文化審議会著作権分科会(第47回)(第17期第2回)

日時:平成29年4月26日(水)
10:00~11:30

場所:霞山会館霞山の間


議事

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)文化審議会著作権分科会報告書(案)について
    2. (2)その他
  3. 3閉会

配布資料

資料1
文化審議会著作権分科会報告書(案)(2MB)
資料2
教育の情報化に係る権利制限規定の見直しに関する規制改革推進会議の意見への対応について(案)(116KB)
参考資料1
法制・基本問題小委員会中間まとめ(平成29年2月)に関する意見募集の結果について(471KB)
参考資料2
遠隔教育の推進に関する意見(平成29年4月25日規制改革推進会議)(1.1MB)
出席者名簿(56.2KB)

議事内容

【道垣内分科会長】少し時間の前かもしれませんが,御出席予定の方は皆さんいらっしゃっていますので,ただいまから文化審議会著作権分科会第47回を開催いたします。

本日は,御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

議事に入る前に,本日の会議の公開につきまして,お諮りいたします。本日予定されております議事の内容を参照しますと,特段,非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴の方々には御入場いただいているところでございますが,この点,特に御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内分科会長】ありがとうございます。それでは,傍聴の方には,そのまま傍聴していただくことにいたします。

まず,前回御欠席をされていらっしゃった委員の中で4人の方が御出席いただいておりますので,御紹介させていただきます。

まず,北郷悟委員。

【北郷委員】北郷でございます。よろしくお願いいたします。

【道垣内分科会長】末吉亙委員。

【末吉委員】末吉でございます。よろしくお願いいたします。

【道垣内分科会長】茶園成樹委員。

【茶園委員】茶園でございます。よろしくお願いします。

【道垣内分科会長】前田哲男委員。

【前田委員】前田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【道垣内分科会長】よろしくお願いいたします。

なお,本日は,木田委員が御欠席でございますけれども,同委員からの申出により,代理として日本放送協会の佐藤様に御出席いただいております。よろしくお願いいたします。

【木田委員代理(佐藤氏)】よろしくお願いします。

【道垣内分科会長】では,事務局から,配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元に議事次第を御用意ください。配布資料1としまして,著作権分科会報告書(案),資料2としまして,規制改革推進会議の意見への対応について(案),参考資料1としまして,中間まとめに関する意見募集の結果について,参考資料2としまして,遠隔教育の推進に関する意見でございます。不備等ございましたら,お近くの事務局員までお知らせください。

【道垣内分科会長】よろしゅうございますか。

では,議事次第を確認したいと思います。本日の議事は,文化審議会著作権分科会報告書(案)についてでございまして,何かあれば,その他として御審議いただきます。以上,2点でございます。

では,早速,議事に入らせていただきます。3月の著作権分科会において法制・基本問題小委員会の中間まとめについて御報告を頂いたところでございますけれども,今般,同小委員会において引き続き議論が行われ,報告書が取りまとめられました。そのため,本日は,その御報告を頂き,その上で分科会としての報告書の取りまとめに向けて議論を行いたいと思います。

では,同小委員会の検討結果及びこれを踏まえた分科会報告書(案)について,同小委員会の主査をお務めでいらっしゃいます土肥委員から御説明いただき,必要があれば,事務局から補足ということにさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【土肥委員】それでは,私から御説明を申し上げます。法制・基本問題小委員会では,2月に中間まとめを取りまとめておりまして,3月の著作権分科会において報告をさせていただきましたけれども,このたび小委員会として最終的な報告書を取りまとめましたので,御報告させていただきたいと思っております。

中間まとめに関しましては,小委員会において2月に取りまとめた後,意見募集をさせていただきました。意見募集におきましては,様々なお立場から,全部で412件もの多数の意見を頂戴したところでございます。本小委員会では,頂戴した御意見を踏まえ,4月21日に議論を行いました。中間まとめの内容を基本としつつ,頂戴した御意見を踏まえた修正,その他必要な修正を行い,報告書を取りまとめておるわけでございます。

詳細につきましては,事務局から説明をお願いしたいと存じます。よろしくお願いします。

【秋山著作権課長補佐】御説明いたします。まず,お手元に参考資料1を御用意ください。こちらは,法制・基本問題小委員会の中間まとめに関する意見募集に対して御提出いただいた意見の結果に関する資料でございます。意見募集は,2月28日より1か月程度行いまして,412件のうち,団体178件,個人234件,章ごとの件数はこちらに記載のとおりでございます。主な意見の概要は2ページ以降に記してございまして,矢印としましたところが,丸に示させていただいた御意見の概要に対する小委員会としてのコメントを整理いただいたものでございます。また,御意見の中には矢印でコメントを付していないところもございますが,こちらに関しては,今後の行政における制度設計や運用若しくは審議会の審議といったものにも参考にさせていただくところも多々ございますが,コメントとしては割愛させていただいたものであることを御承知おきいただければと存じます。

では,以下,意見募集の結果を簡単に御紹介したいと思います。

まず,2ページをお願いいたします。第1章,新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等に関する御意見の概要でございます。まず,第2節,検討手法に関する御意見としましては,ニーズ募集という取組について,御評価を頂いているという御意見がございました。それから,第3節は,権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等に関する御意見,2ページにおきましては,アンケート調査の実施等々,こうした手法について積極的に御評価いただく御意見が複数寄せられてございます。一方,3ページから6ページにおきましては,とりわけアンケート調査の手法や評価の方法等々につきまして,そうした検討手法に対する御批判というものが多々寄せられておるところでございます。こちらにつきましては,個別の御批判に対してコメントをさせていただくということで,それにお答えしたということになってございます。

少し飛ばせていただきまして,7ページでございます。(2)の制度整備の基本的な考え方に関する部分でございますが,ここでは,大枠どういう御意見があったのかということのみ,御紹介させていただきたいと思います。まず,大きく分けて三つのうち,一つでありますところの柔軟性のある権利制限規定の導入に消極的又は慎重な御意見というものも,権利者団体の皆様を中心として,一定数御提出いただいたところでございます。理由付けといたしましては,侵害行為の増加や権利者の負担増といったことですとか,そもそも我が国の法体系や訴訟に関する現状になじまないといった御意見ですとか,不公正な無断使用の助長といったことが,7ページ目では挙げられておるところでございます。また,8ページ目の御意見としましては,ライセンス市場との競合に関する御懸念,さらには目的外使用の危険性といったことについても懸念が示されているところでございます。こうした懸念につきましては,矢印のところで,審議会の考え方や今後の制度設計,運用における配慮といったことを付記しておるところでございます。

次に,一般的・包括的な権利制限規定に関する御意見としまして,例えば,9ページの一番上の丸にございますように,今回,調査研究の方で行いましたアンケート調査等の結果を踏まえまして,一般的・包括的な権利制限規定は,我が国においては必ずしも利用促進につながるものではなく,むしろ不公正な利用の助長など,負の影響が予測されるという状況認識は今後も重視すべきであるという御意見や,これに類する御意見が複数寄せられてございます。

次に,二つ目の御意見としまして,中間まとめの提言する制度整備の考え方に肯定的な御意見としましては,権利者団体のうちの一部の皆様,それから,日本弁護士連合会様,日本経済団体他連合会様,その他経済関係団体の皆様等々から,肯定的な御意見をお寄せいただいておるところでございます。詳細は割愛させていただきます。

次に,三つ目,一般的・包括的な権利制限規定の導入を求める御意見というところでございまして,こちらは先ほども御紹介しましたような検討手法に対する御批判もございまして,一般的・包括的な権利制限規定の導入に向けた議論を継続すべきであるという御意見を頂戴してございます。こちらに対する小委員会のコメントにつきましては,矢印の方で整理を頂いておるところでございます。

その他,柔軟性のある権利制限規定につきましては,かなりの数,御意見が寄せられておりまして,全て御紹介することは割愛いたしますが,11ページの下の(3)以降,マル1では第1層に関する御意見,それから,13ページ以降,第2層に関する御意見ということで,主に権利者団体の皆様から,こういう場合はどうかというふうな御懸念を様々寄せられてございまして,そうした御意見に対しては,矢印のところで逐次お答えをしておるという状況でございます。19ページの方では,権利制限規定の整備に関連する事項としまして,普及啓発の推進といった事柄ですとか,20ページでは,ライセンシング体制の充実という中で,裁定制度の充実といったことも含めて,御意見が寄せられているところでございます。

次に,22ページをお願いいたします。教育の情報化の推進等に関しましては,今回は授業の過程における公衆送信に係る権利制限規定を御提言いただいたところでございますが,こちらは,賛同するという御意見が複数の団体からお寄せいただいておる一方で,権利者の関係の団体様からは,これに反対するという御意見も寄せられていたところでございます。

あと,論点としましては,23ページ,マル3にありますように,権利者の利益を不当に害する範囲というところが抽象的であるというような場合に,権利者の市場との競合ということを懸念するという趣旨の御意見が多々寄せられておりまして,ただし書の解釈の明確化といったことが求められているというふうに承知をいたしております。

