文化審議会著作権分科会(第27回)議事録・配布資料

1.日時

平成21年1月26日(月) 10:00~12:00

2.場所

三田共用会議所 3階 大会議室

3.出席者

(委員)
青山,大林,大渕,岡田,金原,河村,後藤(幸),佐々木,里中,瀬尾,大楽,玉川,辻本,常世田,土肥,中山,野原,野村,広崎,福王寺,松田,三田,宮川,村上,依田の各委員
(文化庁)
高塩次長,関長官官房審議官,山下著作権課長 ほか関係者

4.議事次第

  1. (1)開会
  2. (2)「文化審議会著作権分科会報告書(案)」について
  3. (3)平成20年度国際小委員会の審議経過について
  4. (4)その他
  5. (5)閉会

5.配布資料

資料1-1
「文化審議会著作権分科会報告書(案)」の概要(643KB)
資料1-2
文化審議会著作権分科会報告書(案)(2.11MB)
資料2
平成20年度国際小委員会の審議経過(347KB)
参考資料1
文化審議会著作権分科会委員名簿(124KB)
参考資料2
文化審議会著作権分科会(第26回)議事録(336KB)
参考資料3
デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について(報告)(平成20年11月27日 知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会) (417KB)
参考資料4
石坂委員意見書(129KB)

6.議事内容

(1)開会

【野村分科会長】
 それでは,ほぼ定刻がまいりまして,ご出席予定の委員の方,大体おそろいになりましたので,ただ今から文化審議会著作権分科会第27回を開催いたします。
 本日は,ご多忙の中ご出席いただきまして,誠にありがとうございます。
 本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照しますと,特段非公開にするには及ばないと思われますので,公開としたいと思いますが,このことについて特にご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村分科会長】
 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方には,傍聴いただくことにいたします。
 まず,今回からご参加いただくことになりました委員がいらっしゃいますので,事務局よりご紹介をお願いいたします。併せて,事務局にも人事異動があったようですので,その紹介と続けて配布資料の確認をお願いいたします。
【山下著作権課長】
 失礼いたします。前回,10月1日の分科会以降に,新たにご就任いただきました委員をご紹介させていただきます。
 本日付で日本新聞協会新聞著作権小委員会委員長の依田裕彦委員が着任されておられます。
 依田委員,一言よろしくお願いします。
【依田委員】
 新聞協会の依田と申します。よろしくお願いいたします。
【山下著作権課長】
 ありがとうございます。
 続きまして,事務局の人事異動でございますけれども,1月1日付で池村聡著作権調査官が着任をしています。
【池村著作権調査官】
 池村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

