平成25年度文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第4回)議事次第

日時:平成25年11月1日(金)
17:00~19:00
場所:ホテルフロラシオン青山 孔雀の間

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)ワーキングチームの設置について
    2. (2)裁定制度の在り方等について(関係者ヒアリング等)
    3. (3)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
ワーキングチームの設置について(案)(108KB)
資料2
国立国会図書館提出資料(368KB)
資料3
独立行政法人国立美術館提出資料(284KB)
資料4
一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構(aRma)提出資料(1MB)
資料5
日本放送協会提出資料(692KB)
資料6
今村先生提出資料(232KB)
参考資料1
小委員会の設置について(平成25年5月8日文化審議会著作権分科会決定)(124KB)
参考資料2
文化審議会著作権分科会の議事の公開について(平成22年2月15日文化審議会著作権分科会決定)(92KB)
参考資料3
ヒアリング出席者一覧(804KB)
参考資料4
法制・基本問題小委員会(第3回)における議論の概要(裁定制度の在り方等関係)(224KB)

【土肥主査】

 それでは,定刻でございます。若干遅れて到着なさる委員もおいでになりますけれども,ただいまから文化審議会著作権分科会の法制・基本問題小委員会(第4回)を開催したいと存じます。本日は御多忙の中御出席をいただきまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されておる議事内容を参照いたしますと特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいているところでございます。特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】

 それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 それでは,まず事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 議事次第の下半分の方を見ていただきたいと思います。資料1,ワーキングチームの設置について(案)でございます。資料2,国立国会図書館提出資料でございます。資料3,独立行政法人国立美術館提出資料でございます。資料4,一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構(aRma)提出資料でございます。資料5,日本放送協会提出資料でございます。資料6,今村先生提出資料でございます。
 そのほかとしまして,参考資料1,小委員会設置についてでございます。参考資料2,分科会の議事公開についてでございます。参考資料3,ヒアリング出席者一覧でございます。参考資料4,当委員会の前回の議論の概要でございます。
 以上でございます。落丁等がございましたら,事務局までお声掛けください。

【土肥主査】

 ありがとうございました。
 それでは初めに,議事の進め方について確認をしておきたいと存じます。本日の議事は,(1)ワーキングチームの設置について,(2)裁定制度の在り方等について(関係者ヒアリング等),(3)その他,の3点となります。(1)のワーキングチームの設置につきましては,前回までの議論等も踏まえてお諮りをしたいと思っております。(2)の裁定制度の在り方等につきましては,前回の議論等も踏まえ,本日はまず関係者の方々から裁定制度の利用に係る現状や課題等について御発表いただきまして,次に,権利者不明著作物等の利用方法について,明治大学の今村先生にも御発表をいただくこととしたいと存じます。その後,まとめて質疑の応答,さらに自由討議を行いたいと思っております。
 それでは早速,1つ目の議事でありますけれども,ワーキングチームの設置に入りたいと思います。先ほど御紹介のあった資料1,お手元にございますので,ごらんいただければと思います。ワーキングチームの設置について(案)という資料でございます。
 前回まで御議論いただいておりました,クラウドサービス等と著作権につきましては,今後の検討方法の1つとして,複数の委員からワーキングチームの設置についての御意見を頂いておったところでございます。クラウドサービス等と著作権の問題につきましては,関係者へのヒアリング等も踏まえ,検討対象とすべきサービスや検討すべき法的論点について議論が進められ,クリエーターへの適切な対価還元の在り方も含めて議論となっておりました。
 これらの課題は,法的な論点を含め非常に難しいものと認識しております。今後,更に専門的かつ集中的に検討を行う必要があるものと考えております。また,本小委員会においては,こうした課題以外にも,知的財産政策ビジョンで示されている諸課題について速やかな検討が求められておるところでもあるわけでございます。したがいまして,私と致しましてはこの課題はワーキングチームにおいて検討することが適切と考えますので,その旨お諮りをしたいと思います。
 ワーキングチームの設置について,事務局から説明をお願いいたします。

【菊地著作権課課長補佐】

 それでは,ワーキングチームの設置につきまして御説明申し上げたいと思います。資料1と参考資料1,2をごらんいただければと思います。
 まず参考資料1となりますけれども,参考資料1として配付しております小委員会の設置についてにおきましては,一番下の4,その他の(2)でございますが,「議事の手続き,その他各小委員会の運営に関し,必要な事項は,当該小委員会が定める」というふうにされてございます。
 これを受けまして,資料1をごらんいただきたいのですけれども,先ほど土肥主査からお話がございましたように,法制・基本問題小委員会の下にワーキングチームを置くということとしてございます。ワーキングチームの名称と致しましては,著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチームとさせていただいております。その検討課題と致しましては,クラウドサービス等と著作権について,それから,クリエーターへの適切な対価還元について,そして,その他ということとしてございます。
 それから,ワーキングチームの構成員についてでございます。2の(1)にございますとおり,座長を置き,法制・基本問題小委員会の委員のうちから,法制・基本問題小委員会の主査が指名するということとされておりますほか,(2)にございますとおり,ワーキングチーム員は,法制・基本問題小委員会の委員のうちから主査が指名した者及びその他の者であって主査と協議の上で文化庁が協力を依頼した者で構成されるということとしてございます。
 それから,議事の公開につきましてでございますが,3にございますとおり,「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」,これは参考資料2としてお配りしておりますけれども,これに準じて行うものとするとしてございます。簡単に申し上げますと,現在の法制・基本問題小委員会における議事の公開についての取扱いと同様ということでございます。
 ワーキングチームの設置につきましての説明は以上でございます。

【土肥主査】

 ありがとうございました。ただいま事務局より説明のあったワーキングチームの設置について,御意見がございましたらお願いいたします。
 どうぞ,笹尾委員。

【笹尾委員】

 前回から今回までという非常に短い時間の中でワーキングチームの設置までいろいろと御調整いただきまして,私は民放連という放送事業者の立場ですが,このチームの設置を歓迎いたします。そもそも今,この検討課題の中にもございますが,クリエーターへの適切な対価の還元ということが実はできていない状況であり,これは非常にゆゆしき事態だと認識しておりますが,そういう状況が続いてしまっているということがございます。
 放送局にとっては非常に重要なパートナーであるメーカーさんとの裁判ということでひとつの結論が出され,そこからこういう状況になっていると認識しておりますけれども,専門の先生方を前にして言うのもあれなんですが,裁判所の判断に関しましては,法律のたてつけといいますか,その辺に少し不明確な部分があったが故にいた仕方のないことだったのかもしれないと思ったりもしております。
 ただ,重要なのは,クリエーターへの適切な対価の還元がなされるべきということに関しては,恐らく今,日本の中ではコンセンサスのようなものができているんじゃないかと思われますので,とにかく対価の還元というものがまた適切に行われるようにこのワーキングチームが突破口になればいいなと考えております。以上です。

【土肥主査】

 ありがとうございました。
 ほかにございますか。特にございませんか。
 それでは,ワーキングチームの設置につきましては,今,事務局から提案のあったといいますか,説明がなされました,こういう考え方に基づいて本小委の下に置くということでよろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】

 ありがとうございます。それでは,これも先ほど事務局から説明があったのですけれども,本ワーキングチームの座長及びワーキングチーム員につきましては,先ほどの資料1の真ん中辺りにある2に基づいて任命されることになっておりますので,ワーキングチームの構成につきましては後日委員の皆様に御連絡をしたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは,2つ目の議事に入りたいと思います。2つ目の議事は,裁定制度の在り方についてでございます。関係者のヒアリングを今日は予定しておりまして,お忙しい中おいでいただいております。御発表に当たりましては,参考資料3に記載しておる順で御発表いただきたいと思っております。それから,御発表の時間でございますけれども,誠に恐縮に存じますけれども,15分程度を目安にひとつよろしくお願いしたいと思います。
 では,まず事務局から,ヒアリングの御出席者の紹介をお願いいたします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 それでは,参考資料3をごらんください。発表順に紹介させていただきます。
 国立国会図書館電子情報部副部長,佐藤毅彦様。

【佐藤氏】

 よろしくお願いいたします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 独立行政法人国立美術館情報企画室室長,水谷長志様。

【水谷氏】

 よろしくお願いします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構(aRma)理事で当委員会委員でございます,椎名和夫様。

【椎名委員】

 よろしくお願いします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 同機構事務局長,橋元淳様。

【橋元氏】

 よろしくお願いします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 日本放送協会知財展開センター著作権・契約部部長で当委員会委員でございます,梶原均様。

【梶原委員】

 よろしくお願いします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 またこのほかに,著作権不明著作物の研究をされております,明治大学情報コミュニケーション学部准教授の今村哲也様でございます。

【今村氏】

 よろしくお願いいたします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 以上でございます。

【土肥主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは,早速でございますけれども,国立国会図書館の佐藤毅彦様,よろしくお願いいたします。

