文化審議会著作権分科会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会(第2回)

日時:平成27年9月9日(水)
    10:00~12:00
場所:文部科学省東館3階 講堂

議事

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)クリエーターへの適切な対価還元について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
英国の私的複製を巡る状況(117KB)
資料2
クリエーターへの適切な対価還元に関する主な意見(130KB)
 
出席者名簿(55KB)

議事内容

【土肥主査】 それでは定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の第2回を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばない,このように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいてございます。特に御異議はございませんか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 まず,第1回は御欠席でございましたけれども,今回より岸委員と龍村委員が御出席でございますので,御紹介をさせていただきます。
 岸博幸委員でございます。

【岸委員】 岸です。よろしくお願いします。

【土肥主査】 龍村全委員でございます。

【龍村委員】 龍村でございます。よろしくお願いします。

【土肥主査】 よろしくお願いいたします。
 続きまして,事務局から配布資料の確認をよろしくお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】 お手元の議事次第をお願いいたします。本日資料を2点御用意しておりまして,資料1としまして,英国の私的複製をめぐる状況に関する資料,資料2としまして,クリエーターへの適切な対価還元に関する主な意見と題した資料を御用意しております。
 落丁等ございましたら,お近くの事務局員までお知らせください。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,1,クリエーターへの適切な対価還元について,2,その他,このようになっております。
 議事に入りますけれども,クリエーターへの適切な対価還元につきましては,前回の本小委員会において,事務局より諸外国の制度概要につき紹介を頂きました。その際委員より,英国で私的複製をめぐる状況に変化があったとの御指摘があり,事務局におきまして改めてその概要を確認されたいという御要望がございました。そこで,本日は初めに英国の私的複製をめぐる状況につき,御紹介いただきたいと存じます。その後で,昨年度から前回までの本小委員会において示されたクリエーターへの適切な対価還元をめぐる主な意見について,事務局より説明を頂き,その後意見交換を行ってまいりたいと,このように思っております。
 それでは初めに,事務局から説明をお願いしたいと存じます。

【俵著作物流通推進室長】  ありがとうございます。
 それでは,資料の1を確認いただけますか。この資料に基づきまして,イギリスにおける私的複製をめぐる状況を紹介させていただきたいと思います。イギリスでは2014年の10月に,私的複製に係る権利制限規定が導入されました。この新たな権利制限規定の創設について訴訟が行われておりまして,本年の6月にその判決が出されていますので,その概要を紹介したいと思います。
 最初の4段落目に少し書かせていただきましたが,2001年5月にEU指令の中で加盟国に対して一定の条件の下で著作権の例外,権利制限規定の導入を認めているという規定があります。さらに,加盟国が裁量を行使するに当たっての条件として,権利者への公正な補償金を支払うことを原則としつつ,権利者に及ぼす損害がごくわずかなものである場合には補償の義務がないことも,一方で定めているのがEU指令の規定になっています。
 続いてイギリスの著作権法についてです。2014年の7月に成立して,10月に施行されたイギリスの著作権法において,新たに私的複製に係る制限規定が導入されました。その内容については,著作物の複製物を作成する行為,これは個人が所持する複製物,あるいは個人によって作られた複製物からの複製物であって,個人の私的使用のために作成されて,かつ商業利用されないものであれば,著作権を侵害しないというものであります。
 一方で,新しく設けられたこの私的複製に係る制限規定については,家族や友人との複製物の共有を制限する,認めないといったような厳格な要件が伴うものであり,著作権者の損失には結び付くものではないであろうとイギリス政府は考え,権利者のための補償制度は導入しなかったということであります。2014年の11月に,作詞作曲家の団体であるBASCAという団体から,権利者への公正な補償がない私的使用の例外規定について,EU指令に違反するであろうということで,行政訴訟が起こされました。この訴訟に関する判決が6月に高等法院の判断として出され,結論としてはイギリス政府の判断は違法であるという判決が下されています。
 少し内容を紹介しますと,複数論点があったようです。その損害について政府が新たな規定を導入することによる損害は僅少であると,de minimisと言うようですけれども,僅少であるとしたことについて,高等法院は証拠が十分ではないという判断を下しているようです。
 ということで,結論としてはイギリス政府が補償制度を導入せずに,新たな権利制限規定を導入したことは違法である,という判断を下したということです。
 ただその中で,政府が補償制度を導入しないことを決定するよりどころとしたpricing-in論というのがあります。これは下の米印のところに書きましたけれども,購入者がコンテンツを複製することを考慮して,通常の価格に上乗せして設定しているであろうという考えのようです。このpricing-in論を否定するものではなくて,仮にそのpricing-in論によって既に価格に転嫁されている場合で,ある程度の損害が回避されていても,そのことによって損害が僅少であることを十分に証明できてはいないという見解を示しているのです。
 ですので,この価格が転嫁されていることで,損害がある程度回避されていることまでを完全に否定したものではないようですけれども,そのことで逆に完全にde minimisということで,損害が全くないことまでは証明できていないというのが裁判所の判断のようです。
 その判決の中では,イギリス政府の今後の選択肢についても三つ示されています。
 一つが,損害が僅少であるという証拠を新たに出して,現在の判断を正当化すること,もう一つは更なる調査を行った結果,十分に証拠を示すことができないとされた場合にこの規定を廃止するか,あるいは新たに補償制度を導入するかが2点目として示されています。
 3点目としては,追加で特に調査等も行うことをせずに,そのまま補償制度を導入する。その3点が判決の中で示されています。
 さらに,前回のこの委員会の後に追加判決が出されているようでして,新たに規定された権利制限規定自体全体を無効として,その無効の効力は将来に向かって生じることが,新たに追加判決として出されているようです。
 なお損害の概念について,欧州司法裁判所に対して照会をするといったようなことは現時点では行わないことも示されているようです。現時点でのイギリス政府の対応としては,判決の影響とその取り得る選択肢について検討を行っているのが現状であります。
 これが事務局で確認できた私的複製をめぐる判決の概要になります。もし,不十分な点等あれば,この後補足して御意見を頂ければと思います。よろしくお願いします。
 続いて,先ほど下から紹介いただきましたけれども,資料2に基づいてこれまでのクリエーターへの適切な対価還元についての意見を整理したものを紹介したいと思います。資料2を確認いただけますか。
 この資料2でまとめた内容は,これまでこの委員会の中で出された意見を整理したものでして,今後本日の意見も踏まえて,また新たに論点を整理して,その論点に基づいて意見を交換していただきたいと考えております。これまでの意見の整理と今回の新たに出していただく意見を踏まえて,今後論点整理をしていきたいと考えていますので,その基になる整理だと捉えていただければと思います。
 これまでの意見を大きく四つに分けて整理をさせていただきました。一つが対価還元に係る基本的考え方。2番目として補償すべき範囲。3番目が対価還元の手段。そして四つ目,その他という形で整理をさせていただきましたので,この資料に基づいて紹介したいと思います。
 対価還元に係る基本的考え方として,現行法の制定時,私的複製に係る複製権を制限しても,権利者への不利益は零細であったことなどに鑑みて,私的複製は自由かつ無償で行えるとされたが,その際,複製手段の発達・普及のいかんによっては,著作権者の利益を著しく害するに至ることも考えられ,将来再検討の必要があることが指摘されたと。その後,デジタル録音,デジタル録画の技術が発達し,権利者の利益が著しく損なわれている状況を踏まえて,私的複製によって生じる権利者の不利益を救済するために,私的録音録画補償金制度が創設された。これは経緯と基本的考え方を再確認するような意見だったと思います。
 コンテンツの訴求力を利用するステークホルダーが,一定のリスクの負担をすることによってのみ,コンテンツにお金が戻り,メーカーも機械を売ることができ,ユーザーは豊富なコンテンツに触れることができる好循環を生むという見地から,対価の還元の問題を考えていく。
 契約や技術によって,創作から利用までの一連の過程で著作権者にとって適切な対価還元の機会が実現できるので,新たな法制度による対価還元は不要。
 権利者,事業者,消費者の三者の利益バランスがとれ,かつ社会的利益を最大化できる方向を志向する。こういった意見が示されていたかと思います。
 続いて,補償すべき範囲ですけれども,国民全体で見て,非常に大きな私的複製のニーズがある。このようなニーズを背景として事業者は私的複製に使う機器・媒体を販売して利益を上げているが,その多くは現行の補償金制度の対象となっていないので,対価が還元されていない。
 私的複製に関する対価の還元に限定するのではなく,コンテンツの流通経路全体の中で対価の還元がなされるべき。そしてそれらの対価は,本来は契約によって還元される。
 タイムシフトやプレイスシフトのように,自身で購入したコンテンツを複数のデバイスに複製して,それを楽しむことを消費者の多くはしている。1曲を4台に複製した際に,それを4曲として損害額をカウントするようなことには懐疑的だ。
 次のページになりますけれども,対価還元の手段について,これも補償金制度と契約と技術による対価還元という形で分けて,整理をしました。
 補償金制度の方ですけれども,私的録音録画に使われる機器が現行の補償金制度の対象になっておらず,実態を反映させるべき。
 汎用機器を補償金の対象とすることは,その機器で私的複製を行わない消費者にまで補償金を課すことになり,妥当ではない。
 汎用,専用の話は,ユーザーが支払義務者であるときの話である。メーカーの利益に着目した制度を考えた場合には,メーカーは専用,汎用の区別なく,複製機能を備えた機器の販売から一定の利益を上げる構造があるため,質的には異なる。
 現行の補償金の対象機器や媒体を政令指定する方式は,状況変化に速やかに対応することができないため,私的複製の機能を有する製品,サービスを対象とした補償金制度を新たに構築する。
 補償金の対象を決定する手続として,例えば権利者や事業者が当事者として議論をする手続も考えられるのではないか。
 現行制度では事業者が協力義務者とされており,法律上の責任が明確ではない。事業者に対して法的強制力がないとなれば,補償金制度は事実上機能しない。
 私的複製から利益を受けるという観点からすると,消費者だけではなく,コンテンツの訴求力を利用して成果を上げる事業者は,利害当事者として極めて大きな存在であり,現行制度では協力義務者となっているが,本来は当事者として考えるべき存在である。よって,複製機能を提供する事業者を支払義務者とする。
 2として,契約と技術による対価還元ということで,原則として適切な対価還元はビジネスモデルによって担保されるべきものであり,補償すべき損失がある場合には,例えば販売価格を見直すといった契約による解決を図る機会を設ける。
 サービスの利便性が高くなれば,その分を利用料として新たに支払うことは,消費者としては受け入れられる。補償金という形ではなく,新しいサービスやイノベーションを促進して,サービスの契約の中でクリエーターに対価還元が行われるべき。
 コピー制御の技術の向上と直接課金の実現が増えてきている現状を踏まえ,私的複製をするかどうか分からない消費者に補償金を支払わせるというよりも,サービスを利用している消費者に契約で対価を還元してもらうというのが筋である。
 2002年当時機能していたコピー制御技術であるシリアル・コピー・マネジメント・システムは,もはや有効に機能しておらず,基本的にはコピー制限がない状態で音楽が回っている。
 3ページ目,その他の手段です。
 質の高い日本のコンテンツを継続的に生み出すための土壌整備の観点から,補償金よりもむしろ健全なクリエーターの育成と,創作の拡大に向けた支援基金を設立し,権利者,事業者,消費者によって,日本コンテンツの国際競争力を向上させる検討をすべき。
 補償金のように,現実の私的複製に対応して権利者に正確に分配をすることが難しい制度を維持するよりは,ある程度割り切って,クリエーターの育成に大きくかじをとった対価還元を志向する。
 最後はその他の意見として,ダビング10に関する意見があったと思います。デジタル放送番組についてはダビング10のルールが適用されており,技術的に孫コピーの作成が制限されているがゆえに,メディアのチェンジができない。自由に複製を行えず,そのルールを維持するための社会的コストを消費者が負担しているにもかかわらず,更に補償金を支払うことは受け入れ難い。
 過去にはSCMS,シリアル・コピー・マネジメント・システムという孫コピーを制限する技術が音楽コンテンツについて採用されていたが,その際には補償金を支払っていた。もっとも,複製可能な回数等の程度に応じて補償金を課すか否かという閾値論はある。
 最後に,サブスクリプション型サービスの台頭によって,私的複製という行為自体が減少していく傾向である。
 このような意見が,この委員会の場で示されたと思います。
 今回,このような意見に加えて,今後の論点として追加すべき,あるいは論点として主張すべき事柄について,この場で新たに意見を頂いて,その意見を踏まえて事務局で今後議論すべき論点を整理して,また皆様に議論を頂きたいと思います。そのような視点で,きょうの議論の場でも意見を頂ければ有り難いと思います。よろしくお願いします。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,質疑応答と意見交換に移りたいと思います。順番に従い,まず資料1でございます。この資料の1,英国の私的複製をめぐる状況に関して御質問,御意見がございましたら,お願いをいたします。
 はい,奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】  事務局の方に質問です。2点,確認のような形になると思います。
 まず一つは,pricing-in論の部分です。pricing-inによって,ある程度の損害が回避されていたとしても,100%回避されているわけではないので,その回避されていない残りの部分がde minimisかどうかをきちんと評価すべきである。それなのに,今の英国政府はそうではなくて,当然にde minimisだと言っているのは判断が誤りだという趣旨の判決かという点,少し確認させていただきたいのが1点目であります。
 2点目は,選択肢の丸1のところです。裏返して言えば,de minimisであることを英国政府が証明できれば,現行規定で問題なしという趣旨でよろしいのですか。若干,一部その規定自体が違法だということだけ,最初の方で言い方が強かったのですけれども。どちらかといえば,手続的に問題があると,評価が問題あるということであって,きちんとできればよしということなのか。その辺少し補足いただければと思いました。確認までです。

