文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第3回)

日時:平成27年7月31日(金)
13:00~15:30
場所:中央合同庁舎4号館 1208特別会議室

議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)教育の情報化の推進について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

配布資料一覧

資料1
一般社団法人学術著作権協会提出資料(483KB)
資料2
一般社団法人日本書籍出版協会提出資料(157KB)
資料3
一般社団法人日本写真著作権協会提出資料(192KB)
資料4
公益社団法人日本文藝家協会提出資料(223KB)
資料5
一般社団法人日本新聞協会提出資料(1.76MB)
参考資料1
ヒアリング出席者一覧(29KB)
参考資料2
教育の情報化の推進に関する御意見について(平成22年2月15日文化審議会著作権分科会決定)(89KB)
参考資料3
第15期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会委員名簿(62KB)
 
出席者名簿 (45KB)

議事内容

【土肥主査】それでは,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第3回を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席を賜りまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますけれども,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われます。既に傍聴者の方には御入場いただいているところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 まず,本日,3回目でございますけれども,第1回と第2回は御欠席でございましたが,今回より大久保委員,岸委員に御出席を頂いておりますので御紹介をさせていただきます。初めに,大久保直樹委員でございます。

【大久保委員】よろしくお願いします。

【土肥主査】次に,岸博幸委員でございます。

【岸委員】よろしくお願いします。

【土肥主査】よろしくお願いします。また,本日は権利者団体として五つの団体の方に意見発表をお願いしております。お越しいただいた各団体の皆様を順次御紹介させていただきます。最初に学術著作権協会から常務理事の野間豊様でございます。

【野間氏】よろしくお願いいたします。

【土肥主査】事務局長の黒川恵様でございます。

【黒川氏】よろしくお願いいたします。

【土肥主査】同じく,金山伴子様でございます。

【金山氏】よろしくお願いいたします。

【土肥主査】次に,日本書籍出版協会から副理事長,金原優様でございます。

【金原氏】よろしくお願いいたします。

【土肥主査】常任理事,知的財産権委員会委員長,井村寿人様でございます。

【井村氏】よろしくお願いいたします。

【土肥主査】知的財産権委員会幹事,平井彰司様でございます。

【平井氏】よろしくお願いします。

【土肥主査】次に,日本写真著作権協会から常務理事の瀬尾太一様でございます。

【瀬尾氏】瀬尾でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】次に,日本文藝家協会から著作権管理部部長,長尾玲子様でございます。

【長尾氏】長尾でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】それから,日本新聞協会ですけれども,新聞著作権小委員会委員長の藤原重信様でございます。

【藤原氏】よろしくお願いいたします。

【土肥主査】新聞著作権小委員会副委員長,上治信悟様でございます。

【上治氏】上治です。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】本日は,どうもありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 それから,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元に議事次第を御用意ください。配布資料1から資料5はそれぞれの団体様の提出資料となってございます。それから,参考資料1として本日のヒアリング出席者一覧,参考資料2として文化庁から各権利者団体様に本日のヒアリングでお伺いしたい事項をまとめて整理したものを参考までに配らせていただいております。参考資料3は,本小委員会の委員名簿でございます。また,机上配布資料として調査研究報告書も御用意しております。落丁・乱丁等ございましたら,お近くの事務局員までお知らせください。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,初めに議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は(1)教育の情報化の推進について,(2)その他となっております。(1)の教育の情報化の推進についてでございますけれども,前回の小委員会ではICT活用教育の政策担当者及び教育関係者の皆様から,ICT活用教育における著作物の利用の状況や課題,著作権制度等に関する御要望についてヒアリングを行ったところでございます。本日は権利者側の団体の皆様から御意見を伺い,その上で本件に関する議論を深めてまいりたいと,このように考えているところでございます。ヒアリングの内容といたしましては,参考資料2にありますように,各権利者団体におけるICT活用教育に関するライセンシングの取組状況や今後の予定,それから,ICT活用教育に係る権利制限規定の整備等々についてお伺いすることにしております。
 それで,本日おいでいただいた五つの団体様ですけれども,学術著作権協会,日本書籍出版協会,日本写真著作権協会,日本文藝家協会,そして日本新聞協会,今読み上げさせていただきました順に御発表を頂きたいと存じます。円滑な議事の進行のため,各団体の皆様方には,誠に恐縮でございますけれども,およそ15分を目途に御発表をお願いできれば,御協力を賜ることができればと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
 それでは,最初に学術著作権協会,野間様,黒川様,金山様,御発表をよろしくお願いいたします。

【黒川氏】皆様,こんにちは。本日はこのように発言する機会を頂きまして,誠にありがとうございます。私は,一般社団法人学術著作権協会事務局長の黒川と申します。資料といたしまして,お手元にあります3点となります。資料1-1,一般社団法人学術著作権協会,教育の情報化の推進に関する意見。資料1-2,これは利用者のニーズに対応して当協会が受託している著作物であります一般社団法人学術著作権協会双務協定締結海外複製権機構及び管理著作物一覧。次に資料1-3といたしまして,権利処理等のノウハウをお伝えしているセミナーなどの記録でもあります学術著作権協会,著作権関連図書の出版となります。
 それでは,意見書に沿って申し上げたいと思います。まず,初めに私ども学術著作権協会は,教育の場面におけるICT活用等,情報化推進に関しまして大いに賛同することを述べさせていただきます。
 次に簡単ではございますが,学術著作権協会の紹介をいたします。一般社団法人学術著作権協会は,公益社団法人日本工学会,公益社団法人日本薬学会,日本農学会,日本歯科医学会,日本医学会の5団体によって設立,構成されています。主として学術関係著作物の複製等の利用に関する許諾及び管理の委託を受けており,さらには世界複製権機構,International Federation of Reproduction Rights Organisations,略してIFRROと申しますが,IFRROの正会員としてアメリカ,イギリス,スイス,ドイツなど30の海外複製権機構,Reproduction Rights Organisation,略してRROと申しますが,このRROと権利著作物の複製に関する双務協定を締結しています。これらRROの管理著作物の日本における複製等,利用に関する許諾及び権利の代行をするとともに,学会などから複製等の管理の委託を受けた著作物について双務協定を締結しているRROへ著作物を再委託することにより,この30の国,地域において権利行使をしております。
 当協会は学術関係の5団体によって構成,設立され,多くの学会,研究機関より学術関係著作物の複製などの利用に関する許諾及び管理の委託を受けております。先ほど申しましたように,海外,RROとの双務協定に基づき,これらRROの海外著作物に関しては,現在,当協会に対し,許諾の申請にあったほぼ全ての著作物の許諾が可能となるに至っております。国内著作物の複製の許諾に関しましては,当協会を構成する学術関係5団体と研究機関の著作物は許諾が可能であるとともに,一般雑誌,書籍などを含めました著作物の複製許諾に関しましても,当協会をはじめ,一般社団法人出版者著作権管理機構,著作者団体連合,新聞著作権協議会の著作権管理団体によって構成されております著作権集中管理団体である日本複製権センターJRRCを窓口といたします総合的な許諾システムの構築により,利用者の要望を踏まえた電子を含む著作物の許諾機能が整いつつあります。
 この中には将来公衆送信を可能とするサービスの提供も含まれる見込みです。すなわち,国内著作物を利用する人は,JRRCを窓口としての複製に関する一括許諾が可能となるシステムの提供を受けることができるようになります。これは著作物を複製利用する人にとって,いわゆる権利者不明著作物の複製に関しましても,著作物の複製使用料相当額の供託の代行機能を持つ窓口としての利用ができるようになることでもあります。現在,当協会が複製に関する権利を受託しております主な国内著作物は,自然科学系を中心としたものでございますが,これを人文科学系,社会科学系などに拡大し,管理著作物の範囲をより広範な学術著作物に拡大してまいります。当協会はこのことに関しまして,既に論文単位での許諾を可能とするシステムの構築を終え,雑誌などの著作物の単位によることのない権利の受託と複製許諾を可能とするシステムの整備を図っております。
 特にICT活用教育に関する著作物の電子化や公衆送信を含む電子著作物のライセンシング体制の整備・充実に関しましては,学会等権利者,企業等の利用者を対象といたしました著作権セミナーの開催などによって周知を図っております。それとともに電子著作物の公衆送信を含む著作物の複製に関しましては,国内学会はもとより,スイス,アメリカ,スペイン,カナダなどのRROと双務協定を締結いたしまして,一定の条件の下,これを可能にいたしております。このうち,スイスの著作物に関しましては,組織内イントラネットのアップロードや内部利用目的でのメール送信などにつきまして委託を受けているため,教育機関が個別に申請を行うことにより,教員やその学生による利用が可能です。スペイン,カナダとの間では,双務協定により公衆送信などを含む著作物複製に関しても既に料金の設定がなされており,後で申し述べます大学等高等教育機関における著作物利用に関する実態調査を踏まえまして,ライセンシングシステムを構築いたします。それによって教育機関での利用が可能となります。
 なお,アメリカにつきましては,包括的利用の範囲や大学等高等教育機関の拡大を図りまして,それに併せて利用の便を図ってまいります。さらにはイギリス,オランダ,ロシア,オーストラリア,カナダなどをはじめといたします他のRROとも2015年度中の極めて近い将来に著作物の電子化,公衆送信を含む電子著作物のライセンシングに関する双務協定を成立させる見込みであります。イギリスとの間ではICT活用教育場面での利用に特化した許諾システムの構築を図るべく,協議もあわせて行っているところであります。
 当協会では,大学等高等教育機関における教材・参考文献,講義映像等の公衆送信,教育機関の間での教材等の共有利用等に関しまして,大学学習資源コンソーシアムに協力しております。構成大学はお手元の資料にございます。委員長は千葉大学の竹内比呂也アカデミックリンクセンター長でありますが,イギリス,アメリカ,スイスの海外,RROの協力を得て,大学等高等教育機関における公衆送信を含む,電子著作物複製利用に関する実態の把握を目的としての調査を実施しているところであります。その経費の負担をいたしております。この結果を踏まえまして,当協会は2016年度末までに大学等高等教育機関における電子を含む著作物複製許諾等に関するシステムを構築し,ICT活用教育の場における簡便,的確かつ迅速なライセンシング体制の提供など,著作物利用環境の整備を大学など教育機関と連携しつつ図ってまいります。
 大学等高等教育機関では,教育の場面において多数の社会人などを対象といたしまして,個々の大学の枠を超えたより広い教育体制があります。また,研究の場面においては,関連企業との共同研究などが飛躍的に拡大し,多様化かつ複雑になっております。このような条件の下にあって,教育・研究の場におけるICT活用は,教育・研究の質的向上,拡大の要件ともなっております。当協会は著作権集中管理団体といたしまして,ICT活用教育の場面における電子著作物,また,著作物の電子化及び公衆送信等を含む著作物複製利用システムの活性化が,学術著作物が広く有効に使われ,学術研究の活性化につながるものと信じ,以上の対応を行いつつ,ニーズに対応したライセンシング体制の提供とその適切な運用を図ってまいります。
 このような状況を鑑み,大学等高等教育機関における電子著作物を含む著作物の複製に当たりましては,一定範囲内での著作権処理については,当協会などの著作権集中管理団体によって提供されますライセンシング体制を通じての著作権処理を期待しているところであります。このことは当協会と双務協定下にある海外複数のRROの要望でもございます。我が国においては,著作権法上の規定により学校等の教育機関において授業の過程で使用する権利者に許諾を得ない複製は,著作者の利益を不当に害することのない範囲内で可能となっております。当協会と双務協定下にあるRROでは,教育分野からの著作権収入がそのRROの大きな割合を占めている事例も多く見られます。
 一例を挙げますと,当協会と双務協定下にあります著作権管理団体,スイスのProLitterisは著作物の紙複写と電子的複製の使用料をスイスにおいて徴収いたしております。ProLitterisによれば,スイスにおきまして教師が授業での教授のための複製は,いかなる利用も法によって認められているとのことです。また,ProLitterisは著作権管理団体として,これら教育機関からの著作物複製使用料の徴収を政府の許可に基づき,実施いたしております。2013年,ProLitterisにおける複製使用料収入の約50%は大学を含む教育機関によるものでありました。これを電子的複製に関してみますと,その約30%が大学を含む教育機関によるものであるとのことです。すなわち,スイスでは大学を含む教育機関では著作物を広範囲で利用・複製しているとのことです。当協会は,学術著作物の複製場面での使用料の支払は,すなわち学術研究の発展・推進につながるものとの認識にあり,大学等高等教育機関において,その複製利用の種別,程度・量などに対応しての複製使用料の支払を期待いたしているところであります。
 他方,初等中等教育機関では,その大きな部分が義務教育であり,学術雑誌等の専門誌からの複製の利用などは限定されると推定されます。当協会におけるこれらの機関に対する著作物複製の利用に関するライセンシングの提供は,学術雑誌等の専門誌,海外,RROの著作物については,今申し上げましたように可能でございます。しかし,著作権集中管理団体といたしまして,個々の利用者によるその都度の複製利用許諾の必要性はともかくといたしまして,当協会及びJRRCなどを窓口とした国,自治体などの一括対応が適切ではないかと考えます。
 繰り返しになりますが,当協会の基本姿勢といたしましては,教育の場面はもとより,研究・開発の場面におけるICT活用等情報化推進に関しまして,学術著作物の有効活用とその範囲の拡大は,当協会の設立の目的と一致するものとして今後とも権利著作物の目的にのっとった利用の円滑化と促進に協力・推進,尽力をいたしてまいります。御清聴,ありがとうございました。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,ただいま学術著作権協会の黒川様から御発表がございましたけれども,5団体全ての御発表が終わった後,まとめて時間を取っておりますけれども,学術著作権協会様の今のお話についてお尋ねいただきたいことがもしあれば,今,お尋ねいただいて結構かと思いますが,いかがでございましょうか。
 では,井上委員,どうぞ。