【佐藤氏】

 国立国会図書館電子情報部副部長をしております,佐藤と申します。国立国会図書館は,所蔵資料を大規模にデジタル化しておりまして,それらのインターネット公開につきましては文化庁長官裁定制度を非常に多く利用させていただいております。そういう関係から,今回このような御説明の機会を頂戴(ちょうだい)いたしましたことにつきまして最初に感謝申し上げます。どうもありがとうございます。
 それでは,資料に従いまして御説明いたします。資料の構成ですけれども,最初の2ページが本文です。本日はこれに基づきまして御説明いたします。その後,別紙1が1枚,デジタル化資料の提供状況,それから,別紙2としまして,デジタル化資料の図書館送信についての概要説明資料が1枚ございます。それから,別紙3と致しまして,裁定制度の利用実績等について3ページものの資料がございます。
 それでは,本文に従いまして御説明させていただきます。こちらの構成は大きく2つに分かれておりまして,まずは国立国会図書館における資料デジタル化の概要,それから,2つ目が,2ページ目の方ですけれども,裁定制度利用の現状と課題となっております。
 まず,資料デジタル化の概要でございます。国立国会図書館は,国立国会図書館法に基づきまして,納本制度によって出版物を網羅的に収集し,文化的資産として後世に伝えるとともに,国会,行政・司法各部門及び国民の利用に供することとされております。当館は資料の利用と保存の両立を図らなければいけないということで,原資料を保存するという意味合いも込めまして,所蔵資料のデジタル化を進めてきております。それの追い風となるように著作権法改正等も行っていただきまして,デジタル化を進めてきているという状況でございます。
 1.2,所蔵資料のデジタル化でございます。当館では,平成12年度以降,著作権処理を行ったものをデジタル化し,インターネット公開するという形で,継続的に所蔵資料のデジタル化を進めてきております。
 近年の著作権法改正の1つ目の大きなものとして,平成21年の著作権法改正があります。第31条第2項が新設されまして,当館は権利者の許諾なしに所蔵資料を保存のためにデジタル化できるようになりました。同時期に,平成21年度と22年度ですけれども,総額で137億円という巨額の補正予算を計上させていただきまして,当館所蔵資料のデジタル化を急速に進めてまいりました。今年の9月末時点で,明治期以降刊行の図書につきましては34万点,それ以外の雑誌とか博士論文を含めまして47万点の資料をインターネット公開しております。館内限定資料,これは著作権法の保護期間中の資料,又は著作権処理を行っていない資料になりますけれども,これを含め全体では227万点のデジタル化資料を提供しております。別紙1の説明は省略いたします。
 デジタル化資料をインターネット公開するに当たりまして,当館では文化庁長官裁定制度を活用させていただいておりますが,これは後ほど詳しく御紹介いたします。
 それから,1.3,図書館向けデジタル化資料送信サービスの方でございます。インターネット公開できない資料については基本的に当館内で限定して提供を行ってまいりましたけれども,近年の著作権法改正の2つ目の大きなものとしまして,平成24年に第31条第3項が新設されまして,デジタル化資料を全国の公共図書館等に自動公衆送信できるようになりました。送信対象機関については,著作権法第31条第1項の適用がある図書館等に限定するということと,あとは電子書籍市場の形成発展の阻害とならないように配慮する必要がありますので,送信対象資料につきましては入手困難な絶版等資料に限定しています。この制度によって,今後,来年1月からを予定しておりますけれども,図書館へのデジタル化資料の送信サービスを開始すべく現在準備作業を進めておるところでございます。
 大きなところでいうとこういったところでございます。図書館送信サービスにつきましてはこれから始まるところですけれども,大規模な国費を投じて実施した資料デジタル化の成果をより多くの人に活用していただけますように,出版社,権利者等関係の方々の御理解,御協力を賜りながら,更に利便性の向上や運用上の課題の解決等に取り組んでいきたいと考えております。
 2ページ目の方に参ります。裁定制度利用の現状と課題でございます。こちらにつきましては別紙3を時々参照していただきながらの説明になりますので,よろしくお願いいたします。
 まず2.1,現状でございます。インターネット公開中の図書につきましては,現在34万点をインターネット公開していますけれども,そのうちの8万5,000点は長官裁定を受けた著作物でございます。長官裁定は平成17年以来5回受けております。これらのほかに平成11年に児童書について一度裁定を受けておりますので,それを加えますと6回受けているということになります。そのうちの2回につきましては,インターネット公開に当たって許諾の期間を5年というふうに定められておりますので,その期間が満了したことに伴う再裁定でございます。
 別紙3をごらんいただければと思います。表1にこれまでに受けた裁定の一覧を掲げてございます。平成11年のものは除かれております。それから,表2のところで,平成25年9月末時点で裁定に基づいて公開している著作物・著作者の数を掲げてございます。現時点で,著作物数にしまして10万5,787件,著作者数にいたしまして5万8,192名の著作物を裁定制度に基づいて公開しているところでございます。
 本文の方に戻ります。2.1の第2段落になりますが,当館で行っている著作権処理の作業です。別紙3図1のところに書いてございますが,まず著作物・著作者を洗い出します。資料そのものを当たって,挿絵を描いている方もいらっしゃれば,前書きを書いている方もいらっしゃるということがありますので,結構一ページ一ページめくりながら洗い出しを行います。その後,没年調査,連絡先調査,許諾依頼あるいは文化庁長官裁定という流れを踏みまして,公開できるものについては公開しております。
 本文の方ですが,著作者の没年調査及び著作権者の連絡先調査につきましては,著作権法施行令第7条の7等に基づいて行っております。この判明実績が,今度,別紙3の2ページ目になりますけれども,表3,調査過程での判明実績にお示ししてございます。調査方法としましては,名簿・名鑑類の閲覧,ネット検索サービスによる情報の検索,同種の著作物等の販売等を行う者への照会,著作者団体等への照会,一般に対して情報提供を求める(ウエブサイトを通じての情報提供を求める)といったことを行っております。一番右に判明率が載っております。名簿・名鑑類の閲覧で4.2%,それ以外のものについては0.数%という実績になっております。
 何度もあちこち行ってしまって申し訳ございませんが,また本文に戻ります。2.1の第3段落目でございます。補償金についての現状でございますが,直近の裁定が24年3月1日に行われまして,そのときの補償金額が,著作物1件当たり81円という裁定を受けております。補償金の算定につきましては,電子書籍の平均価格を基礎として算定しております。ただ,当館の場合,何万件という形で裁定をお願いしている関係で,供託金額でいうと国全体の中でもかなりの割合を占めることになっております。ただし,これまでに5件ほど著作権者が判明したというものがあったんですけれども,結果的に,81円の補償金を受け取るためにそれなりのコストがかかるということもあるかと思いますが,補償金を受け取られたという例はなく,インターネット公開を認めていただいているという事実がございます。
 続きまして,課題に移ります。大きく3つ掲げてございます。1つが著作権調査に関する問題です。最近は全体的に個人情報保護の潮流によって,検索や照会といったものによって情報取得がなかなかできなくなってきております。名簿・名鑑類は更新版がなかなか発行されなくなってきておりますので,だんだん情報の有効性が下がってきております。
 それから,当館で裁定をお願いする資料というのが,例えば図書でいいますと1968年以前に刊行されたものということで,古い資料が裁定対象となっていることもございまして,公開調査を行った場合でも判明率が非常に低いという事情がございます。これについては別紙3の表5をごらんいただきたいのですが,平成15年度は公開可能となった資料数が1,193点と非常に多いのですが,これは当館で最初にこういうことを行ったということで,マスコミで大きく報道していただいた関係でかなり情報提供を頂けたといったような事情がございます。それ以降については,6点とか0点とか4点とかいうことで実績としては非常に少ない数字が出てきております。
 また本文に戻ります。そんなことで,公開調査による判明率も低いというようなこと,それから,取得した情報も,先ほど申し上げましたように資料が古いということもございますので,住所が既に無効になっているということで連絡がとれないといったような問題があります。それから,再裁定の場合にまた改めて資料を提出する部分があるんですけれども,最初に提出した資料以上の新しい情報源がほとんど期待できないというような事情もございます。そういったこともございますので,先ほど調査方法として名簿・名鑑類の閲覧とか,ネット検索とか,同種の著作物の販売等を行う者への照会とかそういったものがありますけれども,この辺の簡素化については検討の余地があるのではないかと考えております。
 2つ目の課題は,補償金の供託に関する問題でございます。先ほど申し上げましたとおり,供託した補償金が著作権者に支払われたことがない,現実に著作権者の利益になっていないという状況が,当館に関して申し上げますとございます。また当館の場合,大量の資料のデジタル化に伴う裁定を申請しますので,結構手間が掛かるというところが正直なところございまして,申請する当館だけでなく,文化庁様や,あるいは法務局様の方には結構大きな手間を掛けていただいているという事情がございます。
 そこで,当館に関しては,例えば裁定を受けた著作物の著作権者から補償金の請求があった場合には,法的な根拠があればということでございますけれども,当館がしかるべく補償を行うといった方策も考えられるのではないかと考えております。それから,現在,裁定利用期間は5年というふうになっておりますけれども,この期間を延長するといったこと,あるいは補償金の算定方法について見直すといったことも考えられるのではないかと思っておる次第です。
 それから,第3ですけれども,裁定結果の共有,それから,他の裁定への活用ができないかというところを課題として挙げさせていただいております。現在当館でインターネット公開している裁定資料についても,ほかの方が利用できないかという照会は何件かあるんですけれども,その場合でも,利用したいという方が改めて裁定を受けなければならず,その方がまた改めて一から調査をしなければならないと承知しております。そうしますとなかなか利用に至らないという状況がございます。そういったことがございますので,裁定を受けた著作物,著作者等をデータベース化するといった形で裁定結果を共有できるようにするとか,あるいは一旦行われた裁定について第三者が裁定申請をする根拠としてより簡易に活用できるようにするといったことができると,更に裁定制度も使いやすくなるのでないかと考えております。
 雑ぱくではございますが,以上で御説明を終わります。