【俵著作物流通推進室長】  ありがとうございます。2点とも,奥邨委員の御指摘のとおりだと考えています。内容について言えば,損失が僅少であるという部分についての証明が不十分であるということのようです。恐らくその証明がきちんとできる形で証拠がそろえられれば,それが適法だと解される可能性もある。イギリス政府の方でどのような対応をするかが求められていると考えています。

【奥邨委員】  ありがとうございます。

【土肥主査】  よろしいですか。ほかに。
 椎名委員,どうぞ。

【椎名委員】  今のところで,理屈としてはそういうことなのですが,結局,現時点において,CDPA第28Bというのは,無効になったという理解でよろしいですね。

【俵著作物流通推進室長】  ええ。この7月に出された判決によって,現状では椎名委員のおっしゃるとおり無効だと。ですので,イギリス政府は今後証拠を新たに集めるのか,そのままでいくのかという判断を恐らくしていくのであろうと思います。現状では,無効です。

【椎名委員】  感想なのですが,補償金のことを議論する際に,権利者の被る不利益の立証や,あるいはここで言うと不利益の不存在の立証などに議論が当然行くわけですけれども,これがなかなか難しいのだなと,この判決を聞きまして思った次第です。もちろん,傍証的にいろいろなデータを組み合わせて,不利益の存在や不存在などを部分的に言うことはできても,総体としてどうなのかというところで,立証することの難しさを指摘されているような気がいたします。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにいかがですか。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】  この資料ですが,判決が2回あって,追加判決との関係もあり,やや分かりにくいので,確認のためにお聞きします。
 この追加判決の前の判決では,英国政府の選択肢が三つ示されていることが先ほども出ていまして,損害がde minimisだと立証できれば違法でなくなるという感じでした。それは今でも生きているのかという問題です。その可能性はその前の判決で指摘されているけれども,結局,7月には追加判決が出されており,CDPA28B全体を無効とし,その効力は将来に向かって生ずるということのようです。原文を見ていないのでよく分からないのですが,この文書で,今後立証したら変わるというよりは,もう無効とされてしまったようです。その辺りについては,7月の前の時点では立証すれば免れる余地があったが,それをしなかったから,追加判決が出てしまった後では,もう立証してもしようがないという状態になっているのか,それとも,今もリカバーは可能であるのか,これだけ見てもよく分からないので,御説明をお願いします。

【俵著作物流通推進室長】  我々も追加判決が出された経緯まで詳しくは分析できてはいないのですけれども,追加判決の内容としては,全体を無効とする判決が出ているようなので,その前に出された3点についての扱いが継続しているのかどうかは不明確であります。少なくとも,イギリス政府はこの両判決で示された内容を踏まえて,今後取り得る選択肢を考えているようです。この無効判決をもってイギリス政府が何もしないのではなくて,現在,今後の対応を検討している状況にあるのではないかと思っています。

【土肥主査】  ほかにいかがですか。
 杉本委員,どうぞ。

【杉本委員】  すみません,もし分かればですけれども,ここの2ページの丸3のところで,そのまま補償制度を導入することと書いてあるのですけれども,これは詳細というか,どのような補償制度か,どのようなものに対してどのような補償制度が適用されていくかという具体的な内容は分かるのでしょうか。

【俵著作物流通推進室長】  EU指令においても,権利者への公正な補償金を支払うことが原則ということまでしか書かれていないので,この補償金制度の内容については,特に示されていないと思います。

【杉本委員】  ありがとうございます。

【土肥主査】  ほかに。はい,どうぞ。

【笹尾委員】  すみません,細かいところで恐縮なのですが,このpricing-in論とありますが,これはどちらなのでしょうかということでございます。要はイギリスにおいてはpricing-inというものが実態として比較的行われているのか,あるいはここにもありますように論として,どうせその辺を見込んでいるのではないのかという論としてこれが存在しているのか。どちらなのか,お分かりでしたらおっしゃってください。

【俵著作物流通推進室長】  もともとイギリスは,この私的複製の規定がなかったのですが,では全くその家庭内で私的複製が行われていないかというと,恐らくそうではないであろうことを踏まえて,違法であるとしても複製が家庭内で行われていることを前提に価格設定をした価格で売られていることが,イギリスにおいて一般的に行われているのかどうかは分からないです。恐らくある程度行われているのではないかということで,イギリス政府はそのことも踏まえれば損害は少ないであろうという判断をしたのだと思います。私的複製は今までできなかったけれども,違法であっても家庭内でコピーがされていることを踏まえて,実際には価格が転嫁されているであろうことを根拠に,イギリス政府は損失が根拠の一つとして損害は少ないという判断をしたのであろうと思います。
 そのようなことで,実態は分かりませんけれども,少なくともイギリス政府はそのようなことが広く行われている,pricing-inされているということで,それを根拠にしたのであろうと思います。

【土肥主査】  華頂委員どうぞ。

【華頂委員】  そのpricing-in論ですけれども,私的録音録画小委員会の頃から映画製作者としてずっと一貫して申し上げています。映画の場合は,第一次使用の上映から二次利用に至るまで,法律あるいは技術的保護手段で,購入された,鑑賞されたユーザーの私的複製を禁止しているわけです。ですから,このpricing-in論は,全く映画には当てはまらないのではないかと感じております。これは意見です。

【土肥主査】  ほかにございますか。

【俵著作物流通推進室長】  1点補足です。先ほど大渕委員から御指摘があった,イギリス政府は今後どのような対応を取るかという点については,引き続き6月判決に示された三つのオプションは残っているという解釈のようなので,その可能性をこの7月判決によって否定するものではないということです。