【井上委員】途中で退席いたしますので,この機会に質問させていただきます。御報告,ありがとうございました。大変勉強になりました。
 1点伺いたいのは,学著協に権利を預けられている学協会に属する会員,研究者の方がどのような認識をこの問題について持っておられるのか,何か情報はありますでしょうか。学著協に権利を預けている団体の多くは理系の学会で研究者は,論文の著作権を学協会に譲渡し,学協会自身が権利者として学著協に権利を預けているという形になっています。学協会は学術コミュニティの持続的発展のために非常に重要な役割を担っており,その責務を果たすために健全な財務基盤を確保することが必要であり,その観点から,ICT活用教育についてどのような形が望ましいかというような立場で意見を表明することになると思いますし,権利を預かっている学著協もその立場をある意味では代弁するところがあるのかなという気がいたします。
 しかし,実際に創作をした著作者,研究者は,例えば教育目的であれば自分の論文は自由に利用してもらってもいいという意向があるかもしれない。私などは社会科学系ですけれども,個人的にはそんな気もするわけです。学会の持続的発展ですとか学術出版社の経営基盤維持といったことを抜きにすれば,そういう考えもあり得ろうかと思います。つまり,ステークホルダーとして,学著協や権利者である学著協と,研究者である著作者は,必ずしも同じ利益状況,あるいは意識にあるとは限らないような気がするのです。この問題を考える場合には,やはり著作者の意向というのも併せて考えて,最終的にどういう形が望ましいかというのを決めていくのが望ましいと思いますので,そういった点を伺いたいということでございます。

【野間氏】御質問,ありがとうございます。私,野間がお答えさせていただきます。井上先生のお話のとおりでございまして,従来,多くの先生方は,例えば御自分の論文が大学のホームページを通じて公開されていますとか,あるいは共通のホームページを通じて公開されているので,著作権にこだわらず自由に使っても良いのではないかと考えておられました。そんなことを言わなくても,もう公開されているのだからいいのではないかというお考えのようでした。私どもでも,それはそれとしてすばらしいことでして,どんどん公開していくべきですし,研究成果を教育・研究,さらには開発の場で活用していくべきだと考えております。先生方に私どもでお話ししてまいっておりますのは研究成果が,どのような使い方をされるのかということを区別して見るべきではないかと言うことでございます。例えば,先生方が企業と連携しての研究等は,最近特に進んでまいっております。
 そういう場合,研究開発という言葉で言われていますけれども,そういう場面ではやはり適正な著作権使用料の支払が必要ではないかと考えております。先生方からも研究成果の企業パンフレットなどへの転載は引用とは全く区別して考えるべきではないか。例えば御自分の御研究論文の中の図表が特定の企業のチラシに載る場合はどうしようかとか,そういうお問合せを頂くようになっております。先生の御質問の趣旨は教育の現場での著作物の利用についてでございまして,このことは若干異なるものであるかとはございますが,研究成果の利用・応用という意味からの共通点はあるのかとも思います。私が申し上げたいのは研究形態が複雑化しており成果の利用場面も併せて複雑化して参っており,区分しての対応が必要ではないかということでございます。
 先生が御指摘のように,発表したのだからどんどん見てもらいたい,自由に使っても良いのではないか,一々著作権のことを言わなくてもいいのではないかということはたしかに今までは主流でありました。しかし,お話のように理系の学会の場合に限られたお考えかも知れませんが,最近ではそうではないのではないかという先生方が増えております。それには,私が申し上げましたような背景があると思います。また授業の形態も意見書の中で述べさせていただきました通り,不特定多数の方々を対象としたものまで多様化して参っております。お話のとおり,私どもでお預かりしている理系の著作物につきましては,投稿規定で,著作権は学会に帰属すると規定されているものが主流でございますが,最近では先生御指摘のような学会への帰属でなく個々の先生が権利をおもちの場合,あるいは,自由に複製してもよいとした論文もございます。そのような先生方に対しましても,著作権の集中管理の必要性につきましてお話させていただいております。先に述べさせていただきました研究・教育環境への積極的な対応という面からでもございます。すなわち私どもに対しましての著作物複製許諾申請によりまして幅広い学術著作物の複製が可能となる体制の構築を目的といたしましてでございます。使用料の発生の有無はその次の段階であると考えております。
 財務基盤についても御指摘がございました。私ども集中管理事業者の立場といたしまして,学術論文への著作複製使用料のお支払は,最終的には,権利者であります学会,あるいは著作者個人へ還元され,結果といたしまして学術振興に寄与していると考えております。これが基本姿勢でございます。お答えになりましたでしょうか。

【井上委員】ありがとうございました。

【野間氏】ありがとうございます。

【土肥主査】井上委員,よろしゅうございますか。

【井上委員】今のお話,恐らく理科系の分野には非常によく当てはまることだと思います。産学連携などとは余り縁のない社会科学系,人文科学系ではまた違う意識があるかなという気はいたします。しかし,大変よく分かりました。ありがとうございました。

【土肥主査】ほかにございますでしょうか。よろしゅうございますか。それでは,続きまして,日本書籍出版協会からの御報告でございます。金原様,井村様,平井様,よろしくお願いいたします。

【金原氏】このような時間を頂戴して,ありがとうございます。日本書籍出版協会の金原と申します。今日,3人で意見を述べるということにしておりますが,頂戴した時間は15分ということですので,一人5分ぐらいをめどに説明をさせていただきたいと思います。資料は,資料2として今日皆様のところにお配りいただいておりますので,詳しくはそちらをお読みいただきたいと思いますが,それに若干補足をしながらお話をさせていただきたいと思います。
 私ども書籍協会の立場としては,この資料2の冒頭のところにも書いてありますとおり,結論から言いますと反対であります。私どもの基本的な立場としては,ICT教育そのものについては,その意義は十分理解をしておりますし,むしろ,積極的に推進すべきであると私どもは考えます。しかし,そのために教材を複製,あるいは公衆送信するということについて権利制限の対象とすることについては,慎重に考えるべきであり,現在の立場としては反対という立場であります。
 今回のこの御要望,先週,利用者側の御意見もあり,その意見も含めて今回は意見書を準備しておりますが,この御提案というのは,大多数の学生生徒,また,大多数の教育機関に対して送信をするということでありまして,その範囲から考えて,現在の著作権法35条の範囲から考えても,その範囲を大幅に超える利用であると思います。となりますと,当然のことながら出版社,権利者の利益を大幅に損ねるということであります。広範,非常に広い広がりが想定される送信というものを,これ,無許諾,無報酬でやるということは,そもそも私どもとしては無理であると思います。利益を損なうということは,つまり,ベルヌ条約にも違反するであろうと思いますし,また,出版物,著作物を発行するという著作者の執筆意欲,あるいは出版するという経済サイクルを根から崩壊してしまうのではないかということになるということを危惧いたします。
 しからば,その対応ですが,先ほど学著協からもお話がありましたとおり,当然のことながら,それは許諾を取って,許諾を取るということは基本的に有償であると思いますが,しかるべき対価を払って利用すべきであろうということだろうと思います。その管理状況ですが,先ほどの学著協からの話もありましたとおり,また,このお配りしております資料2の(1)のところにも記載をしておりますが,現在のところ,私どもの出版者著作権管理機構,一般的にJCOPYと呼んでおりますが,ここに書いてあるとおりの委託を受けております。
 誤解のないように申し上げますが,この点数というのは,JRRC――日本複製権センターが管理している点数とは別枠であります。これに加えてJRRCでも現在管理をしておりまして,単行本を8万点ほど,定期刊行物を3,500点ほど,また新聞は95点,新聞は後ほど話があるかもしれませんが,また,著作者1万4,000名ほどから権利委託を受けております。特にJCOPYとしては,この4月から電子的な利用にも対応するということで,許諾業務を開始しております。電子で許諾するというのは,ここに書いてある,資料2に入っております点数そのままイコールではありませんが,権利者から委託を受けまして電子でも対応するという体制は一応整っております。
 しかし,このように日本に存在します,著作権等管理事業者において許諾業務を行っているわけですけれども,先週,利用者側の方からお話があったような,そのような利用について私ども管理団体としては,今まで許諾申請というのは頂戴したことはございません。また,こういうふうに利用したいということについて教育機関側から御相談も頂戴したことはないということでありまして,少なくとも私どもはこの管理事業者が管理しているものについて,利用許諾を出すことも可能な状況が整いつつあるわけですから,まずお話を頂きたい,そこからスタートすべきではないだろうかと思います。また,当然のことだろうと思いますが,管理団体が管理しているものについて,これを権利制限するということは,私どもの著作物の通常の利用を妨げるということになるわけだろうと思いますので,これもベルヌ条約の3 step testに違反するのではないか,そういう判断をしております。
 したがって,許諾を取ってやっていただきたいというのが私どもの基本的な姿勢であって,当然のことながら有償でやるということになります。これを無償にするということは,結果的に権利者の利益を害するということになり,また,経済的な問題で,つまり,許諾料を払うことができないからということで,それを権利制限するというのは,これは本末転倒であろうと考えます。もとより経済的な理由は権利制限の理由にはならないと私どもは考えるわけでありまして,そのための金銭的な対応が必要であるならば,やはり教育機関としてそれを用意すべき,最終的には国なり自治体なりということになるのだろうと思いますが,そういうことで許諾を取ってやっていただきたいということであります。
 また,許諾を取るためには一定の手間も,これは避けられないことでありまして,手間がかかるからというのも私どもとしては権利制限の理由として成立しないのではないかと考えます。現在,このように簡単に著作物を電子化して流通させるということが可能になっているわけですが,それを利用するということは,当然,効果的ですし,有効なことで,しかし,利便性が高くなったところだけを享受するということで,それに対する費用を負担しないというのは,いかがなものかなと私どもは考えます。
 私からは以上です。

【井村氏】日本書籍出版協会の井村と申します。私からは現在の35条の教育機関での運用に関して意見を述べさせていただきます。主にお手元の資料の3ページの(5)から,それ以降の部分に関しての意見となります。
 まず一つ目ですけれども,海外との比較において日本の35条は,教育目的であれば無償で利用できる範囲が広いと教育機関に解釈され,運用されておりますが,にもかかわらず,英国をはじめ,海外で数多く制度として確立している権利者への補償制度がありません。そもそも教育機関で利用される教科書,テキストといったものは,私どものような民間企業で発行したものを教育機関が購入し,その対価の中から著作者に対して印税をお支払いし,残った少しのお金でまた新しい出版物を出していく,こういうサイクルで成り立っております。このサイクルを維持してこそ,生徒,学生を育てていくことにつながっていくと考えております。そういう意味におきましては,今後,このような補償制度の実現に向けてさらなる検討がなされることを大いに期待しております。
 次に,高等教育機関,主に大学での運用に関する点です。御存じのとおり,平成16年に35条のガイドラインを私ども権利者側と利用者である教育関係者様との間で作成いたしました。残念ながら,最後の公表の段階で出席をされていた教育関係者の皆様が自分たちは教育機関を代表する立場にないという理由から脱退したため,ガイドラインは私どものような権利者側が一方的に公表する形となってしまいましたが,その後もセミナー等を通じ,35条及びガイドラインの周知徹底は図られたと,私どももそして恐らく本日御出席の委員の皆様方も考えておられたと理解しております。しかしながら,残念ながらお手元の意見書の最終ページに記載しておりますとおり,現実は行き過ぎた行為が横行し,もう既に常態化しているような状態です。そこに記載しております例を読み上げさせていただきます。
 「例えば」の後になります。例えば前期の15回の講義で使用する教材を全て1冊ないし複数の著書のコピーだけで済ませるケース,いわゆる「自炊」した本を研究室のサーバーに置いて教員・学生で共有するケース,数社の出版社が発行する書籍から欲しいところだけを抜粋してコピーし,冊子体にまとめ多くの授業で使用するケース,教師が出版物をスキャンして作成したPDFファイルをメール添付やファイル転送サービスの利用等の方法で学生に送信するケース,教師控室に置かれた講座別の棚に過去の講義分も含めて講義で使用するコピー資料が置かれ,学生は講義を休んだ場合なども含め,必要な資料を自由に持っていくことができるケースなど,枚挙にいとまがありません。ここで御紹介した五つの例は,現在行われていることのほんの一部でしかありませんが,ガイドラインの周知どころか,拡大解釈により35条の範囲を大きく逸脱した利用が常態化しており,高等教育機関はもはや著作権無法地帯と言っても過言ではないと思います。
 今回の権利制限を認めてしまうことは,既に行っているこれら数々の行き過ぎた行為にお墨付きを与えることになり,このようなことが法治国家である日本で認められていいことはないと思います。こうした現状をきちんと把握し,改めることなくさらなる権利制限を行うことは断じて許されることではなく,高等教育機関における著作権法の有名無実化を引き起こしかねないと危惧しております。また,当然のことながら教育の現場で使用されることを想定し,テキスト等を発行しております私ども学術系専門書出版社にとり,さらなる権利制限は利益を不当に害するどころか,まさに死活問題です。これが現実となれば,もはや我々は消え去るのみとなり,結果,利用する著作物が消えてなくなるということは火を見るより明らかだと思われます。ガイドラインは制定から10年以上が経過しており,教育現場におけるICT化が進展していることから,以上の点も踏まえ,権利者と教育関係者の間で早急に協議を開始し,現行35条の運用についての共通の理解と合意を形成し,教育現場での浸透を図ることが必要だと考えております。
 以上でございます。