そのほか,24ページのマル6では補償金制度の是非に関して賛否両方の御意見をお寄せいただいておりますし,また,マル7,補償金制度の運用に関しましては,教育機関と権利者側の協議をしっかりやっていくという中で,文化庁,政府の適切な仲介・関与を求めるという御意見もございました。

それから,26ページの方では,法の運用面の課題としまして,こちらも,教育コミュニティの方々にガイドラインの作成ですとかライセンススキームの構築において積極的な参加を得たいということで,これも政府の関与を求めるという御意見も寄せられてございます。

その他の論点としましては,27ページでは,著作権法に関する研修・普及啓発の充実といったことですとか,ライセンス環境の整備・充実,それから,法解釈に関するガイドラインの整備といった,もろもろの論点についても御意見をお寄せいただいております。また,教材の共有等やMOOC等に関しても,御意見を頂いております。こちらはちょっと割愛させていただきます。

次に,31ページでございます。デジタル教科書に関しましては,中間まとめに御提言いただいた内容を支持する御意見が寄せられておりますし,さらに,それに加えまして,デジタル教科書に付属する音声・動画等も併せて対象とすべきであるという御意見も寄せられておるところでございます。また,そのほか,32ページ(4)にございますように,33条,教科書に関する権利制限規定に併せて,33条の2,障害を有する児童生徒等のための拡大教科書等の作成といった規定に関しても,併せて整備をするべきであるという御意見を頂戴してございます。

次に,ここから第3章は障害者関係,第4章はアーカイブ関係でございまして,雑駁な御説明で恐縮ですが,おおむね中間まとめの方向性を支持していただくという御意見が中心でございまして,一部,運用上の配慮を要する事項等々についての御意見も若干あるといったところが大枠でございます。

パブリックコメントに関しては,御説明を以上とさせていただきたいと思います。

続きまして,こうしたパブリックコメントの御意見ですとか,その他もろもろの観点からの修正内容を御紹介したいと思います。本日は,便宜上,中間まとめから小委員会の報告書としてまとめられたものをベースとして,著作権分科会の報告書(案)を御用意いたしましたので,そちらの方で御紹介をしてまいりたいと思います。

まず,41ページをお願いいたします。こちらは,柔軟性のある権利制限規定に係る具体的な制度設計の在り方,その第1層に関する基本的な説明をしたページでございますが,こちらに脚注53を追加しております。こちらは,新たな情報財検討委員会と言います,知的財産戦略本部の下に設置された会議における,3月に公表された報告書を受けての記載でございます。同検討委員会におきましては,AIの開発を進めるという観点から,学習用データの作成及び特定当事者間を超えた提供・提示についても課題として挙げられておりまして,こうしたことも一定の要件を満たす限りにおきましては第1層の中でも捉えることができるのではないかという趣旨を脚注53として追記をさせていただいております。

次に,42ページをお願いいたします。脚注54を若干修正いたしております。こちらはややテクニカルなものでありまして,第1層で権利者の利益を通常害さないとしつつも,しかし害する場合があるのではないかということの具体例を挙げたものでございまして,若干,表記の修正をしております。

それから,51ページをお願いいたします。こちらは第2層に関する記述がされているところのうち,ウとしまして,著作権以外の権利についてのチャプターでございます。こちらにつきましては,パブリックコメントの方で,プライバシーやパブリシティのみならず,著作者人格権についても当然に配慮をするべきであるという御意見を頂戴しまして,その旨をここに明記させていただいたというものでございます。

次に,67ページをお願いいたします。こちらは柔軟性のある権利制限規定の章の最後のページに当たるところでございまして,今後の検討課題というところでございますが,ここに図書館等における複製等に関わる情報を若干追加しております。脚注107を追加いたしました。細かい話ですので,御説明は割愛させていただきます。

それから,71ページをお願いいたします。71ページの一番下のパラグラフで,初等中等教育機関におけるICT活用教育の実施状況に関するデータを追記させていただきました。

次,76ページでございます。こちらでは,アの(ア)のところで,授業の過程において行われる公衆送信に関する現行法の説明をしておるパラグラフでございますが,今回,議論の対象となっております,複製,同時公衆送信,異時公衆送信と俗に呼称しておりましたところの概念がより分かりやすくなるようにということで,略称の設定の仕方等,改めて整理をさせていただいたというところでございます。

次に,82ページをお願いいたします。82ページは教育の情報化の授業の過程における公衆送信に係る権利制限規定の導入の結論部分に関わる部分でございますが,上から三つ目のパラグラフの脚注146におきまして,公の伝達権についての規定の整備についても検討をする必要がある旨を新たに追記いたしております。

それから,87ページをお願い申し上げます。こちらは教育の情報化の権利制限に関わります補償金請求権に係る制度設計についてというチャプターでございまして,こちらでは,補償金管理団体の設立見通しについて,4月17日にアップデートがございましたので,その状況を書き加えさせていただきました。

それから,90ページをお願いいたします。こちらは,教育の情報化の関連で,教育機関における著作権法に関する研修・普及啓発に関する部分でございます。こちらは,パブリックコメントにおきまして,ACCS様から普及啓発の方法としまして既存の教材の周知といったことも重要であるという御指摘を頂きましたことから,90ページの「なお」から始まるパラグラフのところにその趣旨を追記させていただきました。

次に,97ページをお願いいたします。こちらは,二つ前に御紹介申し上げた,教育利用に関する著作権等管理協議会における検討状況の時点更新をいたしております。

それから,106ページでございます。こちらはデジタル教科書に関する権利制限規定の結論部分のページでございますが,こちらに,先ほどパブコメで御紹介いたしましたように,教科用拡大図書等に関する33条の2の手当てについても検討を行うべき旨を追記いたしております。

主な修正点につきましては,以上でございます。よろしくお願いいたします。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

今御紹介いただきました小委員会の議論を踏まえて現在の資料1の分科会報告書(案)になっているわけでございますけれども,パブリックコメントが412件も寄せられており,また,特にアーカイブ化の利活用の促進のところについては外国からも多数の御意見を頂いておりまして,それを参考資料1で分かりやすくまとめていただいております。今後の審議のためにも,この資料は価値があるものかと思います。

パブリックコメントの手続の外でもこの分科会報告書(案)に御関心を持っていただいているところがございます。それは規制改革推進会議です。同会議は,教育の情報化の促進等の観点から,昨日ですが,意見を公表しております。本報告書の提言に関わる部分がございますので,まず,パブリックコメントとは違いますが,外から寄せられた意見ということで,その取扱いについて議論をしたいと思います。

つきましては,事務局から,規制改革推進会議の意見と,それへの対応案について,御説明いただけますでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】御説明申し上げます。先ほど分科会長から御紹介がございましたように,政府の規制改革推進会議から,教育の情報化に関して御意見を頂戴しております。資料としましては,資料2及び参考資料2を用いて,御説明をしたいと思います。

その前に,規制改革推進会議の位置付けについてですが,皆様,御承知かと思いますが,こちらは内閣府に設置された会議でございまして,各省庁横断して規制改革の全体の方針を政府レベルで定めていくということをミッションとされている会議体でございます。今回,4月25日に出された意見を参考資料2で御用意しておりますが,こちらは会議としての御意見ということでございまして,行く行くは規制改革推進会議としての答申といったことにもなろうかと思いますし,また,例年でございましたら,文部科学大臣も署名をします閣議決定の中でこうした内容も踏まえた規制改革推進計画というものが定められまして,様々な政府計画とともに今後の政府の行政計画の一つをなしていくということになるわけでございます。本日の御意見はその前段階のものであるという位置付けと,御理解いただければと思います。

では,資料2を基に,問題の所在と経緯を御紹介したいと思います。こちらのペーパーは,事務局において案を作成させていただいたものでございます。題名は,「教育の情報化に係る権利制限規定の見直しに関する規制改革推進会議の意見への対応について(案)」と題するものでございます。

まず,1ポツ,問題の所在と経緯でございます。現行法第35条第2項は,遠隔地にある複数の教室間で中継して同時に行う授業,いわば合同授業とも言えると思いますが,そのための公衆送信については,権利制限の対象としております。これを以下,同時授業公衆送信と便宜上呼ばせていただきたいと思います。一方で,教員のみが一方の方におりまして,そこには児童生徒等がいない,もう片方の地域には児童生徒が教室にいるというタイプ,これはスタジオ型のリアルタイム配信授業のための公衆送信とここでは説明をしております。そしてこれを,ちょっと長いのですけれども,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信と,略させていただくことといたします。こうした行為につきましては,35条2項は対象とはしていないというものでございます。なお,35条2項は平成15年に改正により追加された規定でございますが,当時は,一つの教室で授業をしていたというものを,学び合いといいますか,双方向で学習をし合うということを他の地域とつなぐことでより高い教育効果を得ようというようなこともあったのだと聞いておりますけれども,そうした授業を念頭に置いて,そうした範囲に限って権利制限規定が設けられたという経緯であろうと認識しております。その意味でスタジオ型は35条2項の対象には入っていないということでございます。