【土肥主査】  ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。
 この英国の私的複製をめぐる状況に関して,今各委員からいろいろ御質問等々出たわけでございます。俵室長はこの判決,追加判決も含めて十分精査されておいでですので,もう少し出せるところがあれば,関心もあるところでありますので,委員に出していただければと思います。継続的にまたフォローしていただければと思います。
 1点といいますか,ほかの委員の方は重々御承知だと思いますけれども,確認させていただきます。英国政府が損害,harmがないと判断したところですね。それが日本の30条と比較してどういう違いがあるのかというところをひとつ,恐らく皆さんはお分かりであろうと思いますけれども,確認をさせていただければと思います。

【俵著作物流通推進室長】  恐らく,日本とイギリスの私的複製についての違いで言うと,日本は家庭内あるいは家庭内に準ずる限られた範囲での私的な使用ができるということで,家族や親友については限られた範囲であればオーケーだと思います。イギリスの場合は本人のみであって,家族や親友のためにコピーすることはできない。一つは,日本と比べると私的複製の範囲が非常に限定的であると言えると思います。それが日本との違いで,かつイギリス政府が損害が少ないと言った根拠になると思います。
 もう一つは,ここでも議論いただいたようなpricing-in論で,もともと違法ではあるけれども,コピーはされることを前提に価格が転嫁されているであろうと。そのことをもって,イギリス政府は損害が少ないと判断しているので,そこが今証拠が不十分であるということになっているので,事実がどうかは分かりませんけれども,その状況は,日本とは違う部分になるのかもしれないということかと思います。

 

【土肥主査】  ありがとうございました。
 我々は私的複製という言葉を聞くと,すぐに30条とパラレルに捉えるわけですけれども,今室長がおっしゃったところからいくと,私的使用という目的の範囲が日本に比べると非常に狭いと。それから2つ目は,複製の対象です。客体がpricing-inということは,対価を支払って得た著作物の複製物について,私的複製の対象にできるということでありますので,日本よりもずっとそういう点ではそこは狭くなっているというのが,今の御説明かと存じます。恐らく,もう少し細かいところにおいてなお違いがあるのかもしれません。
 今,大渕委員が挙手をされておりますので,大渕委員,お願いします。

【大渕委員】  これは,補償金だけではなくて,30条という非常に大きな論点に関わってくるところで,前に論文で書いたことがあります。日本の30条1項ですが,2項が付されており多少補充されております。それを除くと,1号,2号,3号という例外がなければ,私的使用目的であることが第一条件ですけれども,あとは使用者と複製者の主体の一致という,これら2要件さえ満たせば30条1項は発動する。例外として1号,2号,3号が次第にできるにつれて例外が広がっていますけれども,オリジナルパターンとしては,諸外国と比べても割と私的使用の,30条1項の範囲が広い立法となっています。しかし,イギリスの場合はそうではないようです。日本であれば複製者と使用者の一致の要件の際には本人だけでなくても,家族,親友は当然入るという前提でずっときているかと思います。けれども,イギリスの場合はもっと厳しいということのようです。イギリスの場合には,日本から見ると,日本の30条1項に当たる部分が狭いようです。ここは補償金の話を中心にしていますけれども,前提となる30条1項に当たる条文のところを細かく見ていく必要があります。比較というのは,関連する部分も含めて総合的に行わないと,混乱してくるおそれがあるのではないかということです。

【俵著作物流通推進室長】  もう一点,先ほど言い忘れたのですけれども,日本との私的複製との違いの一つとして,イギリスの場合は個人が持っているものに限定していると。ですので,レンタルで借りてきたようなものは含まれないので,そういう点で日本よりも限定的に私的複製の範囲を規定しているということかと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかによろしいですか。
 それでは,この第1の,資料1の英国の私的複製をめぐる状況についての意見交換は終わりたいと存じます。
 次に資料の2でございます。これが本日メインの議題と思いますが,クリエーターへの適切な対価還元に関する主な意見として,先ほど事務局より四つに分けて説明があったところでございます。時間も十分にございますので,まず1の対価還元に係る基本的考え方のところは非常に重要なところです。ここが食い違いますと後がどうしようもないので,ここに集中してまず意見交換を行いたいと思います。特にこの1のところでは四つ挙がっておるわけであります。先ほど室長の説明がございましたように,こうした基本的考え方として挙がっている論点が四つあるわけですけれども,更に加えて新しい論点があるのかどうか,このようなものについて追加を頂くのであれば,本日是非お願いをしたいと思います。これまである1ポツについての四つの論点について,更に補完といいますか,補充といいますか,訂正,修正等があれば本日是非挙げていただければと思います。どうぞ,御遠慮なくお願いいたします。
 榊原委員,お願いします。

【榊原委員】  まず1個目ですけれども,5行目辺りに「権利者の利益が著しく損なわれている状況を踏まえて」と,これは今の制度導入時の立法趣旨を書かれているところです。この紙自体は委員の意見を書かれているので,委員の意見としてこのような発言があったということであればそのとおりなのかと思います。
 一方で,制度趣旨として書かれているのであれば,過去の資料の言い回しですと,損なわれているという断定ではなくて妥協の産物ということで,メーカーの当時の代表は最後まで損失はないという主張をしていたと理解しております。最後,制度導入のときには妥協して,損なわれるおそれがあるとか,可能性があるなどという表現ではなかったかと思います。委員の意見としてという掲載であれば仕方がないのですけれども,制度趣旨として書かれるのであれば,今後の取りまとめ方にもよるのですけれども,表現に工夫していただきたいということが1点。
 それから,この項目についての意見ではないのですけれども,本日意見をできるだけ述べるようにということについて,事務局ないしは主査の先生にもお願いです。私は団体の委員ですので,この資料を持ち帰って団体の会員会社に意見を聞く時間がありませんでしたので,次回ないしは次回以前でもいいのですけれども,後から意見を言う機会を頂きたいと思います。

【土肥主査】  今の榊原委員の質問と御意見ですけれども,まず1点目は1ポツの最初のパラグラフにあるところの部分は,これは意見ということですよね。この上から5行目の部分について,このような御意見があったということですか。

【俵著作物流通推進室長】  はい。

【土肥主査】  それでよろしいと思います。
 もう一点,要望があった点ですが,これはいかがですか。

【俵著作物流通推進室長】  一回持ち帰っていただいて意見を頂くことは,それでいいと思います。

【土肥主査】  では,ほかの委員についてもそういうことですね。本日出していただきたいと申し上げましたけれども,次回の冒頭にお出しいただいても結構だということですか。

【俵著作物流通推進室長】  期限を決めて,御意見を頂く形になるかと思います。期限については改めて相談をしたいと思います。

【土肥主査】  榊原委員,それでよろしいですか。

【榊原委員】  そのことについては,それで結構でございます。ありがとうございます。
 あと,先ほどの意見ですからということであれば,それと反対する意見がありますので,反対するというか損なわれているおそれがあるからだというところを,項目として逆の意見というか,掲載した方がよいのではないかと思います。

【土肥主査】  それは,きょうおっしゃっていただければいいのではないかと思います。

【俵著作物流通推進室長】  ちなみに,1991年になるかと思いますが,補償金制度が作られたときの著作権審議会第10小委員会の報告書では,「現在では,私的録音・録画は著作物等の有力な利用形態として,広範に,かつ,大量に行われており,さらに,今後のデジタル技術の発達普及によって質的にも市販のCDやビデオと同等の高品質の複製物が作成され得る状況となりつつある。これらの実態を踏まえれば,私的録音・録画は,総体として,その量的な側面からも,質的な側面からも,立法当時予定していたような実態を超えて著作者等の利益を害している状態に至っていると言うことができ,さらに,今後のデジタル化の進展によっては,著作物等の『通常の利用』にも影響を与え得るような状況も予想され得るところである」といったような形でまとめられています。

【土肥主査】  意見と第10委員会ですか,その報告書のその部分については分けていただいて,注記するなり,何なりしていただければいいかと思います。
 ほかにございますか。
 河村委員,どうぞ。

【河村委員】  今のは,補償金制度が導入されるときのことですか。

【俵著作物流通推進室長】  はい,今読み上げたのは。

【河村委員】  今このような読み上げが事務局からあったことで,それがこのようなところに反映されるのであれば,意見を申し上げておく必要があると思いました。91年は随分前のことです。その後私的録音録画補償金について,私の前の主婦連事務局長が委員のときから,言い方は悪いですが本当にうんざりするぐらい議論をしても,前に進まないというか合意に至らなかったという過程があって,ここにつながっているのだと思います。
 その議論の過程では,91年のときは何か爆発的に複製が増えていって,デジタル技術で大変なことになってという想定でしたが,CDを買ってコピーするという楽しみ方は主流でなくなるのではとか,ダウンロードするときには誰が何の曲を何曲ダウンロードしているのか分かることによって,補償金制度のようなざっくりとした制度が今後不必要になるのではないかということが,きちんと意見として挙がっています。今どれにどう書かれているとは言えませんが,報告書にも書かれていたはずです。将来的には,今のような制度は要らなくなるのではないかと書かれていたはずなので,91年当時の導入のところだけが,そういうふうに今になって何か引用されていくのは,経緯について誤解を招きかねないですし,公平性を欠くと考えます。

【俵著作物流通推進室長】  今,主査から御指摘いただいたように,当時の状況と現在の意見をきちんと区分けする必要があると思います。

【河村委員】  現在の意見ということだけではなくて,導入後今に至るまでに,私的録音録画補償金のことについて議論がたくさん行われてきた過程には,91年より後の今後のデジタル社会を見据えた意見が取りまとめの中にもあるのです。導入の後,現在までに,たくさんの制度を見直すべきだ,制度は不必要になるのではないかという将来展望を述べる意見があったことを抜きにして,導入のときだけのことが引用されるのは,という意味です。

