参考資料1-6

近年の世界遺産委員会における主な問題と議論

1.世界遺産リストの現状

(1)遺産登録数における地域的不均衡

欧州諸国の遺産登録数(全体の50%)が圧倒的に多く,アジア諸国やアフリカ諸国の遺産登録数が少ない。
締約国のうち,30件以上の登録遺産をもつ締約国(スペイン,イタリア,中国)がある一方,登録数ゼロの締約国が全体の約25%を占める。(17.7.17)

(2)自然遺産と文化遺産の数的不均衡

文化遺産と自然遺産の登録数に大きな差がある(文化遺産628件,自然遺産160件,複合遺産24件)。
文化遺産は欧州で急速に増加しているのに対し,自然遺産はアフリカ,アメリカ,オセアニアに偏っている。

(3)文化遺産の種別の不均衡

教会建築,歴史地区,古代都市,旧市街,城塞などの同種のカテゴリーの遺産が数多く登録され,世界の多様な文化を反映した豊かな内容のリストになっていない。

2.不均衡を是正し,世界の多様な文化を反映し代表する,信頼性のある世界遺産リストとするための取り組み

(1)1992年第16回世界遺産委員会(アメリカ合衆国・サンタフェ)
「文化的景観」の世界遺産への導入と戦略指針

【内容】

「文化的景観」をカテゴリーに入れることを決定

(2)1994年第18回世界遺産委員会(タイ・プーケット)
世界遺産リストの典型像構築のための世界的戦略(global strategy)

【内容】

遺産リスト上の記念建造物の偏重を改め,広範囲な文化的表現として捉えるべき。(例:「人間と土地の共存を示す事例」や「社会における人間の諸活動をあらわす事例」等)。
文化的景観,産業遺産,近代建築の分野における遺産が不十分との指摘。

(3)1999年第12回世界遺産条約締約国会議(フランス・パリ)
「世界遺産一覧表における不均衡是正の方法と手段に関する決議」の採択

【内容】

全ての締約国に対して,

(ⅰ) 未だ世界遺産リストに十分に表されていない遺産のカテゴリーに焦点をあてて暫定リストを準備または再検討すること,
(ⅱ) 暫定リストは,資産の顕著な普遍的価値を厳密に捉えること,
(ⅲ) 特に人間と自然環境との相互作用を顕著に際立たせ,生きている或いは過去の諸文化の多様性と豊かさを表し,リストに十分に代表されていない分野の中から,推薦資産の提出を優先的に行うこと

などを勧告。

既に相当数の世界遺産を登録している締約国に対しては,

(ⅰ) 自発的に推薦の間隔を置くこと,
(ⅱ) 未だ十分に代表されていない分野に属する資産のみ提出すること,
(ⅲ) 世界遺産を登録していない締約国が行う推薦と連携すること

などを勧告。

(4)2000年第24回世界遺産委員会(豪州・ケアンズ)
ケアンズ決議

【内容】

(1)暫定リスト
「暫定リスト」を世界遺産リストの不均衡を是正するためのツールとして活用すべき。このため,助言機関(ICOMOS,IUCN,ICCROM)と世界遺産センターは,推薦計画を立てること。
(2)推薦
  • 適切な管理(審査)を行う必要から,各委員会において審査を行う候補物件の最高限度数を設定する(以前の会議で審査延期や差し戻しとなったもの,既登録物件の登録範囲の変更,緊急性のあるものは除く)。
    また,各委員会において審査対象となるノミネート物件は,各締約国につき1件のみとする(現在登録物件が一つもない国を除く)。
  • 推薦件数が審査件数を超えた場合は,次の優先順位で決定する。
    1. ⅰ)まだ世界遺産が1件も登録されていない締約国の推薦物件
    2. ⅱ)十分に登録されていない分野の推薦物件
    3. ⅲ)その他の推薦物件

    同一順位の場合は,世界遺産センターの推薦書の受付順とする。

(5)2004年第28回世界遺産委員会(中国・蘇州)
ケアンズ決議の見直し(蘇州決議)

【内容】

(1) 第29回委員会までは現在のケアンズ決議を維持する。
(2) 2006年の第30回委員会では,試行的かつ一時的措置として,1締約国の推薦件数を上限2件(ただし,うち1件は自然遺産),全体の審査対象件数を上限45件。
(3) 2007年第31回委員会で上記(2)のメカニズムについてレビュー

(6)2005年第29回世界遺産委員会(南アフリカ・ダーバン)

【内容】

(1) シーリング基準について,国境をまたがる物件(トランスバウンダリー)はシーリング対象に含まないこと(共同推薦国のうち一国が代表して推薦書を提出し,その分については代表国の提出シーリング外とする)とする。
(2) 委員国の新規登録推薦自粛問題について,2007年第31回委員会で検討する。

(7)2006年第30回世界遺産委員会(リトアニア・ビリニュス)

定期報告検証年(PRRY)の実施

【内容】

(1) 次期周期に入る前に,最初のサイクルを検証し,次回サイクルに向けた戦略的方向性,明確な目的と指標を定めるため2年間置くことが決定された。
(2) アジア・太平洋地域は2010年に定期報告を世界遺産センターに提出し,2012年の世界遺産委員会で報告されることとなった。
ページの先頭に移動