【土肥主査】

 佐藤様,どうもありがとうございました。
 それでは,独立行政法人国立美術館,水谷長志様,よろしくお願いいたします。

【水谷氏】

 独立行政法人国立美術館の水谷と申します。よろしくお願いいたします。
 そもそも国立美術館というのが,いつ誕生して,日本国内に何館あるかということを確認したいんですけれども,国立美術館は昭和27(1952)年に京橋の日活のビルに国立近代美術館として誕生しました。それが今日の竹橋にあります東京国立近代美術館になっています。ですので,昨年,国立美術館の最初の館は60周年を迎えたということです。東京の国立近代美術館,そして,京都に国立近代美術館があります。それから,上野に国立西洋美術館,そして,大阪に国立国際美術館があります。そして,もう一つ,2007年に六本木に新しい国立新美術館が誕生したわけで,独立行政法人国立美術館というのはこの計5館で形成されています。国立博物館が上野,京都,奈良にあるわけですけれども,それは別の独立行政法人として存在しているわけで,博物館と美術館は別法人になっているということです。
 そして,独立行政法人国立美術館の5館のうち1館,すなわち,国立新美術館は所蔵品を持っていませんので,著作権の問題とは無縁だということです。では,残りの4館の所蔵品を考えていきますと,国立西洋美術館は,かなり古い西洋美術から後期印象派まで,一部20世紀美術を含んでいますが,著作権の問題とはほとんど無縁です。東京の国立近代美術館,京都の国立近代美術館,国立国際美術館というのは,いずれも近代及び現代の美術を扱っていますので,極めて高い率で著作権の生きた作家・作品を持っているということが前提になるということを確認したいと思います。
 国立美術館におけるデジタルアーカイブというのは,かなり時間を費やしてはいますが,先ほどの国立国会図書館のようにダイナミックな動きでデジタルアーカイブを推進しているわけではございません。1990年代から,いわゆる所蔵作品の管理システム,データベースシステムを構築する,あるいはネットワークシステムを作る,あるいはホームページを開設するというプロセスの中で幾つかの成果を築いています。
 その1つが,独立行政法人国立美術館所蔵作品総合目録検索システムです。これは所蔵品を持っている4館の所蔵作品についての作品のメタデータ,テキストデータと,それから,全てではございませんけれども,一部,デジタルイメージを掲載しているというものです。
 それから,ネットワークシステムはVPN。
 それから,もう一つは,東京国立近代美術館にはフィルムセンターがあります。フィルムセンターにおいては,映画のメタデータ,テキストデータのデータベースを構築して,すなわち,動画そのものを公開するというわけではございませんけれども,メタデータの検索システムを構築しているという,こういった試みを行っています。
 そして,(1)番の所蔵作品の目録検索システムの派生的成果として幾つか,特に国立情報学研究所と共同開発という形で,「想-IMAGINE」とか,「遊歩館」とか,あるいは文化庁の「文化遺産オンライン」,あるいは国立国会図書館の「サーチ」とのデータベース連携というようなことを行っています。
 こういう業務というか成果を国立4館がそれぞれデータを蓄積して,それを独立行政法人の本部の情報企画室が取りまとめてインターネット公開するというふうなプロセスになっているわけです。
 別紙の資料,A4横の資料をごらんいただきたいんですけれども,これは独立行政法人国立美術館,すなわち,所蔵作品を持っている4館がウエブに公開している総合目録における画像掲載の許諾の状況です。まず確認していただきたいのは,4館の所蔵作家の総和を単純に計算しますと5,194人です。これは重複があるので若干少なくなるわけですけれども,およそ5,000人の作家の作品を,4館でトータルで大体4万弱ぐらいの作品を所蔵しています。その所蔵作家5,000人のうち,著作権がいわゆる切れている,没後50年たっているというのが17.89%の929人です。そして,著作権が今もある作家が82.11%で4,265人ということですので,圧倒的多数が著作権があるという状況です。
 インターネットに作品の画像を出すについてはともかく許諾を取るというプロセスを踏まないといけないというのは,このシステムを立ち上げるとき文化庁に相談して得た1つの回答だったわけです。そして,平成18年から,ジャンルごとに,日本画からはじまって,油彩その他,彫刻,版画,写真,水彩・素描,工芸(陶磁)というふうに,毎年度ジャンルを区切って,いわゆる掲載をしてもよろしいですかという許諾の依頼文書を出しています。
 この出している先というのは,国立美術館が作品を持っていて,何らかの著作権者情報を既に入手している,そういった作家あるいは作家の著作権継承者に出した文書です。トータルで1,715通を出しています。調査対象作家数と送付件数に若干のずれはありますけれども1,700ほど出していて,基本的には8割ぐらい,1,373の著作権者あるいは継承者から,いいですよと許諾を頂いています。
 それに対して,いや,掲載は困る,あるいは掲載に当たって掲載料を求められた――今回私たちは,国立美術館の場合は著作権料を払って画像を掲載するということは今,行っていませんので,そういう意味で掲載に対して否ということで否を言ってこられた方は極めて少ないです。0.99%,17件ということです。
 ですので,基本的には支持していただいているわけなんですが,ただ残念なことに,所蔵作家の著作権者あるいは著作権継承者の住所に宛てて出した許諾の文書が必ずしも著作権者・継承者に届いていないということがあります。149件,8.69%は戻ってきてしまっています。これが更に精査するべき対象ではあると思いますけれども,現状の宛先不明が8.69%ということです。それからさらに,届いてはいるんですけれども,回答を頂けていないという方が176件で10.26%。ですので,宛先不明で返送あるいは無回答を合わせますと,18.95%については今のところ手立てがとられていないということです。
 無回答のケースは,恐らく推測するに2つの理由があるんではないかと思います。こういった許諾の文書を返送するということがやはり若干煩わしいということが予想されるのが1点と,それから,著作権者あるいは著作権継承者の方が極めて代替わりをされている,あるいは高齢化されている。そして,私たちは,インターネットに国立美術館の所蔵作品の情報なり画像を公開したいんですよという趣旨で文書を出しているんですが,なかなか実際のところでは,高齢の方だとは思うんですが,この趣旨あるいはインターネットというもの自体の御理解がいただけていないというふうに感じるケースがままあります。
 このような状況の中で,宛先不明になっている,すなわち,著作権者を同定できない作家の作品についてどういうふうにアップするかについては,現状のところでは裁定についてはまだ手を付けておりません。それはまだこれから許諾の依頼を出すべき対象が,工芸,あるいは工芸の中で染色とか幾つかのジャンルがありまして,まだまだその作業を年次的に進行させる必要がありますので,まずはそれを行った上で裁定の問題を考えていきたいと考えています。ただし,国立美術館の場合は,この課題,タスクに対してマンパワーにおいてまだまだ非力なところがありますので,何年か後に裁定に向けて作業を進められるかどうかについてはまだ未知数なところがあります。
 裁定に関わる幾つかのプロセスをもう一度美術館の中で検討したんですが,「相当な努力」に関わるアからウの項目についてはほぼ必ず行っています。例えば著作権台帳に当たるような書籍類,あるいはインターネットでの検索,あるいは日本美術家連盟等の管理団体への照会ということは行いつつ許諾文書の発送は行っているんですが,1つこれはなかなか難しいなと思うのは,エ,利用しようとする著作物等と同種の著作物等の販売等を行う者への照会というのはなかなか難しいところがあります。というのは,国立美術館が所蔵している作家はかなりバラエティーに富んでいて,例えば東山魁夷さんとか幾つかの著名な作家がいると同時に,恐らくは個人画集,個人の作品集を出版するに至らないような作家さんもやはり数多いので,エのような同種の著作物等の販売を行う者というのが現れる可能性はなかなか少ないと考えています。
 そういったことで,国立美術館の場合,著作権者の許諾を得ながらデジタルアーカイブの公開について努めていますが,なお工芸作品,あるいは許諾を頂きながら画像のアップまで至っていない,作業がそこまで進んでいないということも若干ありますので,そこら辺をフォローしつつ,裁定に関わることについて国立美術館全体で検討していきたいというのが現状です。
 以上で説明を終わります。

【土肥主査】

 ありがとうございました。水谷さん,どうもありがとうございました。
 それでは,一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構,椎名和夫委員,橋元淳様,よろしくお願いいたします。