【土肥主査】  そういう御意見等は承知しております。
 ほかにございますか。
 華頂委員,どうぞ。

【華頂委員】  この1ポツの下から2段目,上から3段目です。法によらず,契約や技術によって対価還元をした方がいいのではないかという意味だと思うのですけれども。先ほどの続きにもなりますが,映画の場合はあらゆるビジネスの局面で,第三者の私的複製を禁止しているわけです。ただ,唯一我々が制御できない,コントロールできない複製がテレビからの録画です。従前はその部分の私的録画を補償金で補っていただいて,バランスをとっていただいていたので問題はなかったのですが,今はそれが途絶した状況になっています。
 ですから,この2行にわたる文章ですけれども,契約や技術によって対価還元をしていただくことは,映画製作者にとっては非常に理想的な環境です。複製に対する制御ができないテレビ放送からの私的録画について,その録画機器あるいはそういうふうな専門のアプリケーションやソフトによって,ユーザーが,視聴者が録画をしたら,チャリーンと課金をしていただくことになれば,当然録画補償金の制度は必要性がなくなり,契約や技術によって対価還元がなされるので,是非これを実現していただきたいと思う次第です。

【土肥主査】  ほかにございますか。
 奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】  基本的なところとして,私的複製自体は維持するのだということが大前提であることについて,前提にした議論をしないといけないと思います。それを維持することを前提とすることと,全ての私的複製について補償金が必要かということは,英国の議論の反対ですけれども,イコールでないこともあり得るわけです。そういうところが前提になっているので,自動的に全ての私的複製に補償金ということでもなかろうし,私的複製であるから全く補償金は要らないということでもないでしょう。その中間を議論しているのであることについて,私としては申し上げておきたいなと思っています。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにございますか。
 はい,浅石委員,どうぞ。

【浅石委員】  過去からいろいろな経緯がございますけれども,技術的保護手段については音楽と映像でかなり違いが出ていると思います。華頂委員の御発言のように,映像の分野については放送以外はかなり技術的保護手段が掛かっていて,コピー・ネバーや,あるいは別の形でできるようにしている。それは課金システムでやっているのであろうと思います。一方,音楽の場合は,技術的保護手段がほとんど掛かっていないフリーの状況になっております。
 それから,将来のことについていろいろおっしゃっていましたけれども,技術的保護手段によって補償金が要らなくなるという趣旨のまとめもあったかと思います。しかし,現実には録音と録画では状況が分かれておりますので,将来何が起こるかという部分については,今どうだとは言えないと思います。
 また,定額聞き放題サービスも,日本の状況とヨーロッパ・アメリカの状況は著しく違いがありますので,現状として私的複製に対する補償をどのように捉えるのかをお考えいただきたいと思います。それから,これは進め方の問題になろうかと思うのですが,今申し上げたように,録音と録画の部分でかなりの違いが生じております。当然一緒の部分はあろうかと思いますが,一つの考え方として録音と録画をそれぞれ分けて検討する,録音を先にやる,録画を先にやると順序はありますけれども,分けた形での議論ができるのかどうかも御検討いただきたいと思っております。
 それともう一つ,技術の進歩によって家庭の中に権利が入り込むことを可とするかどうか。昨年度の議論の中で,家庭の範囲で何をしているのかという部分については,権利者には入り込んでほしくないという議論が多くあったと思います。技術的にはそのようなことができるのではないかというところでしたが。ですから,補償金の話というのは,家庭の範囲の中には入らない。けれども,このような大きな私的複製という山ができているものを,どのように捉えるのかという考え方ではないかと思うのです。技術が進んでいって,一人一人が家庭の範囲で何をどれだけ録音録画したかということまで,本当に入り込んでいいのであろうかというところも,お考えいただく必要があろうかと思います。反対の中に,非常にアバウトだ,あるいは誰に分配されているか分からないという御主張は,そういう前提の中で補償金は頂きますけれども,家庭の中で何が行われているかという一つ一つについては見ません。ですから,誰に分配するか,どのような録音録画をされているのかは分からない。でも,それはよしとしましょうというところだったと思うのです。この議論の中で,いや,そうではなくて,家庭の範囲の中にも入り込むのだという議論になるのか,その辺も大きな議論になっていくと思います。
 以上でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 浅石委員に2点御指摘いただきました。非常に重要なところかと思います。前半の点についても,相談させていただければと思います。後半の部分の御指摘も,非常に重要なところであると思います。
 ほかに。岸委員どうぞ。

【岸委員】  今の意見とも類似する部分なのですけれども,もともとこの対価還元という本来は市場で行われるべきことを,政策的に介入・補正をするのは,政策論的には市場の失敗が起きている場合にそれが必要になるのですね。正に録音録画全体の中で,全体で市場の失敗が本当に起きているのか,又はそれが部分的なのかに応じて,本来政策対応が変わっていくべきというのがあります。この手の議論はどうしても政策論的な,経済学的なアプローチが余りないのですけれども,本来市場の失敗が今の状況はどこで起きていて,それにどのように対応すべきかという整理を一回しておく必要があると思います。そういう意味では,これまで出された意見というより,今後に関する希望でもあるのです。流通の実態,利用の実態を踏まえて,具体的にどこで市場の失敗が起きているのかと,それをどのように補正していくのかというのは,一回しっかり整理しないと,先ほど河村委員もおっしゃったように,大分議論が混乱してしまう可能性があると思います。そういった整理は,どこかで必要ではないかと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにございますか。
 はい,奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】  今の岸委員の御発言とも関係いたしますけれども,私も同じように思っています。もちろん,大枠としては1の四つ目のポツのところのような形で見ていくべきだと思います。かといって,全てを一くくりに議論できるものでもないであろうと。録音と録画という議論も出ていましたけれども,更に言えば,市場の失敗を考えるのであれば,どのような市場なのかを考えていかないといけないということになり,機器の場合もあるでしょうし,サービスの場合もあるでしょう。さらに,国内に閉じている事業なのか,国際的な事業なのかも考えなければならないでしょう。例えば,事業者という用語になっていますけれども,関係する事業者はいろいろとあるわけであって,メーカーだけなのか,販売者も入るのか,その他プラットフォーマーも入るのかなど,いろいろな議論が,ものによって違ってくると思います。逆に,ものによっては,全然そのようなことは考える必要がないこともあると思います。
 別に,最初から細かく議論してくださいと申し上げているわけではないのですけれども,ところどころで視点を整理しないと,バランスを欠くことがあるので。
 すみません,言い忘れましたけれども,消費者という用語についても,昔は単に私的に家庭内で複製するだけの人を前提としていたわけですけれども,現状の消費者というのは自分でコンテンツを作ったり,消費したり,それから発信する人も含まれてきているわけです。ですから,ものによって,そういうところも含めて,いろいろなことを検討しなければ,最終的なバランスはとれないであろうと思います。
 したがって,こういうある程度の類型化については,どこか頭に残しておいていただきたいと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
 杉本委員,どうぞ。

【杉本委員】  ここでという話ではないのですけれども,今の岸委員のお話と奥邨委員のお話を包括するような感じです。多分この話を進めていくに当たって,法律論的な話と技術というか,もう少し流通経済的な話がごちゃごちゃに話される可能性があるので。例えばこの問題そのものを,還元だけではなくて,こういった著作物の扱いそのものに関して法律論的に話すという場は,当然ここではかなり色濃く反映されていると思うのです。半面,それが流通経済の中で,例えばどのような機能やサービスになったりしなければいけないのかといったところを少し切り離す。もっと言うと技術論的にどのようにするのかは,ここではいろいろと技術革新など大変曖昧な言葉で書かれています。けれども,具体的にどのようなソフト屋とどのようなインフラを使って,あるいはどのようなデバイス,そういったものを含めて,どのような具体的なサービスが実現できたときに,例えば対価を還元する必要があるのかないのかという議論は,それはそれで結構切り離して考えないと,そこに今度法律論が入ってきてしまうと,結構その話を進めていくに当たって,言葉の使い方でいろいろとサービスの具体的な仕様であったり,実装方法に対してブレーキを掛けてしまったりする可能性があります。例えば何かそこは,更にその分科会をするかどうかが答えか分からないのですが,ここでの議論をお聞きしていると,少しそこは分けていかないといけないのではないかという感じがすごくしました。意見になりますけれども。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】  まずは,前提たるファクトを固めるのが不可欠だと思います。それがきちんとできていなければ,何を議論しても砂上の楼閣になってしまいます。
 そして,映画という非常に特殊なものもあるというように,事例ごとの特殊性に注意が必要と思います。また,各事例も多様化しております。これらを議論する際にはいろいろなものが時代によって変遷もしているし,技術一つとってもまた来年再来年とどんどん変わっていくかもしれないということのようです。そこのところは,先ほどもあったようにきちんと録音録画を分けるなどの工夫が必要になってくる。最終的には同じになるのかもしれないということを十分に意識した上ではありますが,きちんと分けてみる必要があると思います。媒体や,流通自体が重要な時間軸でどんどん変わってきていますので,本格的に議論する際には,典型的な場面ごとの変化・特徴を一度おさらいしてみて,きめ細かく分析していかないと,単なる抽象論に終わるだけだという話も今までありました。つまり,経済分析もビジネス分析も含めていろいろなことをきちんと積み上げた上で,法的な補償金などをきちんと議論するためのファクトをきちんと固めていくことがまず必要だと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにいかがでございますか。
 どうぞ。

