もバラバラで,途中で疑問があっても指導者への確認や相談がしづらいこともあるという。
今回の育成用現場では原点である「動き(演技)」の指導を中心に,ベテランと若手の距離感を縮める体制が組まれた。工程もなるべく分業せず,シンプル化することで「原画・動画のなすべき仕事」の範囲を明確化し,チェックの流れも以前に近いものとしている。その結果,「動きを描く意味や目的」は明瞭化し,修正された場合でも意図がフィードバックされるため,人によっては短期間で高い習熟効果が得られたという。
事実,試写会場と打ち上げの場で筆者が見た「若手たちの顔」は,誰もが仕事に手応えを感じ,生き生きと輝いていた。これこそが最大の成果ではないか。手で描いたキャラクターを動かすことはアニメーション最大の喜びで,非常に面白く奥が深く,描き手に充実感をもたらすものなのだ。こうした「喜び」が伝播し,未来に向けて拡がっていくことで,文化としての豊かさも自然と得られるようになるであろう。