【椎名委員】

 御説明をする前に,議題(1)に関しまして,提案させていただきましたワーキングチームの設置につきまして,御賛同いただきありがとうございます。笹尾委員もお話になりましたとおり,私ども権利者に関していうと,対価の還元の仕組みがもはや機能しないという状況を抱えた中で,やはり最大の関心事はそういったところにもあるわけですが,一方,クラウドというようなことで,著作物の取扱い,取り回しの仕方も大幅にバリエーションが出てきているという中で,個別のビジネスモデル等に分け入って精緻(せいち)な議論をしていくということが必要なのではないかと思っていますので,その点ひとつよろしくお願いしたいと思います。
 それでは,御説明の方に入らせていただきます。資料4ということで,不明権利者探索業務,これをなぜ私どもがやっているかということの背景から御説明しなければならないと思います。私どもaRmaというのは,何年前かに実演家の権利が邪魔をして放送番組がなかなか流れないよねというような議論があったときに,権利者側からの円滑化の努力として,従来,非一任型と一任型に分かれていた2つの業務を合わせて,1か所でワンストップで処理していくことができないかというようなことが権利者側からの提案としてありまして設立された背景があります。
 設立が21年6月17日ということで,主に非一任で映像の権利処理をやってこられた音事協さんと,それから,芸団協CPRAにのもとで一任型の処理をやってきた4団体,これらが一緒になりまして,ワンストップで許諾等の事務作業をやっていくということを前提に設立されました。
 目的と事業というところをごらんいただくと,(2)番に映像コンテンツに係る不明権利者の探索,通知というようなことが掲げられておりまして,折しも実演に関する裁定制度が導入されましたところと相前後しておりまして,その部分を担っているということでございます。
 おめくりいただきまして,何でaRmaがそういう業務をやるのか。本来は利用者に課せられた様々な努力とかそういったことがあるわけですけれども,一方で,出演者が多数いて,1人だけ見付からないとそのコンテンツが使えないというようなことがあるわけです。さはさりながら,権利者団体側の方には権利者の所在に関する情報が集積されておりますので,探索業務を放送局さんがやるよりは権利者団体がやった方が円滑に行くといった事情がございます。そういったことで,多数の不明権利者をコストを抑えて探索するためには,連絡先情報と探索業務が一元化されて行われる必要があると。連絡先情報はaRmaにございますので,aRmaが「相当な努力」と言われる部分を担うことによって円滑に探索ができるんではないか,という考え方の下に行っているものでございます。
 具体的にどういうふうなスキームになっておるかというと,スライドの3でございます。放送局さんが放送番組の二次利用をしたいと考えたときに,まず仮申請をいたします。その仮申請というのは,出演されている方々の中でaRmaが権利処理を行える人たち,aRmaが権利処理を行えない人たちをaRma側でまず識別をするという作業を行っています。
 その仮申請の回答をお返しする時点で,すぐさま本申請ということになります。すなわち,aRmaで管理をしている権利者さんに関する許諾申請がその時点で出てまいります。
 放送局さんは,仮申請でaRmaが扱えないと回答した方々については,そこで直接権利処理をなさるということなんですが,それに際して,所在が分からない方々について連絡先を探索してほしいという御依頼をaRmaが受けることになります。
 そこで不明者探索業務がスタートするんですが,それと前後して,本申請の回答を行いまして二次利用の許諾という場面になります。さらにそれと前後して,不明者探索結果の通知ということをいたします。
 それが私どものやっている不明権利者探索業務の内容でございますが,私どもは基本的に権利者団体でございますので,一旦は管理外とお返しした方々についても,権利者団体と契約をしていただくことによって,できるだけ管理内,インサイダーに収めるという努力も併せて行っております。それがスライドの4でございます。先ほどのフローの中で,不明権利者探索を行って居所が判明した方につきましては,私どもの関連団体である芸団協CPRAと協力しまして,そういう方々をインサイダーに取り込む,そういう作業も行っているところでございます。
 次に,先ほど来,出ております裁定制度に関する利用者の「相当な努力」の内容でございますけれども,ア)からカ)までございます。
 ア)は,まず権利者の名前や住所等が掲載されている名簿・名鑑等の閲覧ということで,私どもでは,VIPタイムズ社が出しております「日本タレント名鑑」,それから,著作権情報センターが出しております「出演者名簿」,これらをデータベース化して中に持ちまして,これらとの突合作業をいたしております。
 それから,イ)のネット検索サービスによる情報の検索ということで,これにつきましては,グーグルとヤフーの2つの検索エンジンを利用して探索業務を行っております。
 それから,ウ)の著作権等管理事業者への照会ということになりますと,私どもの関連団体であります公益社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター(CPRA)から,委任者データをそのまま提供を受けておりますので,これも私どもの中のデータベースの中で照合すればよいということになります。
 エ)に関しましては,利用しようとする著作物等と同様の著作物等の販売等を行う者への照会ということで,これは他の放送局の放送番組に出演したこと又は出演した放送番組が二次利用されたことが明らかになった場合は,当該放送局から情報提供を受けるという仕立てでございます。これに関しては,aRma一般用ホームページに掲載をして,出演された方々を探しているということになります。
 それから,オ)利用しようとする著作物等の分野に係る著作権団体等への照会。これは先ほどもお話ししました,一任型の芸団協に対して,非一任型の音事協さんがございます。これに関しましても,aRmaは委任者情報の提供を受けておりますので,既にデータベースに入っているということでございます。
 カ)でございますが,広く一般に対して権利者に関する情報提供を求めること。これにつきましては,aRmaホームページに実演家の芸名,出演番組名等を掲載しまして,CRICのホームページとリンクを張りまして,CRICのホームページに,aRmaホームページに誘導する広告記事を掲載するという形で,この広告から情報提供を求めております。aRma一般用ホームページ,放送番組に出演された方々を探していますという形でこの探索業務を行っているというところでございます。
 次に,これらの業務のコストということになるんですが,これはaRmaが権利処理の一元化業務をやっているコストの中に重積して出てくるもので,この部分だけで幾らかかっているのかという話はなかなかできにくいんですが,前回の委員会でも梶原委員から御発言ありましたように,そのコストの一部については放送事業者さんのニーズに応じて御負担をいただいているということでございます。
 次のスライドでございます。「相当な努力」をした結果,どれだけ判明しているのかということでございます。ア)からカ)まで,VIPデータに関しますと判明数が121名,それから,イ)のウエブ検索がやはり結構多くて430名,それから,管理事業者でありますCPRAのデータとヒットしたものが460名,それから,他局照会というところでは,非常に残念ながらゼロ,それから,音事協さんのデータベースに入っていましたよというのが7,非常に時間と手間をとりますホームページ掲載に関しては残念ながらゼロということでございます。それをグラフにいたしましたのが右側の円グラフでございます。探索対象人数合計3,513名に対して,不明者の合計が2,495名ということになっております。
 最後のスライドは,最初の仮申請の受付から始まりましてどういうタイムラインで動いていくかということを図示したものでございます。やはりホームページ掲載の30日間,その後の14日間,この辺りが一番大きな要素としてあるのではないかと思っております。こうした業務を行ってきたおかげかどうかわかりませんが,一応かなりの長い間こういったことをやってまいりまして,放送番組に関する限りは実は不明権利者は大分減ってきております。ある程度潰せてきているのかなということが言えるんではないかと思います。
 それと,これは前回も発言したんですが,やはり不明権利者を生まない努力ということも必要なんではないかということです。それに関しましては,放送事業者さんと権利者団体の間でできるだけ早く情報を共有しておく。それによってアウトサイダーを生まない仕組みを,これはまた別なラインになりますけれども,様々な実証実験等を通じてそういった努力もやっていこうということになっております。
 私からは以上でございます。

【土肥主査】

 椎名委員,ありがとうございました。
 橋元様,よろしいですか。

【橋元氏】

 はい。

【土肥主査】

 じゃあ,どうもありがとうございました。
 それでは,日本放送協会の梶原均委員,お願いいたします。

【梶原委員】

 NHKの梶原でございます。それでは,資料に沿って,裁定制度とデジタルアーカイブについてちょっと触れたいと思います。
 まず不明権利者の裁定制度についてのNHKの現状でございますけれども,大河ドラマを中心にNHKオンデマンド,これはネット配信ですけれども,これで8番組,DVDで4番組でこれまで裁定制度を利用しました。裁定を申請した権利者は実演家のみということになっています。
 不明者総数が805名。ですから,1番組当たりになると68名ということになります。大河ドラマで申し上げますと,大体10年ぐらいたつと,実演家の方に限っていうとやっぱり五,六十名の方々が不明になっているという現状がございます。判明した権利者の方は12名ということになっています。そこは調査が不十分だったのかちょっと分かりませんけれども,1番組で10名判明したケースがございました。
 あとは,裁定手続にかかる期間ですけれども,当然でしょうけれども,これはaRmaさんの結果とほぼ同じです。「相当な努力」,aRmaさんが40日程度,文化庁への申請から担保金の決定までは2週間程度ということになっています。
 課題ですけれども,やはり経費や手間を考えると,全ての番組について裁定制度を利用するには至っていないということがございます。
 あとは,これも先ほど御意見ありましたけれども,一度裁定を受けても,利用方法が異なる場合や許諾期間,公衆送信権については5年間ということですけれども,それを超えて利用する場合にはまた同じ手続を踏まなければいけないということが課題としてあるかなと思います。
 あとは,権利者が判明しても,還付手続が煩雑なため,補償金の額を考えると法務局に還付請求することは難しく,先ほど12名判明したと申し上げましたけれども,結局我々の方が使用料を払っているという実態がございます。先日この会で,わざわざ取りに行かなければいけないと申し上げましたけれども,最近は振り込みか何かで法務局の方も支払うことができるということです。ただ実際に還付請求をするに当たっては,印鑑証明を取ったり会社の証明が要ったりとか,手続が煩雑だというのは変わらないかなと思います。
 あとは,不明者が判明することが少なくて,その結果,補償金の多くは国庫に入るということで,補償金がやっぱり権利者のために活用される制度となっていないということは1つ課題かなと思います。
 ページをめくっていただいて,では,今後の対応ということでちょっと考えました。まず最初の丸は,現行の制度を前提に,簡素化・迅速化するためにはどういった見直しが必要かということをちょっと書いています。やはりホームページへの掲載と同時に裁定の申請ができるようにしたらいいのかなと思っています。その代わり,今,掲載期間が30日以上となっておりますけれども,掲載期間を1年以上とするといったようなことも必要だと思います。恐らく30日でホームページを見て名乗り出てらっしゃる方はいなくて,30日をかなり超えてからこれまで判明された方も出ていらっしゃるということを考えれば,掲載と同時に裁定は利用できるんだけども,掲載期間をやっぱり延ばす。30日というのはちょっと短いのかなと思っています。
 あとは,情報提供を求める方法として,今,CRICしか指定されていませんけれども,やはり権利者団体のホームページも可としてほしいと思います。CRICの方に別途広告の掲載料を払わなければいけないというところで,ここでもやっぱりaRmaさんの方でお金がかかっているかと思いますので,これは権利者団体でいいのかなと思います。
 あとは,同一の著作物の利用については裁定申請を不要として,補償金の支払のみとするといったことで簡便にできるのかなと思います。
 あとは,ちょっと具体的ですけれども,「相当な努力」のうち,同種の著作物等の販売等を行う者への照会,これは放送番組でいうと民放さんに問い合わせするということになると思います。今,裁定している分だけでも800名の実演家の方々が不明なわけですけれども,これを各放送局さんに800名調べてくださいよというのはなかなか業務の負担もあるでしょうし,さらに住所等が分かっても教えてくれるかどうかという問題があると思いますので,これについては実質的に機能してないのかなと思っています。
 あとは,新たな対応策についてもちょっと考えてみました。これは現行制度を見直すということよりは,抜本的な見直しということになります。現行の裁定制度というのは,権利者が不明であることを証明することにすごく労力を掛けている制度となっていますけれども,やはり不明権利者をなくすことだとか,不明権利者に名乗り出てもらうといったことを目指す制度に見直すべきではないかと思います。個人情報保護が叫ばれる中で不明者を探すというのはすごく労力がかかるし,探す方にとってもかなり徒労感があるというかそういった中で,なくす努力や名乗り出てもらうということが大切かなと思います。
 そういった中で,例えば放送番組に限ってですけれども,先ほどaRmaさんから説明がございましたけれども,aRmaさんについては,かなりたくさんの権利者団体も加盟されていますし,これまでの実績もありますので,例えば権利者が権利を行使するためには権利者団体に権利を委任するか,また委任しない場合は,aRmaさんみたいなところに所在を登録するとかいったこととして,そうでない場合には不明として扱うといった制度を検討したらどうかなと思ったりしているところでございます。
 当然NHKとしても,できるだけ放送時に二次利用も含めて許諾を得る,了解を得るというような努力はしているところでございますけれども,全ての方に了解を得るということはなかなか難しいということがあるわけですから,全く不明者がゼロになるというのはなかなか難しいことかなと思います。
 あとは,デジタルアーカイブスについてNHKがやっている取組について資料の方に載せています。これについては,NHKが行う無償のサービスということもあって,実際にこの無償のサービスの中で現行の裁定制度を経費をかけてやるというのはなかなか難しいということもあって,いろいろな形で過去のコンテンツを,今,1万コンテンツぐらいあるかと思うんですけれども,それについて実際に今,裁定制度を利用したという実績はございません。権利処理が難しいものはそもそも載せないとかいったようなことでこのデジタルアーカイブスを構築しているというところでございます。
 私の方からは以上です。