【榊原委員】  先ほどから契約という言葉や,市場の失敗という言葉が出ているのですけれども,データはその契約と技術で対価還元ができていくのではないかと申し上げてきました。基本としてこの分野に限らないことだと思うのですけれども,当事者間で契約をしてできなかったら市場が失敗しているということで,法制度を作っていくのが基本です。補償金もそういう中でできてきていたと思うのですけれども,今はその状況が変わってきているので,大部分が契約でできているのではないかと,前回のプレゼンなどでも申し上げたつもりです。
 ここで最初のタイトルというか,この委員会に課せられたテーマというか,アジェンダは,クリエーターへの適切な対価還元ということなので,適切な対価還元とは何に対する対価を言っているのかと。例えばコピー,30条を限定して言っているのかも分かりませんし,もう少し本来は限定されていないので,広い範囲のことを言っているのではないのかと理解をしていますし。クリエーターの方が何か創作して,コンテンツを流通させていたときに,何に対する対価としてというのは,多分いろいろなものが混じっていて,それがストリーミング用なのか,ダウンロードも含むものなのか,放送なのか。そういう実態が全くここでは提示をされずに,抽象的に話されているので,「適切な対価還元は必要ですね」という抽象論は誰も反対をしないのです。けれども,ここが適切にされていないから,しなければいけないのではないかというところが全くあぶり出されていないのです。「では適切な対価還元が必要ですね」と,「それは契約でできるのではないですか。」で終わってしまっていて,なかなか具体的にどの部分が足りないから必要だという経済分析もない中で,あるとかないとか,先ほどおっしゃった事実認定部分ができないのではないかと感じています。
 そこを,本来メーカーはそのエンドユーザーに非常に近いところにいますので,その上下部分で対価がきちんと還元されているのではないですかという問題を投げ掛けていて,いや,されていないとおっしゃる方がいるのであれば,どこの部分が足りないかが出ていないと。もちろん立証が難しいということはよく分かるのですけれども,もう少し限定して言っていただかないと,ずっと抽象論だけで終わるのではないかと感じます。

【土肥主査】  はい,椎名委員,どうぞ。

【椎名委員】  浅石委員の御指摘になった録音と録画を同じ条件で語れるのかということについて,僕も正にそのとおりだと思います。DRMの影響も全然違ってきますし,プライオリティとして録音から入っていくという話は,きっとあるのかなと思って聞いていました。
 どなたかおっしゃっていますけれども,DRMの影響を閾値論とするのか,あるいは程度問題の影響があると判断するのか分かりませんが,一旦制度全体が決まったところでのパラメーターとして関係してくる部分になり得るかとも思います。そこら辺,一旦議論を分けて話をしてもいいのかなと思って,聞いておりました。
 それから,これを見ていて思ったのですが,ずっとこの話がかみ合わない理由は,二つの議論がすれ違っている点にあると思います。現行の制度ではすなわちユーザーが支払義務者で,メーカーが協力義務者ですというところで,調整としては,ユーザーと権利者の間の利益の調整であるというところを前提に,様々に補償金制度にネガティブな議論がされている。例えば汎用機と専用機の問題などがそうですが,もう一つの議論として,ここの2番目に書かれていますように,コンテンツの訴求力を利用するステークホルダーとして,メーカーさんに着目するべきでしょうと。この一番下にも書かれていますけれども,権利者,事業者,消費者の利益バランスがとれる形に見ていきましょうよという,これは全く新しい考え方だと思います。そこら辺をごちゃ混ぜで議論をしていると,永遠に議論が終わらない気がする。どのような観点から新しい制度を考えていくのか,あるいは新しい制度は不要であるのかというところに論を移していかないと,恐らくもはや現行制度の手直しをしましょうという話ではないと思うので,そこら辺の整理を一回した方がいいのではないかと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 いずれにしても30条の枠の中での複製が,現行のような形で規定されておるわけです。この場合に権利者と事業者の間で契約関係が当然あると思いますけれども,この契約関係によって,最終的な末端の消費者のところで自由に複製ができることについてまでも,既に対応されているのかどうか。この点について,皆さんの御意見はいかがですか。そこまでも含めた話なのか,どうなのか。
 松本委員,どうぞ。

【松本委員】  私はアニメの業界の人間なので,アニメのカテゴリー,世界で考えたときに,個人の複製の部分で,それを個人だけで楽しむか第三者に売るかという問題は別として,その個人がハードに複製できる。それともう一つあるのは,違法なコピーをされる環境があることで,アニメに関して言うとテレビ放送をしたと同時に違法にアップロードされ,全世界にそれが配信されてしまう環境があります。これらを考えると,我々コンテンツ製作者,あるいは権利者側への利益の還元ができていない。利益を10としたときに,それと同じ金額の部分のボリュームが違法でコピー,あるいは配信されたことによる損害があるのではないかと言われています。これは実態を数字のデータとして集積したものではないので,感覚的なものですが。
 それだけ違法なり,我々の関知しないところでコピーされてしまっている環境があるという現実を考えたときに,違法でコピーする手段というのはプレーヤーや,あるいはハードディスクで,機器のメーカーはそれによる収益が当然あるわけですね。ところが我々は違法でされてしまったことに対する還元は,全くありません。
 そういう意味で考えると,私的録画補償金の新しい制度を考える手段は,一つはこれからのやり方の流れとしてあるのでしょう。もう一つは,また勝手が違うかもしれませんけれども,我々クリエーター側へ考えていただきたいと言った方がいいと思うのですが,一つの税制の優遇です。あるいはコンテンツのみに係る消費者の負担,先ほどのイギリスの例でのpricing-inといった制度は日本にはそぐわず,消費者にその分を価格に上乗せしますというのはあり得ない話です。それと同じ考え方をしたときに,税制の優遇によって我々クリエーターへの還元といいますか,要するに利益の確保ができて,新しいコンテンツへの投資ができる環境作りをするという考え方もあるのではないかと最近思ってきました。いろいろな流通の方,あるいはサービスの方,ハード機器,あるいは国内,国外,個人の意見を並べると,それぞれみんな主張をして,多分かみ合わない。議論の空論となる気がします。
 他産業では保護や,優遇措置などいろいろあるのですけれども,コンテンツ業界への優遇という言葉は聞いたことがありません。そういった面からの,税制という言葉を使っていいのか分かりませんけれども,優遇措置が考えられないか。そうすれば,皆さんが調整しなくても,コンテンツ制作側やクリエーター側にダイレクトにその還元ができる。国の税制,あるいは制度に由来した還元の方法も一つあるのではないかと,最近は思ってきました。少し観点が違うかも分かりませんけれども。
 以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにございますか。
 はい,華頂委員,どうぞ。

【華頂委員】  先ほどの榊原委員の御発言は,川上から川下までどこの部分で対価還元を求めているのかというお話ですが,映画の場合は先ほどから何度も申し上げていますけれども,テレビ放送からの録画です。この部分のみです。放送事業者さんと我々コンテンツホルダーが放送権を販売するわけですけれども,その契約の中には視聴者が録画をすることは想定していませんので,pricing-inしていませんから。ですから,榊原委員のお尋ねについては,恐らくテレビ放送の録画,この部分で対価還元をするべきではないかということでございます。
 近未来のことは分からないのですけれども,昔も今現在も,正にそこの部分でございます。

【土肥主査】  ほかに。
 畑委員,どうぞ。

【畑委員】  これまでの委員の発言を踏まえての意見ですが,コンテンツ流通の川上から川下までどこの部分が対価還元されていないのか,契約でできるところはできるのはないかという点については,正に我々もそのとおりだと思っておりますし,正にコンテンツの川上で作っている音楽やレコード,これについては制作・製造から流通まで基本的に契約でやっているということであります。
 では,どの部分の対価還元を議論しないといけないかというと,30条の範囲と解される私的複製についてどう考えるかという点にフォーカスが当たるべきではないかと考えております。
 その中で,先ほどからpricing-inという話がありますが,では,私的複製というものを契約で対応し得るのかと。あるいは現在の販売価格の中で私的複製を見越した価格決定が考慮されているのかという点については,音楽については基本的にそれは考慮されてないと言えると思っています。その理由としては,日本には30条1項があって,その私的複製の対価を還元する枠組みとして機能しているかどうかはともかく,補償金制度というものがあるわけですから。それを契約上オーバーライドして,対価をpricing-inという形で盛り込んで今音楽が流通されているわけではないと考えております。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 いずれにしても,その30条というものを前提に,1項の,1号,2号,3号ありますけれども,あの規定があることを前提に,クリエーターに対する適切な対価還元という問題を考えると。つまり,30条を縮減することや,限定することは考えないでやるということであろうと。皆さんの御意見では,そのように思います。そこをいじるというのであれば,先ほどのイギリスの話ではないですけれども,あのような形で限定していく話ではない,ということかと思いました。
 それから,時間が残すところ40分ぐらいになっております。その関係で,2ポツ,3ポツのこれも1ポツにつながる話でありますので,2ポツの補償すべき範囲ですね。これは今までの御意見の中にも出てきたわけですので,それプラス更に補償すべき範囲に関して新しく論点として追加する,あるいは考え方を追加していただくというところで,何か御意見ございましたら,お願いをいたします。
 はい,奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】  今の点は,主査がおっしゃられたとおりだと思います。なお,私的複製との関係で,補償すべき範囲にも関係するので申し上げます。私的複製の対価という用語については,私は若干括弧付きではないかと,すなわち,対価と言っていいのかどうかというのは,まずあります。対価と言っている以上は,従来の補償金よりももっと広いものを考えているということで,対価と補償金という言葉とは必ずしもイコールで結び付かないと思うので,そこは留保します。ただ,この文書の中の用法にならって,対価という用語を使います。先ほど御議論もありましたけれども,私としては複製を行うユーザーを抜きに,ユーザーを飛ばして事業者である,機械を提供している人だけを議論するのは,そこは著作権の立て付けとして,なかなか大きなハードルがあるのではないかと思います。
 したがって,補償すべき範囲を考えるときに,まずユーザーの行為を見るのが出発点であって,いきなりそれを飛ばして,それに対して何か機械を提供しているとかサービスを提供しているとか可能にしている人のみを,若しくはその人たちが中心なのだと議論することは,少なくとも著作権の立て付けとしては,かなりハードルが高いのではないかという気がいたします。