【平井氏】書籍協会の平井でございます。前回のこの会議におきまして教育関係者の方々から多くのお話を伺うことができました。その中で感じたことを中心に幾つかお話しさせていただければと考えております。
 まず,引用についての言及があったかと思います。そこでの御意見として,引用か転載かの区別が難しい,あるいは小部分の転載であれば引用で処理していいのではないか,さらに,引用に関して許諾が取りにくいなどというお話がありました。引用の規定というのは,確かに一般市民にとってはなかなか分かりにくい部分もあるかもしれませんが,教育に携わる皆さんがそういうふうにおっしゃるのは,困るわけです。そもそも引用と転載は概念として明確に区別されておりますし,その目的,あるいは利用方法が全く異なるものだと理解されております。少量だからとして転載を引用と言い換えるなどというのは言語道断な話です。そういうことを平気でこういう場で公表する,また引用に許諾が不要なことさえ御存じない方もおられるということですから,驚きを禁じ得ません。
 教育の現場にいらっしゃるということは,生徒,学生を指導する立場にあるということだと理解しております。著作権に関する事項についても,当然のこととして同様の立場にいらっしゃると考えております。昨今,高等教育の現場において,学生たちの間で安易なコピーペーストが横行していると伺っております。そうした現実に対して,自ら範を垂れるべき立場にありながら,著作権に対する理解が余りにも低い,あるいは著作権を軽んじる姿勢と申しますか,そういったニュアンスが端々に感じられて実に情けない思いをいたしました。現在,我々出版社は国内に300社から500社ぐらいあると言われていますが,その半分以上は10人以下の小規模な企業です。そうした組織でもやはり一人は著作権の専門家,専任担当者をつけようという努力をしているわけです。是非とも教育の現場においても難しいとかよくわからないとか言うばかりではなく,著作権の専門家を養成するなり,専門的に管理するセクションを置くなりする努力を行っていただきたいと思います。
 それから,著作権処理の大変さについても,いろいろお話がありました。非常に煩雑であるだとか,あるいは人手が少ないだとか,予算が足りないだとかといったことが大きな理由として挙げられました。同時に,教育の情報化について,その実態と可能性が様々報告されたわけですが,その多くが非常に説得力を持つものでした。それほど日本の今後の教育にとって不可欠なものである,非常に有用なものであるということであれば,必要な予算を計上し,著作権の処理をきちんと行うという選択をしていただきたいと思います。そのための予算がつかない,人手がつかないというのでは,教育の情報化がもつ可能性や有用性そのものに疑問符がつく結果になりはしないかという危惧さえ感じてしまいます。
 既に二人からも話がありましたが,一部の出版社で著作物の教育現場における送信に関してネガティブな態度が見られるというのも,教育現場の実態,教育に携わる方々の著作権に対する理解,こうした様々な現実に対して不安を覚えているからであって,それなりの体制をとっていただいた上で,許諾を得て,対価を払って利用することが前提となるのであれば,我々は教育現場からのニーズについての協議に幾らでも応じたいと思いますし,むしろ,こちらからお願いに伺いたいと思っております。もちろん,教育における予算の増大の要求ですとか,何であれ協力できることがあれば,できる限りの支援をさせていただきたいとも考えております。
 最後にMOOCに関してですが,これは日本語で大規模公開オンライン講座なわけです。オリジナル作品に限るのであれば問題はありませんが,既存の著作物をオンラインで大規模に公開することを自由にやりたいなどというのは,まさに驚天動地の話でして,そういうことが行われるということになりますと,もはや現在の著作権法が想定している教育現場の利用を大きく超える事態であることは論を待ちません。MOOCにおいて著作物は利用されればされるほど著作者,著作権者の利益を害することになってしまい,これは本末転倒であると言わざるを得ません。ひいては我が国の知的立国としての基盤を揺るがす結果にさえなりかねないと考えます。
 そもそも教育の現場で第三者の著作物を利用するということは,その著作物に何らかの価値を認めていただいたが故に,利用されているものと理解しております。ですから,その著作物を生み出した著作者に対して一定の敬意を持って御利用いただくこと,こうした姿勢が基本にあるべきだと考えております。
 以上です。金原さん,まとめをお願いします。

【金原氏】すみません,あと一,二分ください。我々,今,三人意見を述べましたが,そこを大きくまとめると,非常に範囲が広いということで我々は問題にしております。範囲が広く,かつMOOCのように組織的に運用するということになりますと,これはもうベルヌ条約で言うところの特別な場合でもないだろうと思うことが一つです。それから,教育関係者のいろいろお話を伺っていると,公共的な事業である,教育事業であるということです。しかし公共的だからといって,これを権利制限するというのは必ずしもイコールではないと,私どもは思います。公共的なことにもコストは当然かかるわけですし,全てその大義名分の下に権利制限に持っていこうとするという,そういう姿勢に私どもは問題点を感じております。
 それから,こういうプログラムの中で使われるのは,恐らく教育目的で発行されている出版物,教科書であるとか参考書であるとか,それだけではないと思いますが,そういうものが多く利用されるのではないか,特に高等教育機関,あるいは研究に携わるような研究所では専門雑誌であるとか,そういうものが利用されることが多いのではないかと思いますが,そういう出版物にとっては,教育現場というのは私どもにとっては最大の市場,逆に言うとそこしかないわけで,そういう出版物を対象にして権利制限,研究場面において権利制限するというのは適切ではないと私どもは考えます。
 特に高等専門教育ですが,例えば自然科学系,特に医学系ですが,電子ジャーナルも既に用意をされております。電子ジャーナルで契約すれば受信側も発信側も両方契約をしていれば,こういう教育において自由に利用できるわけですから,しかし,そういう電子ジャーナルの契約もまだ日本でそれほど進んでいるとは思えません。是非教育機関としては,そういう契約を促進して,既に商品として用意されている,私ども出版社から用意している,そういう商品をどんどん使っていただいて,それでもなおかつ不足があるならば,そこで権利制限の議論というのはあるのかもしれません。まだその時期ではないと私どもは思っております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ただいまの日本書籍出版協会様の御発表について,この段階でお尋ねいただきたいことがもしあればお出しいただければと思いますが,いかがでございましょう。
 井上委員,どうぞ。

【井上委員】お話を伺って,私ども研究者の研究環境を支えてくださっている学術出版社の危機意識には共感するところもございました。ただ,幾つかお伺いしたいことがございます。御報告いただいたペーパーの2ページの教員間の教材の共有に関して書いてある部分でありますが,教育現場での利用を想定して開発される教材が自由に共有されてしまうようなことになってはビジネスモデルが成り立たなくなるという趣旨のことが書いてあります。しかし,現行の35条でも,例えば教材ですとか教科書のようなものについて,授業の過程で利用するのであれば自由にコピーできるかと言えば,35条1項ただし書がありますので,そうではありません。
 仮に異時送信にも35条の権利制限を広げるということになった場合にも,こうした教材については適用の対象とはならないでしょうし,ましてや教員が共有することを認めるということにはならないように思います。ここに記載されている共有するというのは,教員がいろいろな著作物を集めてきて自作で作った教材を他の教員と共有するという話で,出版社が作られた教育用教材を1冊だけ購入してみんなで共有しようということではないように思います。したがって,もしそういう趣旨で御説明いただいたのだとしたら少し誤解があるのかなと思いました。誤解でないとすれば,教育目的の教材ですとか教科書をもっと広く捉えておられて,やはり学術出版というのは教育現場が大きな市場なので,全て35条ただし書に引っかかるような利用であるという御指摘なのかもしれません。そこを明確にしていただければと思います。

【金原氏】私からお答えいたします。現在,私どもの理解としては,現在ここで検討している権利制限というのは,直接35条に結び付くものではないのではないか,あるいは35条の後ろにくっつくようなものかもしれませんが,あるいは全く別に一つの条項を立てて著作権法の中に書き込むのかもしれませんし,私どもはその辺はよく分かりません。そのどちらになるにしても,このようなことはあるべきではないというのが基本的な姿勢でありまして,おっしゃるとおりこのようなことは本来なかるべきで,35条でもこれは除外されているというふうに理解されるべきことですから,これは心配ないのかもしれませんが,ただ,私どもとして,それはまだ見えないので念のためにここに書き込んだということであります。
 それからもう一つは,35条は教育機関ということですから,もちろん小中高大学まで全部適用されるところであろうと思いますが,今回のこの話は小学校,初等教育ももちろん,大学レベル,高等教育も,あるいは社会人教育も含めてということになりますと,これはかなり幅が広いから,高等教育においては,はっきり言いますと,特に大学,専門教育,医学系の教育だとか,理工学系の研究でありますと何が教育目的の出版物なのかという,その線引きすら非常に難しくなってくるのであろうと思います。しかし,そういうところでふだん,先生方,あるいは学生さんが使うものはやはり買っていただくということですから,必ずしも教科書ということで区分できないということになると,やはりこういう心配は,この時点で一応申し述べておかなければいけないかなということで書き込んだわけで,先生がおっしゃるとおりのことであれば何の心配もないと思います。

【平井氏】補足させてください。ここに出している例は必ずしも学術出版ということには限りません。初等教育,中等教育に関しては,いわゆる学習参考書のようなまさに生徒さん一人一人に買っていただくということを前提に作られ,価格設定されているものが多数あります。それが1冊買って教室に置いておいて順番にというふうなことになると,その学習参考書などのビジネスモデルが崩壊してしまうということを意味します。また,最近の小学校では総合学習ということで,いわゆる従来の教科書から離れた様々なもの,ことを子供たちが利用し,経験するということが増えておりますが,こうした流れに対して,せめて図書館内での利用の範囲内にとどまっていればいいのですが,更にみんなが共有しやすいようにという方向で便宜が図られてしまうのは,我々出版者にとって頭の痛い事態であるということを付け加えさせていただきます。

【土肥主査】どうぞ,お願いします。

【井上委員】学習参考書も現行35条1項ただし書で権利制限にはかからないものであると思いますし,学習参考書を1冊買ってきてみんなで共有しましょうという話にはならないのではないかと私は個人的に思っております。
 あともう1点だけ,事実確認なのですけれども,ライセンシング体制に関しまして,JCOPYが電子ファイル化に関する許諾も始めているというお話でしたが,例えば教育目的の場合には別の使用料体系になっているとか,そういうことがあるのか。それから,電子化の許諾だけではなくて,電子化したものをどのような形で利用できるかということについても,許諾できるような体制があるのか,そこも少し事実としてお聞かせいただければと思います。

【金原氏】JCOPYとしては,この4月から権利受託を始めて,同時に権利許諾も始めたわけですが,現在のところ,教育機関に向けての使用料規程はまだ組んでおりません。それを組むためには,教育機関からどのような利用を目指しているのでしょうか,どのような人数が対象となって,どのような方法で送信し,利用することがあるのでしょうかということについてお聞きしないと,管理事業法における使用料規程に書き込むことができないという状況にあります。現在,許諾して,この4月から始めたばかりですけれども,電子化に係る使用料というのは,例えば企業,個人も含めてですけれども,PDFに変換して社内のサーバーで共有して閲覧するとか,あるいは個人がUSBのようなものに電子複製して,それを保有して利用する,そういう範囲のところであります。
 我々もいずれ――いずれというか,近いうちに教育目的の教室においてみんなで共有閲覧する,あるいは外部の教育機関に送信するということについては,使用料規程に書き込みたいと思っていますが,まずその前に教育機関側からどのような御利用を御所望されているのかということについて意見をお聞きしたいと思っています。その後に作りたいと思っています。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,続きまして日本写真著作権協会から,瀬尾様,御発表をお願いいたします。

