参考資料1-6

近年の世界遺産委員会における主な問題と議論

1.世界遺産リストの現状

(1)遺産登録数における地域的不均衡

欧州諸国の遺産登録数(全体の46%)が圧倒的に多く,アジア諸国やアフリカ諸国の遺産登録数が少ない。
締約国のうち,30件以上の登録遺産をもつ締約国(スペイン,イタリア,中国)がある一方,登録数ゼロの締約国が全体の約23%を占める。(平成19年7月)

(2)自然遺産と文化遺産の数的不均衡

文化遺産と自然遺産の登録数に大きな差がある(文化遺産660件,自然遺産166件,複合遺産25件)。
文化遺産は欧州で急速に増加しているのに対し,自然遺産はアフリカ,アメリカ,オセアニアに偏っている。

(3)文化遺産の種別の不均衡

教会建築,歴史地区,古代都市,旧市街,城塞などの同種のカテゴリーの遺産が数多く登録され,世界の多様な文化を反映した豊かな内容のリストになっていない。

2.不均衡を是正し,世界の多様な文化を反映し代表する,信頼性のある世界遺産リストとするための取り組み

(1)1992年第16回世界遺産委員会(アメリカ合衆国・サンタフェ)
「文化的景観」の世界遺産への導入と戦略指針

【内容】

「文化的景観」をカテゴリーに入れることを決定

(2)1994年第18回世界遺産委員会(タイ・プーケット)
世界遺産リストの典型像構築のための世界的戦略(global strategy)

【内容】

遺産リスト上の記念建造物の偏重を改め,広範囲な文化的表現として捉えるべき。(例:「人間と土地の共存を示す事例」や「社会における人間の諸活動をあらわす事例」等)。
文化的景観,産業遺産,近代建築の分野における遺産が不十分との指摘。

(3)1999年第12回世界遺産条約締約国会議(フランス・パリ)
「世界遺産一覧表における不均衡是正の方法と手段に関する決議」の採択

【内容】

全ての締約国に対して,

(ⅰ) 未だ世界遺産リストに十分に表されていない遺産のカテゴリーに焦点をあてて暫定リストを準備または再検討すること,
(ⅱ) 暫定リストは,資産の顕著な普遍的価値を厳密に捉えること,
(ⅲ) 特に人間と自然環境との相互作用を顕著に際立たせ,生きている或いは過去の諸文化の多様性と豊かさを表し,リストに十分に代表されていない分野の中から,推薦資産の提出を優先的に行うこと

などを勧告。

既に相当数の世界遺産を登録している締約国に対しては,

(ⅰ) 自発的に推薦の間隔を置くこと,
(ⅱ) 未だ十分に代表されていない分野に属する資産のみ提出すること,
(ⅲ) 世界遺産を登録していない締約国が行う推薦と連携すること

などを勧告。

(4)2000年第24回世界遺産委員会(豪州・ケアンズ)
ケアンズ決議

【内容】

(1)暫定リスト
「暫定リスト」を世界遺産リストの不均衡を是正するためのツールとして活用すべき。このため,助言機関(ICOMOS,IUCN,ICCROM)と世界遺産センターは,推薦計画を立てること。
(2)推薦
  • 適切な管理(審査)を行う必要から,各委員会において審査を行う候補物件の最高限度数を設定する(以前の会議で審査延期や差し戻しとなったもの,既登録物件の登録範囲の変更,緊急性のあるものは除く)。
    また,各委員会において審査対象となるノミネート物件は,各締約国につき1件のみとする(現在登録物件が一つもない国を除く)。
  • 推薦件数が審査件数を超えた場合は,次の優先順位で決定する。
    1. ⅰ)まだ世界遺産が1件も登録されていない締約国の推薦物件
    2. ⅱ)十分に登録されていない分野の推薦物件
    3. ⅲ)その他の推薦物件

    同一順位の場合は,世界遺産センターの推薦書の受付順とする。

(5)2004年第28回世界遺産委員会(中国・蘇州)
ケアンズ決議の見直し(蘇州決議)

【内容】

(1) 第29回委員会までは現在のケアンズ決議を維持する。
(2) 2006年の第30回委員会では,試行的かつ一時的措置として,1締約国の推薦件数を上限2件(ただし,うち1件は自然遺産),全体の審査対象件数を上限45件。
(3) 2007年第31回委員会で上記(2)のメカニズムについてレビュー

(6)2005年第29回世界遺産委員会(南アフリカ・ダーバン)

【内容】

(1) 国境をまたがる物件(トランスバウンダリー)はシーリング対象に含まないこと(共同推薦国のうち一国が代表して推薦書を提出し,その分については代表国の提出シーリング外とする)とする。
(2) 委員国の新規登録推薦自粛問題について,2007年第31回委員会で検討する。

(7)2006年第30回世界遺産委員会(リトアニア・ビリニュス)

【内容】

(1) 世界遺産センターが,過去の委員会決議を振り返ってOUV(顕著な普遍的価値)が登録時にどのように評価されているかについて調査をまとめることが決議された。締約国の推薦業務を支援するため,諮問機関が事前評価,比較研究,OUVの事前審査ができるような新しい暫定リストの形式をつくるよう世界遺産センターに要請した。
(2) 定期報告について,次期周期に入る前に,最初のサイクルを検証し,次回サイクルに向けた戦略的方向性,明確な目的と指標を定めるため2年間置くことが決定され,小規模のワーキンググループを結成することになった。

(8)2007年第31世界遺産委員会(ニュージーランド・クライストチャーチ)

【内容】

(1)ケアンズ・蘇州決議の見直し

  • 世界遺産一覧表への資産の記載推薦の方法については,4年間の試験的措置として,1締約国の推薦件数を上限2件(2件の場合うち1件は自然遺産)とされている現行ルールを緩和し,各国の歴史的地理的情勢に鑑み,2件推薦する場合には,そのうちの1件を自然遺産としなくてもよい(つまり2件とも文化遺産でもよい)こととする。
  • 推薦件数が45件のシーリング以上に及んだ場合,次の優先順位で審査案件を決定する。
    1. (ⅰ)一覧表記載資産を持たない締約国の推薦物件
    2. (ⅱ)一覧表記載資産が3件以下の締約国の推薦物件
    3. (ⅲ)45件の上限設定により前年の審査にかけられなかった物件
    4. (ⅳ)自然遺産
    5. (ⅴ)複合遺産
    6. (ⅵ)国境を越えた推薦物件
    7. (ⅶ)アフリカ,太平洋,カリブ海地域諸国からの推薦物件
    8. (ⅷ)過去10年の間に条約を締結した締約国の推薦物件
    9. (ⅸ)同一順位の場合は,センターの推薦書の受付順とする
  • 今回の決議に伴う作業指針改正の効果を見極めるため,4年後に当たる2011年の第35回世界遺産委員会において再検討する。
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