【土肥主査】

 梶原委員,どうもありがとうございました。
 それでは,続きまして,権利者不明著作物の利用方法等について,明治大学情報コミュニケーション学部准教授の今村先生にも御発表をいただけるということのようでございますので,どうぞよろしくお願いいたします。なお,今村先生からの御発表の後に,先ほどの関係者の方々からの御発表と併せて質疑応答及び意見交換を行いたいと思っております。
 それでは,今村先生,よろしくお願いします。

【今村氏】

 ただいま御紹介にあずかりました,明治大学の今村と申します。このたびはこのような研究の報告の機会を与えていただきまして,誠にありがとうございます。
 資料6なんですけれども,権利者不明著作物の利用方法等につきまして,国際的な動向と我が国の裁定制度の実績を踏まえながら,今後どのような制度があり得るのかというような観点から御報告をしてまいりたいと思います。
 まず,1の国際的な動向についてでございます。これまでのところ,ベルヌ条約やTRIPS協定などを含めた我が国も関わっております著作権や著作隣接権に関する国際条約に,権利者不明著作物,いわゆる孤児著作物について定める一般的な規定は特に存在はしておりません。一部にあるにはあるんですけれども,非常に限定的なものでございます。そのことがこの問題について国際的に多様なアプローチを生む背景の1つとなっているものと思われます。
 もちろん各国は,孤児著作物,権利者不明著作物の利用の在り方について完全に自由な裁量を有しているわけではなく,例えばベルヌ条約やTRIPS協定等の国際条約では,国内法令において著作権等の制限・例外規定を定める場合にはスリーステップテストと呼ばれる3要件を満たさなければならないとか,あるいはほかにも,無方式主義の要件に従うなど国際条約の各種の定めを遵守する必要もあり,こういうことの下で著作者の許可なく孤児著作物の利用を認めるということが初めて可能になる。なぜかというと,著作権の制限を認めるという効果が生じますから,そのような国際的なルールに対する準拠も必要となってくるわけでございます。
 この国際的な動向につきまして文化庁の委託事業で調べた内容等を表にまとめたものが,この諸外国等の制度アプローチでございます。ここではデジタルアーカイブ事業等における大量デジタル化の問題に対応できる主要な制度を挙げて整理しておりますので,このほかにもいわゆる孤児著作物の問題に対応できる制度はあり得るんですが,そういうものは省いてこの表にまとめました。
 次に,各アプローチにつきましては前回第3回のこの小委員会の方で御紹介がされたということでございますので,それぞれの特徴について簡単に紹介していきたいと思います。まず著作権の例外・制限のアプローチにつきましては,2012年10月に成立したEUの孤児著作物指令が基本的に採用したとされています。この指令については,前回も御案内があったかと思いますけれども,対象となる主体や客体,利用の目的や条件,利用対応において非常に限定がなされているわけです。著作権の例外や制限アプローチをとる場合に,国際条約上のスリーステップテストとの関係もあると思いますのでそのことに配慮して限定的になるということもありますが,これに加えまして,指令そのものが欧州デジタル図書館計画,それを背景にしてできた部分がありますので,その目的との関係でも相当な絞りがあるということでございます。したがって,スリーステップテストに従うと欧州の孤児著作物指令のように限定的なものにならざるを得ないのかといいますと,必ずしもそういうわけではないかと思います。
 次に,拡大集中許諾制度であります。これは平たく言いますと,著作権の集中管理団体に対して権利の管理を委託していない著作権者の著作物について,一定の利用目的を持った利用形態については許諾を与えることができる権限を当該集中管理団体に付与するという制度でございます。スウェーデンなどの北欧諸国で採用されている制度で,北欧では50年以上の歴史があります。図書館などによるデジタルアーカイブ作成のための複製も幾つかの国でこの制度の対象とする利用目的に含めて運用されており,ノルウェーなどではデジタルアーカイブのインターネット配信でこの制度を用いて実施したという実績もあるようです。この制度は,権利者不明著作物の利用の円滑化を図ることを直接の目的としたものではなかったのですが,昨今,孤児著作物の問題を是正するための制度としても機能し得るということも評価されまして,諸外国でもイギリスなどのように新たに採用に至る国も出てきている状況でございます。
 次に強制許諾制度ですが,これは我が国やカナダ,韓国などが採用している制度でございます。特定の場合に事前にある機関又は著作権団体に申請し,当該機関・団体が許諾を与えることで,著作物等を利用することができる制度でございます。制度の内容は国によって異なる部分もあります。許諾を与える機関が,我が国やカナダなどでは文化庁長官であったり,著作権委員会といった公的機関が許諾を与えますけれども,フランスの制度では集中管理団体が与えるということになります。イギリスについてはいずれになるか,公的機関となるか,集中管理団体になるのかということはまだ不明のようですが,公的機関としての著作権審判所というイギリスの機関がその任に当たるべきという話は法案の議論の過程では出ておりました。
 そして,補償金の扱いなどについても異なる部分もあります。加えまして,同制度の下で利用できるのは,我が国やカナダの場合,公表された著作物のほか,我が国で言うところの著作隣接権の対象物も含みますけれども,フランスの場合には20世紀の入手不可能な書籍に限定されている。ここでは一応フランスの制度も,最近できたばかりのものですが,強制許諾制度の一種に位置付けましたが,フランスの場合,法律の名前自体が20世紀の入手不可能な書籍の電子的利用に関する2012年3月1日の法2012-287号と示すとおり,対象が限定されているところでは,日本とカナダの制度と比べて限定的な部分もあるものと言えると思います。
 そのほか,法制化されているものではありませんが,米国著作権局が2006年の報告書において示した案では,詳細な調査を合理的に行ったが,著作権者の所在を特定できない場合かつ侵害行為を構成する利用な過程において可能な限り合理的な著作者・著作権者の表示を行ったことを利用者が証明した場合,著作権者が後に出現して著作権侵害の請求を行ったとしても,本来受けられる救済,損害賠償金や差止命令が制限されるということを内容とした案を出したことがあります。
 最後の権利者不明状態の相互承認につきましては,これはEU固有の問題になるかもしれませんけれども,各国間の協働という観点が出てきたときに参考になるアプローチかと思いまして,二重線で線引きの上,ここに加えたところです。
 (2)としてイギリスの動向なんですけれども,ここで簡単にイギリスの近時の動向を紹介しておきたいと思います。2013年の企業・規制改革法とそれに関連する政策について紹介します。まず何でイギリスの動向を特に紹介したのかと申しますと,今回の2013年4月のこの法律による著作権法の改正で,我が国も現在採用している裁定制度としての強制許諾制度を新たに取り入れるとともに北欧型の拡大集中許諾制度も並行して取り入れているという点が我が国の今後の政策を考える上で参考になると思われたので,ここに特に挙げたわけです。
 ただ,残念なことに,新しい制度の詳細をまだ御紹介することができない状況です。なぜかと申しますと,この2013年企業・規制改革法は,77条3項において,所管大臣に対して,今後,権利者不明著作物の利用に関する強制許諾制度と拡大集中許諾制度の2つのスキームを大臣が定めることができるということで,規則によって定める権限を授権したにすぎなくて,その内容は今後大臣が定める規則によって規定されるということになるためです。
 ただ,主な機能として,それぞれの制度について議論の過程で出てきたものについて御案内をしておきます。強制許諾制度については権利者不明著作物の利用許諾に対応すること,拡大集中許諾についてはオプトアウトベースの利用許諾により権利クリアランスの過程を簡素化するということであります。したがいまして,権利者不明著作物への対応としては,ここで想定されるものとしては,それぞれ権利者不明著作物の個別利用への対処としての強制許諾制度,デジタルアーカイブ事業に伴う大量デジタル化に対応するものとしての拡大集中許諾制度ということが考えられると思います。まだ決まっておりませんので,想定される権利者不明著作物の対応としてこのようなものが考えられるということでございます。
 なお,2011年に発表されました,いわゆるハーグリーヴス・レビューという報告書において,デジタル世界における大量の作品の少額な取引に対応するシステムとして,デジタル著作権取引所というものを創設することが提案されまして,その後,本年になり,著作権ハブというシステムが始動しつつあります。詳しくは文化庁の委託事業の報告書の207ページ以下に書かれているので,こちらを御参照いただきたいと思います。
 これによって権利者不明著作物の関係で実現することというのは,まず権利者不明状態が生じることを防止できる,そういうシステムができるということと,あとは,イギリスが採用する強制許諾制度やEU孤児著作物指令における入念な調査の要件とどのように法的にリンクさせるのかという点については,例えばこの著作権ハブというのは1つのポータルサイトみたいなもののようなんですけれども,ポータルサイトである著作権ハブを用いて調査すれば入念な調査の要件は充足するのかといったような問題は,私の調べた範囲ではまだ定まっていないということでありました。
 次に,我が国の著作権者不明等の場合の裁定制度の問題点――裁定実績の分析という部分でございます。ここでは我が国の裁定制度の利用実績について,文化庁長官の告示と文化庁公表データについて,私の方で1971年1月1日の現行法施行日から2013年6月17日までの告示に示された裁定を基に幾つか分析をしまして,その一部をここで紹介しつつ改善できる点などをここに示したのが2ページ目の分析というところでございます。
 分析ですが,まず過去5年間の裁定数の増加――5年間というものの,5年以上掲載されていますが,最後のページを見ていただきますと,2003年から2012年までの推移がありまして,過去5年間は明らかに増加しているということが見てとれると思います。ただ,この大部分は幾つかの特定の類型に分けられるものであって,1つはデジタルアーカイブ事業,あるいは英語入試問題の権利処理及び,近年の法改正で設けられた著作隣接権の処理に帰趨(きすう)するものでございます。4ページ目に図が2つあるんですけれども,上の図は2003年以降の裁定件数なんですが,図2の方は,現行法施行以降,71年1月1日から2013年6月17日までの裁定を利用形態に着目して分類したものでありまして,時期が上と下で違います。また,2010年以降に着目して図2にある利用形態によって分類すると,入試問題に関する裁定の利用は50%を超えているという状況にあって,ちょっと偏りがある傾向が見てとれます。
 まず裁定の利用に関しては,私としては,当該権利者不明著作物について,代替性がある場合とない場合とがあると思います。代替性がない利用形態とは,客観的に見て他の著作物を利用しては意味がないような場合を指し,例えば復刻版がその典型例であると思いますけれども,転載をして利用する場合とか,英語入試問題あるいは放送番組の二次利用やデジタルアーカイブ事業も代替性のない利用形態になります。
 以下,私の意見に当たる部分が,2ページ目のA),B),C)とあります。これは入試英語問題の権利処理については,大学側の慣行にちょっと改善の余地があるのではないかとか,B)につきましては,実演家の権利について法改正によって隣接権の処理も認めるようになったことの理由が実演などの著作隣接権に関わる放送番組の過去のコンテンツの利用を促進することにあったことを考慮すると,裁定制度の更なる利用円滑化を講じてもっと利用しやすくするということが望ましいのではないかとか,あとは,代替性のある利用形態,これは他の作品の素材として著作物を利用するという形態なんですけれども,これについては,通常の許諾スキームの利用円滑化を図ること,あるいはそれを作り出すことが本来的な課題なのではないかと思っております。
 次が,裁定制度が大規模なデジタルアーカイブ事業のために利用されるようになったのは,1999年の国立国会図書館による絵本ギャラリー事業が最初で,現行法が制定された当初から想定されていた事態ではないと。ところが,現在までの裁定の利用実績を題号数ベースで見ると,デジタルアーカイブ事業によるものが全体の98%程度を占めておりまして,同制度におけるプレゼンスが非常に大きいということが見てとれます。
 4番目につきましては,時間との関係でちょっと省略したいと思います。
 2ページ目の3.権利者不明著作物の利用方法等に関する提案という部分で,これまでの研究等を踏まえてこういうものがあるんでないかということを幾つか提案したのが次のものです。まず,EU孤児著作物指令のような例外・制限のアプローチですが,これは非常に分かりやすい方法でありますけれども,一旦著作権の制限規定を創設すると,将来にわたってその分野における通常の許諾スキームの発展を妨げてしまうおそれがありますので,仮にこのアプローチをとる場合には,EU孤児著作物指令のように適用要件を限定して対応していくべきなのではないかと思っております。ただ,EU指令は少し適用範囲が限定され過ぎかもしれないということは思っております。
 次に,イギリス方式として強制許諾制度と拡大集中許諾制度を並列して採用するというアプローチもあり得るのではないかと。これについては,更に通常の利用許諾の円滑化と促進を図るために,ハーグリーヴス・レビューで見られましたようなデジタル著作権取引所や著作権ハブといったポータルサイトなどのシステムを導入することも考えられると思います。この点問題となりますのは,北欧諸国では主に拡大集中許諾制度で対応してきた問題を,我が国では著作権の制限規定で対応してきたという経緯がありますので,既存の著作権制限制度とのすみ分けというようなものが問題になってくるかもしれません。
 最後に,裁定制度の修正及び運用面における調整という点で幾つか書いてあります。補償金の共通目的基金化あるいは申請者への返金を内容とした新制度も考えられるかもしれません。この点は,昭和41年4月の著作権制度審議会答申の附属書として提出された説明書においても,供託された補償金を受け取るべき著作権者が現れない場合に,補償金が国庫に帰属することとなる現在の取扱いを改めて補償金を供託者が受け取ることができるようにし,ないしは文化目的に効果的に使用できるための方途について検討の余地があろうと述べて,実際にはそうはならなかったんですけれども,この点を改めて検討してはどうかということもあります。
 ただ,カナダでは集中管理団体に補償金を納めるという制度を採用しているんですけれども,著作権委員会というカナダの公的機関がそういう裁定に類する強制許諾を与えるんですが,著作権委員会は,権利者が現れた場合の払戻義務が5年間あることを前提に,著作権集中管理団体がその構成員の一般的な利益のために適切であると考える方法によって利用料を処分することを認めているという制度を採用しています。まさに文化目的に利用できるということになるんですが,カナダの有識者の意見としては,共通目的基金化は制度の利用者に対して慈善的寄附を強要するものになるという批判もあるにはあります。
 また次に申請者への返金についてですけれども,これは実際には,著作権調査と連絡先調査の方がコスト面で大きな問題であるために,裁定制度を通した権利者不明著作物の利用促進という観点からは抜本的な解決策とはならない可能性が高いと思われます。
 その他,公表時から相当程度の期間が経過している過去の作品については,権利者を探すための相当な努力の要件を緩和するというようなそういう調整も考えられるかと思います。
 以上で私からの報告を終えたいと思います。どうもありがとうございました。