【瀬尾氏】こんにちは。瀬尾でございます。今日は,これまで度々複製権センターという名前が出ましたが,そちらの方ではなく,写真の分野からということでお話をさせていただきます。それと,私の話,最初から申し訳ないのですが,書いてあることと違う要素がたくさん入ってきますので,そこのところは御容赦いただきたいと思います。
 最初に写真という分野が素材として使われることは結構あるのではないかなと思っていますが,今回の一番のテーマというのは,いろいろな技術的なお話はもちろんありますけれども,基本的にこれまで例えばタブレットを配るとか,ネットワークを学校内にきちんと張りめぐらせるとか,テクノロジー側の歩み寄りが,進捗があった。今でもそれはある。だけど,実際に教育で使うためのコンテンツとしての政策というのが非常に立ち遅れているのではないかということから,今回のお話になったのではないかなと私は理解しています。そのために,では,本以上に何で見せるのか。タブレットで見せるとしたら動画とか,音とか,いろいろな新しい見せ方がある。もっと言ってしまえば,例えば授業を録画して,それに対してキャプションが付いているようなものを流すことだってあり得るかもしれない。
 今回,実はうち,27日,数日前に理事会があって,この件についてはいろいろ大分話したのですけれども,いろいろな新しいコンテンツがあって,例えばよく言われる,島しょ部で先生が二人,生徒が5人,その人たちの教育環境と都市部での,例えば先生が20人いる学年と,これをICT技術の利用によって是正するとしたら,すばらしいことではないかという話があります。そのときに,では,その授業を見て,いい授業というのが録画されていて,その授業を先生方が見て技術力を高める若しくはその中で選ばれた授業の動画が島しょ部で行われる。そんなようなことがあったら,これこそ本当にICT技術のよい活用になるだろうなと思います。また,そのときに著作権ということが制度上の問題として障害になって,それができないということがあるとすると問題だろうと思っています。ですので,まず,今回の趣旨を今のように理解するとしたら,少なくとも写真としては,その活用について賛成です。
 ただし,ここの中で幾つか,ここに戻ってきますけれども,ICT活用教育に関するライセンシングの取組状況とあります。これにつきましては,写真については日本複製権センターに二次利用を委託しています。ですので,複製権センターでの活用になりますし,そこでまだデジタル化の許諾をしていないという大変大きな問題があると思いますけれども,これは複製権センターで解決すべきだろうと強く思っています。ただ,2番目,3番目のこういう細かいことについてなのですが,これはもっと総合的に言ってしまうと,対象を教育というものすごく漠として,多分野について一言でくくってしまう。下手をしたら教育と研究みたいな,もう全く違うジャンルを一つの言葉で語ってしまうことで問題があるだろうと思います。
 例えば今,書協さんがお話になった内容については,やはり専門教育,高等教育が中心になってくるイメージがあります。だけれども,では,小学校はどうなのだろう。もちろん教科書を電子送信して共有する,そういうことはあり得ない。そんなのは当然考えていませんけれども,ただ,では,先生たちが工夫して写真や文章やいろいろなものを作って,新しいコンテンツを作ったら,それを学年で共有したい。そういうことはあるのではないかと思います。そういうことについてきちんと区分けしていくべきではないかなというのが,私の考えがまずあります。
 次のページなのですけれども,これは一例ですので,これは皆さん方,法制・基本問題の先生方の方がきちんとこういうことについては考えが及ぶかもしれませんが,まず一つは,何らかの形で分けていくことが必要ではないか。例えばここでは,私は最初に授業内と授業外,義務教育とそれ以上と分けましたが,このほかに高等教育を分けるべきかもしれません。ただ,幾つかの対象によって著作物の使われ方は大きく違う。それによって全く利害関係者も実は違ったりもします。ですので,こういうことについてこれをちゃんとマトリックスにした中で,この部分については,例えば権利制限もあるのかもしれない。この部分についてはやっぱり許諾でやってくださいよ。それはものすごくはっきり分かれるべきだと思っています。そこを明らかにしていくことと,その部分,部分について議論していくことが今とても重要なのではないかなというのが私の考えです。
 また,それとここの2ページ目に書いてあるということの中で,当然,営利のもの,営利で行うような授業とか,そういったものについては,これはやはり許諾になっていくようなこともあるでしょうし,例えばこの2ページ目の2の例として考えると,例えば義務教育で,授業内で使うのであれば,これについては積極的なICT利用が望ましい。ある意味では権利制限もあり得るのかもしれないと思います。ただし,権利制限についてはまた後で述べますけれども,例えば義務教育なのだけれども,授業以外の利用ってどうなのだろうとか,では,義務教育以外,例えば高校専門だったらどうなのだろう。それをきちんと切り分けていったときに,一つ言えるのは授業とか,いわゆるレクチャー自体がマネタイズされている例が非常にあるんですね。
 例えば高等教育でお医者さんのいろいろなレクチャーなどにしたら,それが一つのビジネスとして成り立っていて,それが外にも何もきちんと売られていて,先生たちはそれを使いながら,お金を払いながらやっているような分野ってたくさんあります。そういうものが単に教育という中だけでくくられてしまって,それが権利制限というのは,これは不当だと思います。また,現在で市場が形成されている部分と形成されていない部分の実態をきちんと見極めた上でこの議論をしないと,多少,乱暴な話になってしまうし,オール・オア・ナッシングになってしまうと全く進まない。そして,最後に言われるのは著作権が邪魔してコンテンツが増えない。あちこちで聞く話がございますので,そういう話ではないということをちゃんとしていかなければいけないのではないかなと考えています。
 この中で例えば先生方が自分でコンテンツを作っていくということについて,例えば写真を使う,文章を使って,それをこれまでの35条を単にデジタル化する部分と,それ以上に共有とか,送信とか,例えば異時送信みたいなことをしていくものと,これまでの範囲をデジタル化したものと,それ以外の広がる部分というのは,私は,これは若干分けて考えなければいけないのではないかなとは思っています。ただ,基本的な使い方としては,デジタル化したとすると,何のためにしたかと言えば,それは共有することが,いわゆる方法論,技術的にはそのためにしていると言っても過言ではないでしょうし,そのデジタル化した効果を最大に生かすためには共有とか送信が必要でしょう。これは十分理解ができます。
 ですが,それについてどのような形にしたらいいかということがあるのですが,先ほどからもいろいろ権利者側の不満があって,今日は言ってしまいます。基本的に教育だからって,全部ただの国はないんですよ,ほとんど。何でこんなふうに捉えてしまったのかと私は思う。それは複製権センターの立場が入っていますけれども,何でこんなに全部ただなのって,30条もただ,教育もただ。要するに権利制限というのは,ただ乗りされるというイメージがあるんですよ,権利者の中に。この強迫概念というか,トラウマが反対になるんですよ。基本的に先ほどから,例えば学著協さんも書協さんも言った,例えば複製権を管理している,複写を管理している団体のほとんどの国は,教育に対する補償金で成り立っているわけです。
 例えば35条をそのままデジタル化した,それはそのままだから,これに対して遡って35条分,補償金をくれとか,これは難しいだろうと思いますけれども,せめてこうやって拡大して使っていくときには,日本では権利制限イコールただのような感じにはならないようにしてもらいたい。その金額ではないです。その思想として必要なのではないかなということは私も申し上げる。これはフェアに考えて,そういう制度が必要だと思うからです。逆にそういうことを作ることによって,より今後も利用,使い勝手のよい形態が作り得ると思うから,そういう提案をさせていただく。その場合に,ただ,先ほど申し上げた,大規模公開,こういうふうな部分についても,これはやっぱり許諾でしょうと思う範囲です。ただ,許諾なんですけれども,残念ながら,先ほど権利制限云々という話も,権利者側から権利制限の話をするなんていうのは,一昔前で言ったら,帰ったら村で石を投げられる話ですけれども,でも,もうそんなことはないです。
 我々が管理している写真の内容が,非常にカバー率が少ないんですよ。日本というのが,集中管理がしづらいことというのは,管理著作物の管理率が低い。残念ながら,これは現実です。とすると,権利制限という大きな枠でしないと,我々は責任を負い切れない,許諾という責任を負い切れないので,あえてそういう言葉を口にしているということです。だけど,逆に専門的な教育とか,きちんとターゲットが分かっているものについては,これは許諾を求めることができます。例えば複製権センター,すみません,複製権センターの話,ちらっと出ます。教育に関する許諾を出しているんですよ。それまで事務局員だけだったものを教師間の共有まで含めたような教員数も入れた許諾を出しています。でも,小学校でそんな契約をしてくれるところ,私,聞いたことがない。中学校も。これはどういうことなのか。複製権センターの宣伝が至らず,悪いのだと言われれば素直に謝るしかないけれども,そういうこと,ある既存の許諾システムを使っていないという現状は認識していただきたいと思います。
 ただ,この私の3ページ目の真ん中の段で,許諾を取りやすいシステムを構築しなければいけないのは間違いないと思います。これはより取りやすくしなければいけないし,教育に対しての配慮もあるべきだと思っています。ただ,これはきちんと利用者も考えていただきたい。それともう一つ目は,これもいろいろな話が出ますけれども,まず,教師の先生方,教育現場の皆さんに対する教育をもっと進めていただきたいのですが,今の教育,これは私のイメージで申し上げると,違ったら申し訳ない。パッチを当てるような,FAQを集めてこうやったら違反にならないよというのを集めたような教育の仕方に私は思えてしようがない。もっと教育課程の,いわゆる教員になるその段階からきちんと著作権の基本から権利処理をするまでのプロセスまで理解してもらえるようなことを今からやっていくべきではないかなと思います。
 最後に許諾を出さないものについての処理なのですけれども,先ほどの権利制限によっての云々もありますけれども,この問題は独立した問題として,この問題だけではなく考えていくべきだと思います。日本で,先ほど申し上げたように管理著作物が少ない状況であるとすると,これについては本格的な取組をしない限り,抜本的に全ての問題が解決しないというところに行き当たる。いろいろあって最近,孤児作品と呼んではいけないという我々の仲間内の申合せがあって,権利者不明作品問題と。孤児というのはけしからんという隣の文藝家協会さんのある方からの御指摘によって私は言えなくなったのですが,オーファンとは言えます。オーファン問題について,これも非常に関わってきているかなと思います。
 最後に少し,このシステムとして唯一直接許諾を出しているのはお寺さんの写真を,我々,写真は直接許諾を出していますが,これはもう一つの問題として社寺に対して写真を使うときに,商習慣上お金を払う。義務的な商習慣がある。これを一括でまとめてワンストップショッピングするような許諾の出し方はしています。こんなようにこれまで困った問題について,何でこんなのを出したかというと,問題を解決することを考えてはいるということではあります。権利者は一方的に権利制限反対,反対と何でもかんでも反対,反対するという時代ではないけれども,適正なことについてきちんと話し合う用意があるということで,余り大ざっぱな形となると本質を損なうのではないかなというのが今回の私の趣旨でございます。
 以上です。

【土肥主査】瀬尾様,ありがとうございました。
 それでは,日本写真著作権協会様の今の御発表について,この段階でお尋ねいただきたいことがもしございましたらお願いいたします。よろしゅうございますか。では,茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】どうもありがとうございました。写真について,あるいは写真以外のことも含むのかもしれませんけれども,許諾を取りやすいシステムの構築が必要であるとおっしゃっておられました。これに関して,前回,教育関係者の方が,権利処理がしにくい,権利者がどこにいるか分からないし,個人の権利者を仮に特定したとしても,一々コンタクトを取るのが大変だといわれていました。仮に許諾の取りやすいシステムがあれば,少なくともその部分の手間は軽減されることになるのでしょうけれども,現在,そういう教育関係者が許諾を取りにくいという問題意識を持っているというのは,結局,どこにその原因があるとお考えでしょうか。
 先ほど写真についてはなかなかカバー率が少ないということを指摘されました。恐らくカバー率が少ないと仮にそのシステムに入っても許諾をとることができる可能性は小さく,そのために,そもそもそのシステムを利用しようにしないということもありそうなのですが,一般的に,教育関係者は,仮にきちんとしたシステムがあって,そのシステムに行けば許諾が取れると仮にしても,許諾を取りにくいという問題を認識しているとお考えでしょうか。

【瀬尾氏】やはりポータル的なものがないんですね。著作権の,例えば著作権情報センターさんが,一番情報量が多いものを持っていらっしゃったりするのですが,許諾に関してJASRACさんのすごいところは,JASRACのホームページに行くと大概の許諾が分かるということなんです。それ以外の分野について,そういうポータルがない。これについては,このポータルサイト,いわゆる権利処理,実務的権利処理についてのポータルサイトを絶対に構築していかないと,これは無理だと思っていますし,そういう努力をするべきだと思っています。それがないことによって,今,例えば新しいビジネスマン,会社に入ったばかりのビジネスマンとか,学校の先生とか,これを使いたいんだけれども,どうしたらいいのというところがまず先に分からないということですね。
 これについて,行くべきポータルサイトがあるべきだろうし,それを作ろうということで,今,進捗をしています。これについては遅れていますけれども,そういうポータルサイトを,今現状で立場が違う組織の話なので余り申し上げられませんけれども,きちんとそれを今年度中にでも作るような話をしています。少しずつでも,ここへ行けばいい,いの一番というところを作っていけば,先ほどの引用とか,訳の分からない話にならなくても済むし,情報と権利処理について,ただし,先ほどカバー率の云々があるので,そこで全ての権利処理ができないことについては何とか別の措置が必要ですよねということになるかなと思いますので,ポータルサイト,情報の集中管理によって,あとは集中管理機構のより広範な整備が権利者の中でも必要だという認識はいろいろな分野の中で共通認識になっておりますので,それは地味ですけれども,少しずつ進めていくことで今のような現状には対応しようと思っていますし,現状,そういうふうに思われているという現状は十分に承知している。少なくとも私は承知していると思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,よろしゅうございますか。すみません,どうぞ。

【井上委員】瀬尾先生,ありがとうございました。ポータルを充実していこうというお話でしたけれども,そこで想定されているのは,例えば教員が特定の著作物を利用したいときに権利処理するということのためのワンストップサービスとしてポータルを利用するということだったように思います。しかし,個別の権利処理を前提とするとやはり取引コストが大きすぎるという気がいたします。そうではなくて,例えば包括で学生一人当たり1年間で幾らというような形で教育機関がロイヤルティを一括して支払って,あとは個別の権利処理なしに教員は自由に対象著作物を利用できるということは考えられないでしょうか。もちろん集めたロイヤルティの分配のためには,著作物の利用状況を把握するためのサンプリング調査などは必要でそのためのコストがかかるかもしれないけれども,包括で集める方式についてはどうお考えでしょうか。
 そのようにしないと,例えば,ある大学は非常にお金がなくて,著作権処理にはお金がかけられないから,なるべく他人の著作物は使わないようにする,別の大学は潤沢にお金があるので幾らでも利用できるといったことになりかねません。教育を受ける学生の立場からすると,受けられる教育の質が各教育機関のポリシーによって変わってしまうこととなります。このような事態は望ましくないので包括的なライセンス制度の導入も一つの選択肢かなと思っているのですが,その点についてお考えをお聞かせいただければ。

【土肥主査】お願いします。

【瀬尾氏】全くおっしゃるとおりで,サーチコストを削減するだけでも大分いろいろ違いますけれども,更にその後のコストというのは当然かかってくる。そのためにやはり集中管理と包括許諾というのを軸に考えていかないと,なかなか難しいと思います。更にその延長線上にあるのが,先ほど言った,ある部分的に言うと権利制限に至るのかなということもありますけれども,それについては進んでいますし,例えば写真について,写真,美術,グラフィックについて言いますと,実際,複製権センターの管理しているものの中で,その写真そのものを目的とするコピーというのはずっと長いこと認められておりませんでした。だけど,近年ですけれども,それも包括するようになりましたので,だから,先ほど申し上げたように少なくともあるものについて,包括的に契約していただける,しかも,格安でというのがあるので,それをまず利用していただきたいというのが正直なところです。でも,そこも数の限界もよく分かっていますので,その先にあるのが今日の話のテーマになると考えていただければと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,日本文藝家協会の長尾様,御発表をお願いいたします。