一方,現在,規制改革推進会議では,遠隔教育に係る規制改革を検討課題の一つとして議論を行っております。著作権は私人の財産権でありまして,厳密には規制とは言えないようなふうに思われるわけでございますが,いずれにしましても同会議ではスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信に係る著作権法上の取扱いを課題として挙げられているという状況でございます。本課題を取り扱っている規制改革推進会議投資等ワーキング・グループの本年4月5日に会合におきまして,文化庁も呼ばれました。そこで,現在の35条の考え方ですとか,現在の文化審議会における制度改正の検討状況についての説明が求められまして,また,補償金請求権の付与の考え方といったことについても質疑がなされたという状況でございます。ワーキング・グループにおける議論においては,これまで以下のような指摘がなされているところでございます。なお,用語につきましては,便宜上,今回,いろいろ定義させていただいた用語に差し替えさせていただいております。

まず,指摘の第1でございます。スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信は,これまで教室でなされていたことをオンラインという新たな技術でやっているだけのことである。複製,同時授業更新送信,それから,今,権利制限の対象となっていないスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信とでは,学校の授業のために著作物を利用するという点で同質な行為であり,著作権者の利益の侵害の度合いは異ならないため,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信のみを補償金の対象とすることは適当でないという御指摘を頂いております。こうした御指摘の背景には恐らく,現在,高等学校でやられている遠隔授業を規制改革推進会議では主なテーマとしておりまして,一クラスたかだか数十人というところでありますので,リアルタイム配信授業であっても不利益は少なかろうというような判断があったのではないかと想像されるところでございます。

それから,指摘の第2としまして,これは,私どもからの御説明としまして,現在,許諾の対象となっているところにつきましては,審議会の御判断によりまして少なくとも補償金の対象とすべきだという方向で議論が進んでおりますという御説明を申し上げたところ,それに対して頂いた御指摘でございます。著作権分科会法制・基本問題小委員会では,現行法上無償の範囲については補償金請求権の対象としないとしているとのことだが,同時双方向型の遠隔教育は平成27年4月から高等学校について解禁されているということから,そのタイミングでこれも無償の権利制限の対象としておくべきであったのではないかと。そうしていなかったというのはある種怠慢ではないか,といったことまで言われたわけでございます。

こうした議論を受けまして,規制改革推進会議では,昨日に「遠隔教育の推進に関する意見」を公表されまして,そこでは以下のような対応を求められているところでございます。「文部科学省は,「同時双方向型の遠隔授業」についても,早急に,「合同授業」と同様,著作権者の許諾を不要(補償も不要)とする措置をとるべきである」としております。ちなみに,こちらで言いますところの「同時双方向型の遠隔事業」といいますのは,本資料で言いますところのスタジオ型リアルタイム配信授業に相当するものというふうに理解していただいて結構であると思います。

ちょっとここで,すみません,説明が若干長くなっておりますが,参考資料2の方に移らせていただきたいと思います。規制改革推進会議の意見の方で,1ページ目は遠隔教育全体像の話でございまして,とりわけ著作権に関しては,2ページ目にございます。(3)高等学校の遠隔教育における著作権法上の問題の解決としまして,現行法の理解が1パラ目で書いてあって,学校の授業で演奏や資料の使用を行う場合に,遠隔授業の場合は,不特定多数の送信というふうになる場合があって,著作権者の許諾が必要であると。そして,35条2項はあるものの,同時双方型の遠隔授業,スタジオ型のものは,現行法上,措置がとられておらず,許諾が必要であるということで,音楽の授業などの制約要因になっているとされまして,「したがって」として先ほど申し上げた結論が導かれているわけでございます。

この参考資料としまして,その次のページから続く資料の5ページでございます。こちらは,規制改革推進会議のワーキングの方で同日に提供された資料でございます。先ほどの現行法と現在許諾が必要なものを表にされておられまして,実施を念頭に置かれているのは,教材としての資料配布ですとか,音楽の演奏というのが例に挙がっておりまして,一番右の箱にありますように,遠隔授業は公衆送信に該当する分は許諾が必要だというふうな説明をされた上で,一番下でございますけれども,規制改革推進会議様としては,オンデマンド授業などと異なって,繰り返し利用されるわけではないということから,リアルの教室や合同授業等,スタジオ型の授業,遠隔授業を異なる扱いとする理由が全くないというふうな御説明をされておられるところでございます。

こちらは,今の規制改革推進会議の議論の概略でございます。

また,資料2にお戻りいただけますでしょうか。1ページ目の一番下のパラグラフでございます。こうした規制改革推進会議の御意見と比較しまして,今般の法制・基本問題小委員会の報告書では,現行法35条2項の対象となっている公衆送信以外の公衆送信については全て補償金請求権付きの権利制限とするという旨を御提言いただいておるところでございます。したがって,以上のような規制改革推進会議の御意見は同報告書とは異なる対応を求めるというものでございまして,それへの対応について御検討いただく必要があるというふうに考えてございます。ここからが本題ということになるわけでございます。2ページをお願いいたします。

2ポツとしまして,規制改革推進会議意見に対する対応方針について,案を作成させていただきました。読み上げさせていただきます。

平成29年小委員会報告書は,補償金請求権の対象範囲を判断するに当たって,(i)現行法上無償で行うことができる複製や同時授業公衆送信を含め,いずれの行為についても権利者に及ぶ不利益はいずれも軽微とは言い難いものとなっていると評価できる。(ii)現行法上権利制限の対象となっていない行為につきましては,複製・同時授業公衆送信と比べて,著作物の利用される頻度や総量が大きくなり,権利者に及ぼす不利益の度合いが大きくなると評価できる。(iii)現在無償で行うことができる複製・同時授業公衆送信を補償金請求金の対象とした場合,教育現場の混乱を招きかねず,第35条の適用を通じた著作権法の目的が達成できなくなるおそれがある。こういった点を総合的に勘案しまして,今般,現行法上対象となっていない公衆送信については全て,補償金請求権の対象とするという結論をお導きいただいたわけでございます。さらに,こうした結論の妥当性につきましては,一定の範囲で国際的な制度調和も図られると,こういう観点からも確認がなされているところでございます。

こうした考え方を同時授業公衆送信及びスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信に当てはめた場合,以下のとおりとなるのではないかというふうに整理をさせていただいております。

まず,同時授業公衆送信及びスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信は,いずれも権利者に及ぼす不利益は軽微とは言い難く,したがって,原則として補償の必要性が認められる。しかし,同時授業公衆送信は現在無償で行うことができることから,これを補償金の対象とすると教育現場の混乱を招きかねない。しかも,同時授業公衆送信は時間的・場所的制約のため著作物利用の頻度・総量は比較的限定的であり,無償としたとしても,権利者の正当な利益の保護の観点から,許容され得るものと考えられます。これらのことを勘案しますと,同時授業公衆送信については,引き続き無償とすることが適当である。他方,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信については,上に述べたとおり,補償の必要性が認められる上,現行法上は許諾を得て行われるべき行為であることから,今般の権利制限により補償金の対象としたとしても教育現場の混乱を招くこととはならない。したがって,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信については,その不利益の度合いに対する評価にかかわらず,原則どおり補償金請求権の対象とすることが適当である。

他方,投資等ワーキングの議論においては,同時授業公衆送信とスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信がそれぞれ権利者に及ぼす不利益の度合いに差異はないとした上で,これらはいずれも補償金を不要とすべきとの結論を導かれておられます。しかし,なぜ両者の不利益の度合いに差異がないことのみをもって(いずれも補償金の対象とすべきとの結論とはならず),直ちに補償金を不要とすべきとの結論が導かれることとなるのかが明らかにはされていません。仮に同時授業公衆送信を補償金の対象外とすることを適当とした平成29年小委員会報告書の結論を前提としてお考えになっているのであるとしますれば,同報告書の判断基準によりましては,上記のとおり,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信も無償とすべきとの結論を導くことはできないと考えられます。

以上のとおり,規制改革推進会議の結論は,その判断基準及び理由が明らかにされておらず,平成29年小委員会報告書の採用した判断基準に照らせば,妥当とは言えないものと考える。本分科会としましては,権利者に及ぼす不利益,教育現場への影響及び国際的な制度調和といった諸要素を多面的に考慮して判断を行った,平成29年小委員会報告書の検討結果が妥当であると考えると,締めくくらせていただいております。

御議論いただきたい中心部分は以上でございますが,この次のページに参考として若干の検討をさせていただきましたので,こちらも併せて御紹介させてください。

本分科会としての対応方針は以上のとおりでございますが,なお,上記結論に影響するものではないものの,参考として,1番で御紹介した投資等ワーキング・グループの指摘事項に対する考え方を整理いたしました。