【土肥主査】  はい,椎名委員,お願いします。

【椎名委員】  そのような趣旨で申し上げたのではございません。ここにも書いてありますけれども,この三者のバランスということで当然ユーザーの複製動向なり,それの遷移の仕方等々も関係してくると思いますが,そこで事業者さんが上げる利益というのにもきちんと着目して議論をしていくべきではないかという趣旨でございます。

【土肥主査】  小寺委員,お願いします。

【小寺委員】  今,ユーザーの家庭内における複製がフォーカスされている状況ではありますけれども,例えば現状のコンテンツの入手手段を考えますと,多くの方はスマートフォンを使って何だかのコンテンツを購入されるケースが多いと思います。そうは言いましても,スマートフォンの容量には限度があり,更には2年なり何年かすれば買い替えてしまうこともあるので,購入したコンテンツを継続的に楽しむためには,いずれにせよ複製は避けられないわけですね。そういったデータ,コンテンツを入手する手段と,例えば再生する手段が別であるケースも当然あり得るわけで,そうせざるを得ない複製が生じているのにもかかわらず,それは補償なりをしなければならないことなのか。今はテクノロジー的にはそういうところに差し掛かってきておりますので,是非その辺りも織り込んでお話を進めていただきたいと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 今の小寺委員の御意見について,何かございますか。
 浅石委員。

【浅石委員】  容量の問題なのですけれども,音も今ハイレゾになってきていますが,音と映像とは全然違うと思います。是非,小寺委員などから,その辺の実態がどのような状況になっているのかを,「そう思う」とか,「そうではないか」ということではなくてお示しいただければと思います。冒頭榊原委員からもありましたように,JEITAさんは権利者の利益が著しく損なわれていないのだというところについて,過去に御発言になったということなので,そういうデータを見せていただけるのであれば,是非お願いをしたいと思っております。

【土肥主査】  その辺のデータは,以前椎名委員が出されたものがある。

【浅石委員】  それは権利者側として,これだけ損害があるのではないですかということは言いました。ただ,エンドユーザーの方,あるいは利用者の方が「これだけないのですよ」という実態は,まだ示されておりません。これはイギリスの議論と重なるのですけれども,そういうことがない以上,補償金なしでというのは認められないとなっていると思うのです。ないものか,あるものかは非常に難しいと思います。ただ少なくとも,そういう難しいということであれば,余り発言されない方がよろしいのではないかと思います。権利者側は三団体として椎名委員が代表して,これだけの実態があります,しかもそれは専用機から汎用機に移っておりますというお話はさせていただいたと思います。それはある程度,アンケートですけれども実態として示させていただいたということです。「と思う」というような部分であると,そう思われていることに対して何も言えなくなります。数字として裏付けのある発言であれば,是非その辺のものも示していただいた上で御発言いただけると,参考になると思いまして発言いたしました。

【土肥主査】  はい,ありがとうございました。
 今の段階ではなかなか難しい御意見かと思います。何か御感想や何かあったら。
 河村委員,今の点で何かありますか。難しいですよね,今は。ありますか。

【河村委員】  時間がないからいいです。

【榊原委員】  余りに非常識なのでちょっと。

【土肥主査】  権利者の方からは,椎名委員がかつて膨大な調査結果をお示しいただいて,かくほどさように複製がユーザーの下で行われていますということは,お出しいただいたことがあるわけであります。例えば前回の小寺委員のレポートによると,サブスクリプションですか,そのようなことが主流になってきておって,複製というものが余り行われないのではないかということもおっしゃったように思います。思いますので,浅石委員のような今の御意見が出ても当然あるのかなと思っておりますので,もし今後,近いうちに何かそういう点で御指摘いただけることがあれば,出していただければ幸いかと存じます。
 椎名委員,ありますか。

【椎名委員】  先ほどの奥邨委員とのやり取りに更に補足をさせていただきます。
 僕はこの三者の利益バランスというところを注目していくべきであると考えているのであって,例えば単にメーカーと権利者が話し合えばいいのではないかと思っているわけではありません。だけれども,今の議論が,ユーザーが支払義務者でメーカーが協力義務者ですという立て付けの下に,ユーザーと権利者の利害調整というところから離れないと,この問題は永遠に平行線をたどるのではないかという危惧を持っています。一つのアイデアとして日本以外の国がそうであるように,支払義務者が事業者であるという立て付けで考えたらどうかという議論,そこら辺を整理していく必要があるのではないかと申し上げたつもりです。
 それから,小寺委員に僕がお願いしたのは,ダビング10でこのように不便になっているということについて河村委員が挙げられたことの幾つかについて,それはダビング10の何らかの技術的な関係でそうなっているばかりではない。何かというと世の中著作権のせいにされますので,そこら辺を技術的に一旦整理していただいたらいいのではないかと言って,小寺委員にも通じたと,あのとき思ったのですね。ですから,そこも先ほどの話も含めて説明を一回していただきたいなと思っております。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかにございますか。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】  2点あります。
 少し戻りますが,裁判であれば,「ある」という立証があれば,反対の方から「ない」という立証があって,総合的に最終的に判断するという,まさしく,その点を言われたのではないかと思います。
 私は別にどちらの味方でもないのですが,あれば,両方から出していただいて,きちんと戦わせたら,おのずから真実はにじみ出てくるものではないかと思っております。そこは,「ある」「ない」と言うだけではなくて,データを示していただいて,実際に突き合わせてみると,おのずからその落ちどころは見えてくるのではないかと思います。
 それからもう一点。並行して走っている法制・基本問題小委員会の方でも申し上げましたが,これらは関係があるのではないかと思っております。あのときにも補償金という話が少し出てきたりしました。どのような文脈で申し上げたかというと,今35条1項には補償金というのはないけれども,補償金を付けるかどうかで35条もカバーされる範囲の広さが違ってくる。クラスでの資料配布の部数であれば,ゼミの15部ほどはいいけれども,ロースクールの授業の50部は認められなくなるという辺りの話も,補償金の裏打ちがあるのかないかでその範囲も変わってくる可能性があります。
 損害がないという議論をすることも悪くはないとは思うのですが,前から申し上げているトータルバランスという,総合的に見て権利者と利用者とのバランスをどのように図っていくかという観点からみると,現行法はまさしく30条1項で,2項の補償金による補完も付いた上で,基本線は先ほど申し上げた私的使用のための複製と主体の一致という二つの要件しかない非常に緩やかな話になっている。けれども,1号,2号,3号と例外が増えるにつれて,30条1項権利制限の実際上の範囲はだんだん減ってきているし,プラスして2項で補完して,失われた分は権利者に利益が行くようにしてそれでバランスを図っているわけなのであります。また,払う主体についてはまさしく言われたとおりで,現行法が唯一の解ではなくて,むしろ国際的にはそうではない方が多いようです。それは先ほどのバランスというところに関わってくるかと思います。最終的に補償金を転嫁されることがない代わりに,狭い範囲でしか適法に私的複製ができないのがいいのか,多少そのようなものを払うけれども,もう少し広く,現行法に近いような形で広く複製できるのがいいのか,どちらがユーザーにとってもハッピーな状態なのかという点を含めて,最終的にはトータルなバランスを図っていく際の一ファクターとして,要件をもっと厳しくするのか,広くするのかを考えるということになります。また,補償金という別の形できちんとクリエーターには還元するから,適法に私的複製できる範囲は広くてもいいという辺りは,教科書に係る権利制限にも関係してくるし,以前にメディア変換の文脈でもそのような議論をしたかと思うのですが,この問題はもっと広い視点から考えていく必要があるのではないかと思っています。

【土肥主査】  ありがとうございます。
 この2ポツについて補償すべき範囲,この問題について,よろしければ次の対価還元の手段,これもこれまでのところ出てきておるわけであります。論点としては,(1)の補償金制度のところに7つ,それから(2)の契約と技術による対価還元のところが四つ紹介されております。この点についてはこのようなことでまとめて,次回以降の議論につないでいいのかどうか。あるいは,これ以外に新しい論点があるということであれば,できましたら今出していただければと思います。
 もちろん,先ほども榊原委員の御要望にあったように,もう一つ先に,締め切りというのはおかしいですけれども,一つ設けます。もし,この時点で何かございましたら,お出しください。
 松田委員,どうぞ。

【松田委員】  いよいよ3ですが,対価還元の手段として,ここでは補償金制度と契約や技術の対価還元と,この二つを大きく捉えているわけであります。
 ところが,今大渕委員の御指摘のように,制限規定をより有効に使うというので,拡大するような利用方法のために,補償金をプラスした形の制限規定の導入の議論があります。この意味の制限規定による利用を適法化する要件としての補償金と,ここで議論されている補償金制度というのは明確に分けなければいけないのであろうと思っています。それをどの範囲内で1と言っているかというと,多分この1で言っている範囲内は機器やメディアに掛ける補償金のことを言っているのであろうと思います。しかし,第2の範疇もあるのだと考えて議論をしなければいけないと,まず指摘をしておきたいと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。ほかに御意見ございますか。
 河村委員,どうぞ。