(2)「文化審議会著作権分科会報告書(案)」について

【山下著作権課長】
 続いて,本日の配布資料でございますけれども,お手元議事次第に記載のとおりでございます。資料1-1,資料1-2は2分冊になってございます。それから資料2,そして参考資料の1から4までご用意しておりますけれども,参考資料4は,石坂委員から提出された意見でございます。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。もし,不足がございましたら事務局の方にお申出いただければと存じます。
【野村分科会長】
 それでは,議題に移りたいと思いますが,昨年の3月以降,各小委員会におかれましては,それぞれの分野において精力的にご検討をいただいてきましたが,本日は今期の当分科会の最後の会議となりますので,各委員会の検討結果について,それぞれの主査よりご報告をいただきたいと思います。
 まず,法制問題小委員会の検討結果について,中山主査よりご報告をお願いいたします。
【中山副分科会長】
 それでは,法制問題小委員会において,平成19年度及び20年度の審議結果の取りまとめをいたしましたので,ご報告を申し上げます。
 法制問題小委員会では,一昨年の3月以来,6点について議論をしてまいりました。
 1はデジタルコンテンツ流通促進法制,2は海賊版の拡大防止のための措置,3は権利制限の見直し,4は私的使用目的の複製の見直し,5はライセンシー保護等の在り方,6はいわゆる「間接侵害」に係る課題等,これらについて検討をしてまいりました。
 このうち,昨年の10月の分科会にご報告をいたしました課題については,その後に1カ月間の意見募集を行い,その結果を踏まえて検討を進めてまいりました。2年にわたる検討の結果,一定の結論が得られたものと,さらに整備・検討が必要なものがございます。結論としては,前期または昨年10月にご報告した経過から変更のないものもございますが,改めて主な結論をご説明させていただきたいと思います。
 まず,1.デジタルコンテンツ流通促進法制につきましては,経済財政改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)2007において,関連の法制等を整備することとされたものであります。本課題につきましては,昨年10月に報告いたしましたとおり,次の3つの内容を実施すべきといたしました。1つ目にコンテンツの二次利用に関する課題として,権利者不明の場合の制度的措置を早期に実施すべきこと。2つ目はインターネット等を活用した創作・利用に関する課題として,現在の権利制限規定とインターネット等の利用実態との乖離解消のため,検索エンジンなど,関連の権利制限規定の見直しを実施していくべきであるといたしました。3つ目に,権利者が安心してインターネットにコンテンツを提供するための環境整備といたしまして,海賊版の頒布防止策などの措置を実施すべきとしております。
 個別の項目の結論につきましては,後で事務局より説明させますが,このような内容で,デジタルコンテンツ流通促進法制として法改正に取り組んでいただきたいと考えております。
 また,その他の課題としては,知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会報告書において,権利制限の一般規定,日本版フェア・ユース規定の導入についても提言があったことなどを踏まえまして,その他の課題も含め,今後順次検討を行っていくことになっております。
 個別の問題につきましては事務局より説明をお願いいたします。
【黒沼著作権課長補佐】
 それでは,残りの部分の詳細につきまして,事務局よりご説明をさせていただきます。こちらの資料1-1の横長の資料でご説明をさせていただきたいと思います。
 1枚めくっていただきますと目次がございまして,右側のページからが法制問題小委員会の検討結果でございます。まずデジタルコンテンツ流通促進法制につきましては,平成19年度,平成20年度,2カ年にわたりまして検討を行ってきた課題でございますけれども,平成19年には課題の整理をこちらの分科会にご報告をさせていただきまして,その後,20年度には,昨年10月の分科会に先ほど主査からご紹介があったような3点について法制として盛り込んでいくべきだということでまとめてございます。内容につきましては,先ほど主査からご紹介ございましたので,このページについては省略させていただきます。
 2ページでございます。2ページにつきましては,先ほどのデジタルコンテンツ流通促進法制に盛り込むべきと言われた海賊版拡大防止のための措置の一つではございますけれども,海賊版の頒布行為の防止策の充実について,結論がまとめられてございます。19年にご報告したものでございますけれども,インターネットオークションなどを利用した海賊版の頒布行為が近年広まっておりまして,これを申出の段階で取り押さえなければ防止が困難という問題意識もございまして,海賊版の販売等の申出を行う行為,これを著作権侵害行為とみなす旨の規定を設けることが適当という結論でございます。
 その下の親告罪の範囲の見直しにつきましては,こちらも平成19年度の10月にご報告をさせていただいておりますけれども,一律に非親告罪とすることは不適当であり,社会的な影響などを見て,慎重に検討することが適当という結論と変わってございません。
 引き続きまして,3ページでございます。権利制限の見直しにつきまして,幾つかの事項について結論が得られております。1つ目は障害者関係ということでございます。19年度の検討でございますが,関係団体から視覚障害者のための録音図書の作成などの主体の拡大,それから聴覚障害者のための映像作品への字幕手話の挿入,それから視覚障害者,聴覚障害者以外の,その他幅広い障害者,知的障害,発達障害などを含めまして,それらの方々に必要な図書を作成すること,これらについて著作権者の許諾なくできるようにという要望がございまして,検討結果といたしましては,障害等により著作物利用が困難な者の利用を可能な限り権利制限の対象に含めていく。それとともに,複製主体・方式も拡大する方向で速やかに措置を講ずることが適当との結論をいただいております。
 それからネットオークション等関係。これも19年度の検討でございますが,インターネットオークションなどで美術品,写真を出品するときに,その商品の画像を掲載する行為,これが著作権侵害となってしまうという可能性があるという指摘があったことにつきまして,商品の紹介のために行う画像掲載は,売主の義務として必要不可欠だということもございますので,権利制限を行うということが適当としてございます。なお,権利者の利益を不当に害しないための条件について,取引実務を踏まえて検討することにさせていただいております。
 引き続きまして,その次のページ,検索エンジンでございます。こちら19年度にもご報告をさせていただきまして,その後,20年度にも若干補足の検討を行った課題でございます。インターネット上に存在する情報の所在を検索する手段として,検索エンジンサービスが普及しているということがございますけれども,これが行っているウェブサイトの収集などの行為が,著作権侵害の可能性があるのではないかというような指摘がございました。これにつきましては社会的な意義などをかんがみまして,次のような条件で権利制限を講ずることは適当としてございます。一つはウェブサイトの設定により,情報収集を拒否する旨の意思表示が行われている場合には対象外とする。それから一定の場合,例えば違法な送信がされているということを知った場合などにつきまして,違法複製物の削除義務を課す。こういった条件で権利制限を講ずることは適当という結論をいただいております。
 それからその次のリバース・エンジニアリング,これは20年度に検討したものでございますけれども,コンピュータプログラムのリバース・エンジニアリングを行う最中に,プログラムのコードを複製,あるいは翻案をする場合がございます。これにつきまして,相互運用性の確保,あるいは障害の発見などの一定の目的で行うリバース・エンジニアリングについては,権利制限を措置すべきということで結論をいただいております。その他の目的のものにつきましては,権利者への影響を考慮しつつ,引き続き検討という形でございます。
 引き続きまして,5ページにまいりまして,研究開発における情報利用の円滑化ということで,これも20年度に検討したものでございますけれども,画像・音声・言語・ウェブ解析などの研究開発において,著作権物をいったんサーバーに蓄積・整理した上で解析を行っているというような実態がございまして,このようなものにつきましては,社会的意義にかんがみ,あるいは著作物利用の実質に乏しいということもございまして,情報解析分野の研究開発について,一定の条件の下で権利制限を行うということで概ね意見が一致しているという状況でございます。そのほかの研究につきましては,引き続きの検討ということになってございます。
 それから機器利用時・通信過程における蓄積の取扱いでございます。こちらは19年度から検討を行いまして,主に20年度で検討を行ったものでございます。コンピュータの内部でいろいろなところで一時的な蓄積が発生しておるということと,それからインターネットなどを初めまして,ネットワーク上では様々な中継サーバーで蓄積しながら通信を行っているというような実態がございます。このような蓄積につきましては,関係事業者の法的安定性を高めるということもございまして,一定の要件の下で権利制限を行うということで,結論をいただいております。
 それから6ページでは,その他の事項といたしまして,なお検討途上の課題がこちらに記載をしてございます。一つは薬事関係でございます。こちらは19年10月に分科会にご報告をさせていただいた事項でございますけれども,医薬品等の製造販売業者が薬事法の規定に基づいて医療関係者に行う文献提供につきまして,平成19年10月には一定の条件の下で権利制限をすべきというような結論でご紹介をいたしましたが,その後の意見募集などを踏まえまして,より文献提供の実態などを精査しつつ,国際条約との関係なども含めて引き続き検討ということで,昨年1月の分科会にはご報告をさせていただいておりまして,そのままのことを記載させていただいております。
 その他といたしまして,図書館関係,あるいは学校教育などの関係につきまして,関係者からの権利制限要望がございます。それについての課題を記載してございます。なお,その図書館関係の権利制限の要望のうち,記録技術・媒体の旧式化に伴う新しい媒体への移し替えのための複製につきましては,後ほどご紹介ございますように,過去の著作物等の小委員会において,現行規定の解釈で,保存のための複製という図書館のための規定がございますけれども,その中で実施ができるのではないかということがうたわれてございます。
 その次の7ページでございますが,4.その他の検討途上の課題 というのは,引き続き検討を行うということのグループでございます。その1番目が私的使用目的の複製の見直しでございます。違法配信などからの複製につきまして,これを私的使用目的の複製の権利制限の範囲から除外するということにつきまして,後ほど録音録画について私的録音録画小委員会の検討の結果をご報告があるかと思いますけれども,法制問題小委員会では,それ以外の分野につきまして検討を行ってまいりました。
 検討結果といたしましては,違法配信などからの複製の取扱いにつきまして,理論的には録音録画に限定される問題ではないのではないかという問題意識もございまして,特にいろいろと複製実態などを聴取いたしまして,プログラムの著作物,特にゲームソフトでは,録音録画と同様な措置を講ずる必要性があると整理をしてございます。ただし,ゲーム以外にも幅広いものがございますけれども,プログラム著作物全体における正規ビジネスへの影響の程度などについて,なお検討が必要という指摘でございます。
 その他の著作物については,引き続き検討となってございます。
 その次のライセンシーの保護の在り方でございます。こちらは19年度にご報告をさせていただいた課題でございます。著作権契約におけるライセンシー,許諾を受けた者の地位でございますけれども,許諾した方が破産した場合に,その地位が不安定になるという問題がございまして,その地位をその次の人に対抗できるような措置を何らか設けるべきだというような要請が寄せられておりました。こちらにつきまして,平成19年10月にご報告した際には,一定の登録制度の創設というのをご提案させていただきましたけれども,こちらもその後の意見募集におきまして,登録以外の制度も含めて検討すべきというような意見がございましたので,こういった状況を踏まえまして実効性のある制度の在り方について,関係者による多面的な調査研究を進めることが適当ということで,引き続きの検討とさせていただいております。
 8ページでございます。いわゆる「間接侵害」に係る課題ということで,こちらは平成19年度10月にご報告をさせていただいております。その後も20年度もいろいろ検討を行ってございます。いわゆる「間接侵害」と言われるもののうち,どこまで責任が問われるのかということについて,範囲を明確化すべきという指摘が様々あるわけでございますけれども,平成19年度につきましては,間接侵害に対して権利行使が可能となるというようにするという観点から検討を行ってまいりまして,20年度は,逆に責任を問われない範囲について,例えば書いてあるコンテンツ流通事業者,ISPなどの責任を問われない範囲について,明確化できるのかどうかというような検討を行ってまいりました。
 検討結果でございますけれども,まだ最終結論には至っておりませんが,近年の裁判例の分析等を深めつつ,引き続き総合的に検討を行うということでございます。検討に当たっては引き続き,両方の観点がございますが,間接侵害の根拠を明確化するということ,間接侵害責任を問われないというところを明確化すること,その双方に留意することが適当としてございます。