まず,指摘第1としまして,同時授業公衆送信とスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信がそれぞれ権利者に及ぼす不利益は変わりがないではないかという御指摘につきまして,同時授業は複数の学校・クラスにおいて同じ内容の授業を同じ日時に行う,そういうクラス間の調整といった手続が必要であります。一方で,スタジオ型リアルタイム配信授業の場合は,そのような必要はございません。したがって,そのような制約がない分,後者は前者に比べて,より容易に授業を実施することが可能であると言えます。そのため,個々の授業に係る著作物利用に着目した場合には両者において権利者に及ぶ不利益に大きな差がないとの評価もできるかもしれませんが,権利制限の対象とした場合に当該規定の適用を受けて社会全体として利用される著作物の総量で見れば,後者は前者に比べ,利用量が相対的に多くなり,したがって,総体として権利者に与える不利益が大きくなると考えられる。なお,著作権法において権利制限に伴って補償の必要性があるか否かを判断するに当たっては,上記のように,個々の利用行為が権利者に及ぼす不利益の度合いのみならず,社会全体として利用される著作物の総量が総体として権利者に及ぼす不利益の度合いにも着目するべきであります。こうした考え方は,平成29年小委員会報告書84ページにも明記されているところでございます。

次に,指摘マル2関係でございます。こちらも,更に御参考というような位置付けでございます。指摘マル2では,学校教育法上解禁された行為は解禁時に当然に権利制限の対象とするべきであるという御指摘でございました。こちらにつきましては,まず,著作権法において一定の著作物利用について権利制限規定の創設を検討する場合,当該行為の目的や性質(公益性の有無や,その度合いを含む。),当該行為に係る実態,権利者に与える不利益の度合い,利用者側における権利制限ニーズ,権利者団体の意見等を総合的に考慮した上で,権利の適切な保護と公正な利用の促進とのバランスに留意しつつ,その是非や具体的な制度設計が検討されるべきものであり,当該利用行為に関連する規制法の見直しと当然に連動するものではございません。念のために付言すると,仮にこういう考え方を肯定しますと,現在御議論いただいております異時授業公衆送信のみならず,教材の共有やMOOC等に至るまで,学校が学校教育法などの規制法上行うことが禁止されていない,あらゆる著作物利用行為を権利制限によって実現しなければならないということになるわけでございますが,当然,そのような結論は権利者の利益の適切な保護の観点から妥当ではないと考えられるところでございます。

なお,平成27年4月に高等学校について同時双方向型の遠隔授業のうち一定の要件を満たすものが解禁されたわけでございますが,スタジオ型リアルタイム配信授業は,それ以前から既に大学等の第35条の適用を受けることができる教育機関においては実施することが可能であったわけでございまして,高等学校についてのみ解禁がなされた平成27年4月の段階で初めて35条においてスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信を権利制限の対象とするという改正を行うこととするべき必然性は直ちに認められない。もっとも,今般の第35条の見直しは,高等学校におけるこうした制度改正の状況も踏まえて御検討いただいたものと承知してございます。

長くなりましたが,御説明は以上でございます。御審議のほど,よろしくお願いいたします。

【道垣内分科会長】ありがとうございました。

今,御紹介いただいた規制改革推進会議からの御意見は,論点が非常に特定されていますので,まずはこれについて御議論いただいて,その上で,パブリックコメントを踏まえた全体の論点について御審議いただければと思います。参考資料2を踏まえて資料2の案をお作りいただいているわけでございますけれども,結論としては,この審議の結果,対応としては幾つかのパターンはあり得ます。第1に,資料2にありますように何ら修正を加えないという対応と,第2に,同じく,頂いている御意見は採用できないけれども,遠隔教育にやや前のめりの方々からそういう御意見があるとすれば,報告書自体に丁寧に書き込んでおくということもあり得る対応です。さらに第3に,この御指摘を踏まえて,結論も含めて修正をするという対応もあり得るところでございます。いずれの対応をとるべきかは,この審議会の審議の結果次第でございますので,是非,活発に御議論いただければと思います。

瀬尾委員。

【瀬尾委員】このタイミングでこういうふうな全く異なるところから異なる意見が出てくることについては,最初に,大変違和感を感じます。基本的に,教育のICT利用ということについて対応していかなければいけないという国の方針についても,また著作権の対応についても,これは本当にやらなきゃいけないことだということで,審議会でも非常に前向きに取り組んできたし,権利者,利用者問わず,これについて合意して進めてきた事案だと思います。ただ,今回の提案の中で,これまで日本においてのみ特殊な事情であった,無償で教育の場合は使えるという特殊事情に基づいた,古い考え方の改革案だと思います。つまり,新しいシステムとかではなくて,無償であるということが前提になっているということ。それともう一つは,著作権法は利用に対して規制を行っているという,そもそも規制として扱うことの本質的な意味。私としては,基本的に少々方向が違う議論だと思います。

そのような中で,我々というか,権利者も,この協議会も,いろいろな角度から議論をしてきたことは決して,権利者エゴで有償化をしてほしいと,そんなことを申し上げているのではない。これははっきり御理解いただきたい。これは,創作のサイクルと教育を健全に動かすために長期的なシステムを構築している,そのシステムの一部であると。それを構築しているんだという観点でこれまで,議論もしてきましたし,意見も述べさせていただきました。つまり,この目的であるICTの教育利用に対して,大きなシステムを全員の合意によって部分的にこの審議会で審議してきた,その結論がこれだと,私は理解をしています。これについては,権利者についても,利用者についても,引くところは引き,言うところは言い,そして,みんなの中で最も良いと思われるシステムを提供してきたと思っています。

この規制改革推進会議の意見に対して,細部はいろいろ言いたいことがあります。いろいろ反論もできますし,反論することが可能な部分はいっぱいあります。ただ,前提が違うのではないかと言うにとどめますけれども,基本的にこのような一つの部分的なものを今回作っている大きなシステムの中で変えてしまうと,目先の一つによって,全体,せっかくここまで作ったシステムのバランスを崩すということになると思います。ですので,これは,このような目的,規制改革推進会議で言われている大きな目的は重々理解をしていて,そして,関係者一同,前向きに進めた結果ですと。ですので,これについては文化審議会の結論を基本的に尊重していただき,それによってこそ,迂遠に見えるかもしれないけれども,規制改革推進会議の提唱する目的を達成できる最も近い道だということをはっきり申し上げておかないと,こういうことが政府の中のそれぞれのところからちょっとずつ出てきて,審議会の1年,2年の議論がひっくり返るようなことがあってはならないと,私はそう思います。

そういうことを総合して考えて,今回のこの意見と内容については,権利者でまとまっている協議会もありますし,何らかのアクションをしたいと思います。例えば規制改革推進会議であれば,担当の大臣にきちんと御説明をして御理解いただくということもしたいと思いますし,私は,この審議会の結論については,本当によくおまとめいただいたこの結論を尊重して,まず実行するということで,変える必要は全くないと思います。

以上です。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

井村委員,お願いします。

【井村委員】書籍協会の井村です。今,瀬尾さんがおっしゃったことは全くそのとおりで,このタイミングでこういう意見が出てきたことに,本当に違和感を感じます。

それともう一つは,文化庁さんが資料2というのをお作りになっていますけれども,このスタジオ型のリアルタイム配信授業公衆送信というものは,文化庁さんがおっしゃっているように,送り手側に全く生徒がいない状態で配信が行われ,しかも配信先は何も一つとは限らないわけですよね。そうなってくると,正に御指摘のとおり,頻度はかなり上がってくる可能性がありますし,使われる著作物の数も相当増大する可能性があるであろうと懸念します。

それともう一つは,規制改革推進会議の参考資料2はまだ少し拝見しただけですが,遠隔地向け公衆送信が必要だと言っている理由が,「学校の維持が困難になっている地域」というふうに書かれています。確かに,離島とか,人口が少なくなってきた村にこういうことを行うのであれば,本当に必要なのかもしれません。しかし,利用のされ方は本当にそれだけで済むのだろうかというのを非常に危惧いたします。ここで挙げているのは初等中等教育のこういう困難になっている地域のみですけれども,例えば高等教育機関において東京と大阪間でこういうことが本当に行われないのかということは全く触れてないわけで,そういうところも含めてもっと慎重に議論を進めていっていただきたいし,この先の文化審議会著作権分科会で議論を進めていただきたい問題であると思っております。

すみません,長くなって申し訳ないですけど,教育分野に向けて本を作っている出版社は中小・零細な出版社が多く,こういった利用が促進されていけば,我々は本当に出版ができなくなり,利用する著作物そのものが減っていってしまう状況が起こり得るのではないかというふうに感じます。そういう意味でも慎重に議論を進めていただきたいと感じます。以上です。

【道垣内分科会長】そのほか,いかがでしょうか。どうぞ,福井委員。

【福井委員】新聞協会の福井と言います。規制改革推進会議の意見書が言うスタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信は無許諾・無報酬によるインターネット授業の実現だと思いますが,これは,権利者に与える不利益が大きくて,無許諾・無報酬の権利制限対象とすることには反対です。