【長尾氏】文藝家協会,長尾でございます。御質問に対しまして資料の4でございます。
 まず,包括許諾につきまして,三つの大学及び私立の中学,高校では著作権利用に係る教育NPOと協定を結び,加盟各校が学校の中で使われる分については包括で許諾させていただいております。今月,加盟校が500を超えました。もっとたくさん入っていただければ教育現場からの許諾は楽に取れると思います。しかし,残念ながら教育に限りまして使われます文藝作品は,ちょうど3分の1しか当協会では管理ができておりません。ここにいらっしゃる先生方,物をお書きになる皆さん,どうぞ著作権管理委託契約をお願いします。会員にならなくて結構です。著作物の著作権管理の,特に教育の分野だけでも結構ですから,御委託いただけますと,利用される出版社,学校の先生の利用が大変お楽になります。
 どこに聞いたらいいのか分からないのではなくて,文藝家協会に聞いてみれば,とりあえず連絡はつきそうだと,特に今,ポータルサイトの役割を果たしているのではないかと思います。写真についても使いたい,プロフィールもチェックしてほしい,この人はどこにいるのだか知っている人がいたら教えてくださいという御依頼が申請と同じぐらいの数,参ります。教育に対する申請の数は資料4を御参照ください。これと同じぐらいお問合せがあり,3分の2ぐらいはお返事ができております。残り3分の1は著作者居所不明,自分でいなくなっている人が時々いらっしゃいますが,複雑な家族関係があって継承者が分からないという方が文藝家の場合ほとんどでございます。
 文藝家協会といたしましては,教育ICT,特に教育現場における教育ICTは利用を拡大することにやぶさかではございませんし,進めていただいた方がよろしいと理事会でも情報は共有しています。
 ただ,問題はございます。現場の先生方の著作権教育がほとんど全くできていない。これはよく考えてみましたら,私が受けました大昔の教職課程にも著作権講義は1時間もありませんでした。ここが大問題なのだと思います。教育課程の中に著作権を1コマでもいいから入れる。もう既に先生になられている方も,こんなに瑣末にいっぱい事務をさせるのであれば,サマーセミナーか何かで必ず1時間でいいから著作権教育を受けていただきたい。それは大変だということなら,せっかくICTを教育でやろうというのですから,教育関係者にこそ教育ICTを使って広く大規模に公衆送信で結構ですので,著作権教育をしていただく。それを実証実験にしていただいて,どれぐらい普及かつ教育水準が向上したかを見ていただいてから,広く一般の教育現場でのICT活用を拡大していただくことをお考えいただいてはいかがかなと思っております。
 それと,これは初等中等教育のことで大変恐縮ではございますが,「デジタル教科書」というものをもうそろそろどうにかしていただきたい。この場で申し述べることではないかと存じますけれども,出版社の方,教科書出版社の方,著作物使用料だけで1冊,一つの教科書当たり1,000万を超える経費がかかっていると伺っております。これが教科書の方ですと,紙の教科書は教科書補償金なのでお支払は頂いておりますけれども,御負担は大変に低くなっているのかと思います。デジタル教科書は教科書ではないので,補償金の枠には入らないということを国の方が推し進められます限り,多分,教科書会社が,国語に関しては1社を除いて教科書から撤退されると思います。やっていけるような経費ではないと思います。こちらの先生方とは関係ないと言われればそれまでですけれども,できましたら関係各位に少し後ろから働きかけていただければ,皆さんお楽になるし,私どもの会員,委託の先生方も少しは安心なさると思います。
 学校ではなくて,営利目的の企業では,既に教育ICTがかなり進んでおります。特に去年の暮れあたりから爆発的に増えました。どうも利用の環境は整っているようでございます。行き過ぎた使われ方もあるようなことも散見いたしますけれども,一生懸命まじめにやろうとなさっている会社がほとんどですし,法務の関係の方は,かなりピリピリして許諾はお取りになっていただけております。学校現場もできれば,その3分の2ぐらいの努力をしていただければと思います。
 そして,重ねてお願いがございます。毎年,「入試問題に関する要望書」を8月の末から9月の頭に送らせていただいております。一昨年まで国語に関してだけ送っていたのですが,ふと気がつきますと和文英訳,それから,社会科にも著作物が使われていることが分かりまして,これが問題なのは,名前は申しませんが,某旧帝国大学からは一度も申請と御報告があったことがない。こちらから申し上げても何もレスポンスのない大学もございます。私立大学は割とまじめにやっていただいております。問題なのは,資料に付けました「著作物使用の注意点」の方です。著作者の名前を書いていただけていないという学校が大学,高校にございました。一番顕著なのは何も書いていないのではなくて,例えば「芥川龍之介の文章により多少改変がある」と書いてある。芥川龍之介の何の文章だか分からない。龍之介ならいいのですけれども,これが「朝井リョウ氏の文章により」とか,「筒井康隆氏の文章により」とか平気で書いてあって,「出典はちゃんと書きました」とおっしゃる学校がまだ75校もある。これは大問題だと思います。毎年,毎年送っているのに読んでいただけていない。専門学校では毎年頂いているので,もううるさいから送らなくてもいいというところがあるぐらいなのですけれども,かくのごとく教育現場の方に著作権ということが全く理解されていないとしか思えません。理解のないところに権利制限をこれ以上拡大し,しかも,公衆送信もいいようにすることは,著作権者の団体である当協会としてはいかがなものかと考えます。進めるべきものは進めた方がよろしいかと存じますが,啓もうするべきところはしっかり啓もうしてから進めていただければと存じます。
 文藝家協会といたしましては,以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,ただいまの長尾様の御発表について御質問ございますか。デジタル教科書あたりのところ,何か御質問がもしあれば。よろしいですか。
 補償金のところでおっしゃったのですけれども,デジタル教科書と補償金の関係について,十分ではないという御趣旨なのでしょうか。

【長尾氏】「デジタル教科書」は補償金制度に全く含まれておりません。十分ではないどころではなく,全く入っていないので,教科書の呼称を変えるか若しくは教科書補償金制度に組み込んでいただけたらと思います。

【土肥主査】デジタル教科書,補償金の対象になっていますね。

【大渕主査代理】そうはなっていないとお考えだから,おっしゃっているのではないでしょうか。デジタル教科書というのが同床異夢なのかもしれませんが。

【土肥主査】33条の2の問題ではないということですね。

【長尾氏】それではございません。

【土肥主査】それではないということですね。

【長尾氏】はい。

【土肥主査】よろしゅうございますか。それでは,ありがとうございました。
 最後に新聞協会から御発表をお願いいたしたいと存じます。藤原様,上治様。

【上治氏】それでは,上治から話させていただきます。今日は資料を二つ御用意いたしました。教育の情報化の推進についてという資料と,教育の情報化の推進について参考資料の二つであります。主に「教育の情報化の推進について」に沿って御説明させていただき,途中でこの参考資料を適宜参照させていただきます。
 まず,新聞協会としましては,我が国の民主主義を担っていく学生・生徒を育むために,新聞は不可欠の学習材と思っております。現行の学習指導要領に新聞が指導すべき内容として記載されたのは,この重要性が広く社会に認識されているからだと存じております。一般の社会人にとっても,新聞の重要性は申し上げるまでもございません。デジタル・ネットワーク社会の進展に伴い,様々な教育現場で情報通信技術,ICTを活用した新聞記事の利用が広まっております。新聞各社は簡単な手続により御利用いただけるよう努めており,今後も紙と同様にデジタルでも新聞記事の利用促進を教育関係者の皆様方と協力しながら進めてまいりたいと存じております。
 続きまして,ICT活用教育におけるライセンシング等について御説明いたします。新聞各社では,記事などの複製を含め,様々な形態の二次利用を求める教育機関,企業,団体,個人に対してライセンシング,許諾を行っております。新聞記事の特徴として,新聞記事の大半は法人著作であり,多くの場合,新聞社に電話やメールで御連絡いただければ,可能な限り速やかに利用許諾を得ることができます。社外筆者による新聞記事など著作権が新聞社に帰属していない場合は,社外の著作権者を御紹介するなどの対応をしております。総じて新聞記事などの流通システムは合理的に機能していると考えます。
 新聞各社の許諾は大別して都度利用に対する個別許諾と継続利用に対する包括許諾に分かれます。ICT活用教育に関する個別許諾の内容は多様であります。例えば「デジタル教科書に掲載する」,「新聞記事を含む講義映像を録画して異時送信,オンデマンド送信する」,「入試問題として利用した新聞記事を学校のサイトに掲載する」,「学外で開催するシンポジウムに使用するため,新聞記事をパワーポイントに変換する」などであります。新聞各社はこうした一つ一つの申請に対し,その内容,目的等を踏まえて検討し,許諾する場合は有料若しくは無償で御利用いただいております。こうした御利用の希望は,今後更に多様化,増大すると思われ,新聞各社は柔軟に対応していきます。
 一方,新聞各社は包括許諾として有料の年間契約などによる教育機関向けのデータベースサービスや新聞記事を利用したデジタル教材を御提供しております。データベースサービスは小学校,中学校,高校,大学,海外の日本人学校と広範に御利用いただいております。デジタル教材は,例えば大学と契約し,学生と教職員が新聞のデジタル版とデータベースを利用できる商品があります。新聞各社は包括許諾についても御利用の拡大に努めてまいります。
 ここで二次利用における許諾のシステムと各社のデータベース等のサービスについて,御紹介いたします。参考資料の4ページを御覧ください。4ページ以降,12ページまでに新聞社の幾つかの社のサービスの具体例をここに掲載いたしました。私が朝日新聞の社員でございますので,朝日新聞について数字等入れながら御説明いたしたいと思います。まず,朝日新聞が教育向けデジタルサービスとしては,小学校,中学校,高校向けの「朝日けんさくくん」というサービスがございます。このサービスは,1984年以降の新聞記事を検索することができ,クラス50人で同時に使えるなどのサービスであります。料金は幾つかシステムがございますけれども,一番使われているコースで月額6,000円であります。コンテンツの内容等は異なりますが,一般企業向けの同種サービスで基本的な契約は月額7万円であります。このように教育機関向けには配慮した割安の価格で提供しております。
 ただし,安いのは朝日新聞だけではありません。ほかの社も同様の割引を行っております。例えば名前だけ御紹介いたしますと,6ページにあります産経新聞は「Sankei Archives」という検索サービスを提供しております。8ページにございます読売新聞社のサービスは,「スクールヨミダス」というのであります。10ページにありますのは毎日新聞の教育機関向けデジタルサービスで「毎索」というのがございます。いずれも教育機関向けに一般企業に対する検索サービスの料金に比べて格安で提供させていただいております。4ページにお戻りいただきますと,デジタル教材としては,「朝日新聞 select for school」というのがございまして,これは朝日新聞の電子版,朝日新聞デジタルの一部と過去記事のデータベースを組み合わせたものでございます。
 続きまして,二次利用の許諾システムについて御案内申し上げます。5ページを御覧ください。5ページは朝日新聞社の二次利用の案内ページと申込書でございます。これは朝日新聞デジタルの無料域のところに著作権というところがございまして,そこから入っていけます。そこへ入ることで,まずそのシステム,御利用の許諾をしたい方への説明文があると同時に利用申込書を得ることができます。そして,この利用申込書に必要事項を記載してファクスやメールで送っていただければ簡単に許諾を取ることができます。基本的に1日で回答するようにしております。
 各社の許諾,二次利用の許諾システムについては,ほかに御紹介いたしますと,7ページにありますのが産経新聞の二次利用の案内ページと申請書であります。9ページが読売新聞の二次利用の案内ページと申込書であります。11ページにありますのが毎日新聞社の二次利用の案内ページと申込書であります。12ページにありますのが日本経済新聞社の二次利用の案内ページであります。いずれも共通してサイトから著作物利用案内を見ることができ,同時に利用申込書を入手して書き込むことができるようになっております。このように新聞社は組織的に,そして簡便に許諾に対応しております。
 それで,元の教育の情報化の推進について戻ります。このような個別許諾,包括許諾とも御利用いただく際には,提供したデジタルデータが許諾の範囲を超えて拡散し,サーバー等に蓄積されることを防ぐため,条件を設けております。新聞社や御利用形態によって条件は異なりますが,例えば「データを電子媒体に複製しない」「使用するパソコンを限定する」「閲覧のみでダウンロードは禁止する」「第三者への公衆送信を禁止する」などです。こうした条件については,御利用者の同意を頂いております。
 続きまして,権利制限規定について御説明いたします。これまで申し上げましたように,新聞各社は今後もICT活用教育における新聞記事の利用促進に努力してまいります。ただ,デジタルコンテンツは紙のコンテンツに比べ,許諾なしに拡散,蓄積が行われる危険性がはるかに高いと言えます。今年度の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会では,同時送信のみならず,「異時送信を権利制限の対象とする」,あるいは「教材の共有化を権利制限の対象とする」,「MOOCのような一般人向け公開講座における公衆送信を権利制限の対象とする」ということを検討すると伺っております。もしこれらの権利制限が導入されますと,現行の著作権法35条に比べ,デジタル化された新聞記事を許諾なく利用できる対象が広がります。その結果,権利制限の対象外にもかかわらず,許諾を得ずに拡散や蓄積が行われ,新聞記事に対する著作権侵害が現状よりも深刻になることを強く懸念します。
 また,新聞各社は刑事事件を報道した新聞記事について,ケースに応じ,時間の経過を踏まえて匿名化やデータベースからの削除といった人権上の配慮をしています。もし上記の権利制限規定が導入されると,このような配慮の意味が失われるおそれがあります。さらに,新聞各社はICT活用教育のためのデータベースサービスやデジタル教材提供の事業を行っており,年間契約等に基づく市場として成立しています。こうした新聞各社の事業に大きなダメージが生じるおそれもあります。以上,これまで申し上げましたように権利制限規定の導入に関しては,上記の懸念とおそれを御理解いただき,結論を急ぐことなく慎重な御審議をお願い申し上げたいと思います。
 以上です。ありがとうございました。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,ただいま日本新聞協会から上治様に御発表いただきましたけれども,この新聞協会の御発表及びこれまでの4団体の御発表についても併せて御質問いただけると思いますし,御意見をお話しいただけると思います。いかがでございましょうか。
 では,茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】どうもありがとうございました。例えばここで書いておられますように,「授業の過程における教材・参考文献や講義映像等の公衆送信について,リアルタイムのみならず異時のものについても権利制限の対象にする」という問題についてですが,新聞協会さんはいろいろと簡単に許諾を取れるシステムを構築されているということでしたけれども,利用者がそういうシステムを知っていて,そのシステムによって利用許諾を得ようとしても,各社であるいは違うのかもしれませんけれども,例えばデータを電子媒体に複製しないとか,こういう条件があるとすると,異時でやるものについては,このシステムでも許諾が得られないということになると思います。ですから,ここに書かれておられるような問題について,利用許諾をとりやすくして,そちらを使うというのも一つの在り方であると思いますが,今,新聞協会さんがやっておられるシステムだと,そもそもこれらについては,許諾というやり方でもできないということになるように思うのですけれども。