 その下の法定損害賠償制度でございます。こちらは侵害を立証すれば,一定の損害賠償額を請求することができる,そういった制度を創設すべきというご指摘,ご要望があったわけでございますけれども,現在の裁判例では,裁判所が相当な損害額の認定をできるという規定がございますので,ある程度それで柔軟に対応されているのではないかという指摘もございましたので,今後の実態の推移を見て,引き続き民法や他の知財法との関係を踏まえて慎重な検討が必要というようにしてございます。
 その他の課題でございますけれども,9ページでございます。こちらはまだ本格的な検討に入れていないという課題を整理してございます。1つ目は,知的財産戦略本部で,本日も参考資料3としてお配りをしているものでございまして,後ほどご覧いただければと思いますけれども,知的財産戦略本部の下にデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会が設けられまして,様々な著作権関係の課題をご検討されておりまして,中でも権利制限の一般規定,いわゆる日本版フェア・ユースと言われているものでございますが,こちらを導入することが適当ということがうたわれてございます。そういったことを初めまして,著作権法制に関係する種々の課題につきまして提言が行われておりますので,今後これらの課題について順次検討を行っていくべきとしております。
 また,通信・放送の在り方の変化への対応につきましても,引き続き総務省の審議会での議論に留意しながら検討を行っていくということにしてございます。
 法制問題小委員会につきまして,以上でございます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,ただ今のご報告につきまして,ご意見,ご質問等ございましたら。
 辻本委員どうぞ。
【辻本委員】
 コンピュータソフトウェア著作権協会の辻本でございます。
 私は少し私的使用目的の複製について業界としての意見を申し上げたいと思います。大変いろいろな問題について討議していただいて本当に感謝している次第でございますが,昨今少し状況が変わってきましたので,そのことに関して今後の対応をひとつお願いしたいと思います。
 我々の業界は創立以来,海賊版の製作と頒布に対する行為,新たな海賊版製作行為に対して対策をいろいろ講じてきたわけでございますけれども,昨今のインターネット上での違法な著作物の流通による被害はかなり深刻化をしているわけでございます。このことはデジタル化されたコンテンツ全体に関わる今後重大な問題になるのではないかと考えております。
 音楽や映画などの録音録画物はもちろんでございますが,プログラムの著作物についてもその被害はかなり大きいものであると認識しております。特に携帯用のゲーム用ソフトにつきましては,報告しておりますとおり,ユーザーにとってはソフトを無料でダウンロードして遊べるということは,これは悪いことではなくて,通常であるかのような状態であるわけでございます。これを可能にする機器も蔓延しておるわけでございます。このような状態を放置いたしますと,全ての著作物の違法なやりとりが当たり前のようになっていくのではないかと,そういう世の中になるということに対して,非常に危惧を持っております。
 そのような機器に対しては,ゲーム機のハードメーカー,ソフトメーカーが一丸となりまして,対策を講じておるところでございますが,販売されているゲームを無料でダウンロードして遊ぶということを当然とするユーザーが減らないことには,これらの機器への対応も何も意味を持たなくなって,結果としては効果が得られないという形になっております。ひいてはビジネスがなくなるかもしれないという危機感も持っておるわけでございます。
 今回の法制問題小委員会で議論していただいた,違法と分かってダウンロードして行う使用目的についての複製の見直しに関し,ゲームに関して一定のご理解をいただいたことに関しましては,感謝しております。しかしながら,プログラムの著作物について結論が得られず継続審議となっていることについては,少し気にしておるわけでございます。
 ビジネスソフトにおいては,もちろん被害実態が大きいものと考えておるわけでございますが,今回の報告において検討が不十分であるとされた点であることについて,理解できないわけでもございませんが,ビジネスソフトを含めたプログラムの著作物全体に対するデータを今後明示していただいて,プログラムの制作物,あるいは著作物に関しては,録音録画物と同様の法的手当が必要ということは,周知の認識でございます。先行する今般の条文改正におきましてもご承知いただき,ぜひとも早期にご検討いただきたく委員の皆様にお願いする次第でございます。
 何が起こっているかと言いますと,ゲーム業界におきましてはコピーされないように,いろいろなハードウェアにおいて新しいハードを作って防御してきました。その結果,今ゲーム制作に対しては恐らく日本の優れたクリエーターが十数万人この産業に関わって,唯一日本で国際コンテンツの競争力の一番強いところであるのではないかと思っているわけです。これは,コピーをされないという一つの前提で,年間数千億の製作費用をかけております。この製作費用というのはほとんどクリエーターに払う人件費ですが,これによってクリエーターがどんどんレベルアップしまして,日本のクリエーターが世界の一流の地位を得ているという産業であります。
 今中国はこの産業が育っておりません。我々もここ数年,中国のコピー問題に対しては対応しても意味がないと考えております。なぜかというと,中国でのこの問題は結局民事訴訟でございますから,罰金とかもありますけれども結局我々が対応した成果が出ない。この結果,今放ってあります。放っておいた結果,何が起こるかといいますと,中国ではこの産業は成り立ちません。ということは育っていきません。昨今,中国政府は日本と韓国はどうして国際コンテンツはゲームとかが育っているのに中国では育たないのだろうと。当たり前ですよね。畑でトマト作って,勝手に持っていきなさいと。これでは結局,農家はトマトを作りません。
 ここが一番大事なところでございます。ゲーム業界はこれまで5年に1回,ハードウェアを変えましてコピー対策をやっています。結果,ユーザーにおいては何が起こるかといいますと,今任天堂のDSで恐らく世界に1億台以上の機械が出ておりますけれども,5年たちまして新しいのになりますと,今度は今のDSのソフトを作りませんので,新しいコピーされないDSを作ります。そうしますと,7年目には今の1億台のユーザーが持っているDSは屑になってしまうわけです。
 こういうことは,ゲーム業界だからやっておりますけれども,今申し上げておりますビジネスソフト,特にサーバーを使ってソフトを作っているところについてはこういうことはできません。サーバー技術のソフトのレベル,コンテンツというのは,私の見ている限りではコンテンツは国際的な価値のあるソフトはほとんどございません。これはなぜかといいますと,そこまでお金をかけましても,これは結局,ペイしないという産業の問題がありますから,お金をかけないわけであります。サーバーで行っているコンテンツの作り方と,ウェブのようにハードでコピー対策しながらやっているやり方,いろいろあるわけでございますけれども,今私どもが言っていますのは,ゲームにコピー対策をした問題に対してですが,中国でそれをコピーしやすいソフトの解析のツールを作りまして売っておるわけでございます。この一部は日本に入ってきて,これをBtoBで売りますと我々は対策します。商売ですから。ところが昨今はそれを売らないで,ダウンロードサービスをするわけですね。ダウンロードされたものは家庭内では違法ではなくて合法というふうな判断になっておりますから。これがどんどん蔓延しますと,結局今後どんなものであろうがダウンロードして家庭で使うと。これは結局,違法ではないということになりますと,これは物を作る方から言いますと,例えばトマトを畑で誰かが盗んできて,どんどん市場で売っているのに,買った方は関係ないということと同じことでございますので,こういう問題がないように,またこの次の産業として育っていかなければいけない問題でありますので,ぜひひとつご検討いただきたいと思います。
 なかなか難しい問題で,端的に今の問題としてこれらのことを掲げて,結論を出すのは難しいことかと思いますので,ひとつここのところをご理解いただきまして,中山委員長よろしくお願いしたいと思います。
【野村分科会長】
 ほかにご発言いかがでしょうか。
 松田委員どうぞ。
【松田委員】
 今の意見に加えさせていただきたいと思うのですが,私的レベルでも著作権法が明確に駄目なものは駄目という行為規範性を作ることの意味は,私は重要だろうと思っております。著作権法はかなりの部分が実は行為規範として行為者に向けられておりますので,それがデジタル・ネットワーク時代におきましては業としての利用者だけではなくて,国民全部が利用者になることになりますので,そのことを明確に示せるものであれば,示すべきであろうというふうにまず考えております。
 それから,プログラムやゲームソフトがダウンロードされることについての検討は,さらに継続すべきだろうと私は思っております。したがいまして事務局整理のところに従って,次回にこれを継続してもらいたいと思います。
 今言った個人レベルの駄目なものは駄目を明確にするという点のほかに,もう一つ実は重要な点が私あると思っております。個人レベルで適法だということが確認されるような事犯において,その個人的な利用を促進するようなソフトウェアやサービスの提供を行うものが果たして適法か違法かという議論は,間接侵害の議論の中であることはありますが,私的レベルでも違法であればそれをサポートするようなソフトウェアやサービスが,またこれも違法であるということを確認することは容易であるというふうに考えております。既にそういう判例も出ております。したがいまして,著作権法上の通信とそれに伴う個人レベルの受信後の複製も含めまして,これを明確にすることはそういうサポートビジネスを抑止するということにも私はなると思いますし,その効果は極めて大きいし,現にそういうサポートビジネスが生まれてきていることも周知のとおりであります。この辺で,著作権法でその点を明確にすべきではないかというふうに個人的に思っていますので,引き続き事務局提案のとおり,検討が必要というところで整理させていただくのが適当だというふうに考えております。
【野村分科会長】
 ほかにご発言いかがでしょうか。
 では,三田委員どうぞ。
【三田委員】
 今の問題に関連してでありますけれども,学生など若い人たちの間では,あるゲーム機械のソフトを吸い出す機械というものがひそかに売られておりまして,これを買ってソフトを吸い出すだけでは,これは私的コピーということなのでしょうけれども,しかしそこで吸い出されたコピーが,例えば中国にあるサイトにYouTubeのようにどんどんアップロードされる,あるいはこの吸い出しの機械を売っている業者がそこにソフトを並べているのではないかと思われているような気配もありまして,そうしますとその吸い出し機械自体は合法なのかもしれませんが,それを買うと全てのゲームができてしまうというような,そういう状態になりつつあるのですね。これは著作権法を根底から覆すものであるというふうに思われます。こういう問題については,実態を調査して,まず早急に対策を立てる必要があるだろうなと思います。
 それからもう一つなのですけれども,今度は慎重にしていただきたいと思われることがあります。それは検索エンジンというものの,何が検索エンジンなのかということでありますけれども,今グーグルでは書籍検索という機能があります。この書籍検索というものを呼び出して,単語を入れて検索をしますと,グーグルのサーバーに入っている書籍の内容を検索して,いろいろな本の中身が出てくるわけですね。現在では,そのグーグルと提携をしている出版社の書籍の1冊につき5分の1程度の内容がそこで検索できるということになっておりますけれども,当初,私が聞いた話では,検索された語が出ているページの前後2ページ,全体で5ページしか読めないということを伺っていたのですけれども,今やってみますとどんどん先まで読めてしまうのですね。
 実はこれは複製権の侵害でありますから,著作者の許諾を得る必要があるのですけれども,そういう認識のない出版社の営業部が著者に無断で読めるようにしてあるという事例がありまして,これは週刊誌等でも問題になっております。文芸家協会では改めて著作者の許諾を得るようにというご案内を各出版社に送っておりますけれども,こういう無断で読めるようにするというようなことが慣例になってしまいますと,これが法律に優先してしまうことになるのではないかなというふうに危惧をしております。
 それから,アメリカのグーグルでは幾つかの大学図書館等と提携しておりまして,図書館の書籍も読めるように,検索できるようになっておりますけれども,日本でも某大学の図書館と提携するということが発表されております。大学の図書館にある書籍というのは,古いものは著作権が切れているものもあるでしょうけれども,著作権が生きているものも多数あると思われます。大学にある本でありますから,研究書が多いわけですけれども,大学の先生が出版されたような研究書というのは,著作者自身が著作権という意識が希薄でありまして,むしろどんどん転載,引用してもらった方が自分の業績になるというような判断が研究者にはありますので,格別な問題も起こらないかなと思っておりましたら,実はアメリカで訴訟が起こっております。日本の場合に,それがどういうことになるのか。検索エンジンというのは,そこまでの全体を検索エンジンというのかどうかということを慎重に議論をしていただきたいというふうに思います。
 以上です。
【野村分科会長】
 ほかにご発言いかがでしょうか。
 福王寺委員どうぞ。
【福王寺委員】