教育の情報化への対応については,著作権分科会の法制・基本問題小委員会がおよそ2年間,権利者や教育関係者の意見に耳を傾けながら,議論を重ねてこられました。そうした議論の積み重ねを軽視して,当事者の意見も聞かずに規制改革の観点から一方的な意見をまとめられたということは,大変,心外であり,残念です。そもそも,これは規制改革と言えるものなのかと考えます。新聞社は,記事の電子データは瞬時に拡散し,容易に蓄積されるために,安易な無許諾利用には反対してきました。権利制限ではなく,記事を契約で利用することを求めてきました。しかし,教育の公益性などを考えて,異時公衆送信が権利制限された場合には補償金付き権利制限を受け入れるという判断をしました。無許諾・無報酬のインターネット授業が実現すると,現行の35条2項に比べ,はるかに多数の生徒が著作物を利用した教材を使えることになります。これは看過できないと考えます。遠隔教育をサポートするという重要性については理解しますけれど,それには様々なアプローチが検討されるべきです。権利者の一層の我慢と犠牲の上に権利制限を広げるべきではないと考えます。

法制・基本問題小委員会での積み重ねはようやく最終報告書となり,法改正に踏み出す段階に至りました。そうした状況で議論を差し戻すような意見は受け入れられません。文化庁には,著作権分科会でのこうした反対意見を規制改革推進会議にしっかり伝えていただきたいと思います。

以上です。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

そのほか,いかがでしょうか。大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】私も知的財産法を専攻する研究者の観点から一言意見を述べさせていただければと思います。著作権も所有権と同じように,私人の私権,私の権利でありまして,著作権法の場合には最終的には文化の発展に寄与するという大目標があるのですが,それに向けて,権利者と利用者との私権を調整していって,ベストの解を得るためにいろいろ知恵をひねっていくということで,その表れの一つが35条にあるような教育の場面であります。以前から出ておりましたように,教育であればただ(無料)だという発想はとるべきではないということで,現在の35条は非常に小規模なものを前提として,その程度ならばということで補償金なしで使えるというわけですが,今回の法制基本小委で取りまとめたものは,異時送信に関しては,そのような小規模なものというよりは,ICT教育を拡充してより積極的な形で著作物を利用した方が良い教育ができるだろうという考えに基づき,ここは重要なのですが,利用を大幅に認めて,その代わりにクリエーターに対するリターンを補償金で補うということを提案しています。教材で使われる著作物の権利者の利益と,利用者,学生さんの利益をどのように調整するか,ベストの解を得るために知恵をひねった結果,本来からいえば,ライセンスを取ってやるということは大原則としてはあるのですが,実際上やるのは困難なので,権利制限を認めて補償金を払う,いわば強制ライセンスのような形で解を得てきたわけであります。規制という観点ではなくて,ここが重要だと思うのですが,国と民との関係でなくて,民・民の,私人間の私権の調整を行ったのがこれであります。

その観点で,これは非常に重要なので,少しお時間を頂いて恐縮なのですが,事務局の方で作られた資料2の2ページのあたりが少し誤解を招いているところがあるのではないかと思います。真ん中に丸があって,その下の二つ目のポツの「しかし」で始まるところでありますが,ここのところは,考えとしては重要な点を含んでおります。要するに,教育はただ(無料)だというのはおかしいので,複製も現行法だとかなり小規模な形でだけ複製を許しているのだが,もっと積極的に複製を許して,その代わりに補償金で賄う方がよりアクティブというか,良い教育ができるし,かつ,次なる文化の発展のためにはしっかりとリターンが行って,クリエーターの方にどんどん,いい論文を書くなり,音楽を作るなり,やっていただかなければなりません。利用者の利益ばかり言うと,結局,クリエーターをすりつぶしてしまって新たな著作が生まれてきませんので,そこをしっかりとやろうというところが重要なのであります。「しかし」というのは,結果的にはこうなったのですが,若手研究者等はこれには反対だったし,私も心が動いたときがあるのですが,諸外国などのように,複製とか,スタジオ型でない,教室型の同時再送信なども全部補償金を付けるべきだという意見もあります。それも一理あって,複製も,クラスルーム型の同時送信も,片やスタジオ型の同時送信と,異時送信も,全部補償金を付けるというのは筋論からすると大いにあり得るところなのであって,それによって,今までのような小規模でなくて,大幅に複製もできるようになります。学者としてはそちらの意見に賛成したかった面はあるのですが,法律家として現実を重視すると,今まで小規模とはいえ複製とクラスルーム的な同時送信というのは,補償金なし,無償でやっていたのを,今急に変更すると教育現場に混乱が起きる可能性が高いということであります。本当は小規模な複製よりも大幅な複製にして補償金を付けた方が合理的かもしれないのですが,今回,全部一遍にやってしまうと混乱が起きるので,必要性が高い異時送信とスタジオ型に限ってやることになったことについては,若手の学者等からは不徹底だから全部補償金付きでやるべきだという意見もあります。原則は全部補償金を付けて拡大した方がいいのだが,教育現場に混乱を起こさせないための例外的措置としてやっているものですから,ここを余り過大評価していただくと物事の筋が完全にずれてしまいます。

もう一つ,気になったのは,複製とクラスルーム型の同時とスタジオ型の同時が一緒と言われるのは非常に乱暴な議論だと思います。括弧のところで何々に着目したら一緒と言えるかもしれないと言っていますが,こういうものは,形式的・機械的に捉えるのではなくて,トータルに実質として量や頻度等を考える必要があります。私が理解している権利制限というのは,一方では教育の必要性という対抗利益,公益のようなものがあって,それがあるのであれば,権利者に過度の犠牲を与えない限りにおいては権利制限を認めるということであります。そのような観点から,形式的に捉えるのではなくて,実質的にどう不利益があるかというと,クラスルーム型の同時送信とスタジオ型では,クラスルームという物理的な制限がある,限られた範囲が少し拡大するのと,およそそういうものがなく,タイムシフト以外は何でもできてしまうというようなものとは与える影響が本質的に違うためこのようなところで線を引いているものですから,それを一緒というのは大いに違和感があります。

最後に,指摘2の関係では,学校教育法上解禁されたのであれば権利制限せよというのは乱暴な議論で,もともと両者は法律として全く別であって,学校教育法というのは教育の観点からの法律であり,著作権法というのは別の私権の保護の観点の法律なので,学校教育法上解禁されたら即ただでというのは非常に著作権を無視した議論であります。そこを細かく分けて両者のバランスをとって最適の解を得るように一生懸命考えたのが先ほどの解なのであり,ここを動かし出すと全てが崩れてしまいます。御指摘を踏まえてもう一回よく考えてみても,先ほど述べたような現実面も踏まえた上で出来上がったバランスですので,これを崩すのではなくて,早く実行して,今後のことはまた今後のこととして,スピード感を持って早く,良い学校教育ができるような枠組みを作るべきだと思っております。

【道垣内分科会長】今の御指摘は資料2の文章の内容についても幾つか触れられたわけですが,2ページの二つ目の丸のところの記載の最初の黒ポツのところがあるので,おっしゃった趣旨は十分出ているんじゃないかと思います。もし修文が必要であれば,できれば,さっき幾つか対応のパターンがあると申しましたけれども,報告書自体の修正ではなく,対応について別の文書を作成して,分科会の名義とする,つまり,「案」を消して,日付を入れて分科会という名前を付けたものにすることによって,規制改革推進会議の御意見は十分に検討し,結論を出したというが明確にできれば一番いいかなと思います。もしその方向で対応をするということでよいということであればと,今の御意見に従って,資料2の文章の語句を直した方がいい点があれば,それを具体的におっしゃっていただいた方が有り難いと存じます。

【大渕委員】いえ,書いてある内容はこれ自体で結構です。今のはそれを分かりやすくするための説明であって,私なりの理解でこれは納得できるという理由付けを述べさせていただきました。それを入れた方が分かりやすいというのであれば入れていただいてよいのですが,この結論部分自体はこれで何ら異存はありません。