【上治氏】異時送信ですか。

【茶園委員】はい。

【上治氏】異時送信は現実的に個別の社がやっている事例もございます。ですので,そこのお使いになりたい新聞社に御連絡いただいて,御相談いただければ,その社によっては中身とかをよく御相談した上で,あるいは必要な条件を付けさせていただいた上で異時送信ということは可能でありますし,現実に異時送信をやっている社もあると聞いております。

【土肥主査】新聞協会としてどうかということだと思うのですけれども,そういう異時送信とか共有の問題について,同じようなスタンスをお取りになることはできないのかどうかということだと思います。

【上治氏】新聞協会としてではなくて,異時送信については現状でも各社の判断となっておりまして,異時送信そのもの全般を,これを権利制限にするということについては,先ほど申し上げたような懸念がありますというのが新聞協会の考え方であります。

【土肥主査】権利制限と言っても,こういう許諾のシステムの中で対価を払った利用するという,そういう意味だと思いますけれども。

【上治氏】権利制限をした上でということですか。

【土肥主査】権利制限というのは,許諾権に対する制限と理解しているわけですけれども,要するに許諾なしに対価をきちんと払うことによって,それで利用するという,そういう仕組みですね。

【上治氏】許諾をなくして,いわゆる報酬請求権のような形ですか。具体的にそれについて我々は特に今ここで賛成だとか,反対だとかという意見は持ち合わせておりません。具体的にそういうことが出てきた段階で,検討してお答えするということになると思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにいかがでございましょうか。前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】前回,教育関係者の方から,一つ目として35条2項を拡大して異時の送信ができるようにしてほしいという御要望,二つ目として,教員間等での共有を可能にしてほしいという御要望,それから三つ目としていわゆるMOOC等が可能になるようにしてほしいという御要望があったかと思うのですけれども,これら三つのことについて,各団体様が許諾権を維持すべきだというお考えなのか,それとも許諾権を制限して補償金請求権にすることも考えられるというお考えなのかをお伺いしたいと思います。
 先ほど写真協会様からは,私の誤解があるかもしれませんけれども,35条2項を拡大して異時送信を可能にすること及び教員間等での共有を可能にすることに関しては,仮に権利制限をするのだったら補償金が必須である,これに対してMOOCについては許諾権の維持が必須であるというお話を頂いたかと思いますし,それから,新聞協会様につきましては,今はまだ具体的な検討をされていないというお話であったかと思いますので,あと学術著作権協会様と書籍出版協会様と文藝家協会様にお伺いできればと思います。
 とりわけ学術著作権協会様におかれましては,ProLitterisですか,スイスの団体のお話,それから,権利者不明の著作物の複製に関しては供託の代行の機能を果たしているというお話もございまして,そのお話からすると,私のうがった見方かもしれませんけれども,許諾権を制限した上での補償金制度を念頭に置かれているようにも感じたものですから,その点も含めて教えていただければと思います。

【土肥主査】それでは,順に,まず学著協からお願いいたします。次に書協というふうに移っていきたいと思います。

【野間氏】御質問,ありがとうございます。学著協でございます。学著協といたしましては,高等教育機関等に対しては,ライセンスシステムを御提供させていただいてまいる所存でございます。このことに関しましては,私ども意見書に記載させていただきました通り,現在,大学学習資源コンソーシアムの皆様とも大学での電子送信等を含む著作物複製実態につきまして,どのような使い方がなされているかにつきまして,実態調査を行うなど調査させていただいているところでございます。その結果を踏まえまして,適切なライセンシング体制の構築をはかって参りたいと考えております。すなわち補償金制度ではなくて,ライセンシングシステムを御提供させていただき,御利用に対応させていただくという方式で参りたいと考えています。
 それから権利者不明の著作物の複製に関してでございますが,私どもでそういうシステムがあるということではございませんで,先ほど瀬尾さんからもお話がございましたJRRC等と共同で組織化いたしまして,対応させていただいてはいかがかと考えているところでございます。ただ,実際に私どもでは現に海外RROとの双務協定に基づき著作物複製使用料のやりとりをさせていただいております段階で,RROから私どもに対しまして著作物複製使用料の送金がございます。この中には,私どもの管理著作物以外の著作物複製使用料も合わせて送金されてまいっているものがございます。私どもではこれに対応いたしまして権利者であろう方々にお問合せ等を行いながら,お預かりした著作物複製使用料を伝達させていただいているようなことは行っております。つまり海外RRO,当該RRO著作者不明扱いの著作物複製に関して,私どもでは著作権使用料の供託の代行ではございませんが,“さがす役割”と言う機会を果たしております。結果といたしましてお答えになりましたでしょうか。

【土肥主査】はい。では,次に書協,お願いいたします。

【金原氏】補償金の問題については,私ども未消化で十分検討はしておりませんが,基本的にはやはり許諾で,有償で許諾を得た上で使っていただきたいというのが基本姿勢です。ただし,この35条にも現在は補償金制度がありませんし,我々も経験がありませんので,どのような形で考えられるのかということは検討には値すると思います。ただし,今回のこの御提案というのは非常に幅が広くて,利用の範囲,送信であるということに加えて対象も非常に広い。それから,この利用する著作物は一体どのようなものをお考えなのかということもよく見えない。
 その中でイエス,ノーを言うのは非常に難しいのですが,あるいは35条の現在のただし書が生きるような形で,これはどこに入るのか分かりませんけれども,さらに,私ども書協としては,35条のガイドラインも設定しておりますので,その範囲を飛び出ない範囲であって,その送信の範囲が限定的であるというもの,あるいは利用する著作物も非常に限定的であるという場合については補償金というのもあり得るのかなとは思います。

【土肥主査】それでは,文藝家協会,長尾さん,お願いします。

【長尾氏】2番,3番につきましては,補償金制度がきちんと確立されれば利便性が高まりますので,お互いにその方がよろしいと,当協会では皆考えております。ただし,4番には問題がございます。実は先ほど申し上げませんでしたが,委員の先生方が多分,大学でなさっているかと思うのですけれども,既に大学で「次回のゼミまでにこれを読んできてね」と挙げているのですが,許諾を求められたことは一度も,1校もありません。今,大学のクローズドの,例えば某国立大学法学部大学院のゼミなどでも,現に実施していらっしゃるところがございます。現状がこのありさまのまま,大規模オンライン講座,一般向けになったら何が起きるのかと思ったら,これはとんでもないことなので,これに関しましては許諾が必要であろうと協会としては結論付けております。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 よろしゅうございますか。前田委員。

【前田(哲)委員】はい。

【土肥主査】先ほど挙手されておられたのは,前田委員以外におられませんでしたか,こちらは。では,奥邨委員,お願いします。

【奥邨委員】今日はありがとうございました。簡単な確認の質問をさせてください。一つは学著協さんにです。今,前田委員の御質問の中にもあったところなのですが,御説明のときに十分理解できなかったのでお尋ねします。ProLitterisですか,スイスの件は,利用は認められているけれども,補償金を支払いなさいということになっているということを御説明になっているのか,それとも,利用は法律上自由と認められているのだけれども,個別に料金が徴収されるという御説明なのか,どういう理由でProLitterisさんが,法律上自由に利用できるものから,管理団体として使用料を徴収できているのかという,そこの仕組みのところがよく分かりませんでした。収入の50%ぐらいが大学からということなのですが,どういう仕組みなのか,十分理解できなかったものですから,それが質問の1点目でございます。
 それからもう1点,長尾様に,先ほど座長からも確認があったところですが,私,先週お休みさせていただいたので十分理解できていないため,念のための確認ですが,先ほど,デジタル教科書について,「教科書」の鍵括弧を外してくださいとおっしゃったのは,現在の33条が適用されるのは,いわゆる文部科学省の検定済み教科書若しくは文部科学省が著作の名義を持つ教科書であって,デジタル教科書はそのどちらにも当てはまらないから,すなわちデジタル教科書と呼ばれるものは33条の教科書にならないので,補償金の対象ではなくて普通のライセンス許諾を取らなければいけないが,それではそういうものを作っていく人が極めて大変になって作れないので,デジタル教科書も33条の教科書の中に入るようにしてほしいという御説明だったかと思ったのですが,その辺を再度確認させていただきたいということです。簡単だと思うので,一言だけイエスかノーかで結構です。

【長尾氏】イエスです。

【奥邨委員】分かりました。ありがとうございます。

【土肥主査】それでは,学著協からお願いします。

【野間氏】学著協の野間でございます。スイスにおける著作物の複製と許諾の仕組みについて申し上げました。スイスは法定許諾制になっております。ですから,契約を取り交わした当該教育機関の教員,つまり,利用者は著作物を内部的に利用する場合においては,無許諾の複製が認められていることについて申し上げました。50%云々についてございますが,スイスの著作権等管理事業者でありますProLitterisの著作権使用料収入の約50%が教育機関からの支払によるものであったという事実について申し上げました。

【奥邨委員】ありがとうございます。

【土肥主査】ほかに御質問ございますか。松田委員。

【松田委員】全体,一般的なことで質問に移ってしまっていいんですね。

【土肥主査】はい。お願いします。

【松田委員】まず,新聞協会から事実の点をお聞きします。私が新聞を講演等で利用する場合には,各社から許諾を頂戴しております。格別使用料について高いと思ったことはなく,ごく普通に支払える金額だなとは思っております。ただ,私の講演はたかが知れておりますので。その場合に一々使用料規程を確認していないのですけれども,各社ともWeb上,使用料規程は公開しているのでしょうか。許諾料は幾らと返ってきて,それを払っているだけなのですけれども。

【上治氏】個別許諾の場合は個別には出しておりません。

【松田委員】個別許諾の場合には。

【上治氏】ええ。

【松田委員】そうすると,どういう基準で私の金額が決まるかというのは,どうなっているのでしょうか。

【上治氏】それは各社ごとですので,各社ごとのそれぞれの外には出さない基準があると思っております。

【松田委員】ああ,そうですか。

【上治氏】先生のような高名な方ですと,それなりの金額で,内容,その著作物の利用,著作物主体と客体と,どういう方がどういうふうにどういう用途で,どういうものをどういうふうに利用されるかによっていろいろお聞きします。その結果として一般的に言えば,教育関係者に対しては非常に割安になることも多い。例えば学校に関する,ある学校に対する記事が出た。新聞記事に出た。その記事を学校便りに使いたいみたいな話が来れば,それはお金を頂かないケースもあるということです。

【松田委員】そうですか。そうすると,利用する側は,一体どういう基準で支払っているのかということは分からないわけですね。

【上治氏】しかし,聞かれればお答えしております。Webに出してはおりませんけれども,幾らですかと言われれば,もちろん松田先生のことを調べて幾らですというわけではございませんので,普通,大体ありますけれども,ただ,そこから学校関係者とか,いろいろな事情があると割り引いていくケースがかなりあるのではないかと思います。

【松田委員】はい。ここからは意見ですけれども,新聞の場合はほとんど記事単位で許諾をお願いするわけですから,何をというのは極めて明確になるわけです。あとは目的と部数ですよね。

【上治氏】はい。

【松田委員】講演に使うのか,教育に使うのか,ないしは自分の本の中に入れ込んで1万部刷るのか,こういうのは目的と数量で決まりますよね。だったら,使用料規程というのはできませんかね。もちろん各新聞社で指数みたいなものを別に作るのは,これはしようがないけれども,どういう利用形態があるかについて共通したような使用料規程を作るわけにいかないでしょうかね。

【上治氏】新聞社同士でですか。

【松田委員】はい。

【上治氏】それは今日,今,お話を初めて伺いましたので考えさせていただきたいと思いますが,基本的には新聞というのは各社で個別に許諾をするというのが建て前になっておりまして,それはなぜかと申しますと,新聞は習慣性が強い媒体でございまして,多くの場合は自分が取っている新聞,あるいは御講読いただいている新聞社に来るということでありまして,例えば新聞社,新聞協会は100社以上ございますけれども,全部についてこの記事について取りたいという人は余りいない。だから,実務上,実態上はそれほど業界共通の何か料金表が必要なのかどうか,そこはよく分かりません。