 資料1-1の3ページのネットオークション関係で,インターネットオークションについて書かれておりますけれども,権利制限を行うことが適当というふうになっていまして,資料1-2の53ページですか,ドイツ著作権法というのを例に出しておりますけれども,ヨーロッパのほとんどの国が今追及権というものがありまして,追求権があるからこういうことが許されているというふうに考えることができると思うのですね。ですから,これは今,日本においてはまだ追及権ができておりませんので,そういったところでそういったバランスもあるということを,しっかり認識しないといけないかなと思います。
 昨年11月にも,美術家連盟では意見書を提出しておりますけれども,70年の問題と同時にこの追及権についても今勉強会を開いたり,各国の調査をしております。1920年にフランスで追及権ができて,2006年にイギリスでも追及権ができたということで,ヨーロッパのほとんどの国に今追及権がありますので,そういったところでドイツの著作権法を出すということは,そういったことをよく考えて審議していただきたいと思います。
 以上です。
【野村分科会長】
 ほかにいかがでしょうか。
 ではよろしければ,次の議題もございますので次に移りたいと思います。
 法制問題小委員会の報告については以上にいたしまして,次に私的録音録画小委員会の検討結果について,これも中山主査からご報告をお願いいたします。
【中山副分科会長】
 私的録音録画小委員会において,これまでの審議結果を取りまとめましたのでご報告申し上げます。
 私的録音録画小委員会では,平成18年以来,2点,つまり1は私的録音録画補償金制度の見直し,2は著作権法第30条の範囲の見直し,この2点につきまして検討を行ってまいりました。
 検討の結果,一定の結論が得られたものと,引き続き合意形成を目指すものがございまして,詳細につきましては後ほど事務局から説明させることといたしますけれども,これまでの検討経緯を踏まえつつ,審議結果の概要につきましてご説明申し上げたいと思います。
 まず1番目,私的録音録画補償金制度の見直しにつきましては,平成19年10月の分科会にご報告いたしました中間整理の取りまとめ以来,意見募集を経て,昨年以来,事務局から提出されました著作権保護技術と補償金制度の関係の整理案及びこれを踏まえた具体的な制度設計案について検討を行い,関係者間の合意の形成を目指したわけでございます。しかしながら,著作権保護技術と補償の必要性の関係をめぐる議論を中心に,関係者間の意見の隔たりが依然として大きいことが明らかとなりまして,小委員会では補償金制度の見直しについて,一定の方向性を得ることはできませんでした。
 なお,小委員会といたしましては,課題の緊急性にかんがみ,分科会の枠組みを離れた関係者が忌憚のない意見交換ができる場を設けて,今後も関係者の合意形成を目指すことも必要であるという認識で一致をいたしております。
 また2番目,著作権法第30条の範囲の見直しにつきましては,違法録音録画物・違法配信からの録音録画につき,利用者保護に配慮した上で,30条の適用除外とする法改正に賛成する意見が大勢でございました。一方,適法配信事業から入手いたしました著作物等の録音録画物から私的録音録画につきましては,私的録音録画の将来像や補償金制度の見直しに関する合意がないまま先行することには問題があることから,今後の動向を踏まえた上で,さらに検討すべき課題とされました。
 詳細な内容につきましては,事務局から説明をお願いいたします。
【川瀬著作物流推進室長】
 それでは,私の方から報告書の内容についてご説明をさせていただきます。
 中間整理の内容につきましては,皆様ご承知のとおりでございますけれども,それ以降の経緯,それからその経緯の中で,関係者の合意形成を図るために,文化庁事務局の調整案―文化庁提案と言っていますけれども―を出し,合意の形成に努めてまいったわけでございますけれども,その状況を中心にご説明をさせていただくということで,私の方はかえってこの資料1-2の2分冊になっております第2編,私的録音録画小委員会という本体部分でございますけれども,これを見ながらご説明をさせていただいた方が分かりやすいと思いますので,これを見ながらご説明をさせていただきます。
 2枚目ですけれども,下のページ数でいいますと133ページを開いていただきますと,中間整理で一番問題でありましたのは,幾つかの問題点があったですけれども,一番大きなのが補償金制度における著作権保護技術と補償の必要性の関係でございました。事務局提案の基本的な考え方のベースになっておりますのは,そこをどう解決するかというところでございまして,一方,中間整理では30条の範囲についてもその検討をしてまいりましたけれども,その30条の範囲の問題を議論する中で,この中ほどですけれども「しかし一方で」というところからですけれども,著作権の保護技術と契約を組み合わせる方法によりまして,権利者の利益が確保できるのではないかと。また,その仕組みによっては利用秩序の混乱を生じさせずに30条の縮小の方向ができるのではないかという考え方が示されたわけでございます。それを踏まえまして,様々な社会の実態を踏まえた上で,そういう方向に今後持っていけるかどうかというようなことも議論しまして,そこでも様々な意見があったところでございます。
 最後のところでございますけれども,しかしながら,著作権保護技術が十分に発達・普及しました将来における私的録音録画補償金制度の在り方につきまして,関係者間で大まかな将来像を共有することができれば,当面の補償金制度の位置づけ及びそれを踏まえた具体的制度設計の見直しについて,合意できるのではないかというふうに考えられたわけでございます。
 1枚めくっていただきまして,まず事務局提案1の内容でございますけれども,中間整理が19年10月でございますけれども,その12月に事務局の方で私的録音録画の将来像に関します提案をしております。これは先ほど言いましたように,将来におきまして著作権保護技術が十分に発達・普及し,私的な領域における録音録画を著作権保護技術で広く管理できるような状況が実現されたとすれば,権利者は一般に著作物等の提供者を介して,現状でも配信事業者を介して契約によってそのコピーをコントロールするということはよく行われているところでございます。また直接の契約を通じて,利用者から対価を徴収するということが可能となるのではないかということでございます。
 そういうことを踏まえまして,その事務局提案の1という将来像を描いてみたわけでございますけれども,真ん中,少し下の「以上の」ところですけれども,この事務局提案はその私的録音録画に関して達成すべき理想像ではなくて,補償金制度に関する関係者の意見も総合して勘案した上で,著作権保護技術と契約に委ねることによりまして,利用の円滑化と対価の確保を同時に図りつつ,補償金制度を廃止するために最大公約数として考えられる将来像という位置づけでございました。
 それを踏まえまして,137ページでございますけれども,昨年の1月17日に事務局提案の2というものの原型になるものを出しておりまして,それに肉付けする形で5月8日の小委員会で事務局提案2というものを出しているわけでございます。先ほどから言っていますように,補償金制度の将来像をいったん共有した上で,補償金制度による解決を今後縮小しまして,他の方法による解決―具体的には契約による解決ですけれども―へ移行することを内容としております。これを原則としつつ,当面補償金制度による対応を検討する分野としまして,音楽CDからの録音,それからいわゆるダビング10が施されています地上デジタル放送からの録画について焦点を絞ったわけでございます。そういうことを前提にして,さらに将来において補償金制度の縮小,契約モデルによる解決に委ねるべきとして,その具体的方法の一例として30条の段階的縮小も示しているわけでございます。
 その次以下が,その事務局提案の具体的な内容でございます。
 それから144ページにまいりまして,これが事務局提案の3と言われるもので,これは先ほど言いました事務局提案2を踏まえまして,私的録音録画制度の具体的制度設計について事務局としての提案でございます。
 この中で少しご説明しますと,制度設計に当たっての基本的な考え方,145ページの一番上でございますけれども,文化庁の提案としては当面補償金制度で対応する分野については,音楽CDからの録音と,地上デジタル放送からの録画ということ,これを前提として基本とすべきものはA,補償金制度の縮小を前提としつつ,当面,経過的に存置するものであることから制度の基本的枠組みを大きく変更することは適当でないということで,原則としては現行法の制度の仕組みを踏襲するということでございます。また,そのAを原則としつつも,平成4年の補償金制度の導入以降の録音録画源の多様化,著作権保護技術の導入等の録音録画の実態の変化を踏まえまして,これらの状況の変化の制度の運用に適切に反映するというような見直しを求めております。
 それを踏まえまして幾つかご紹介しますと,例えばその下の(2)の(2)の機器等の類型ごとの考え方の中で,146ページにまいりまして,いわゆる現行の対象になっています専用機,専用媒体については,これは当然のこととして,イとしまして録音録画機能が附属機能でない機器のうち,記録媒体を内蔵した一体型のもの,例えばハードディスク内蔵型の録画機器や,携帯用オーディオ・レコーダーについては,これは専用機であるという限りは,特に分離型と区別することはないので対象であると。それからその下のウでございますけれども,例えばいわゆる現在のパソコンでございますけれども,これは汎用機であるということから,対象とすべきではないというような提案もしております。
 また147ページにまいりましてその真中の(3)の対象機器及び記録媒体の決定方法の(2)でございますけれども,対象機器の範囲については可能な限り,法令で明確化するわけでございますけれども,個々の機種等の評価については,それが対象機器かどうかの疑義が生じるという場合がございますので,その疑義が生じたときに話し合いで解決するための公平な評価機関というものも提案をしているところでございます。
 また最後ですけれども,148ページにまいりまして,その一番下の(5)の補償金額の決定方法の(3)でございますけれども,補償金の決定に当たっては,幾つかの要素を考慮する。かつ149ページのDでございますけれども,その評価機関,先ほど説明した評価機関の仕組みを活用の上,迅速な補償金額の決定ができるようにするというような内容を含んでいるところでございます。
 それに対して,関係者から様々な意見が出てまいりました。その150ページ以降でございますけれども,5月8日の小委員会における検討,それから151ページの7月10日の小委員会における検討,それぞれのお立場のご意見については,ここで整理をしております。
 それで153ページの検討のまとめでございますけれども,様々な意見が交わされました。また非公式にもいろいろとご意見をちょうだいし,合意の形成に向けて整理をしたところでございますけれども,153ページの3の検討のまとめを見ていただきますと,今回の補償金制度の見直しに関する最も基本的な課題でございました著作権保護技術と補償の必要性については,中間整理以降の議論を経ましてもその溝が埋まらず,さらにタイムシフト録画・プレイスシフト録音と補償の必要性についても,認識の相違が顕在化したこともございまして,関係者の合意が見られるとは言いがたい状況だというのが現状でございます。
 もう一つの論点でございます30条の範囲の見直しでございますけれども,これが156ページでございまして,実は30条の範囲の見直しの中でこの第1節の違法録音録画物,違法配信からの私的録音録画につきましては,意見募集の総数が9,000通余りあったわけでございますけれども,その7割がこの30条の見直し,特にこの第1節のこの点についての利用者側の不安ないしは懸念というものがございました。そこで集中的に小委員会では検討したわけでございますけれども,そういうご意見も踏まえましても,なお,その156ページの真ん中すぐ下,「これらのことから」ということでございますけれども,違法録音録画物や違法配信からの私的録音録画につきましては,その実態から通常の利用を妨げているものと考えられ,ベルヌ条約等のスリーステップテストの趣旨,それから先進諸国の法改正や判例の動向等から,やっぱり30条の適用を除外する方向で対応することが必要であるという意見が大勢でございました。
 さらに,そういった利用者の不安,懸念に配慮しまして,157ページの2の利用者保護というところにありますように,運用面では特段,政府ないしは権利者サイドに配慮するよう求めているわけでございます。
 さらに,158ページでございますけれども,もう一点,課題としてありました適用配信事業者からの入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画でございますけれども,これは中間整理の考え方を否定する意見はございませんでしたけれども,いわゆる本体部分の補償金制度の在り方に関する関係者の合意がないというまま,この件だけ先行するのはいかがなものかという問題点の指摘もあったところでございます。
 最後の第3章が今後の進め方でございまして,これは中山主査の方からもご報告がございましたとおり,小委員会で関係者の合意が得られませんでしたけれども,課題の緊急性にかんがみまして,今後も関係者間の協議を通じて解決を図っていくというようなことも必要だというような考え方が示されております。
 なお,最後の「一方」というところですけれども,30条の範囲の見直しにつきましては,違法録音録画物,違法配信からの録音録画につきましては,利用者保護に配慮した上で著作権法改正を行うことに賛成する意見が大勢であるということから,文化庁は所要の措置を講じるという必要がある。一方,その他の録音録画についてはさらに今後の動向を踏まえて検討すべきということでございます。