【道垣内分科会長】はい。

土肥委員,どうぞ。

【土肥委員】法制・基本問題小委で,教育の情報化の推進について取りまとめの経緯について,割合詳細に理解しておる者の一人として若干意見を申し上げたいと思いますけれども,大渕委員も既におっしゃったので余り加える必要はないのかなと思いますが,まず,教育目的であれば,権利制限,補償金,対価なしに利用できるというふうにお考えになるのは,間違っております。教科書は当然,教育目的において非常に重要な役割を果たしますけれども,これはきちんと補償金の対象になっておりますし,学校教育番組の放送についても補償金の対象になっております。それから,営利目的の場合ではありますけれども,試験問題についてもそのようになっております。ただ,35条については,1項,2項,そうなのですけれども,2項が現在問題になっておるわけですが,2項ができたのは今から十四,五年前ということでありまして,デジタル環境,ネットワーク環境,そういうものは今と比べると相当な違いがあるわけですね。こういう場面において,今般,異時送信の問題を法制・基本問題小委で議論をしたわけでありますけれども,2項の場合についても,ただし書がきちんと付いておりまして,権利者の利益を不当に害する場合はそうじゃないよというふうに,ちゃんと書いてあるわけであります。十四,五年の時間の経過の中で状況が変わっているのであるということは,法制・基本問題小委の委員のほとんどの方の認識としてはあったのだと,私は思います。したがって,同時に2項も踏まえて補償金の対象とすべきであるということを先ほど大渕委員から御紹介ありましたけれども,そのとおりでありまして,この機会において見直すという選択肢は当然あったというふうに思います。

1項の複製についても,日本の場合は無許諾で利用できることになっていますけれども,詳細な外国の調査報告が出ておりまして,国際的なスタンダードからすると,多くの国では基本的には対価があるのですね。普通の国であれば。例外しか見ておられないのでそのことをおっしゃるのかもしれませんけれども。加えて今や,従来ないような,例えば,アクティブラーニングとか,ICT活用教育とか,いろんな教育手法が出ておりますので,著作物を利用する場面というのは非常に多くなってきておりますし,利用される著作物の量も相当多くなっているというふうに,当然想像できるわけです。したがって,本来ならば1項についてもというのはあったのだろうと思いますけれども,法制・基本問題小委で考えたのは,現場の先生方に混乱を与えてはいけないというのが非常に大きかったというふうに承知をしております。これまで無償・無許諾でおやりになってきたところ,そういうところをひっくり返すということで,現場の先生方に無用な混乱を与えないという判断です。

それから,2項についても,やるということに関して,十四,五年前は一元的な窓口がなかったのですね。つまり,同時送信において,著作物を活用する,利用するという場面において,その許諾を取る仕組みという窓口の点において,当時はなかった。あったとしても,相当な取引費用がかかるということが考えられます。しかし,今般はできるわけですね。窓口ができる,協議会ができるわけでありますので,そういうところからすると,トランザクションコストというものは十四,五年前に比べると極めて違いがあるのだろうと思います。そういうことがあるので,2項について,選択肢としてはあったわけですが,先ほど御紹介したように現場の先生方の混乱ということを第一義に考えてこういう状況になったということでありまして,そのあたりの経緯を十分踏まえた上で今後の対応をしていただければというふうに思っております。

私個人としては,現報告書(案)はそのまま,「案」を取っていただければいいのかなという理解をしておりまして,別途,きょう議論いただくようなものについては,確認の上,報告書(案)とは別な形で位置付けていただければいいのかなというふうに,理解をしております。

以上でございます。

【道垣内分科会長】確認ですが,資料2についても,このとおりで分科会の資料としてもよいという御意見でしょうか。

【土肥委員】はい。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

末吉委員。

【末吉委員】もう全て,ほかの委員が言われたとおりなのですけれど,まず,非常に驚いたのは,規制改革推進会議が著作権を規制するという提案をするということ自体が何かちょっと違和感があったのであります。が,私も,この報告書に賛成でございますし,資料2の対応方針に賛成でございます。特に,法制小委の委員も務めておりますと,資料2の3ページの一番最後,権利者に及ぼす不利益,教育現場への影響及び国際的な制度調和といった諸要素を多面的に考慮してきたというのが実感でございますので,原案に賛成でございます。

以上です。

【道垣内分科会長】井上委員,どうぞ。

【井上(由)委員】皆様方から,規制改革推進会議の方からこのタイミングでこういうお話が出てくるのはちょっと違和感があるというようなお話がございましたが,私は必ずしもそうは思っておりませんで,この場で,あるいは法制小委において,ICT活用教育の著作権法上の課題について何年もこの問題を議論してきたことは確かです。しかし,この場に関与しておられないステークホルダーも存在し,そういう方々の意見を広く吸い上げるためにパブコメも行うわけで,パブコメに対応することによって,国民に対するより説得力のある説明ができるようになると考えています。政府の他の会議体から異なる意見が出てきても,それに対応することでより頑健な形で我々の提案を提示できるともいえ,むしろ積極的に受け止めた方がいいという気がしております。

具体的な,この問題にどう対応するかですけれども,私自身は,法制小委では,現行の35条1項,2項についても補償金の対象にすべきだと発言してまいりました。しかし,最終的には,落としどころとして,これらについては無償にするということになりました。報告書を見ると,二つの理由付けがあって,一つは教育現場の混乱が起こるということ,もう一つは,2ページの対応方針の最初の丸の(ii)にあるように,行為類型ごとの度合いで比較をしてみたところ,異時公衆送信,その当時は異時というふうに呼んでおりましたけれども,そちらの方が権利者に及ぼす不利益の度合いが大きいということも勘案して,今回のような結論に落ち着いたということであろうと思います。

今回の対応方針(案)を見ますと,2ページの2番目の丸と3番目の丸,両方でございますけれども,教育現場の混乱を招くというところに焦点を当てていて,行為類型ごとの相違についての説明はあえて落としているというふうに見受けられます。しかし,行為類型ごとの比較としては,4ページの参考の2番目の丸のところに,スタジオ型リアルタイム配信授業の場合には,今許されている2項の場合よりも不利益が大きいということが追記されています。私は,今の対応方針(案)の参考を除いた部分でも十分説得力はあると思うのですけれども,駄目押しをする形でスタジオ型リアルタイム配信授業の場合の著作権者に与える不利益の度合いはより大きいということを本文に付け加えることも考えられると思います。

【道垣内分科会長】ありがとうございました。

私も,「以下,参考」と書いてある点で形式上普通じゃない感じがしますので,せっかく1ページで指摘マル1と指摘マル2に分けたので,2の対応方針のところもそのように分けて,最後のページの「以下,参考」のところは,丸を付けた上で,「なお」という文言を付け加えて,しかるべき場所に溶け込ませた方が文章としては一体感があるかなと思います。

それともう一つ,委員の方々の感触を伺いたいのですが,35条自体について,昔,先生がガリ版を刷って教室で配っていた時代と,ネットを使って配信するような時代とは全く技術環境が違うので,トランザクションコストの点で見ても,一つ,窓口はポータルができて,もとよりそれが本当にちゃんと機能するのかどうかもう少し検証は必要でしょうが,コストは下がってきているのではないでしょうか。また,ネット配信は,簡単にどれくらいの量を送ったかというのは分かるのではないかと思うので,そういう意味でもガリ版刷りの時代とは状況が大分違ってきて,35条全体の見直しというのも今後あり得るという御意見が多数であると言ってよいでしょうか。見直しの方向は,むしろ権利制限を縮小していくということかと思います。もとより,これは将来の課題かもしれませんけれども,規制改革推進会議の御指摘はむしろ逆の方向でおっしゃっているわけで,逆向きかなと思います。方向としては権利制限は減らしていき,きちんと著作者等に著作権料等をお支払いするようになるべきかと思います。このような意見がおおむね共有されていると言うことでよろしいでしょうか。

なお,教育現場の混乱という問題があるとされていますが,この点はちゃんと周知期間を設ければいい話で,直ちに施行するのなら混乱が起きますが,何年か置いて,説明をちゃんとすればいいかと思います。そうでないと,いつまでも制度変更はできないものですから,この点も何とかなるんじゃないかと思います。

大渕委員,どうでしょう。

【大渕委員】今の点は先ほど申し上げたところに関わるかと思うのですが,要するに,複製などよりも異時送信に権利制限をかけてほしいということですので,スピード感を持ってやるためには,まずそこをやるということであります。やるのならば,せっかくですから,今までは小規模な範囲でしか活用しないということでしたが,ICT教育になると,引用的に少し使うというよりは,本格的に大幅に使えるようにするという方がよいということであります。そのかわりきちんと対価を払うということで,バランスをとるわけであります。そこを早く通すためにはやはり,混乱が生ずる内側の方というか,複製等は今のまま小規模でいくということなのですが,私が理解していたところは,それは第2段階であって,まずは喫緊の必要性が高いところをやる必要があります。恐らく皆様も同じだと思うのですが,従前はとにかく小規模だからということで1円も払わずに複製していました。今後もそのようなニーズはあるのかもしれませんが,複製に関しても大幅に認めて,学生さんの利便のために複製するが,きちんとお金を払うという方が良いと思われます。これはもともと私権ですから,何らかのサービス等にお金を払うのはむしろ当然といえば当然なものであります。合理的なフィーはしっかり払うかわりに,大幅に使えて良い教育ができるようにするという,そちらの方向に向かいつつあるので,そのような意味では払わない,払わないと言うと,結局,スリーステップテスト等との関係でほんの小規模にしか使えないから良い教育ができないということになってしまいます。そこのところは余り小さな発想をせずに,大目標は良い教育をして文化を発展させるということなので,そちらの方向に向くべきだと考えます。ただ,現実的路線としては,今般,第1段階をやったが,第2段階以降は,そうやって発想を変えてみると,複製も,合理的な教育目的の低廉な費用を払ったらしっかりと使えるという,もっと積極的な発想をする方向に持っていった方が良いのではないか,権利制限を小さくマイナスに見るのではなくて,むしろそういうような大きなものを実現するためには,どうすれば一番いい道具立てになるのかというように考えていった方がよいのであり,これはそのための良い機会ではないかと思います。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