【松田委員】はい。続けてよろしいでしょうか。

【土肥主査】はい。どうぞ。

【松田委員】今が新聞各社の状況ですが,JCOPYについてお聞きしたいわけです。書協にお聞きします。書協はJCOPYについて使用料規程を用意していない。その理由はまだ利用についてのオファーを受け取っていないから,どういう利用形態があるか分からないからだと言われております。しかしながら,お話の中では35条を拡大して利用されている形態を資料の中に書き込んでおります。この拡大されている利用というのは,まさに35条を超えたという御主張ですから,そういう利用については,どういう利用形態があるかというのがお分かりになっているわけです。そうしたら,JCOPYがあらかじめ使用料規程を作っておくということは,ある程度できるのではありませんか。すなわち,新聞協会が記事単位と目的と数量で限定できるとすれば,書協の書籍については,あと何の要素が必要かというと全体のページ数の何ページを使うか,どのボリュームを使うかという部分が加わるだけではないでしょうか。そうしたらば,教育利用の使用料規程を含んで,使用料規程はできるのではないでしょうか。いかがでしょうか。

【土肥主査】どうぞ。

【金原氏】書協の立場でお答えするということではなくて,JCOPYの立場としてお答えを申し上げますが,この書協の資料の中に書き込まれているケースというのは,これは部分的には教育機関の中で行われていることではあるかもしれませんけれども,必ずしも教育機関そのものが行っていることではないのではないかということだろうと思います。そうなりますと,現在のJCOPYの使用料規程も対応いたします。もしどこかの大学にいらっしゃる先生,あるいは学生さんが数人で自炊したものを共有したい。これは30条の範囲を飛び出るということであれば許諾が必要だということでありますが,そういうことであるならば,現在のJCOPYの使用料規程でも対応できますし,本日でも許諾を出すことは可能です。
 ただし,私が先ほど申し上げた,まだ利用の実態がよく分からないので使用料規程を作れないというのは,この審議会で検討されている教育機関が共有して,かつ送信して,その送信先が一体どのぐらいの数になるのか,どのぐらいの数の教育施設になるのか,あるいは学生・生徒の数になるのか,その辺のことが分からないと全体の規模がつかめませんから,使用料規程は現在のところまだ作れない状況です。その辺については教育機関からよくお話を伺った上で考えていきたいということを申し上げたのです。

【松田委員】それでは,意見を言わせていただきますが,JCOPYの今の教育に対する体制は,実を言うとJCOPYという団体はありますけれども,一つ一つの出版社に対して当該出版物を一部分使いたい場合の利用者が置かれる立場と全く同じだろうと思います。制度的に何か進んでいるというイメージは,私はありません。やはり使用料規程を,御提示の利用の形態を想定してメニューとして作らないと,各出版社に問い合わせているのと同じ状況になって,結局,どうなるかというと,幾らと言われるか分からないからやめておこうということになっている状況ではないかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかに御質問。どうぞ,今村委員。

【今村委員】今の使用料規程の関係でお伺いしたいのですけれども,資料の中でイギリスの例について,書協の資料で言及されている点ですが,イギリスではCLAという団体が著作物の複写などを管理していて,そこが個別の大学と交渉するというわけではなくて,大学のコンソーシアムであるUUK,英国大学協会と合意して高等教育機関向けのライセンスなどの使用料なども決めている実態があります。そこでは結構,熾烈な協議がなされるようなのですけれども,仮に我が国でもそういう教育機関向けのライセンスをこれから真剣に作っていく――真剣に取り組んでいるということは存じているのですけれども,そのときに大学側の全体の窓口となるものがないと,やはり交渉等はすごくしにくいと思うんですね。現在,そういう取組について,どういう相手と交渉の対応しているのか,個別の大学,個別の大学長にそれぞれ宛ててやっているのか,それとも何か大学側を取りまとめる組織というか,イギリスで言えばUUKのような団体,まあ,余りないと思うのですけれども,そういうところとやるのか,どういうスタイルの交渉を検討しているのか,JCOPYさんあるいは,書協さんにお伺いしたいのですけれども。

【金原氏】先ほどから申し上げているとおり,教育機関,大学も含めて教育機関側とこの電子の複製を含む使用料についての話合いは,まだスタートしておりませんので,私どもとしても是非話合いは始めたいと思っています。ただ,各大学全部と個別にやるわけにはいきませんので,やはり大学なら大学,あるいは小中高,まあ,義務教育のところを一つくくってもいいのかもしれませんが,何らかの形でまとまって代表の方を出していただければ,話合いは可能になると思うのですが,私どもから代表の方をこちらで勝手に決めるわけにもいきませんので,是非そこは教育機関に協力をお願いしたいと思いますが,そういうことは可能でしょうか。

【今村委員】続けて発言させていただきたいのですけれども。

【土肥主査】では,今の反対の質問はちょっと保留させていただいて,今村委員に次の質問を,続けてください。

【今村委員】次の質問というか,今の点についての意見なのですが,35条のガイドラインを作ったときも,最終段階になって教育機関の関係者が,代表できる立場でないから逃げてしまったということもあったようなので,難しいのかなという印象を受けております。

【土肥主査】恐らくその点については,ここにいるどなたもなかなか答えることができないのだろうと思うのですけれども,いずれにしても,先ほどから出ております窓口なり,当事者の問題,それから,透明性の問題,そういう宿題が多々あるということは私ども十分今日,あるいは先週のお話を通じて認識いたしましたし,その思いは共有していると思いますので,また今日の御意見等々踏まえて検討を続けていきたいと思っております。とりあえず,今日はせっかくの機会でございますので,時間もありますから,どうぞ。上野委員,どうぞ,お願いします。

【上野委員】著作権法の制度論を考える際には,一般論として,権利制限によって対応すべきなのか,それとも排他権に基づくライセンス契約によって対応すべきなのか,ということが問題になることが多いのですけれども,本日のテーマである教育の情報化についても,そうした議論がなされているように思います。
 もちろん,教育の情報化と申しましても,教育機関内の異時送信,教員間の共有,あるいはMOOCといったように,論点によって状況が異なるところもあると思うのですが,本日のお話をうかがっておりますと,例えば,教育機関内の異時送信についても,権利制限の対象を拡大する,具体的には,著作権法35条2項を拡大するということについても反対だという御意見があったように思います。
 確かに,既に現状において,権利者団体等が教育機関に対して排他権に基づくライセンスをなさっている実態があるといたしますと,その限りでは権利制限を拡大する必要性がないと言えるかも知れませんし,むしろ,もし仮に,例えば35条2項を,ただ単純に拡大して,教育機関内の異時送信も権利者の許諾なく自由に行えるような法改正をしてしまいますと,権利者は,今まで得てきたライセンス料を収受する権限を失うことになりかねません。また,そのような権利制限の単純な拡大を行いますと,教育機関が権利者の許諾を得ることなく著作物を利用できるというだけではなく,当該利用に関して権利者に何ら利益分配がなされないということになってしまい,それは妥当ではないのではないかという問題も生じます。
 ただ,他方で,現状の権利制限規定をそのまま変更せず,あとは,排他権に基づくライセンス契約に委ねる,ということになりますと,教育機関といたしましては,あらかじめ権利者からライセンスを受けない限り,幾ら教育目的のために必要な範囲であっても,著作物の利用ができないことになりますし,また,幾ら教育目的であっても,利用できるのは権利者からライセンスを受けることができた著作物だけだということになります。
 しかしながら,教育機関というのは,あらかじめ特定された著作物だけ利用できれば教育目的を達成できるというものではなく,様々な出版物やテレビ番組など,不特定の著作物を網羅的に利用できる環境が効果的な教育活動のために必要となる場合が少なくないように思います。
 もちろん,現状の権利制限規定をそのまま変更せず,教育機関内の異時送信等について排他権を維持するといたしましても,権利者団体等によってその排他権が網羅的に集中管理されているのであれば,教育機関としても,そこからライセンスを受ければよいということになりますけれども,たとえ関連する複数の権利者団体を総合しても,教育機関で実際に利用される一部の著作権しか管理されておらず,それ以外については,別途,個別に権利者から許諾を得てからでないと利用できないというようなことになりますと,教育機関における幅広く著作物を利用した教育活動が阻害されることになりかねないように思います。
 したがいまして,結局のところ,教育機関における著作物の利用について現状の権利制限を拡大せずに排他権に基づくライセンス契約で対応するという方向性を目指すためには,教育機関で実際に利用される著作物について,権利者団体等がどれほどの権利をカバーされているのかということが,どうしても問題にならざるを得ないように思います。
 そこで,差し当たり書協さんにお伺いしたいのですけれども,教育機関で実際に利用される著作物は,どれくらい権利管理されていると,我々は理解すればよろしいのでしょうか。ここで,どれくらいと申しますのは,著作物の点でどれぐらいカバーされているかという問題もありますが,著作権の点でどれくらいカバーされているかという問題もあろうかと思います。
 と申しますのも,著者や著作権者といいますと,もちろん小説家さんのように権利者団体に入っていらっしゃる職業的な著者もいらっしゃいますが,我々大学教員のような非職業的な著者もかなり多数いるわけであります。そして,教育機関において実際に利用される著作物というのは,――これは私が法学部にいるからそう思うだけなのかも知れませんが――,研究者による専門書や論文など,非職業的な著者の著作物が多いのではないかと思われます。もちろん,非職業的な著者の著作権についても,出版社との出版契約を通じてJCOPY等の団体によって管理されているということになるのかも知れませんし,実際,複製に関しては,そのように理解できる場合も少なくないかとは思いますが,教育機関内における異時送信ということになりますと,複製権ではなく公衆送信権の問題になりますので,そうした権利も,著者から出版社を通じて団体に管理委託されていると,そのように理解してよろしいのか,お伺いできればと思います。
 先ほどの御説明をお聞きした限りでは,現状のライセンシング体制は,「複写複製」について権利処理を行うとともに,一部について「電子ファイル化」の許諾も行っておられるというお話でしたが,それはいずれも複製権に基づくライセンスかと思います。しかし,複製権に限らず,公衆送信権を含めて,権利の点でも広く管理されており,さらに,著作物の点でも網羅的に権利管理されているということであれば,たしかに,権利制限の拡大を行わず,現状の排他権を維持したまま,これに基づくライセンス契約で対応できると言えようかと思います。そして,もし本当にそうなのであれば,現行法35条1項が複製について権利制限していることももはや不要であり,これも排他権に基づくライセンス契約で対応できるということにもなろうかと思います。
 この問題に限らず,一般論として,最近では,法改正ではなくライセンシング体制の構築によって様々な問題に対応しようという方向性が示されることが多いように思うのですが,私自身は,そうした方向性にはしばしば限界があるのではないかという印象を持っているものですから,もし何か現状について御教示いただけることがありましたら,お聞かせいただければと思います。

【金原氏】先生がおっしゃるように現在でも紙媒体の複製であっても,日本で発行されている全ての出版物の権利が,管理団体,日本に幾つかありますが,その全てがどこかに委託されているという状況ではないということは,これは我々も認めるところでありますし,どこも管理していない,つまり,許諾を得たくても取れないという状況があることは事実でございます。我々としては非常に残念で,権利者,出版社,著作者の方々には何らかの形で権利委託をしてくださいということをお願いしているわけですけれども,残念ながらそれは達成できていない。
 それから,特に電子については,俺は絶対に嫌だという人がいることも,これ一方でまた事実でありまして,特に広がりを懸念するという権利者は紙でしか読んでもらいたくない,電子化はしてほしくない,ましてや送信なんかとんでもない,これもある程度,我々としては尊重せざるを得ないのではないかと思います。ただ,教育の場面ではそれで諦められるか,使わないということで済むのかということについては,これは我々も疑問だと思っています。ここについては,今後の話合いで,そのあたりのことについては,特にこの小委員会で検討すべきことなのかもしれませんが,そういうものの処理を今後どうしていくのかということは是非お考えいただきたいと思います。
 少し話を戻しますけれども,では,どのぐらいの割合で管理されているのか。これは残念ながら,現状では日本で発行されているものの半分以下と言わざるを得ません。これを我々としては比率を上げていくということを努力いたしますが,先ほど申し上げたように電子化は嫌だという人に加えて,著作者の中にもそういう意識のない方,あるいは出版社の中にもそういう意識がない,そういうものが利用されるということについて権利を委託しようという,そういう気持ちがないという人がいるということも事実であります。だから,網羅性はどっちにしろないのだから,その残ったものは教育ということを考えるとやっぱり,利用せざるを得ないではないかと言われますと,そのとおりなので,その部分については何らかの対応は必要かもしれませんし,そこまで我々,拒否するということではありません。そもそも,できないと思っています。
 ただ,やはり権利が委託されているものについては,先生が先ほどおっしゃったように既に管理をされていて,そこについては出版社,著作者は経済的な対価を得ているわけですから,そこを権利制限で潰すというのは,これは私も適切ではないと思います。残ったものをどうするかというのは,我々も具体的にこうしましょうといういい方法論を持っているわけではありません。いろいろ相談はさせていただきたいと思いますので,是非その辺についても教えていただきたいと思います。
 以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。
 ほかにございますか。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】先ほどから各団体,全てからではなかったですけれども,幾つかの団体の皆さんから教育現場で授業を担当している方自身の,著作権に対する認識が非常に重要ではないか,それは,権利制限であろうと,ライセンスであろうと,非常に重要でないだろうかという御意見があったかと思います。この点に関して,そうするのが,皆様の当然の責務であるとか,お仕事であるということを申し上げるつもりはないのですけれども,何らかの啓発活動のようなことをされている団体があるのであれば,どういうお取組があるのかなというのを少し聞いてみたいなと思いました。
 私事なのですけれども,前任の学校にいますときに,県の教育委員会と協力しまして,高校の情報の免許を持っている先生に対して,著作権とは何かとか,どういう場合が著作権侵害になるのだということを,情報の免許を持っている先生を50人ぐらい集めて何回かお話ししたことがあるのですけれども,手前みそではありますが,好評だったということがありまして,そういった経験に照らすと,啓発活動は必要なのかなと思うのです。実際には,いろいろなところがやっていかなければいけないと思うのですが,既に何かお取組があるのであれば,お聞かせ願えればなと思った次第です。