 以上のとおりであります。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,ただ今のご報告につきまして,ご発言,ご意見等ございましたら。
 村上委員どうぞ。
【村上委員】
 今の事務局の説明で,経緯は非常によく分かりましたが,最後の段階というか,合意事項だけ一点確認させてもらいたいのですが。今後,著作権保護技術の開発が進むに伴って,最後は契約による処理に委ねることになるであろう。その結果として,今の補償金制度は徐々に縮小していくという基本的な枠組みに対しては,この小委員会ではある程度合意ができたというのか,説明を聞いていますと関係者間の溝は埋まらなかったとか,最終的にはなかなか合意に達しなかったという表現も見られるので,そこの最終段階はどういう内容になるのか,そこだけもし可能であれば教えてもらいたいというか,確認させてもらいたいと思います。
【野村分科会長】
 これは事務局からお願いしましょうか。
【川瀬著作物流推進室長】
 私の理解をするところでございますけれども,今回事務局の調整案といいますのは,中間整理の段階で特に保護技術と補償の必要性については,言い方は少し悪いのですけれども,天と地との差があるような見解の相違があったわけでございまして,そこの溝を埋めて,関係者が合意をするためには,一つの前提条件というものが必要ではないかということで,私どもとしてそういうような提案をしたわけでございます。
 その報告書にも書いてございますように,そのことが今後の著作権制度を考える上での理想像かというと,そうではございません。これは今までの議論を踏まえた上で,その隔たりを埋めるための最大公約数というふうに報告書では書いておりますけれども,隔たりを埋めるためにはこういう考え方の前提に立たなければ,その提案の中身の詳細はともかくとしまして,難しいのではないかということの前提でございます。したがいまして,これも報告書にも記載しておりますけれども,関係者の合意の形成ができなかったということでございますので,考え方としては中間整理の段階に戻らざるを得ないということでございます。
 ただ,それでは2年間における議論がこれで無駄だったのかというと,実は合意ということでは関係者の隔たりがなお埋まらなかったんですけれども,それまでの議論の中で部分的には合意したこともございますし,合意しないまでも歩み寄りが見られたというところもございますので,今後,その検討するに当たってはそういう成果も踏まえた上で,事務局提案の考え方も一つの提案としての議論を進めていくという必要があろうかと思います。
【野村分科会長】
 ほかにご発言は。岡田委員どうぞ。
【岡田委員】
 今,川瀬室長がおっしゃったように,長い間の議論が決して無駄だったとは思いませんし,いろいろな成果もあっただろうし,そして決してむだな言葉を費やしただけではないと思いたいのですけれども,なぜこの議論すればするほど膠着状態になっていくのかという理由が何なのだろうと考えると,文化庁の腰が引けているのではないかということを思わざるを得ないのです。それで今日本が文化立国を標榜しようとしているというところで,国の立ち位置をやっぱり鑑み,わきまえた上で,文化庁としての理念とか意志を持ってこの問題に取り組んでいただきたい。そして文化行政の在り方に対する長期的な見通しを踏まえた上で,足下の混乱を収拾してほしいというふうに考えるわけです。
 そういう文化庁の毅然とした姿勢が見えてこないために,何かお互い,両方向綱引きをさせて,そして何かこっちが勝ったり,こっちが負けたり,そして歩み寄ったりしながら結局何も決まっていかないというのは非常に情けないことだと。その間に権利者の利益はどんどん失われていくわけで,利用の促進と権利者の養護ということを念頭に,調和のとれた結論を一日も早く導き出してほしいと切に願うものでございます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 ほかにご意見いかがでしょうか。
 辻本委員どうぞ。
【辻本委員】
 辻本でございますけれども,大変難しい問題で,著作権保護技術というのは,これはほとんど今問題があるのは,サーバーで物事をやっていますからサーバーの保護技術というのはなかなか難しいものがありますし,言葉では簡単ですけれども,実際何とかしようというのはなかなか難しいことだと思います。
 それから契約問題につきましても,相手の対象がおられないときとか,10人の権利者があって,そのうちの何人かは何とかなったけれども,あとの何人かはどうだろうという世界がありますよね。そうすると我々ビジネスで権利者がいて,絶対に使っては駄目ではなくて,お金払っていただいたらどんどん使っていただきたいという考え,それから結局お金払っても儲かるものならどんどん使いたいという考えがあって,これは著作権がやはりビジネスとして成り立つわけですから。ところが,手間隙かかっても何ともならないことには,結局ビジネスにならないわけですよね。
 まずこの著作権保護技術というのは,これはゲームハードでさっき言いましたように,これは金をかけまして,何千億かけて作っています。そのかわり,それを打ち破られるとまた次の新しいのを作りますから,ユーザーは何兆円,本当に何兆円とかけて買ったハードを一瞬にしてとは言いませんが,2,3年で使えなくなってしまうのですね。こんな不合理なことないのです。こういうふうなことは,これはゲーム業界は特殊なものですから別としまして,今後やはりゲーム業界もサーバーを使ってという世界になっていくわけでありますから,私は一つご提案したいと思いますのが,このいろいろなことでできないところを中間の処理する団体,だから例えば権利者が見つからないところについては,もう信託として取り込んで,そこは処理していただくとか,できるだけお互いの権利を,主張する側も利用する側もユーザーの使う側もやはりうまく処理して,プラスになる行動をどういうふうに作っていくための中間的な団体の設立とか,これは民間でも結構でございますから,そこに任せておけばいろいろな問題を処理していただけるというものを作らないと。これはハード技術でやれ言われても,はっきり言いましてビジネスになりませんから,形はできても機能しないと思うのですよ。だからここはひとつ,例えば亡くなられた人に対しては結局何年たった後だという問題がありますけれども,親族を頼りに行って,そんな手間隙かけてビジネスになりませんから,ある程度そこに信託としてお願いしたとき,問題があったときにはそこで対応していただくとか,いろいろなことをひとつ工夫を持って考えていただきたい。この2つは形ができても機能しない要素があると思いますので,ぜひビジネスとして役立つような方向性でひとつ検討していただいたらありがたいかなというのが私の意見でございますので,ひとつよろしくお願いしたいと思います。
【野村分科会長】
 ほかにご意見いかがでしょうか。
 では,先に岡田委員どうぞ。
【岡田委員】
 もう一言,著作権の保護技術のことについてですけれども,この報告書の中では,保護技術がまるで絶対のような書き方をされていますが,これはもうイタチごっこで新しい保護技術ができればそれはすぐ破られてしまい,また新しいものができればすぐ破られてしまうという状況が続いています。それで保護技術が絶対ではないゆえに,保護技術という概念があったとしてもそれに対して個別の課金なんていうのは,保護技術があるから個別の課金が可能であるというふうなことは不可能であると思いますので,保護技術に対して懸念を持ちながら物事を考えていっていただきたいと思います。
【野村分科会長】
 玉川委員どうぞ。
【玉川委員】
 昨年の10月1日の本分科会に,20年度私的録音録画小委員会の審議の経過についてというペーパーが配布され,その中には“いわゆる「ダビング10」の早期実施に向けた環境整備の一助とするため,文部科学省と経済産業省は政令改正によってブルーレイディスク関係の録画機器,記録媒体を私的録画補償金の対象に追加することで合意し,6月17日に両省大臣会見で公表された”とのご報告を受けておりますが,本日の報告にはそのことが全く触れられておらず反故にされ,後戻りしてしまった印象を受けます。その辺がどういう経過だったのかご説明をいただきたいことと,もう一つは,今後の進め方につじて,分科会の枠組みを離れて,例えば権利者,メーカー,消費者などの関係者が忌憚のない意見交換ができるような場を文化庁が設けるとのことですが,例えばとはなっておりますけれども,その方向で進めた場合,今までも権利者,メーカー,消費者という関係者による話し合いの場として小委員会で議論を進めてきたが,名称を懇談会というように変えただけで,出席者はこれまでどおりということでは,話し合いが前進するのだろうか。もう少し別の座組みが必要ではないのかという気もするわけですが,その辺についてはどのようにお考えでしょうか。
【野村分科会長】
 それでは,事務局からお願いいたします。
【川瀬著作物流推進室長】
 それでは第1点目でございますけれども,6月にご指摘のとおり,経済産業省さんと文部科学省の間でブルーレイの政令指定について,大臣間で合意がされたということは事実でございます。その後,両省間で鋭意協議を進めております。内容については少し協議中でございまして,詳細なご説明は差し控えさせていただきますけれども,幾つかの論点がございましたけれども,その論点については話の中で論点が絞られてきているということでございます。私どもとしては,早急に合意を得まして,正式な手続に入りたいというふうに現在努力中でございます。
 それから文化庁の話し合いの場でございますけれども,先ほども岡田委員からご叱責をいただいたわけでございますけれども,私どもとしましては,著作権制度の問題,様々な問題がございますけれども,少なくとも補償金制度の問題につきましては,これは平成4年の補償金制度の発足時というか,発足前から関係者間の協議というものを重視して,その協議の中で合意を得つつ,制度設計をしてきたつもりでございます。したがいまして,文化庁としましてはその補償金制度の見直しの議論でございますけれども,これもできる限り話し合いの中で円満に解決したいというふうに思っております。
 残念ながら,今まで今日の間,その協議がまとまらなかったわけでございますけれども,先ほど私がご説明しましたように,その2年の議論の中で課題の整理がされ,論点が絞られ,その論点についてある意味,打開の兆しも見えているということでございますので,私どもとしては話し合いによって解決できればというふうに考えております。もちろん,仕組みにつきましては新たな考え方を基にしまして検討するわけでございますから,例えば委員構成が今までの小委員会のようなメンバーでいいのかどうかとか,それから話し合いの内容についてどうするのかというようなことはございますので,私どもとしてもいい結論が出るような体制というものについて,関係者とご相談しながら検討していきたいというふうに思います。
 それから文化審議会の著作権分科会という場で,この重要な課題が分科会の議題から外れるわけではございませんので,そういった大所高所の中からの検討というものも,今後は考えていかなければならないというふうには一方で思っているところでございます。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 それでは,河村委員どうぞ。
【河村委員】
 消費者の代表として,私的録音録画小委員会の方にも参加しているのですけれども,先ほど岡田委員から,長い議論の末結論が出なかったことに対して,文化庁の姿勢というようなご意見もありましたけれども,私はこれほど長くかかっても結論が出ないということは,多分この制度がそれほどの何か矛盾といいますか,国民に説明し切れない欠陥をはらんでいるからこそ出なかったのだと思っています。専門家の方々を前にこんなことを改めて申し上げるのもなんですが,私的録音録画補償金というのは,違法行為をする人のことを決めているのではなくて,ごく普通の人が家庭の中で私的にやることについての補償金の制度のことでございます。私的録画から海賊版を作って違法に売りさばいたりするということによる損害は全くここに入っていないわけですね。制度の見直しの提案は,CDと地上波の放送だけが補償金の対策として当面残るというような案でした。まあ論点が整理されたということに対して消費者委員として一定の評価はしたと委員会で申し上げましたけれども,消費者からみた制度への疑問が解決したわけではありません。例えば議論の中の一つの例を申し上げますと,CDを買うときに私たちは何千円というお金を払っているわけです。その中から権利者さんに著作権料が行くわけですよね。それを家に帰って,例えば自家用車の中で聞くために,1回コピーする行為のどこに補償金を払わなければいけない理由があるかしらという疑問があります。補償金制度のよって立つところは,家庭内で自分のためにする録音,録画が権利者さんに損害を与えているからだという考え方です。それも大きな損害であるということが補償金制度の定義になっていると思います。では私的な録音,録画行為が権利者に損害を与えているのであるとするならば,逆にCDがコピーネバーであったならば,クリエーターの方々は大変儲かるわけですねと尋ねたことがあります。録音による損害があったということは,それがコピーネバーであったらいっぱい売れるということですねと。自家用車で聞くために,消費者はもう一枚同じCDを買うと皆さんお考えなのですねというふうに問いかけました。しかし,それにはお答えがありませんでした。これは一例ですが,こういうようなことからも,制度の考え方そのものに,消費者にとって納得できないものがあることは確かだと思います。だからこそ,こんなに決まらないのではないかと私は思っております。