【土肥主査】

 今村先生,どうもありがとうございました。
 それでは,本日おいでいただいた関連4団体の方々の御発表も,それから,今の今村先生も大変御協力いただいて時間は相当ありますので,残る時間の中で質疑応答,意見交換を行っていきたいと思っております。どうぞ御質問,御意見ございましたら,お出しください。
 どうぞ御遠慮なく。
 梶原委員にお尋ねしたいんですけれども,資料5の下のスライドで,経費や手間を考えると全ての番組について裁定制度を利用することは難しいと,こういうふうにございます。その場合は二次利用をあきらめるわけではないんじゃないかと思いますが,いかがですか。

【梶原委員】

 この場でそれをはっきり言うのはあれですけれども,今のところ,やっぱり大量に出た場合は裁定制度を利用して,少数の場合についてはaRmaさんの努力までで止めて,利用の仕方にもよりますけれども,NHKオンデマンドでは実際に二次利用しています。リスクを負いながらやっているということでございます。

【土肥主査】

 分かりました。リスクを負いながらというところよく分かりました。
 どうぞ御質問,御意見ございましたら,お願いいたします。
 今後この法制・基本小委においてはこの裁定制度というものを考えていきたいと思っております。せっかくこうした機会を設けていただきましたので,いろいろな認識とか情報の共有を図っておきたいと思いますので,どうぞお出しいただければと思います。
 龍村委員,どうぞ,お願いします。

【龍村委員】

 ありがとうございました。aRmaさんの方から詳細な御報告を頂いき,他方,今村先生の方からも諸外国の御紹介,特にイギリスにおける昨今の動きを御案内いただいたわけですが,その中で,北欧諸国あるいは今回のイギリスにおけるような拡大集中許諾というようなやり方があると。つまり,集中管理団体が許諾を出すという形を持っておられるということですね。
 例えば,仮にですが,我が国にこのような制度を持ち込むとすると,aRmaさんのような団体にこういった拡大集中許諾というものを当てはめるということが考えられるとは思うのでが,仮にそのような権限をaRmaさんが持つということになった場合に,それはaRmaさんとしてはどういう受け止め方といいましょうか,どのような感想をお持ちなりますか。

【椎名委員】

 拡大集中許諾制度というものを詳しく承知しているわけではないのであれですけれども,不明者探索に係る相当な努力を行って,それをクリアしたのちに裁定制度のルールに従って供託したとしても,そのお金が権利者に渡る割合というのは結局非常に低い,というような総合的な状況を勘案すると,そこで許諾の事務権限というんですかね,どうしても分からないものについて,そういう役割を担っていくことはあり得る話なんではないかと思います。

【土肥主査】

 今村先生,今の拡大集中制度について,もうちょっと何かお話しいただけることがあったら御提供いただけますか。伺っていると,いわゆるaRmaなら,aRmaのメンバー外の話になるわけですよね。

【今村氏】

 そのとおりです。

【土肥主査】

 よろしかったら,その辺を御存じの範囲で御説明いただけますか。

【今村氏】

 拡大集中許諾については,私が担当して調べた部分とちょっと違いますので,この辺は事務局の方からの説明をいただけるという話を,さっき助け船を頂いたので,まずそちらの方からお願いしたいんですけれども。

【小坂著作権調査官】

 前回説明させていただいた拡大集中許諾制度につきましては,御案内のとおり,北欧諸国で非常に長い歴史があり,著作権法の規定にECL規定という,拡大集中許諾制度に関する条項が定められています。特徴としては,著作物の利用者と大多数の権利者を代表する集中管理団体との間で自主的に行われた交渉を通じて締結された著作物利用許諾契約の効果を当該集中管理団体の構成員ではない者にも拡大することを認める点に非常に大きな特色がある制度でございます。ですので,今回の場合ですと,aRmaが仮にそのような立場に立った場合には,aRmaに入っていない方にもその効果が及ぶというところが1つの大きなポイントになるということでございます。

【土肥主査】

 何か補充されることはありますか。

【椎名委員】

 効果が及ぶという意味合いが,例えば自ら権利を管理することを標榜(ひょうぼう)して自ら管理をしている人にまでそのルールが及ぶということであれば,それはなかなか難しいんではないかなと。所在が不明で許諾が得られない場合にそういった部分を権利者団体が代行するということであればいいんですけれども,管理外を標榜(ひょうぼう)している人たちまでこのルールに従わなければ駄目ですよというのはなかなか難しいんではないかなと思います。