【土肥主査】では,これも順番にお願いできますか。学著協から。

【野間氏】学著協でございます。私どもでは,権利者であり,著作物の複製利用者であります先生方,主として学会を通じてでございますが,及び利用者であります企業のコンプライアンス担当の方々を対象といたしました講演会等毎年数回開催いたしております。特に私どもでは海外RROとのつながりが深いことから,海外RROのトップクラスの方々をお招きいたしまして,海外での著作権事情の御紹介などの催しも積極的に実施いたしております。例えば最近,行いましたものでは,電子著作物,さらには著作物の電子化と送信を含むその利用などにつきまして学会を通じましてお話をさせていただきました。この催しでは,私ども協会での取り組みについてお伝えさせていただくとともに海外RROからも専門家をお招きし,当該RROでの取り組みにつきまして御紹介させていただきました。私どもの意見書に資料として付けさせていただいていますように,私どもでは啓もう活動のための講演会を単に講師の方のお話のみに終わらせることではなく,その記録を著作物として出版,学会を通してお配りさていただいています。これらの出版物は書籍コードを付したものでございまして正式な出版物でございます。講演会御出席の方には後日配布させていただいておりますとともに御希望の方にも無料でお配りさせていただいております。
 その他,最近ではもう一つは,これは教育啓発とは若干異なりますが,私ども大変幸運に大学学習資源コンソーシアムという組織からのコンタクトを頂きまして,そこを通じまして大学等高等教育機関におかれましては,著作物がどのような使い方をされておられるのか,私どもでこのことに対応いたしましてどのようなサービスの御提供が望まれておられるのかと言うことにつきましても検討させていただいています。
 その他最近でございますけれども,私どもでも先ほど井上先生からも御指摘がございましたように,いろいろな学会,異なる専門の先生方に対しましてもお声がけなど啓もう活動を広げていく必要があるとの認識でございます。このことにつきましてある大学と協力しまして,そこの大学で著作権に関する御興味のある先生に,私どもに定期的にお運びいただきまして,これはお一人ではなくて数人の先生,御興味のある先生方にグループとして御協力いただきまして,私どもと連携いたしまして,私どもの協会が今後,大学あるいは,学会に対してどのような対応してゆくべきかを一緒になって考えていただく組織と申しましょうか,緩やかな組織ですが,そのようなものを作る準備を今,幹事の先生と進めさせていただいているところでございます。このことによりまして大学等教育機関,あるいは各種学会等の著作権に関する関心事項が私ども協会の業務運営活動に直接反映可能となるのではないか,さらには,先生方を通じまして該当大学における教育にも許諾権にかかる事項が反映されるきっかけとなるのではないかと考えております。ありがとうございます。

【土肥主査】それでは,書協,お願いします。

【金原氏】今の件は,この書協で提出しました資料2,この中にも若干触れております35条のガイドライン,これを作ったときに,私もそのとき書協側の委員として話合いに参加させていただいたのですが,このようなガイドラインもそれから10年以上たっていますし,この文章の中にも改定する必要があると思います。これを,じゃあ,我々,教育側のどなたにお声掛けをしたらいいのかというのは,今,この時点では分かりませんので,是非教育側で委員を出していただいて話合いをさせていただきたいと思います。それは今度の,現在審議しているこの送信についても,どのような考え方でいくのか。当然,ガイドラインのようなものが必要になってくるのであろうと思いますが,仮に権利制限するとした場合ですね。その話合いは,我々は是非させていただきたいと思っています。ただ,先ほども言いましたように,どなたにお願いしたらいいのかというのは,これは我々では分かりませんので,是非教育側で推していただきたいと思います。
 それから,仮にやるとした場合,ここにも書いてありますとおり,前回は必ずしも最終的な合意にまで至りませんでした。これは実はJCOPYでも経験があるのですが,図書館側といろいろ話をして,最終的に話を詰めていくと,そこから先は自分たちには権限がないので,もう話合いができないということで,そこで退席されてしまう。そういうことが是非ないようにしていただきたい。やるからには最後までちゃんとまとめることができる立場の方に出てきていただきたいし,それぞれの教育機関,あるいは図書館もそうですけれども,代表できる立場の方に出てきていただきたい。我々の経験からすると,話合いは,最初は始まるのですけれども,だんだん話が詰まっていくと途中で参加してこなくなってしまう。そういう現象が我々の経験の中にはたくさんあります。是非そこは,我々は最後までやることをお約束いたしますので,是非教育機関側も適切な委員を出してきて,しかも,代表できる方を御指名いただきたいと思います。

【奥邨委員】すみません,啓発の取組はされていないんですね。

【金原氏】失礼しました。そういうことは特定の教育機関とか,特定の方に向けてというようなことはやっておりませんが,教育機関全体に向けてのPR,一般的な話はやっております。

【奥邨委員】はい。

【土肥主査】それでは,写真著作権協会,瀬尾さん,お願いします。

【瀬尾氏】写真としては,特別写真の教育プログラムというのは小学校,中学校に対してやっているのですけれども,著作権については特別扱っていません。今,一般向けというと教育機関向けではないのですけれども,複製権センターで年2回のセミナーをやって,これは毎回500から600,だから,年間でその大きなセミナーで1,000を集めています。それからあと,メールマガジンでこれについては登録した方たちに著作権の知識を。
 さらに,付け加えまして,今年度から小セミナーと称して4,50人の方たちに著作権の基礎についてレクチャーをするという試みを始めました。これは4,50人,年6回予定しています。大阪2回,東京4回ですので,これで6回ということは300人ぐらいの方たちにするようにしています。これについて実は教育の方たちは対象になっていないというか,一般企業内の状況なので,学校に対してのアプローチというのは,先ほど申し上げたとおり今のところ契約がないので,つてがないというのはあります。ただ,そういう普通の人たちに対する小まめな普及はまず必要だろうということは十分理解しておりますので,今後,コネクトができていけば,それを教育に拡大していくことは十分可能であろうと思っております。
 以上です。

【土肥主査】それでは,文藝家協会の長尾様,お願いします。

【長尾氏】先ほど申し上げました教育NPOさんの活動の中で,学校,そこに加盟されている学校さんですけれども,東京,仙台,大阪などで年に何度か,そういう普及活動,啓もう活動はさせていただいておりますとともに,呼ばれれば参りましたのが,実績があるのは山形県鶴岡市,あと愛知県名古屋市,愛知は結構広く回りました。ほとんどの市の教育委員会などを回らせていただきまして,現場の先生たちに普及,啓もう活動のちょっとしたセミナーをさせていただいております。それとはまた別に当協会,著作権管理部主催でございまして,つい先日も第6回が終わりましたが,各都市巡回イベントと称しましてシンポジウムをしております。
 シンポジウムは文藝ですとか文学館の話なのですが,必ず枕に著作権管理部主催ですので,枕のところでは著作権についてのセミナーをさせていただいております。呼ばれればどこでも行くよと言っているのですけれども,呼んでくださる学校はほとんどなく,教育委員会でも,うちは何かやばいことをやっているのではないかと思ったところだけが呼んでくださっている。若しくは,うちからこれはひどいんじゃないのと申入れをしたところは慌てて呼んでくださるということになっています。罰則のようなセミナーではいけませんので,悪いことをしない前に呼んでいただければ,どこへでもはせ参じますので,よろしく御喧伝をお願いしたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。
 では,新聞協会,上治様,お願いします。

【上治氏】新聞協会として,教育団体向けに特別に啓発活動をやっているということはございません。ただ,新聞協会では著作権に関しては新聞協会のホームページを通じて著作権の大切さを啓発しております。同時に各社はそれぞれのホームページ等で著作権について御説明をしております。さらに,ある意味,逆の意味なのですけれども,著作権侵害の事例については,特に大手の場合は担当者がおりまして,著作権侵害について調べ,侵害者に対しては削除等の申入れをしております。
 そして,これは教育機関について,お答えになっているかどうか分かりませんけれども,新聞協会としてではございませんけれども,在京の新聞社が連名で全ての国公立大学にクリッピング契約に関する御説明のダイレクトメールを送らせていただいております。これも一種の啓発活動と言えるかもしれません。
 以上でございます。
 1点だけ訂正させていただきたいのですけれども,先ほど松田先生の御質問の中で,個別の許諾については料金表がないというようなお答えを私がしたかと思いますが,これは新聞社によって様々でございまして,社によって違う。私は全部を承知していないというのが正しいお答えでございます。弊社の場合ですと,新聞記事については,確かに料金表は出しておりませんけれども,写真については料金表をホームページに出しておりますので,御覧いただければと思います。以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。
 それでは,大渕委員,お願いします。

【大渕主査代理】ありがとうございます。これは,前回,教育関係者にお聞きしたのと同じテーマなのに随分印象が違うように思いますが,同じものでも,捉え方が違うためかと思いました。今日は最初のあたりではある程度予想できたところなのですが,ライセンスをすればよいということであって,権利制限は不要ということだったのですが,ライセンスと言っても,どの程度フィージビリティがあって,現実的にカバーできるのですかという質問をしようと思っていたところ,先ほど既に,全部は無理だと思うと非常に率直に言われました。これは,要するに,二本立てのようなものであって,できるだけライセンスで処理できるように努力はするが,現実にライセンスでは処理できない場合には恐らく補償金付きの権利制限のようなものを考えていかなければいけないということなのでしょうか。
 大体,そのあたりが,今日聞いていたら,落としどころのようなものになり得るかもしれないという雰囲気のようですが。すなわち,ライセンスで処理できるところはできるだけやっていくが,それが現実的でない場合には,補償金付きの権利制限を考えるという二本立ての考え方というのは,どの程度見込みがあるのでしょうか。その点について簡単で結構ですので,お伺いできればと思います。もう全員頷いておられるから余りお聞きする必要もないのかもしれませんけれども――どうぞ。

【土肥主査】瀬尾様,どうぞ。

【瀬尾氏】それは私も結構率先して言わせていただいた部分があるのですけれども,今,例えばデジタルになったときに著作物の量というのが膨大に増えてきている。例えば専門家だけの著作物でないというのは先ほども御指摘があったところですね。その膨大に増えてきている部分の中のかなりの部分が著作者である意識もなく作られているようなものが大量に出回ってきてしまっているし,そういった利用も含めての話になると思います。そうすると,その利用については全てを集中管理することは到底不可能ですよね。だからといって,一部のプロなり何なりのこれまでの権利者団体が,その大部分のものについても我々の利益を守るために差し止めるということ自体は適当かどうかという議論があって,我々の中では,もはや既にそこは,もうどうしようもないというふうに考えています。
 ただ,既存のマーケットにあるものを大事にしていただかないと,創作のサイクルが壊れてしまうので,そこを保全した上でどのようにそれ以外のものを広範に利用できるかといったことで,今のような話を私はさせていただいたというところにある。大渕先生のおっしゃった落としどころとかと言ってしまうと,いきなり今,ヒアリングで落としどころと言われると困ってしまうのですけれども,また落とさないでいただきたい。よろしくお願いします。

【土肥主査】ほかの団体で意見ありますか。

【金原氏】よろしいですか。

【土肥主査】では,書協からお願いします。

【金原氏】今,大渕先生がおっしゃったとおりだろうと思います。ある部分,二本立てのような形で権利行使をしたいという人は,これはもう絶対に尊重していただきたい。また,権利団体に委託しているというのは,それなりの意思を持っている人たちですから,これを崩すようなことがあってはならないと私は思いますが,権利者不在,あるいは所在が不明,あるいはそれ以外の理由でも,とにかく権利をどこで取っていいのか分からないという人については,ある部分,補償金のようなものも考えられるのかと思いますけれども,ただ,それがやっぱり幅が広いと,ベルヌ条約との整合性は考えなければいけないだろうと思います。ただ,この二本立てというのが今現在の著作権法の中にあるのかどうか,私はよく分かりませんけれども,非常に難しい解釈になる――解釈というか,運用になるのかなと思いますが。

【土肥主査】ほかにございますか。団体の方でございませんか。大体,時間がちょうど3時半になって,当初予定している時間が来ているのですけれども,特段なければ今日はこのくらいにしたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。よろしいですか。
 今日は非常にお忙しい中,五つの団体にお集まりいただきまして,貴重な御意見を賜りました。先ほど大渕委員は落としどころとおっしゃいましたけれども,これからじっくり利用者の側の御意見,権利者側の御意見を踏まえて検討を進めていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたしたいと存じます。次回はこれまでの御発表を踏まえて議論を深めたいと思っておりますので,また事務局からそのあたりの調整をお願いしたいと思いますけれども,連絡事項,ございますか。

【秋山著作権課長補佐】次回の小委員会につきましては,日程を調整しまして改めて連絡したいと思います。ありがとうございました。

【土肥主査】ありがとうございました。
 次回の小委員会については,今お話がありましたようにまた改めてということでございます。五つの団体の方には改めてお礼を申し上げます。今日は,どうもありがとうございました。本日の法制・基本問題小委員会はこれで終わらせていただきます。

―― 了 ――

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