 それからもう一つ,地上波の放送が当面補償金の対象になるということについてですが,これもまた私は総務省の方の検討の会にも入っておりまして,岡田委員のような権利者を代表するような意見もあったかと思いますが,私は地上波の放送というのは,ビジネスモデルがCDなどのパッケージのメディアと全く異なると思います。無料で広告放送を行っているわけです。それを私的に家の中で録画することについて損害云々ということ自体が,私は違うのではないかと思っておりますし,更に申し上げますと,私は地上放送というのはビジネスですとか,権利者さんの権利という面だけではなくて,報道や災害の特別放送であるとか,大変大事な公共的なメディアであるという側面から考えるべきだと思います。公共性があるということで大変保護を受けた事業でもあるはずです。それなのに,そこに著作権保護技術が当然のようにかけられて,それを担保するためにスクランブル放送がされて,それを解除するためにB-CASカードというような仕組みがあって,そういうものが施されたテレビを国民全員が買わなければ2011年を越えることができないと言われているのです。今,貧困の問題が大変な問題になっておりますが,録画機など全く買わない,録音,録画など全くできない,テレビだけ見たいという人でも,テレビを買うときに,権利者さんたちを守るための仕組みを全部クリアしたものを買わなければいけないことになっています。B-CASカードはテレビについていますから。録画など全くしない人にも影響がある。テレビの価格にもはね返っています。
 このようなことは国民の知る権利の侵害にも当たるかも知れませんし,少なくとも全く権利者さんに損害を与えないような,大多数の消費者の利益を侵害していると思います。そういう面から見ますと,こういう省庁の縦割りの中で幾らこの問題をやっていっても結論は出にくいのではないか。もっと大きな枠組みで考えていく必要があるのではないか。私はもう地上波の放送に関する制度は,全く別の枠組みでやるべきだと考えています。ですから,地上波の放送に関しては,権利者さんの希望,要請による技術が施されるまでみたいなことではなく,別の枠組みで,ここから先は個人的意見と申し上げておきますが,地上波の放送に関しては複製制御をせず,別の方法で問題を整理するべきではないかというふうに考えております。
 以上です。
【野村分科会長】
 大林委員,どうぞ。
【大林委員】
 先ほどこの問題に関して,途中まで合意形成がされつつあったというお話しがあったと思いますけれども,なぜそれが元に戻ってしまったのか。誰にどういう責任があるのかという前に,当事者の一方がアタマから私的録音録画補償金制度は認めないというのであれば,これは幾ら議論をやっても話が元へ戻るのは当然です。しかし,ハード機器の問題点について,今,消費者の方から,非常に重要なご指摘があったと思います。そこに提起された問題は,こういう機器を販売するということについて,どういう責任が生じるのか,つまり,なぜこの補償金制度が必要であるかという,そもそも論です。途中で卓袱台返しと言われる,合意のひっくり返しがあった結果,そもそも論をしなければならない段階まで,戻ってきたのではないかということです。我々も消費者ですからよくわかりますが,消費者の欲求を刺激しながら,こういう機器を販売して利益を上げているということの意味を,そもそも論にもう一度帰って議論しませんかと。会議が,別な枠組みで持たれるということは,この文化論的なそもそも論に回帰することだと思っております。
 それから,もう一つ,小委員会の方でいろいろな議論をされるのはいいのですが,その小委員会の議論の中に,場外で行われている議論を持ち込んで,それを分科会の方に上げてくるという,何か普通とは違う形式もとられていたように感じました。親会として分科会は,きちんと見識を持って議論したいわけですから,重要視していただきたい。従って,ハード機器についてのそもそも論は,親会の分科会で,もう少しがんがんやった方がいいのではないのかと思っております。
【野村分科会長】
 それでは,ほかにいろいろご発言したい方おありかと思いますけれども,まだあと2つの委員会の報告がございますので,私的録音録画小委員会の報告については以上にしたいと思います。
 次は,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の検討結果についてですが,これにつきましては,私が主査をしておりますので私の方からまずご報告をしまして,その後で事務局の方から補足の説明をお願いしたいと思います。
 この過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において,平成19年度及び平成20年度の審議結果を取りまとめましたので,ご報告いたしたいと思います。この過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会では,一昨年の3月以来,権利者不明の場合の利用の円滑化,それから時代の文化の度合いとなるアーカイブの円滑化,法機関の在り方等という3つの課題について検討を行ってまいりました。そして昨年,10月の分科会にご報告しました中間整理について,その後に1カ月間の意見募集を行い,その結果を踏まえて検討を進めてまいりました。2年にわたる検討の結果,一定の結論が得られたものと今後も検討が必要なものがございます。
 内容としては,昨年10月にご報告した中間整理からは,実質的に変更のない部分が多くなっておりますが,今回の報告では結論の得られたもので早期に実施すべき事項を明らかにしております。具体的には,権利者不明の制度的対応について,可能なものから早急に制度的対応を実施すべきであること,国立国会図書館において,資料の本を直ちに電子化できるよう法的措置を実施すべきであることを報告に盛り込んでおります。なお,保護期間の在り方については,結論が得られておりませんが,今後の文化支援施策の在り方等も踏まえて,著作権法制全体としての保護と利用のバランスの調和のとれた結論が得られるように検討を続けることが適当であるとしております。
 詳細につきましては,事務局よりご説明をお願いいたします。
【黒沼著作権課長補佐】
 それでは,引き続きまして事務局の方から詳細についてご説明させていただきます。また資料1-1のこの横長の資料でご説明をさせていただきたいと思います。
 14ページをお開きいただけますでしょうか。14ページ以降が過去の著作物等の小委員会の検討結果でございます。こちら,先ほど主査からのご紹介ございましたように,昨年10月の分科会に中間整理をご報告いたしまして,その後はしばらくの間,意見募集を実施してまいりました。そのこともありまして,小委員会自体は余り多く開かれておりませんので,意見募集の結果を踏まえて,最終的というかこの2年間の段階で結論が得られたもの,それとそうでないところというのを分けて報告書が書かれてございます。
 過去の著作物等の利用の円滑化につきましては,まず権利者不明の場合の利用の円滑化として検討が行われていたわけでございますけれども,検討の結果としましては,まず民間において各種の権利者不明の場合への対応が進められておりまして,その権利者情報の把握など,様々な取組がございますけれども,それは強化充実されるべきだという前提から検討が出発しまして,制度的な対応,そういった民間の取組のセーフティネットとして制度的な対応が必要だということがあったのですが,その制度的な対応としまして,現在の著作権に関する裁定制度,それの手続運用改善,あるいは著作隣接権に関する裁定制度の創設などの検討が行われまして,また新たな制度についても制度設計が検討されました。
 一つは,権利者を捜索する相当な努力を行った上で,一定の機関に申告をすれば,そのまま使うことができるということで,事前支払いは不要というような制度,あるいはもう一つは第三者機関に使用料相当額を支払ってというような制度も検討をされてございます。そのほか,こういったものの折衷的な案を検討すべきというようなご意見ですとか,相当な努力の内容を明確化すべきなど,様々なご意見がありました。こういった様々な検討を受けまして,2年間の報告といたしましては,一番下のところでございますけれども,今後とも必要に応じ,引き続き幅広く検討を行うとともに,現行の裁定制度の手続の明確化なども含めまして,可能なものから早急に制度的対応を実施することが適当ということで,取りまとめをいただいてございます。
 引き続きましてその次のページでございます。アーカイブの円滑化でございます。こちらも昨年の10月の報告以降,意見募集を行いまして,それを踏まえた検討を行ってきたわけでございますけれども,検討結果といたしましては(2)のところでございますけれども,まず国立国会図書館において,納本後直ちに電子化できるようにする必要がある。このための法的措置については,早急に実施することが適当ということでございます。その電子化された資料の利用につきましては,館内閲覧,あるいはコピーサービスのルールについて関係者間で協議をするということでございます。こちらは中間整理と特に変わってございません。また,公共図書館,国会図書館以外の図書館で,損傷,紛失防止のためのデジタル化,あるいは記録技術・媒体の旧式化に伴う新しい媒体への移し替えのためのデジタル化については,現行規定の解釈で可能な部分があるということを明確に書いてございます。
 その他の課題につきましては,中間整理でも法的措置に関係する部分につきましては明確な結論を出しているわけではございませんけれども,多数権利者が関わる場合の利用円滑化,あるいは意思表示システムの在り方につきまして,必要に応じて引き続き検討を行っていくことが適当という形になってございます。
 その次の16ページ以降は,保護期間の在り方についての点でございます。昨年10月の分科会でも詳細をご紹介いたしましたけれども,様々な論点がございまして,一番上のくくりの検討結果のところにございますように,延長に肯定的な立場と否定的な立場の双方から意見があり,結論を得るに至らなかったということでございます。その後,意見募集を行いましたけれども,意見募集でもそれぞれの論点につきまして賛成意見,反対意見,それぞれ来てございまして,小委員会での議論と概ね同じような構図の意見募集の状況でございました。そういったことも踏まえまして,2年間の報告といたしましても,結論を得るに至っていないということでございます。
 その下の各論点につきましては,中間整理の繰り返し,昨年10月のご報告の繰り返しになりますので,紹介は省略をさせていただきますけれども,17ページの一番下の結論のところをご紹介いたしますと,以上の利用円滑化方策も含めた結論でございますが,結論としましては利用円滑化方策のうち,一定の方向性が得られた部分は所要の措置を早期に実施に移すべきということと,それから保護期間の在り方につきましては,延長することとしないことと双方のメリットを受けられる方法等も含めて,今後の文化支援施策の在り方なども踏まえて,著作権法制全体として保護と利用のバランスの調和のとれた結論を得られるよう検討を続けることが適当ということで結んでございます。
 以上でございます。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,10月から余り大きく変わっておりませんけれども,特にご発言ございましたら。
 瀬尾委員どうぞ。
【瀬尾委員】
 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の検討結果も,それほど明確な意見が進んだというわけではない状況がございました。またいろいろな,今日先ほどからのご意見もいろいろ伺っておりまして,非常に考えていることはございます。報告書の内容に関することではなく,意見として述べさせていただきますが,全てに関して法改正を基に話が始まって,全体像を考えて,最後法改正に戻るというふうな,法律をどう変えていくかということが中心に,この審議会また各小委員会での検討がなされているような感じがいたしました。実際にその中で問題として私が考えられるのは,やはり法改正だけで対応できるものではなくて,制度的な新しい制度というものが必要とされているために,法改正だけでの対応が難しくなっているのではないかなという印象を受けております。
 具体的に申し上げますと,例えば国会図書館のアーカイブに関しても,単純に国会図書館のアーカイブの権利制限をすればいいだけなのかという問題ではなく,実際に話していく中で,やはりデジタル出版の問題,いろいろな問題がございます。それからサーチエンジンの問題に関しても,ではサーチエンジンを決めるときにどういう定義をしていくのか。単純に法律で全部サーチエンジンとは何かを書いて,業者さんを全部特定するわけにはいかないわけですから,どういうふうに運用をするかというふうな機関が必要であるとか,今日もたびたび第三者機関とか,そういう何らかの機関において調整というそういう言葉がよく出てきておりますけれども,その機関についての突っ込んだ全体像というのが,私は少々足りないような気がしております。
 つまり,この審議会でそもそも論,全体像をまず見るところから,その一部分として法改正がある。制度も考えられる。そういうふうな検討をこの審議会で行い,そのさらに専門的な部分を小委員会に委ねる。そういうふうな議論の在り方自体を,ちょっともう少し考える時期に来ているのではないかなという気がいたしました。最近の問題というのが非常に緊急性の高い,法改正の緊急性が高い問題が多かったと思いますので,どうしてもそちらを先になることはいたし方ないことかもしれませんけれども,ちょっと今大きな流れの変化の中で,制度的なものをまずこの審議会で考えて,その部分を小委員会で変えていくという方向にしないと,なかなか今後も問題の解決は難しくなっていくのかなという印象を受けております。
 そして特に過去の著作物の保護と流通の小委員会,70年の問題もございますけれども,この中で私は一つ大きな成果だったと思うのは,この中では制度,不明者の場合の制度ということが非常に議論されて,かなりの部分,煮詰められた。こういうふうなことが一つの可能性としてあるというふうに思います。私的録音録画の補償金の制度というのは,これは利害もございますし,大変難しい問題もございますけれども,先ほど大林委員もおっしゃったそもそも論とか,そういうふうなことをやはりきちんと話していかないと,変えたらいいのか,何て書いたらいいのかだけから入ると難しいのかなという,これは私,細かなことに関しては印象というふうなことしかないのですけれども,そんなふうに感じております。