もう一度,土肥委員。

【土肥委員】先ほど教育の方の発言をしなかったのですけれども,私は九州から来ておりますので,長崎あたりはどれぐらい島が多くて,そういうところの学生さんが親元を離れて本土の学校に行かないといけないとか,そういういろんなことを承知しておりますので,遠隔教育の重要性というのは本当に大事なことだというふうに承知をしております。これはこれとして,大いに進めていただきたいと思います。米百俵の例えもありますけれども,将来,国家の人材を育成するということとの関係で非常に重要であるということは当然であります。今回,規制改革推進会議の方でおっしゃっているのは,高校に限定としていうお話ですよね。しかも,非常に少数の学生さんをイメージされておられると思うのですけれども,これは,井村委員がおっしゃったように,そこだけ著作権法で書くということは基本的にはできませんので,もともとこういう限定された場面というのは,教科書でやっておりますように,小学校,中学校,高校で教科書を何部発行してどうこうというような,そういうレベルにおける検討といいますか,補償金の多寡における検討,そういう場面では当然考慮されてくるのだろうと思います。したがって,そういう場面においては,教育改革国民会議ですか,このあたりで議論されておる,そういう精神というのは具体的に生かされるのではないかなというふうに思います。したがって,この著作権分科会なり法制・基本問題小委員会が教育の重要性ということを考えないわけでは決してなくて,それはもちろん大切なことであるという前提の中で先ほど御発言させていただいたということでございます。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】大体,論点は出たと思います。学校教育法という行政的規制の問題であるのに対し,著作権法は私権の問題であるということで,次元が違うということが,まず前提にあると思います。今回の35条の2項についても,むしろこちらにも補償金を付けることによってバランスをとるという選択肢もあったわけですが,あえて現状は触らないことにした。これは資料2の言い方ですと「教育現場の混乱」ということで表現されている点かと思いますが,もっと一般性のある言い方では「法的安定性」とでも言いましょうか,一旦,立法で措置した状態を前提として,ある程度,関係者間がこれに従ってきた状態を動かすということが果たして適切かという観点から,法的安定性の方を重視した。あるいは,別の言い方をすれば,著作権法の場合,一旦,利用者側に解放したものを有償化することはハードルが高いので,一旦,35条2項という格好で権利制限がなされ,あるいは無償利用が可能な状態になっているわけですので,これを権利化,有償化する方向で撚り戻すということの困難の方が大きいであろうということで,35条2項はそのままいじらずに今回の提案になったと思います。他方,今回は,受皿となる協議会ができるということですので,社会の利用状況の変化や協議会の判断によっては35条2項のただし書が発動される可能性もないわけではないので,もしそういうような新秩序が形成される動きになるのであれば,35条2項は事実上補償金に近いものに直されていく可能性すらあるわけです。その場合,再度,教育現場の混乱といいましょうか,進展といいましょうか,そういうことが生ずるかもしれないとも考えられるわけです。その意味で,微妙なバランスとして法的安定性を維持したというのが今回の報告書(案)であって,一つの大人の解決策であったのではないかというように考える次第であります。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

河野委員。

【河野委員】先ほど井上委員がこの問題にもしっかりと向き合うべきだというふうにおっしゃっておりましたので,私も,普通の消費者として,どういうふうに受け止めたか,お話ししたいと思います。

規制改革推進会議からの改革の必要性のところに書かれているのは,高校での遠隔教育が進んでいるとは言えない要因として著作権の扱いということが挙げられているのですが,これは余りにも短絡的な指摘だというふうに,私は受け止めました。逆説で考えますと,スタジオ型というのを無料にすれば遠隔教育が今よりもずっと進むかというと,そんなことはあり得ないだろうし,もっともっといろんな要因が実はあるのだろうというふうに思いました。先ほどから多くの委員もおっしゃっていますように,教育の機会の提供と,そこで提供するコンテンツの権利の問題というのは全く別物であって,それをやはり基礎に置いてしっかりと回答すべきだというふうに,私自身は思いました。

ここのところ課題として言われていますが,国民は教育現場におけるオリジナルとかクリエーターに対する権利保護の意識が非常に希薄になっています。今回の問題にしっかりと向き合うことによって,そういったところの意識の浸透ということにも是非役立てていただければというふうに思ったところです。確かに,この提案を安易に受け入れると現場の混乱が起こるという理由付けになっておりますが,先ほど井上委員がおっしゃっていたように,4ページのところのアンダーラインに書かれているように,しっかりと反対の根拠を示して,なぜこれを受け入れられないのかということを明確に出すべきだというふうに思いました。こういった形で教育を受けた若い世代が世の中に出て行き,将来,自分たちが何か業績を上げたときに,これも無償で提供されちゃうのかなって思うような,悪い方の循環につながらないように,しっかりと回答を作っていただければというふうに感じました。

以上です。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】これは見逃されがちなのですが,そのようなところを見落としたと思われても困りますので発言させていただきます。先ほども35条2項のただし書ということが出ておりましたが,1項もただし書があるわけでありまして,実は,これは前から非常に気になっているところなのですが,35条というのは,この点についての裁判例もなくて,範囲がよく分からないのですが,一般的には,ゼミぐらいの規模といった,そのような非常に小規模の範囲ならば,ほかの学者の論文を配ってもよいと解されています。しかし,教育現場の方にお聞きすると,それがそもそも余り守られておらず,50部でなくて何百人にも配っているのではないかということもあります。その範囲とも関係しますが,ただし書が付いているので,本文は満たしていても,要するに量が多過ぎたら,今の点に関係してきますけれど,教育の必要性はあると思ってやっても,過剰なことをやっていたら,ただし書で,今までやっていることも,適法と思っているが,法的にぎりぎり詰めてみると過剰ゆえ違法であるということもあり得ます。1項の世界は,皆さん安心されていますが,実は,35条1項但し書きはいわば逆フェアリーディング的ないし逆一般条項的のようになっていて,ぎりぎり詰めると,本文だけ見ると条件を充足していると見えても,結局,過剰すぎていわばアンフェアになっているものは,そのような一般条項が危ないという大きなところにも関わるのですが,余り気が付かないうちに,違法となる可能性もあり得ます。この関係では,今般は第1段階だけやったのですが,第2段階できちんと補償金を付けてやれば,それは教育にふさわしい合理的な額が定まります。先ほど申し上げたように,複製についても合理的なフィーを払って,良い教育のために必要な範囲はやれるというようにした方が,今まで払ってこなかったのを払うのは抵抗感があるかとは思うのですが,著作権のことが気になって余り十分に使えないというよりは,合理的な額をきちっと払って,そのような憂いもなく,きちんと使えるような環境を目指すべきであると考えます。今般は第1段階に絞りますが,第1段階をやった上で,早急に第2段階の方に頭を切り替えた方が合理的な制度になっていくのではないのかと思っております。

【道垣内分科会長】椎名委員,どうぞ。

【椎名委員】もう,先生方がすばらしい御意見をおっしゃっているので,僕が何か申し上げることでもないのですが,規制改革という概念で著作権法がその対象になるということの意味がよく分からないのですね。著作者は著作者財産権を与えられていて,自由奔放に行使できるわけじゃなくて,様々な制限を加えられている。そのことこそが規制であって,公益のために私人の権利を制限すること,正に規制であると思うのですが,逆に著作権法自体を規制と考える論点は明らかに誤りではないかと思います。いまそれに類する考え方,著作権を弱めて無許諾・無償でいいだろうというような風潮がどんどん高まっていることも事実でありまして,フェアユースに関する議論とか,教育現場に限らず,これからもいろいろと出てくると思うのですが,いろんな意見が出てくることは受け入れるべきであると,井上先生がおっしゃった。正にそのとおりだと思うのですが,一つの政府の中で二つの機関が違う見解を出すというような混乱は,どっちが劣後して,どっちが優先するのですかみたいな話にもなりかねない。政府としてはきちっとしていただく必要があるんじゃないかと思います。また,著作権制度を規制と考えることの背景には,その後ろにクリエーターという人たちの人格を見てないのだと思うのですね。クリエーターの人たちに財産権があって,それを行使するために著作権法があるのだということを全く無視して,国の都合で何らかの規制を与えることと同列に議論をしていることが,規制改革推進会議の誤りではないかと思います。個々に権利を行使することは難しいから,集中管理の知恵があって,ライセンスの円滑化みたいなことがある。さらに,権利制限の議論があって,権利制限に補償金を付けるか,あるいは,この部分は全く無許諾・無償でもいいでしょうというような議論を,ここで時間をかけて,これは別に教育のことのみならず,様々なステークホルダーが集まって,ここはいい,ここは譲れないみたいなことで身を切る議論をしてきた経緯があります。その結果を一部だけつまみ食いして,ここは変えるべきだというようなことに従っていたのでは,一向に実のある議論は進んでいかないと思うのですね。結論的に申し上げますと,この報告書は何もいじることなく,粛々と進めていただければいいと思います。