【河村委員】  4ポツはまだなのでしょうか。

【土肥主査】  4ポツというのはこれですか,最後ですか。

【河村委員】  その他の意見と書いてある……。

【土肥主査】  いや,今河村委員がおっしゃったのは,どのような。

【河村委員】  最後の3ページの4のその他の意見のところは,今議論の範囲には入っていないですか。

【土肥主査】  ということだったのですけれども。それを論ずる必要があるのであれば,含めて結構です。

【河村委員】  そうですか。
 今までの過程でも,本当に意見がいっぱいあるのですけれども,時間もないようですので。
 この3ページの3ポツの続きで,(3)その他の手段というところに,これは3ポツですから対価還元の手段のところにクリエ-ターの育成と創作拡大に向けた支援基金などが出ています。ここの記述はMIAUさんと主婦連との連名で発表したときにこのようなことを申し上げたので,3ポツの続きにこれが書かれています。4のところにその他の意見でダビング10について,メディアチェンジができないということが書いてあります。誤解のないようにもう一度意見の趣旨をはっきり申し上げておかないと,今後大変誤解を受けて混乱すると思うのです。
 MIAUさん,補足があれば後でお願いします。きょうの意見でも録画と録音を分けるべきとありますが,この発表のときのこの部分の意見は,完全に地上波のテレビ放送の録画の話です。対価の還元が問題となる録画というのは,その部分しか基本的にないからです。つまり,録画補償金が対象にしているのも地上波のテレビの録画だからなのです。それに掛けられているダビング10という今のルール,それはもちろん法律ではないですが,それが非常に狭い,いろいろな不便さをユーザーに強要していることから,この状態で補償金を消費者が払うという選択肢はない,ここは揺るがないところです。裁判の判決もあるところでございます。
 しかし,誤解していただきたくないのは,ここに,例えば孫コピーができないというような個別なことが書かれていますけれども,孫コピーができるようになればとか,何らかのルールの緩めがあれば,新しい補償制度を作ってもいいのではないかと申し上げたのではありません。ルールの中身そのものもですけれども,ルールを担保するために使われているB-CASカードをはじめスクランブルを掛けて解除する仕組みなど,ルールにまつわるいろいろなことが,現在の,またこれから現れてくるであろう魅力的なサービス,例えば現在でいえば,私的に録画したテレビ番組を自分の他のデバイスに通信で飛ばすことなどを,ルールのしばりで不可能に,あるいは使いにくいものになるなど,阻害しているので,地上波のテレビに関しては全くDRMを掛けないということを御提案したのです。
 世界各国,日本以外の国では,DRMを地上波のテレビ放送に掛けてはいないのです。日本でも,地上波のテレビにDRMを掛けないということが実現したときには,DRMを掛けない代わりに,今の私的録画補償金とは異なる,何らかの新しい対価の還元を受け入れられると,それには,クリエーターの育成に使うようなものがいいのではないかと,そういうことを私たちは提案しました。30条や,私的複製の要件や補償金制度のところに帰っていくと,もうごちゃごちゃになるので,私たちが申し上げたのはテレビ録画へのDRM撤廃,それに伴う何らかの新しい方法の創設を提案いたしました。
 もし,何か間違や補足があれば,小寺委員,お願いします。

【土肥主査】  どうぞ。

【華頂委員】  河村委員の意見も今お聞きしたのですけれども,そもそも4ポツのところは後回しになったので最後に申し上げようと思っていたのですが,河村委員の御発言があったので。
 そもそもダビング10は,この間の前回の議論でも事務局の方からあったように,総務省の範疇なのでこのような所でやる必要もないのではないかというのがまず一点です。
 それからダビング10の導入に当たっては,総務省のその当時の中間答申にもきちんと書かれていますけれども,クリエーターへの対価の還元が伴うものであると私は記憶していますし,理解をしているのです。ですから,ここに書かれているようなことは全て後出しじゃんけん。ですから,このような記述は削除するべきです。
 以上。

【土肥主査】  笹尾委員,どうぞ。

【笹尾委員】  前回もダビング10の話が出ておりましたので,放送事業者として何か一言は申し上げておこうと思います。
 このダビング10は今,正に華頂委員がおっしゃったように,総務省の委員会といいますか,そちらで決定をされたものでございまして,放送事業者としてはその決定を粛々と実行しているということでございます。このダビング10に伴って,本来は地上波の番組は,例えばネットには出ない技術的な仕組みになっているはずなのですが,現状ではなぜか地上波の番組がそのまま,あるいはいいところだけがネットにたくさん流出してしまっております。これは本当に不可解でございます。なぜこのようなことができるのかが,よく分かりません。
 そのような中で,このダビング10に関しては,私が今何かコメントする立場にはないのですが,何もない,ダビング10も撤廃するという中で,要は地上波テレビと限定もされていらっしゃいましたけれども,そういったコンテンツがどこにでも出ていく,どこにでもコピーができるということになったとき,これは一体どのようなことになってしまうのか,計り知れないものがございます。
 以上です。

【土肥主査】  河村委員,どうぞ。

【河村委員】  少なくとも,今の補償金制度も消費者が私的にやることがどのような損害を与えているかというお話です。私が撤廃すべきと言った意味は,ほかの国でもそうであるようにDRMを掛けないということであって,ネットに自由にアップするとかしていいということを望んでいるのではありません。私的なこと以外は著作権法が禁じていることなので,そういうことを申し上げているのではありません。図らずも今でも行われているとおっしゃったように,DRMが縛っているのはそういうことをする方々ではなくて,普通の,テレビを見て楽しんで,私的に録画している人々です。そういう方たちの魅力的な使い方を縛っています。DRMは,あってもなくても侵害する人はやるわけで,それは別の問題として本当に大問題としてやるべきで,ごく普通のユーザーたちの当然できるべき私的な自由が制限されるのはおかしいのではないかということです。どんどんネットに出ていくことを想定しているのでは,全くございません。

【土肥主査】  松田委員,このダビング10ですか。

【松田委員】  いえ,違います。戻りましょう。

【土肥主査】  はい。

【松田委員】  3の方に戻って,還元の方式,手段をもう少し考えようではありませんか。
 私は先ほど整理させていただきました(1)の補償金の制度は,基本的に多分機器,メディアに掛ける補償金のことを考えているわけであります。私はとりあえずそういう整理をさせていただいた。それ以外ももちろんあるのですけれども,ここではそう考える。
 そうすると,この補償金制度と,2の契約・技術による対価還元とは,どのような関係になるかというと,ほとんどこれは重なる部分がないのではないかと。重なったとしても,二つの円が一部重なって,どちらでも対応可能だという部分があるかもしれません。分けて考えればいい。言ってみますと,二つの制度は並行的に成り立つのではないかと認識しております。
 そこで2の方でございますが,2の方は正に新規のビジネスモデルにどのように対応して,イノベーションを促進するかという問題です。その中でなおかつ,対価の還元をクリエーターにしていこうとなりますと,将来に向けての新しいビジネスモデルに対して,どのような対価を流通や機器に掛けるのか,契約するのかという問題になるはずであります。当然のことながら,1と2はそういう性質が分かれているのであります。さらに,2ですが,2のここで整理されていることは,誰しも反対するところはないのであります。
 そこで,あえて私は,ここでサンドバッグになることを覚悟して提案をしてみたいと思っております。
 2を促進するためには,一利用者と一権利者が契約をすることをどのように促進しても始まらないわけでありまして,大量的な利用,それもある程度同種の利用をビジネスとして拡大していくときに,権利者側とどのように調整するかということになろうかと思います。そうすると,権利者側の一定のまとまり――団体と言ってもいいと思います――と,それから利用者側の団体とが一定のビジネスモデルを想定したときにまとまり得る利用者団体,これとの話し合いを促進して契約を結んでいかなければならない状況が想定されると思います。これは一部行われているところであろうと思います。
 これを促進するにはどのようにしたらいいかということになりますと,ここから先なのですが,私は現行の著作権法の紛争あっせんの制度を,この部分にも拡大できるように改正したらいかがかと思っています。制度は似て否なるものになります。現行のものは,著作権侵害が現実にあったときの紛争です。私が提案いたしますのは,これから行われるビジネスモデルについての新しいルールを作るあっせんということになります。これはそれぞれ一定の団体がある程度のシェアを獲得しているときには,そこでまとまった案は,多分文化庁長官の行政処分がどこかに介在して,そしてある程度一般的なルールにできる制度にしたらどうかと思っています。2段です。文化庁の裁定がなくてもいいと思いますが,2段になって,そしてルールが一般化する制度も作る。
 そうなりますと,今度はそのような契約ないしは調整・協議をした後のルール化を法制にしなければなりませんが,しかしそれがどこの範囲まで及ぶかということになりますと,オプトアウトというものを考えなければならないのではないかと思います。そこに入りたくない人は出ていけるという,これも一種の権利保障かもしれませんが,そういう制度を作らなければならないと思います。
 そこまでのことを考えて,新しいビジネスモデル,イノベーションに対する促進を考えるときには,もう少し行政がバックアップするような制度がないと,さあ利用団体でおやりなさいよと言って,手放しをしているだけでは,これはもう進まないと私は思っています。これはずっと長い間そういう状態ですから。そのためには,アドホックのあっせん制度ではなくて,一定の恒常的な機関として文化庁の中に持つべきであろうと私は考えます。同時並行的に,これはどのようにしたら契約が結ばれるのか,どのようにやったら契約から外れるのかということを議論しなければいけませんので,著作権法とは別に著作権契約法についても考えていかなければならないと思います。
 これが,いささか大胆過ぎる私の発言でございます。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 松田委員が今おっしゃったところの利用者というのは,事業者のことですか,一般利用者ですか。