 ですので,今日,ほかの報告も全て聞き,最後の著作物等の保護と利用に関する小委員会の報告も受けて,正直言って決まらなさ過ぎると感じました。その決まらないには原因があると。先ほど河村委員のおっしゃった,決まらないには原因があると。ちょっと言いぶりは違うけれども,私も原因があると思っております。それがどういう原因なのかは分かりませんけれども,私は全体概念が欠如している部分,それと議論の中で法改正だけでない第三者機関を含めたいろいろな制度的な対応が少し足りなかったために決まらなかったのではないかなというふうに思っております。議事の進め方,それから今後の審議会の在り方について,今回は特に結論が少なかったように思いますので,ぜひ一つの意見として考えていただき検討をいただければと思います。
 以上です。
【野村分科会長】
 ほかに。村上委員どうぞ。
【村上委員】
 私は一点,意見のみとなります。
 過去の著作物の利用の円滑化の問題については,権利者不明の場合の取扱いが大きな妨げの原因になるという前提というか,認識で書かれていると思います。それで,もしそうであるならば,ぜひ権利者不明の場合の著作隣接権に関する裁定制度というのは,これはぜひ設けることを積極的に進めてもらいたいと思っています。それでいろいろ障害があるらしいですが,ただこれは先ほど出ているように,権利者と利用者の間の対立があるような,そういう問題ではないと思います。
 それからもう一つが国際的約束とか,条約との関係が書かれているわけですが,ただ日本がこういう権利者不明の場合の裁定制度を設けたとして,外国政府とか外国の著作権団体がそれに対して何か言ってくるとか,苦情を言うということは,これはとても考えられない話だと思います。
 それともう一つが,では民間の第三者機関ならばできるけれども,公的機関である文化庁はできないという,こういう論理もやっぱりおかしいところがあると思いまして,結論としてはぜひそういう意味で,著作隣接権裁定制度を積極的に進めてもらいたいというのが意見になります。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございます。
 ほかにご発言いかがでしょうか。
 三田委員どうぞ。
【三田委員】
 著作権保護期間の延長についてでありますけれども,この2年間,ヒアリングなどを重ねてまいりまして,利用者の方から50年を70年に延ばすと大変不便であるというような声がたくさん聞こえてまいりました。ただこの問題は,例えば谷崎潤一郎の500円の文庫本が50年で切れたから400円になるかというと,ならないわけですね。経済的な問題ではなくて,もしも50年を70年にしたところで,エンドユーザーの方に負担を強いるということはほとんどないだろうというふうに考えられます。
 では,何が問題なのかというと,むしろ無償でやるような,例えば地方の文学館が古い同人誌のようなものをアーカイブするというときに,手続が大変であると。トランザクションコストがかかるというような苦情が大半だったように思われます。また日弁連や書協は,もしも延長するならばそういうトランザクションコストがかからないような利用の円滑化を,ぜひともやっていただきたいというようなご提案もございました。
 それで小委員会の内部でも具体的な利用円滑化のシステムの検討というところに入った段階で審議がストップしてしまったという状況であります。この利用の円滑化については,現在もさらに検討をされるということであります。私ども著作者の団体,17団体が作っております創作者団体協議会というところでは,ポータルサイトを今回実験的に作りまして,2つの機能を持たせたポータルサイトを作って,これをマスコミの方にも発表をいたしておりますけれども,一つは文芸,音楽,美術,写真,漫画などの各団体が持っておりますデータベースにこのポータルサイトからリンクできるような,それからまたポータルサイト上で複数の権利者団体に氏名を登録されている方については検索ができて,その検索の結果に応じて,各団体に飛べるようにというようなシステムを作っております。
 それからもう一つは,権利者,継承者不明のものについて,氏名を尋ね人欄というようなものを設定しまして,これを将来的には宣伝をして,多くの人々にそこを見ていただいて,現在,著作権情報センターで現行の裁定制度に関連をして,公示をしておりますけれども,それが今後も続くようでありましたらば,そこにリンクをする,あるいは別の第三者機関ができるのでありましたら,そこへリンクする。あるいはこのポータルサイトで同様の機能を持たせるということであれば,それもできるような窓口としてのこの尋ね人というものを設定しております。
 利用者の方が,こういうものを利用していただいて,まずデータベースを使って権利者を探す。探してもないものについてはここに公示をして,現行の裁定制度でも一定期間,著作者を探す努力をすれば,裁定制度にかけることができるということになっておりますけれども,それを簡略化することによって,著作権の保護期間を延長することによるデメリットというものの一部,あるいは大半が軽減されるのではないかなというふうに考えております。
 あとは一刻も早く,その利用促進の制度を確立していただければ,問題は解決するのではないかなというふうに考えておりますけれども,一方では様々な問題提起をして,議論を引き延ばそうとされる方もいらっしゃることも事実であります。
 この点について,さらに慎重な議論が必要であるという考え方を全く理解できないわけではないのですけれども,昨年も議論の途中で,去年の年末ですか,今年の1月1日ですか,横山大観先生の著作権が切れてしまったわけであります。著作権というのは,個人の権利であります。公共性の問題とか,あるいは国のコンテンツの輸入超過であるとか,そういう議論はいわば公の論議でありますけれども,その論議が長く続いていく間にも,一人一人の著作権が切れていくということがあります。そういう大きな議論の中で,個人が犠牲になっているというのも事実であろうと思います。横山大観先生は去年,国立美術館等で没後50年展というのがやられておりました。テレビなどでもスポット広告が流れておりまして,その広告を見るたびに私は胸がずきんとするようなそういう痛みを感じておりました。
 そういうことが毎年毎年,どこまで続いていくのだろうという危惧を私は感じております。そういう個人が犠牲になることがないように,なるべく早急に議論を進めていただきたいということを申し上げたいと思います。
【野村分科会長】
 ほかにいかがでしょうか。
 それでは,過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の報告についても以上にしたいと思います。
 これまで3つの小委員会の検討結果についてご報告いただいておりますけれども,この検討結果につきまして,資料1-2として配布されているように,このような体裁で当分科会の報告書としたいというふうに思いますが,事務局より報告書(案)の全体の構成と今後の取扱いについて,まずご説明をお願いいたします。
【山下著作権課長】
 それでは,ご説明申し上げます。資料1-2の2分冊になっている最初の分冊でございますけれども,表紙をめくっていただきますと目次がございます。それで第1編から第3編までは,先ほどご報告いただきました各小委員会の報告内容になっているわけでございますけれども,この最初のところに「はじめに」というというものを追加し,また最後のところに「おわりに」というものを追加した形でこの報告書を作成してございます。
 1枚めくっていただきますと「はじめに」がございまして,ここはこれまでの本分科会の検討の枠組み,それから経緯について記載をしておりますが,なお一番下の2行にございますとおり,国際小委員会につきましては後ほど主査代理の大楽先生からご報告がございますけれども,引き続き検討ということでございます。
 そしてもう一冊の方の,恐縮でございますけれども,207ページをお開きいただきますと,こちらの方に「おわりに」を記載してございます。207ページでございます。こちらの方でございますけれども,最初のパラグラフで3つの小委員会報告の中で,今後の方向性,基本的な考え方をまとめた旨,それから結論が得られた課題のうち,制度的措置が必要になる事項は,順次速やかに実施されることを期待する旨,それから続けまして第2パラグラフの方でございますが,補償金制度の見直し,あるいは保護期間の延長問題などについて,引き続き検討を進めることが必要である旨を記載しております。
 そして最後に今後も本分科会においては,著作権制度が文化の振興を目的としていることを踏まえつつ,社会の変化等に対応し,諸課題について必要な検討を進めていくといった形で締めくくらせていただいているところでございます。
 また,本報告書の今後の取扱いでございますけれども,本日の会議で報告書としてご了承いただけましたならば,これを公表させていただくということにしたいと思っております。さらに今週29日(木)に文化審議会の総会が開催されることになっております。その場で野村分科会長からご報告をいただくことを考えているところでございます。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。
【野村分科会長】
 ありがとうございました。
 それでは,ただ今の事務局からの説明について何かご意見ございますでしょうか。
 広崎委員どうぞ。
【広崎委員】
 経団連の立場から多少コメントをさせていただきたいと思いますが,先ほど来,いろいろなご議論がありましたように,幾つかの課題については本質的に議論をしている場といいますか,これがちょっと乖離しているものがあって,これまでのやり方ではなかなか難しいんではないかといったような課題が見受けられております。
 一方で,ご案内のとおり,現在グローバルな産業構造,あるいは経済構造の中で,日本全体がどうやって次の成長をしていくのか,その基盤を築いていくのかということは,各利益団体個々の問題というよりも,社会全体の課題だというふうな認識を経団連としてはしておりまして,その観点から先ごろデジタルコンテンツ流通促進法制に関しまして,一つの案なのですけれども,2つの土俵を作ってみようと。古い土俵と新しい土俵。そういう考えの基に,複線型著作権法制の導入について,産業界で検討した内容の提言を公表させていただいたところであります。したがいまして,今後各種の議論を平行線に終わらせないためにも,ぜひご参考にしていただければと思いますので,よろしくお願いします。
【野村分科会長】
 ほかにこの報告書の構成について,何かご意見ございますでしょうか。
 宮川委員どうぞ。
【宮川委員】
 今から報告書の構成を変えられるとも思っておりませんが,以前この場でも日本版フェア・ユース規定の導入ということが話題になり議論もされたというふうに記憶しておりますし,またこの報告書にご指摘がありますように,知的財産戦略本部の調査会からも一定の報告が出ている時点で,この報告書の中で,フェア・ユース規定についてどこに何が触れてあるのだろうと見ましても,タイトルにもその言葉は出てきませんし,この第3編の何節,何章ですか,探すのも大変なのですけれども,第4章の,その他の課題の中の最後の第5節というところですかね。よく探していただいても分からないと思いますが,目次でいいますと,119ページですね。というように,非常にどこにあるのかも探しにくいような場所に載っているような状態ですが,やはりこれは今後の著作権法にとっても非常に重要な問題だというふうに私は認識しておりますし,日弁連としてもフェア・ユース規定については賛成を提示し,立法技術としていろいろな問題点を提示しているところですので,この場所は非常に見にくいところにありますが,今後も議論を積極的に続けていただきたいと思っております。
 以上です。
【野村分科会長】
 従来から小委員会ごとに分科会へご報告いただいて,その報告をとじた形で分科会の報告にするという形でやってきておりまして,今後の検討課題の中でいろいろ軽重あると思いますけれども,本日ここにお出ししておりますのは,そういう形で従来の形式で出しておりまして,その他の課題に入れられたから重大ではないということではありませんので,その点はご理解いただければというふうに思います。
 ほかにご意見よろしいでしょうか。
 三田委員どうぞ。
【三田委員】
 横書きの9ページのところに,その他の課題についてというところで,権利制限の一般規定と書いて,括弧して日本版フェア・ユース規定というふうに書かれているわけでありますけれども,私の見解では,アメリカで長い年月をかけて,また裁判による判例の積み重ねがあってできているアメリカの制度であるフェア・ユースというものを,いきなり日本に導入することは,フェアではないというふうに考えております。ですからフェア・ユースという言葉が一人歩きするということは,なるべく避けることが適当ではないかなというふうに思っておりますので,この文化庁のこの書きぶりでありますと,権利制限の一般規定というのがフェア・ユースのことなのだという見解なのでしょうけれども,できればこれぐらいにとどめておいて,そういう既存の概念でなるべく説明をするということで,フェア・ユースという言葉だけが一人歩きすることの内容にご配慮をいただきたいというふうに思います。
【野村分科会長】
 それでは,いろいろご意見いただきましたけれども,報告書そのものについては,特に修正を加えないまま文化審議会の総会に出すということでよろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