以上です。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

森田委員。

【森田委員】論点は,今までの各先生の御意見でほぼカバーされていると思いますが,一言だけ付け加えたいと思います。

規制改革推進会議で示された意見には,基本的な前提についての誤解があって,ここでの問題が,本来無償とすべきものと補償金の対象とすべきものとの線引きをどうするかという問題だとすると,その線引きの仕方についてはいろいろな異論がありうるでしょうけれども,この報告書は,そういう発想ではなくて,将来については教育目的の権利制限は補償金の対象とするという形で,包括的なライセンスを目指すというのが国際的にも見ても妥当な方向であるけれども,ただ,現在無償で行うことができる複製や同時授業公衆送信を直ちに補償金の対象とすることは教育現場の混乱を招くという理由で,引き続き無償とするのが適当であるというものです。教育現場の混乱を招くというのも抽象的な表現でありますが,ルールが変わればそのことが混乱を招くのかというと,それは周知徹底を図ればよいだけのことですから,ここで実質的に問題になるのは,今まで無償で行ってきたことが補償金の対象となるとすると,予算措置を講じないと今までやっていたことが今後はできなくなるということで,短期的に支障を来すであろうということであります。そうしますと,新たに始める場合には,様々なシステム導入も含めて予算措置を講じればよいだけの話でありますから,そういう意味での教育現場の混乱は招かないので,暫定的な適用除外の対象とする必要はないということではないかと思います。

それから,基本的な発想として,補償金の対象とする方が,自由の制約というか,規制が強くて,無償とする方が規制は弱いというところのイメージが恐らく間違っていて,補償金を伴う包括的なライセンスの対象とした方が様々な発展可能性を今後望めるということが重要です。これに対し,無償というのは,要するに無償とするにふさわしい限度でということでありますから,受講者も限られて細々とやるという限りでは無償であるとしても,無償の対象としてしまいますと,それを超える部分については個別に許諾を得なくてはいけないということになって,かえってハードルが高いことになります。補償金の対象とするということは,有償とするということが主目的ではなくて,包括的なライセンスを締結する中で使い勝手をよくするという意味があります。その中で,教育目的であるということも勘案し,また各教育機関の実情も勘案して,きめ細かいルールを用意することによって,かえってそちらの受皿に乗せてもらった方がICT教育を今後発展させる上で本来は望ましいということを御理解いただければ,是非,包括的ライセンスの枠組みに遠隔教育も組み入れてくださいということになるのではないか。そのあたりの説明が十分ではないといいますか,まだ十分に御理解いただいていないということだろうと思います。

それから,包括的ライセンスの中身についてもこれから定まっていくということでありますので,制度の設計といいますか,その中身が具体化することによって,これは非常によいものだということが広く知られるようになれば,是非その枠組みに乗せてほしいということになっていくので,法改正後の包括的なライセンスの枠組み作りの在り方によってその真価が問われているというところがあると思います。したがって,こういう御意見があるということも踏まえて,今後の制度作りを進めていっていただければ,御理解いただけるのではないかと思います。

以上です。

【道垣内分科会長】ありがとうございます。

茶園委員,お願いします。

【茶園委員】今まで委員の先生方がおっしゃったことは,その方向性はほぼコンセンサスがあるように思います。それは,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信を無償の権利制限の対象にはしないということで,補償金が課されるものにするということです。

そこで,この報告書(案)の当該部分については,このままで,変更しないということでよろしいのではないかと思います。そして,資料2については,基本的に,「案」を除いて,この分科会の意見として採用するということでよろしいのではないかと思います。ただ,内容については,先ほど井上委員もおっしゃっておられましたが,同時配信授業公衆送信について現状維持するという点が,2ページの対応方針(案)をぱっと見ると,混乱を招くから現状を変えないということだけが目に映るようで,それは適当ではないように思います。4ページの下線が引かれている部分についても,この分科会で了解が得られるのであれば,それを2ページの方に組み込んで,35条2項の内容を維持する実質的理由として加えるようにした方がよいのではないかと思います。

以上です。

【道垣内分科会長】福井委員,どうぞ。ちょっと全体の時間が押していますので,よろしくお願いします。

【福井委員】新聞協会の福井です。2回目で,申し訳ありません。対応方針の確認に当たって,基本的なことを確認させていただきたいのですが,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信というのは,私の理解では,つい最近,これが補償金請求権の対象になるということを知りました。そこで,これは事務局に確認させていただければいいのかなと思いますが,スタジオ型リアルタイム配信授業公衆送信というのは,これまで議論されてきた補償金の対象となる異時送信の一つという理解でよろしいのでしょうか。あるいは,議論されてきた異時送信とは違うけど,補償金対象とすることが妥当ということなのでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】お答えいたします。法制・基本問題小委員会の中間まとめ及び報告書の方では,「異時公衆送信」という略称を用いて,「35条2項で認められる公衆送信以外の公衆送信全て」に対応する概念として定義をしておりまして,したがいまして,議論の対象としましては,スタジオ型のリアルタイム配信授業公衆送信も含まれていたものと理解しております。しかし,その略称は分かりにくいと考え,今般の分科会報告書におきましては,そうしたことも明記するという方向で修正を施させていただきました。

【大渕委員】30秒だけ。ごく僅かです。

【道垣内分科会長】どうぞ。

【大渕委員】私が理解しているところでは,特に何か付け加えるという必要はなくて,ほかの機関から御質問があったので御説明をさせていただいたということであり,今日ここにあるペーパーの内容は何ら変わっていないので,先ほどの切り分けなど,そこを強調していただくというのが1点であります。また,補償金が入るというのは画期的なことで,これからの権利制限に大きな影響を与えるものと思いますので,その点だけ申し上げておきます。

【道垣内分科会長】分かりました。

すみません。まだ御意見あろうかと思いますし,外から言われるとスイッチが入る方が多いようでして,活発な議論をしていただきまして,ありがとうございました。

まとめとしましては,報告書,ほかの論点も残っているのですが,少なくとも規制改革推進会議の御指摘の点については,報告書(案)には手を加えないと言うことにしたいと思います。ただ,無視するのではなくて,ちゃんと御対応するという意味でというか,御説明するということでしょうか,資料2のような紙を作って審議会の議論のまとめとすることにしたいと存じます。その書きぶりにつきましては,例えば,教育での著作物等の利用は有償が原則だということはもう少しはっきり書くとか,あるいは,将来,対価支払のシステムがちゃんとできれば,そちらに移行ということもあり得るのだということも書いてもいいかもしれません。それから,先ほど御指摘あった,単に教育現場の混乱というよりは,法的安定性の見地から今回は変えないけれども,そこがクリアできれば制度変更もあり得るということとか,あるいは,ベルヌ条約のスリーステップテストの制約もあって,何でもかんでも自由にはできないのだという規制があるということも,知らない人にはどうしてっていうことでしょうけど,それも丁寧に触れておくとか,幾つか修正した方がいいように思われます。皆さん方の御議論のエッセンスを盛り込むべく資料2の文書の書き方を少修正することにつきまして御一任いただければ,私の方で直して確定版を作りたいと思うのですが,よろしゅうございますでしょうか。

どうぞ,井上委員。

【井上(由)委員】5秒だけ。森田委員がおっしゃったように,補償金制度の導入で,教育の現場も著作物の利用が容易になるという,今回の法改正の重要な点がこのペーパーには記載がないので,是非書いていただきたいと思いました。

【道垣内分科会長】それがコンセンサスということよろしいでしょうか。ありがとうございます。

きょうは11時半までということだったのですが,少し延びております。本報告書(案)から「案」をとって,日付も入れて,文化審議会著作権分科会の報告書にするため,そのほかの論点についての議論に入りたいと思います。

この会議の冒頭に御説明いただいた資料1でまとめていただいたパブリックコメントを踏まえた修正,これにつきまして,何か御議論ございますでしょうか。特にないと言いうことでよろしゅうございますでしょうか。

では,この点,資料2の報告書(案)の「案」をとったものを確定版にさせていただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。

では,ほかにその他という議題がございますが,この際,何か御指摘いただくことはございますか。

事務局からも,何かありますか。

【秋山著作権課長補佐】次回の分科会につきましては,小委員会での御議論の状況等を踏まえまして,改めて日程の調整をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【道垣内分科会長】では,本日はどうもありがとうございました。これで,文化審議会著作権分科会を終了いたします。

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