【松田委員】  利用者の方は,多分機器メーカーや通信メーカーや,ビジネスモデルを作る,それからプラットフォーマーです。

【土肥主査】  分かりました。
 椎名委員,どうぞ。現在,3ポツの位置に限らず,4ももちろんオーケーになっていますし,それから(3)のその他の手段についても結構でございます。3以下全て射程に入れて議論していただければと思います。

【椎名委員】  この意見概要については,僕らももう少し時間を掛けて検討したいと思っていますので,そのことではないのです。
 今,松田委員がおっしゃった話に関連して申し上げますと,去年のクラウドをめぐる議論の中で,私的複製と定義された領域があるわけですね。その部分を今後どのように考えるのかというと,これは場合によってはメーカーさんだけではなくて,その手段の提供者,プラットフォームなどという言葉もありますが,そういった部分も関係してくる。その部分も議論の対象になるのではないかと思います。

【土肥主査】  龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】  3の対価還元の手段の二つですね。補償金と契約ということが出ているわけです。
 ステークホルダー三者の特性を見た場合,消費者一般というのは誠に捉えどころのない存在で,それを現実的な当事者として補足しようという発想は,観念的抽象的なところがある。そういう前提に立って,補償金制度を見て行く必要がある。消費者の負担は具体的には機器メーカーから転嫁されるものに過ぎないので,現実の当事者は実は消費者ではないとも言えるわけです。
 もう一つは機器提供,あるいはサービス提供業者がある意味消費者の巨大な捉えどころのない私的利用に対して機器を提供するなりする特殊な立場にいる,そこと大きな意味での和解契約をしているのが補償金なのではないのかという捉え方もできる。
 伝統的にまた世界的に補償金制度は存在し,過去から現在までこれだけ主流となっているわけですので,補償金制度というのは一番据わりがいい制度であるというのは,いまだ変わっていないのではないか。問題は何を補償金制度の対象にするのか,何を指定機器,指定サービスにするか,そこに懸かるのではないかと思うわけです。そこをどのようにして決めていくのか。文化庁の政令だけで,文化庁の判断で決めるという方法では限界もある。結局そこで行き詰ってしまったりする。その問題が一つあります。
 それと,機器メーカーの協力義務という問題です。著作権法上に協力義務と,明文でそういう位置付けをされているということですけれども,先ほどの三者の関係からすると,協力義務というのは,第三者的な立ち位置になっているわけです。もし,それが実質当事者というところまで格上げされるのだとすると,協力義務というよりはもう少し強いものになってくるのかと。その意味で,協力義務という規定自体を触る必要も出てくるのではないかと思います。
 以上です。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 大渕委員,どうぞ。

【大渕委員】  これはいろいろ論文にも書いたところです。
 まず,この補償金という言葉は現行法にあるから使ったのですけれども,本当の実質からいうと私も悩んで,調整金と名前を付けたりします。先ほどの,要するにトータルバランスを図るための一つのファクターの可能性ということであります。またこれは,現行補償金制度が余りうまくいっていないからこそこの議論になっているのであって,今後の制度を考える際に,ヨーロッパなどに比べて特殊な日本の現行制度から離れることも考えるべきだと思います。現行制度を全く無視するわけにはいかないですが,今はうまくいかないからこそ,もう一度新制度を考えようという議論をしているのであります。そのバランスを考える際には,先ほどの点の協力義務というのは本当にいい制度なのか,本来普通の国のようにメーカーの方が直接義務者になるべきではないかということも含めて,もう一度ゼロベースできちんと考えた方がいいのではないかという点であります。
 なお,補償金制度を入れた上で権利制限肯定となるものは,教科書などと同様に適法なものとなります。このように適法となるものと,そうではなく違法なものとは,きちんと区別して議論すべきと思います。ただ,いろいろ組み合わせてみて,要するに適法,違法と言っても,結局権利制限を広くしたり狭くしたりすることによって変わってくるところを,総合的に考える必要があるのです。その上,権利制限と契約を,両にらみで考えていく必要があるかと思います。これらの議論を混同せずに整理して,かつ従前のものに必ずしも捉われずに,何がベストの解かを今後考えていくことになるのではないかと思っております。

【土肥主査】  奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】  今回のテーマの設定は対価の還元ということですが,対価の還元ということは,岸委員が何回もおっしゃっておられるように,市場が前提にあり,その市場には契約等々がまず前提にあるわけですので,岸委員の言葉にもありましたように,市場が失敗している場合に,いかにそれをカバーしていくかが今回の制度の議論であろうと思います。
 したがって,補償金という言葉がいいのか,今大渕委員からあった調整金がいいのかもよく分かりませんし,どのような制度がいいかは分かりません。ただ,先のようなカバーをする部分もの,あくまで補完的なものということになるのではないでしょうか。逆に言えばこの制度があることによって,市場によるいろいろな工夫やイノベーションを逆に阻害することにならないようにすべきです。あくまで補完でしかないという位置付けが,手段を考えていく上で必要ではないかと思っています。
 あと,何らかの形で制度を作る場合は,契約でやられる場合は結構ですけれども,何らかの制度があるということになった場合は,日本の国富が外に出ていくことにならないようにすべきと思います。国際的な対応については,議論はいろいろありますけれども,日本の中の人だけが損をすることのないように,内外でいろいろなバランスがとれたイコールフィッティングであることは,制度設計上は必要になってくると思います。もちろん,制度が必要かどうかはこれから議論するわけで,少し先取りですが,ただ,今回できるだけ議論を出しておきなさいということなので申し上げておきます。何も,制度を入れるということを前提として申し上げているわけではありません。ただ,仮に,そうなった場合には,そういうことも含めて広く見ておかないと,何のためにやっているのかということになりかねないなと思います。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 杉本委員,どうぞ。

【杉本委員】  とんちんかんなことであれば申し訳ないのですけれども,議論の中で,今までいろいろと話されている中でクローズアップされている部分が,私的複製の範囲をエンドユーザーが拡大解釈をして,それはもはや私的複製ではなくて,権利侵害の意味で入っているものに対しての機会損失に対してどのように補償するかといったところも,若干話の中に入ってきてしまっている感じが少しするのです。
 そこに関しては,基本的には我々事業者等の解釈としては,私的複製の範囲を超えた,著作者の方にとっての機会損失補償的なものに関しては,既に契約行為でかなり前からやっています。そこに関しての話というのは,恐らくこれから議論する余地は全然なくて,そこはやっていけばいいのだと思うのです。
 どちらかというと,機会損失として補償金をどのようにするかという話はどうしても偏りがちです。そうではなくて,私的複製行為がそもそも補償すべきものに値する内容なのかどうなのかというところに,もう少しフォーカスして話し合っていっていいのかと思います。これまでの私的補償の範囲だったり,対象というのはこのようなことだというのはある程度明確になっていると思うのです。
 けれども,現代,あるいはこれから,若干未来に向けてもいいと思うのですけれども,現状のテクノロジーだったり,インフラだったり,あるいは私的利用そのものの考え方ですね。汎用機が現れた,そういうのも含めてそうなのです。そのようなシチュエーションを全部もう一回整理した上で,2015年以降の私的利用ということが具体的にどのようなものであって,それはそもそも補償すべき範囲のものかどうかといったところに関しては,もう少し具体的に話をしていく段階に入っているような気がします。これまでどうだったというよりも,そこが,結局極論を言うと,何人まで共有できるとかといったところまでも限定していいと思いますね。それはデバイス管理でも,テクノロジー管理もできる時代になっていますから,そういったところまでも限定的にかなり話を詰めていった上で,今後の私的利用や私的複製はどのようなものだといったところが明確になってこないと,結局それはどのように補償されなければいけないかとか,それをどのように補償するのだといった補償のところにまず,補償ありきで議論が行ってしまっているのです。けれども,私的複製そのものの行為は,そもそもそういうものに値するのかどうかといったところは,もう一回きっちりと内容を把握した上で話していく段階にあってもいいような気がします。

【土肥主査】  ありがとうございました。
 時間がもうなくなってきておるわけでありますけれども,まだここだけは意見として出しておきたいという方がおいでになりましたら,お出しいただければと思います。
 なければ,事務局にお尋ねするわけですけれども,先ほどの榊原委員が言われた何日ぐらいまでという新たな意見の追加はいつぐらいまでに考えておけばよろしいでしょうか。

【俵著作物流通推進室長】  相談をして,皆様にお伝えをするようにします。

【土肥主査】  メールか何かでですか。

【俵著作物流通推進室長】  はい,そうします。

【土肥主査】  そうですか,分かりました。メール等で連絡があるようでございますので,よろしくお願いいたします。
 本日,2時間の中で出すことができなかった御意見がございましたら,そのメールに対応して,事務局の方に意見を出していただければと思います。そうした意見,あるいは本日皆様からお示しを頂きました意見も含めて,論点整理を事務局にしていただければと思っております。その上で,次回からそれぞれの論点について集中的に議論を進めていけばと思っております。いずれにいたしましても,前回と同じような議論にならないように,ひとつ事務局はもちろんでありますけれども,委員の皆様方にも是非よろしくお願いをいたしたいと存じます。
 それでは,本日はこのくらいにいたしたいと存じます。
 最後に事務局から連絡事項がございましたら,お願いをいたします。

【秋山著作権課長補佐】  次回の小委員会につきましては,改めて日程の調整をした上で御連絡したいと思います。ありがとうございました。

【土肥主査】  それでは,これで著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の第2回を終わらせていただきます。本日は誠にありがとうございました。

―― 了 ――

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