(3)平成20年度国際小委員会の審議経過について

【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは最後に残りました国際小委員会の審議経過について,大楽主査代理よりご報告をお願いいたします。
【大楽委員】
 今年度の国際小委員会の審議経過について,ご報告いたします。
 国際小委員会では,今後日本がどのような国際的な対応をするべきかというところで検討をいたしました。国際的に著作権等の保護と利用促進の観点と,この両方の観点から検討をいたしました。お手元の資料2のところをご覧いただければと思います。
 具体的には近年の著作権をめぐる国際的な動向を分析しようということで,国際ルール形成検討ワーキングチームというのを設置いたしまして,そこで現状の検討を進めました。それを踏まえて,国際小委員会として今後の優先課題というものを明らかにして,優先順位を明確にいたしました。
 ご報告の内容は2つの部分からなっておりまして,まず第1に近年の著作権をめぐる国際動向に関する認識ということですけれども,現状といたしましては,一つは1995年にWTOが発足いたしまして,その中でTRIPS協定というのが組み込まれて出てきた。それによってそれまでの国際的な著作権保護の枠組みというものが,ベルヌ条約とか,ローマ条約に基づいてコンセンサス方式で概ね行われてきたという状況から,WTOの枠組みの下でのより強い拘束力というものが考えるようになってきていると。そして,WIPOの中でのコンセンサス中心の国際秩序に変動が起きているというふうに考えられるということが一つございました。
 例えば,ワーキングチームの報告というのが,今ご覧の資料2の次の紙,13分の3というページのところにございますけれども,1.本ワーキングチームの目的 というところにもございますように,その後96年にはWIPOの中でインターネット,そしてデジタル化時代に対応するためのいわゆるインターネット条約というものが,2本,WCTとWPPTというふうに成立してきたわけですけれども,その後,今の13分の3というページに第1パラグラフの終わりの方にございますように,皆様よくご存じのように,視聴覚実演ですとか,放送条約の件では進展が見られず,暗礁に乗り上げた状態になっているわけです。非常に国際的な合意の形成というのが難しい状況になっていると。
 その背景には,どうも2つの要因があるのではないかと。一つは,グローバリゼーション,情報技術の発展で,いわゆる経済の融合が進む,相互依存が進むと。そういう中で先進国と途上国のスタンスの差というのが非常に明らかになってきている。一つは,1ページ目のところですけれども,下から2つ目のパラグラフにありますように,先進国の方ではエンフォースメントの実効性を確保して,権利を確保しようと。そういうところに重点が置かれるようになってきている。そして,さらにどういうふうに実効性を確保するかという手段も,国際条約,つまりマルチの手段でだけではなくて,複数国間,2国間というような多層的なものへとシフトしつつあるというのがございます。
 一方,途上国の方では,むしろ例えば放送条約の混乱にも見られますように,むしろ知識へのアクセスというのが必要なのだと。権利制限というようなものを前面に押し出すというような形で,むしろ国際的な著作権制度に柔軟性,公益性をもたらすというようなところに重点を置いていると。途上国は途上国で多数の国の間の連携をベースにして,そういう中で国際条約,拘束力のある条約という形での実現をねらっていると,そういう動きがどうもあるようであります。
 そういう中で,非常に国際的な交渉というのが複雑になってきているという状況の中で,日本はどうすべきか。日本は従来から多数国間の複数国のというよりは,多数国のマルチの場を中心として交渉を考えてきているわけですけれども,いろいろなアプローチによって,より実現性の高い方向を模索することが必要になってきていると。そこでこの2つの流れとして,実効性を高めるためのエンフォースメントへの取組をすること,それから開発からの視点による知財のとらえ直しという開発と知財の問題について,両方について具体的な対応を日本としてはどうするかということを検討することが不可欠であるというようなことを,現状認識として出しました。
 これに基づいて次のページなのですけれども,国際対応の観点からの優先課題として,まず4点を国際小委員会ではワーキングチームのこの報告を受けて引き出してまいりました。第1に,著作権保護に向けた国際的な対応といたしましては,今,暗礁に乗り上げているとも見られる視聴覚の実演に関する条約交渉,それから放送機関の方の条約交渉,それぞれのその保護について,視聴覚実演の保護,放送機関の保護について,WIPOでの議論を十分に踏まえつつ今後の対応の在り方について,国際小委員会でも検討しようと。
 第2に国境を越えたエンフォースメントについて,実効性確保を考える対応をしようと。その第1点としては,準拠法と国際裁判管轄について,日本の著作権関連ビジネスを円滑化すると。そういうことに資するような国際ルールはどのようなものか。それを米国とか欧州で検討が進められているモデルを踏まえつつ検討しようと。
 また,第2点として,デジタル化ネットワークが進んでいる中で,国境を越えた侵害行為というのが多発しているわけですけれども,その権利執行について実効性確保をするためには,どのような方策があるか,国際動向も踏まえつつ検討したいと。
 また,第3に,開発と知財問題への対応として,途上国での開発問題について,知識の利用を促すような法制度,それからその運用,そういうものについてWIPOなどの動向を踏まえつつ検討する。また開発関係のトピックスとしては,フォークロアというものが長年出ておりますけれども,フォークロアへの対応については,ガイドラインとか,モデル規定というものの在り方を検討していきたいと。それはフォークロアへの対応を考えるときに,地域によっても民族の特性によっても,その対応,必要とされる対応が違ってくるはずですので,柔軟な対応が可能となるということから,ガイドライン,モデル規定を検討しようではないかということであります。
 第4に,その他の検討課題として,これらの課題を踏まえて,TRIPS,その他二国間協定ですとか,協力関係への対応の在り方をどうするか,また著作権制度関連制度の運用における国際協力は,どのようにあるべきかということも検討したいというようなことが,主な課題として出てまいりました。この中で,優先順位をつけるとするとどうなるか審議をいたしまして,まずは第2の国境を越えたエンフォースメントの実効性確保に向けた対応というものを優先すべきではないかと。そのネットワーク化に対応した海外の法制度の整備は進んではきておりますけれども,海外での侵害行為への権利執行については,なかなか実効性の確保が十分ではございません。手続に不透明なところがあったり,煩雑であったりというところがございます。
 そこで,海外の実態の情報収集,分析が必要となるであろうと。そしてまたこれに関しましては,準拠法,それから国際裁判管轄の在り方について,日本としても国益の観点から望ましい形を検討すべきであるという結論が出ました。
 そして第2に,著作権保護に向けた国際的な対応の第1の課題の点ですけれども,そのハーモナイゼーションに向けた意欲が,このような頓挫をするような状況の中で後退しないように,重要な課題として位置づけ,そして引き続き検討を継続すべきであると,このような結論になりました。
 以上です。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。
 それでは,ただ今のご報告について何かご質問等ございますでしょうか。
 よろしいでしょうか。
 それでは,予定した議題は以上でございまして,若干時間を過ぎましたけれども,本日は今期最後の著作権分科会ということでございますので,高塩文化庁次長から一言,ご挨拶をお願いいたします。

(4)その他

【高塩文化庁次長】
 失礼いたします。今期の著作権分科会の閉会に当たりまして,一言御礼を申し上げたいと思います。
 委員の皆様方には大変ご多忙のところ,熱心にご協議を賜りまして誠にありがとうございました。これまでの皆様のご尽力に厚く御礼を申し上げる次第でございます。
 本日,各小委員会から検討結果についてご報告をいただきました。大変多岐にわたる問題につきましてご審議をいただきまして,方向性につきましてお示しいただいたことについて御礼を申し上げたいと思っております。
 これらの事項のうち,著作権に関わる法律改正が必要なものにつきましては,早期にできる限り早く法案化をいたしまして,現在開かれております通常国会に3月上旬の閣議決定を目指して準備を進めたいと思っております。政治情勢は若干流動的でございますけれども,行政としては粛々として準備を進めたいと思っております。
 また,本日この議論が出ましたけれども,今期の著作権分科会につきましては,今後も引き続き検討すべき課題として,多くのものが残されているわけでございます。私ども文化庁といたしましては,来期も引き続きこの著作権分科会におきまして,精力的なご審議を賜りたいと思っております。その際,内閣府に置かれております知的財産戦略本部,また総務省等の審議会との連携も従来どおり図ってまいりたいというふうに思っているわけでございます。
 先生方には,引き続きお力をお貸しいただきたいと思っておりますので,その際にはどうぞご協力をお願い申し上げたいと思っております。私ども文化庁といたしましては,これまで以上にこれら残された課題につきまして,精力的に取り組んでまいりたいと思っておりますので,どうぞご指導を引き続きお願い申し上げたいと思っております。
 最後に改めまして,先生方のご尽力に対しまして御礼を申し上げまして,ご挨拶とします。本当にありがとうございました。
【野村分科会長】
 どうもありがとうございました。私からも委員の皆様にお礼を申し上げたいと思います。1年間いろいろ熱心にご議論いただきまして,一定の結論,あるいは方向性が得られたものも少なくありませんが,他方で難問あるいは重要な問題が残されておりまして,これが次期以降にできるだけ議論を進めていければと思っておりますので,今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
 どうもありがとうございました。

(5)閉会

【野村分科会長】
 それでは,以上で著作権分科会を終わりたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
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