【小坂著作権調査官】

 よろしいですか。

【土肥主査】

 どうぞ。

【小坂著作権調査官】

 ちょっと私の言葉足らずの部分もありましたが,非構成員の方においても影響が絶対及ぶ,必ず及ぶというわけではなくて,オプトアウトする権利も一部認められております。オプトアウトを認めるという権利については各国様々な制度が設けられておりまして一概には言えないんですけれども,そういった制度も用意されているという制度になっております。

【土肥主査】

 ありがとうございます。

【龍村委員】

 今,御説明いただきましたオプトアウトというのは具体的にはどのような手続が各国で見られるのでしょうか。

【小坂著作権調査官】

 オプトアウトにつきましては,どのような手続が行われているかについての詳細な研究は前回の調査研究においてはそこまで至っていない部分もあるのですが,スウェーデンはかなり広くオプトアウトという権利を認めておりまして,有線放送を除いて全ての規定においてオプトアウトする権利が認められております。恐らく集中管理団体の方に手続をして,自分は個別に交渉しますということが認められているということになると思います。

【土肥主査】

 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】

 今御説明いただきました拡大集中許諾制度と,それから,集中管理団体による強制許諾制度とは別のように今村先生の資料からは思えるのですが,これはどういう違いがあるのでしょうか。

【今村氏】

 これ,私の方から説明をしたいと思います。

【土肥主査】

 お願いします,よろしければ。

【今村氏】

 私もフランスの制度を私自身が調べたわけではないので正確にお答えできるかどうか分かりませんけれども,フランスの場合,作品の権利は,個別に処理するということになる。集中管理団体に対して許諾を与えるよう申請して,その結果許諾が与えられるということになると思うんですけれども,拡大集中許諾というのは,特定の目的の利用に関して,作品自体が孤児状態になっている人も含んでまとめて許諾が与えられるということになるものなので,個別処理なのか,まとめて処理するのかという部分で違いがあるということを一応区分けして,ここでは表ではまとめております。

【土肥主査】

 ありがとうございました。
 よろしゅうございますか。
 椎名委員,どうぞ。

【椎名委員】

 権利者に代わって許諾を出すというところまでは分かったんですけれども,許諾を出して,結局,利用料の収受ということも団体が行うんですか。そうすると,一体どういう処理をするんですかね。

【土肥主査】

 じゃあ,お願いします。

【小坂著作権調査官】

 その点につきましては,非構成員の使用料請求権は3年間認められております。ですので,その3年間は代表者である管理団体において管理していただいて,3年間請求されるのを待つと。3年間のうちに著作権者が見つかって個別の使用料を請求する際には,非構成員は自らの著作物が利用された事実,その程度を証明して請求するという建て付けになっております。

【土肥主査】

 よろしいですか。

【椎名委員】

 ということは,一回権利者団体が受け取るということですね。それが前提ですよね。

【小坂著作権調査官】

 そのようになっております。

【椎名委員】

 それで,誰も3年言ってこなかったときにどうするんですかね。さっきの共通目的の話とかに行くんですかね。

【小坂著作権調査官】

 よろしいですか。

【土肥主査】

 はい。

【小坂著作権調査官】

 3年請求されなかった場合については,前回の調査研究で,どのような使い道になるのかということにつきましては,利用者から徴収された使用料は構成員全体のために使われるということもあるというふうな調査結果になっております。

【土肥主査】

 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 じゃあ,上野委員,どうぞ。

【上野委員】

 せっかく今村先生に御報告いただきましたので,御提案の内容についてちょっとお伺いしたいと思います。
 資料の2ページ目の最後の辺りから御提案ということでお書きになっていらっしゃる内容は2点あって,1点目は,「大量デジタル化を伴う一定のデジタルアーカイブ事業」に対して新しい制度を導入すべきではないかということ,2点目は,現行裁定制度の修正,という御提案ではないかと思います。それで,1点目を実現する具体的手段ということで,1つが権利制限を設けるというやり方,もう1つが強制許諾制度とECL(拡大集中許諾)を併存させるやり方,という2つのオプションがあるという御趣旨かと思いますが,ここで示されているオプションは,飽くまで1点目であるデジタルアーカイブ事業を実現するためのものだというふうに理解してよろしいでしょうか。
 なぜこのようなことをお聞きするかと申しますと,このECLというのは確かに最近注目されているところなのですけれども,ECLというのは,孤児著作物,すなわち権利者不明等のために連絡できない著作物に関する解決策というよりも,一定の著作物の大量利用に関して,団体に属しないアウトサイダーの著作者の権利も含めてワンストップで「権利処理」できるようにしてしまうという,それなりに大胆な制度であるわけです。
 ですから,実際のところ,北欧に見られるECLというのも,商用利用も広く含む一般的な制度ではなく,私の知る限り,例えば放送における利用ですとか,教育機関における利用ですとか,アーカイブのための利用ですとか,行政機関内部での複製ですとか,あるいは企業内複製といったものを対象としているようでありまして,まあ企業内複製は若干微妙ですけれども,基本的には公共的な目的といいましょうか,公共性の高い利用行為を対象としたものが中心のようです。今村先生が,本日の資料で,こうしたものは「我が国では…著作権制限規定で対応してきた経緯もある」と書かれているように,こうした利用行為については,日本では,多くの場合,権利制限規定で対応してきたのではないかと思います。
 ですから,イギリスやドイツでも,昨今,一定の範囲でECLに近いものを導入しようとしているわけですけれども,その対象というのは非常に限定的であって,商業的な利用を広く含むようなものではないと私は理解しております。
 そのような観点からいたしますと,仮に日本でECLの導入を検討するといたしましても,その対象として,どのような範囲を想定するのかということが重要な問題になろうかと思います。この点,今村先生のお考えでは,我が国でECLを導入するとしても,それは,飽くまでデジタルアーカイブ事業に限った制度として提案されているという理解でよろしいでしょうか。

【今村氏】

 はい,そのとおりでございます。例外・制限規定の方で対応してきた問題について,やはり将来的には何らかの形でライセンスのスキームに置き換えていくということもあり得るのかもしれませんけれども,それは少し難しい問題をかなり多く含みますので,拡大集中許諾等について議論する場合でも,やはり一定のデジタルアーカイブ事業に限定する形で目的を非常に限定した形でこの制度に挑戦してみるというような形になるのではないかと思います。

【土肥主査】

 ありがとうございました。
 ほかにございますか。
 前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】

 すみません,また拡大集中許諾制度についての御質問になってしまうのですが,この拡大集中許諾制度の下で集中管理団体は許諾をしないという自由があるのでしょうか。もし仮に許諾をしない自由はなくて必ず許諾するということであるならば,それは例えば日本の著作権法でいうと二次使用料の指定団体のようなものと似ているのか,違うものなのかというところを教えていただければと思います。

【土肥主査】

 これは事務局の方でいいですか。

【小坂著作権調査官】

 拡大集中許諾制度においては,団体と利用者との間で契約が締結されて市場がうまく機能するということが前提にされているんですけれども,うまくいかない場合,契約が締結されないという場合もありまして,そのような場合には,調停や仲裁を通じて利用許諾契約を締結させる,促進させるという制度が補完的に設けられております。

【土肥主査】

 よろしゅうございますか。
 ほかには。
 どうぞ,松田委員。

【松田委員】

 aRmaの制度ができましたときにその中の資料で少し勉強したことがあって記憶に残っていることがあるんですが,確かNHKさんと協定を結んでいて,NHKさんが権利処理について許諾を取るわけですけれども,その中に権利者不明等で許諾が取れないような場合でありましても,aRmaさんが包括して,それこそ拡大許諾制度みたいに許諾して,その使用料を一時預かるということを読んだことがあるんですが,私,間違いでしょうか。

【椎名委員】

 そのお話はaRmaではなく,その前の芸団協CPRAの時代の話だと思いますが,当時管理事業法というものができまして,委任関係に関して非常に厳密な切り分けがあるというところで,連絡が取れない人については,一定期間預かって連絡先を探します,それで,届けますと。ただし,見付からなかったら返しますよということを前提でお預かりした,管理事業法導入後の激変緩和というか,暫定受皿という言い方をしていましたけれども,そういうことをやった事実はあります。

【松田委員】

 すみません,じゃ,引き続いて。そうすると,暫定的に預かっても,放送コンテンツを二次的に使ってしまうということが先行してしまいませんかね。私,それはいけないとは思っていないんです,実を言うと。あれを読んだときにいささかショックではありましたけれども,これ,もしかしたら突破口になりはしないかなと思ったことがあったんです。

【椎名委員】

 さっき梶原さんのお話でも,最終的に追い込めない部分は局側でリスクをとってという発言をされました。ある種,天に祈って使ったというようなことではないかと思います。管理事業法が導入されてCPRAが映像実演の一任型集中管理を始めた当時,それまでCPRAがやってきた業務は,先ほど出ていました指定団体制度に関しての業務に代表される報酬請求権関連の業務が主でございましたので,許諾を出すということと委任があるのかないのかということを,非常に厳密に捉えざるをえませんでした。やはりそれだと大半が流れなくなってしまうということで,さっきも申し上げたとおり,あくまでも流通円滑化に協力するための暫定受皿,ということでやっておりました。ある一定の期間,激変を緩和するということでやったことでございまして,恐らく今後それと同じようなことをやるということは,考えにくいんではないかと思います。

【松田委員】

 残念ですな。

【土肥主査】

 ほかにございますか。
 本日は,国立国会図書館,それから,国立美術館の関係者の方にもおいでいただいておりますので,もしよろしければ。ございませんか。

【前田(哲)委員】

 すみません。

【土肥主査】

 前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】

 先ほど国会図書館様とNHK様から,裁定が5年に限られていて,5年たったらもう一度裁定申請を出し直さなければいけないというお話があったと思うのですが,その場合,過去に所在不明の調査を行っていたとしても,5年後には同じ調査をまたやり直して証拠を改めて出すという運用になっているのでしょうか。

【土肥主査】

 じゃあ。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 運用上そういうふうになっております。

【土肥主査】

 佐藤さん,どうぞ,続けてお願いします。

【佐藤氏】

 実際に再裁定する際には,最初に裁定した資料を改めてコピーして提出するのと,更に新たに判明した事実を追加して提出するという事務作業を行っていると承知しております。

【土肥主査】

 よろしいですか。
 ほかに。
 じゃ,龍村さん,どうぞ。

【龍村委員】

 今村先生の整理で2つの類型がイメージできるかと思うんですけれども,一つは強制許諾というライセンス型の在り方,もう一つは著作権の制限型の在り方とがある。EUが後者であり,日本が前者であるということになるのかと思いますが,今御指摘のあったように,強制許諾の場合に,5年たつと再度許諾をと直さなければいけないという手間が掛かることになっているわけです。しかし,そういう手間を省く強制許諾型もあり得ないのか,両者の中間のものもあるような気がしてまいりました。一旦どなたかが入念な調査をされて孤児著作物とほぼ認定され,強制許諾が一旦された以上は,孤児著作物認定とでもいいましょうか,何らかの形でそういう結果を,どこかの登録機関などに登録をして,事後の強制許諾についてはスルーといいましょうか,手続面は全く軽くしてしまって強制許諾を出すという姿もあり得るのかと思った次第です。権利制限型であるEUの場合などは孤児著作物を登録するわけですか。

【今村氏】

 はい,OHIMと呼ばれるEUの機関に登録するんですけれども,登録されたものは孤児著作物の状態にあるというふうなことになります。それを同様に公共のアクセスができる図書館等が利用する場合には一々手続を踏まなくてもよいということになりますが,ただ,一般の人が使えるかというとそうではないという理解になりますので,その点は留意が必要です。

【龍村委員】

 そうですね,主体の方が絞られていると。ただ,先生のお考えでも,スリーステップテスト,ベルヌ条約との関係で,逆にEUの方は厳し過ぎるのではないか,もう少し緩めてもクリアランスを取れるのではないかという御意見もお伺いしましたが,そのようなお考えでしょうか。

【今村氏】

 それはもう少し検討してみないと分からない部分ではありますけれども,EUがこの指令を検討して実際に採択に至った経過を見ますと,目的との関係で最初から縛りがあったように見えますので,もう少し緩和してみても,このスリーステップテスト等をクリアする例外・制限のアプローチは取り得るのではないかと思います。一応いろいろ権利者と利用者との間を調整しながらできた規定だと思いますので,狭まったり広まったりいろいろな中で,いろいろな選択肢がある中でこの制度があると思いますので,あり得た制度の中には出来上がったものより広いものがあり,それがスリーステップテストをクリアできているものもあると思いますので,飽くまで仮定の話ですけれども,広くても大丈夫なケースもあるかもしれませんが,それは別途検討を要すると思います。

【土肥主査】

 ありがとうございました。
 ほかにございますか。よろしゅうございますか。
 それでは,本日は,佐藤様,水谷様,橋元様,本日はお忙しい中,御意見を御発表いただいてありがとうございました。本日頂いた御意見については,今後の本小委における検討して十分活用させていただきたいと思っております。
 それから,今日伺っておりますと,ほんとに様々な選択肢があって,我々は相当いろいろ考えなければならないなというふうに思います。これからの本小委における検討が立派な成果になるように,是非今後とも委員におかれまして御協力をお願いしたいと思います。
 それから,(1)(2)についてはこのぐらいにしたいと思いますけれども,(3)のその他があるわけですが,御質問等特段ございましたらお願いしたいと思います。

【大渕主査代理】

 それでは,お時間頂きありがとうございます。「その他」ということで,本日,(1)(2)の次の(3)ということで,これは著作権制度に関連する重要事項という趣旨だろうと理解されます。そこで,せっかく今日は進行に御協力いただいて進行が順調なことでもありますので,ごく手短に重要事項についてお話しさせていただければと思っております。
 これは今申し上げましたとおり,ここにいらっしゃいます著作権関係者全員の共通関心事項だろうということであります。ここでは著作権関係ということで一般的にはよく言われる図式でありますけれども,権利者対利用者の対立的なことも時々というか,時々以上にあるのかもしれませんが,そのような中で私は傍(はた)で見ておりまして,できるだけ両者ウィンウィンの解決が図られればよいと思っております。以下述べるのは,そのような対立構造とは関係のない,あるいは,それを超えた,著作権関係者全員の共通関心事項だろうということであります。
 端的に申しますと,これは,実は前々から少しずつ報道等で出ていたので,全員御関心をお持ちかと思いますが,それが急に動き出したという話であります。いろいろと報道等で出ていると思いますが,新司法試験というのがございまして,これは弁護士等になるための試験でございます。そこで,これはできるだけ負担を軽くしたいというそういう趣旨の中で,負担軽減のために科目数を減らすという策として,基礎科目に集中するということでもあるようですけれども,選択科目を廃止するという意見がちらりほらりと出ていて,それについて急に検討が始まり出したということであります。
 選択科目というのはどういうものかというと,筆頭の一つが知的財産法,我々の著作権法であります。その他,労働法とか倒産法とか経済法とかいろいろありますが,ほかの科目は別として,選択科目というのはイコール知的財産法であり著作権法であるということで,ここにいらっしゃる全員の方にとって極めて強い共通関心事項であります。皆様,直接関係ないと思われるかもしれませんが,実は非常に強く関係しておりますので,御説明させていただければと思います。
 今日は,週の最後の金曜日の夜でありますけれども,既に御承知の方もいらっしゃるかと思いますけれども,実は週の初めの月曜日の午前中に,著作権法と並ぶ特許法等を所管しております特許庁の知的財産分科会という審議会がございまして,そこでもこのテーマが,私が提起したわけではなくて,確か特許のTLOをやっておられる方から,これは「知的財産法の世紀の危機」だということで問題提起がなされました。その方がどういうことをおっしゃったかというと,一言で申し上げますと,これまで自分たちは知財立国ということで頑張ってきたけれども,その中で非常に大きなテーマとして知財人材の育成というのが非常に大きな柱としてあるのですが,それで今まで努力してきたのに,そこの極めて重要な一角である知財法曹の養成が軽視されるようでは知財立国が泣くという,分かりやすく言うとそういうことであります。
 何でこれが知財立国に関係あるのかというのは御説明するまでもないかと思うのですが,中には,知的財産法を含む選択科目を廃止しても,志がある人は試験科目でなくともしっかりと勉強するのだから試験から外しても関係ないという非常に優等生的な御発言があることは重々承知しておりますが,この点は,皆様も若かりし頃,学生さんだった頃を思い出していただければ,明らかだと思います。こういうことは教師が言うのも嫌なのですけれども,重要な公益のために,少し格好良くないのですが申し上げますと,皆さんご自身も昔を思い出していただいて,試験科目になっている科目となっていない科目と,自ら振り返って,差がなかったかと言われると,恐らく大きく差はあって,少なくとも私のごとき凡人には差はあったということです。聖人君子の方は試験科目でなくても著作権法を非常に熱心に勉強されるのでしょうけれども,今後の著作権法の担い手の養成に当たっては,「きれいごと」ではなくて,教育現場の実情を直視した現実論が不可欠であります。
 今日は,一番最後となってしまいましたが,前の方でしたら,ほかの方にたくさん発言いただけたのですけれども,一番最後なので多数御賛成等頂く時間的余裕は余りないかもしれませんけれども,現状を申しますと,先ほどのように,もともと選択科目を積極的に廃止すべしと思っている人はいないわけでありまして,ただ単に,負担を減らすことが重要とされ,そのための方法としては,基礎科目重視と思うと,選択科目の方は外すというのが安易な一案として出てくるものであります。
 その状態については急に動き出した話なのですが,私の近くの学者などの一般的な感覚としては,今も非常に微妙なところで,強い反対がなければ通るというような,どちらに転ぶか分からないような非常に微妙なところです。そういうことですが,皆様のお気持ちを忖度(そんたく)するに,少なくとも,お立場を離れた一個人としては全員御賛成だろうと思います。お立場上はいろいろとおありかもしれませんが。
 これは実は皆様に事前にお話しした上でと思いつつも,それが全くできないほど時間的に厳しく,昨日ヒアリングを受けたばかりというぐらいの状態で,それを踏まえて近々にも決まるということであります。ヒアリングの中では微力ながら,強く明確に反対論を述べました。今度,内閣官房のホームページに来週ぐらいにアップロードされるらしいので,私の苦しい戦いを御覧いただければと思います。そういうことですので,是非とも皆様に残りの時間で御意見を伺えればと思っております。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】

 残る時間もないんですが,何分,法制・基本問題小委であるということを十分考慮いただければ幸いです。

【龍村委員】

 大渕先生から今,司法試験の話が出まして,日本弁護士連合会の方でも,この問題につきましては極めて重大な問題だと受け止めております。日弁連の意見につきましては既に知的財産戦略推進計画に関する意見は出しておりますので,詳細はそちらから御覧いただければと思います。知的財産基本法の制定からはじまって,一連の知的財産推進計画,あるいは法科大学院の設立構想そのものの思想・哲学を考えましても,幅広い人材から登用すべきとした法曹の登用ルートを充実したものとする,そういう考え方と全く逆行するものだという意見が日弁連では極めて強くございまして,近々,緊急意見表明をする予定でございます。

【土肥主査】

 初めてお聞きになった方もおいでになるかと思いますけれども,今,状況としてはそのような状態であるということを共有しておきたいと思います。何分,著作権の分科会法制・基本問題小委としてどこまでサポートができるかそれは分からないんですけれども,大渕先生,それから,龍村先生,どうもありがとうございました。
 それでは,事務局から連絡事項があったらお願いします。

【井上著作物流通推進室室長補佐】

 本日はありがとうございました。次回の本小委員会の日程につきましては,調整の上,改めて御連絡いたします。ありがとうございました。

【土肥主査】

 それでは,ありがとうございました。以上をもちまして,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第4回を終了させていただきます。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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