文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第4回)

日時:平成28年12月27日(火)
10:00~12:00
場所:文部科学省東館3階講堂

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)教育の情報化の推進について
    2. (2)リーチサイトへの対応について
    3. (3)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1-1
初等中等教育関係団体提出資料(122KB)
資料1-2
国立大学協会提出資料(105KB)
資料1-3
公立大学協会提出資料(90.1KB)
資料1-4
日本私立大学団体連合会提出資料(109KB)
資料1-5
全国専修学校各種学校総連合会提出資料(122KB)
資料2
「教育利用に関する著作権等管理協議会」の設置について(74.3KB)
資料3
教育の情報化の推進に関する当事者間協議 検討経過報告(155KB)
資料4
教育の情報化の推進に関する論点(案)(77.4KB)
資料5
文部科学省初等中等教育局教科書課説明資料(570KB)
資料6
「デジタル教科書」に係る著作権制度に関する論点(案)(110KB)
資料7
法制・基本問題小委員会(第3回)におけるヒアリング結果の概要(リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為)(160KB)
資料8
リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の行為類型(311KB)
資料9
「リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為」に関する論点(案)(64.6KB)
参考資料1
法制・基本問題小委員会(第3回)における意見の概要(補償金請求権の付与について)(183KB)
参考資料2
「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ(981KB)
机上配布資料
ICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究報告書(2.1MB)
出席者名簿(50KB)

議事内容

【土肥主査】それでは,定刻でもございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第4回)を開催いたします。本日はお忙しい中,御出席いただきまして,まことにありがとうございます。

始めに,議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は1,教育の情報化の推進について,2,リーチサイトへの対応について,3,その他となっております。

議事に入ります前に,本日の会議の公開についてでございますが,予定されております議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございますが,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方には,そのまま傍聴いただくことといたします。

事務局の人事異動,御報告をお願いしたいと存じます。

【秋山著作権課長補佐】報告申し上げます。11月7日付で文化庁長官官房付としまして水田功が着任しております。

【水田長官官房付】水田でございます。よろしくお願いします。

【秋山著作権課長補佐】それから,11月1日付で著作権調査官として澤田将史が着任しております。

【澤田著作権調査官】澤田でございます。よろしくお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】それから,9月1日付で国際化海賊版対策専門官として野田昭彦が着任しております。

【野田海賊版対策専門官】野田でございます。よろしくお願いします。

【土肥主査】では,事務局より配布資料の確認をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】お手元の議事次第を御覧ください。資料としましては14点,それから,参考資料2点でございます。資料1-1から5としまして教育情報化に係る教育関係団体の御意見。それから,資料2としまして権利者団体の御提出資料。それから,資料3は当事者間協議に関する資料。資料4は論点ペーパーでございます。それから,資料5と6に関してはデジタル教科書関係,資料7から9に関しましてはリーチサイトに関する資料でございます。参考資料2点,それぞれ議事次第に記載のものを御用意いたしております。不備等ございましたら,お近くの事務局員までお伝えください。

【土肥主査】ありがとうございました。

早速,議事に入りたいと思います。教育の情報化の推進につきましては,今年度は特に異時送信について集中的に議論を行ってきたところでございます。その中で権利制限規定による対応の是非の判断の参考とすることなどを目的といたしまして,法の運用上の課題への対応につき,教育関係者及び権利者の当事者間で協議を行うことを本小委員会から要請していたところでございます。また,補償金請求権の付与などの制度設計の在り方に関する判断の参考といたしますために,権利者団体及び教育関係団体における御検討もお願いしていたところでございます。本日は,これらについて一定の進捗があったようでございますので,まず,その報告を受けたいと存じます。

では,事務局から説明をお願いいたします。

【秋山著作権課長補佐】資料1から3を用いて御説明申し上げます。まず,資料1-1でございますが,こちらは初等中等教育関係団体から教育の情報化の推進に向けた権利制限規定の見直し等に関する御要望を頂いております。本日,時間の関係で省略しながらポイントのみを御説明したいと思います。

1ページ目は教育情報化の教育政策上の重要性について述べられておりまして,2ページ目以降に要望事項が書かれております。まず,要望事項の第1としましては,授業の過程における他人の著作物の公衆送信について権利制限の対象とすることとされております。(2)としまして他人の著作物を用いた教材の共有についても権利制限の対象とすること。3ページ目,(3)としまして補償金請求権の対象範囲については,複製等は引き続き無償とするとともに,異時送信につきましても極力低廉なものとし,徴収分配団体の体制についても簡便な仕組みを構築することとされております。また,(4)としまして権利処理をより円滑に行うための環境の整備も併せて求められております。

次,資料1-2をお願いいたします。こちらは国立大学協会様からの御要望でございます。少し真ん中の方まで飛ばしまして,異時送信について権利制限の対象とすることが望ましいとされております。二つ目の丸,その際,複製等と同様に無償で利用できることが望ましいとされつつ,仮に補償金請求権を付与する場合には教育研究の公共性に鑑みて,その妨げにならない程度の低廉なものにするべきだとされております。それから,四つ目の丸につきましては,文面上,文化庁・文化審議会にどのようなアクションが求められているのか必ずしも明らかでないわけですが,国大協様に御確認申し上げたところ,文化庁や審議会が制度設計の検討を行う上で,可能な範囲で教育研究の妨げにならないような範囲でしてほしいという御趣旨で書かれたということでございました。

次のページでございますけれども,補償金制度やライセンス制度につきまして国際的に整合性の取れた形で早急な体制整備を行うことが求められております。また,普及啓発につきましては,国立大学において著作権制度をはじめとする知的財産に関する理解を深めるようFD・SD,これは教職員向けの研修を指しますが,こういうことを通じて積極的に取り組んでいくとされております。また,法の解釈,運用に関して一定の指針のようなものを文化庁の方で示すということが求められております。更にその他の課題としまして,教材の他の教員や教育機関等との共有やMOOCの取扱いにつきましても引き続き検討を行うということが求められております。

資料1-3をお願いいたします。こちらは公立大学協会様からの御要望でございます。こちらも同様に異時の公衆送信につきましては権利制限,とりわけ従来の複製等と同様に無償で利用できることが望ましいとされておりますが,補償金の対象となる場合は低廉な額ということや手続負担の軽減について配慮をというふうにされております。また,知的財産に関する普及啓発につきましても,FD・SD活動などを通じて普及啓発に取り組んでいくという旨が宣言されております。

続きまして資料1-4でございます。日本私立大学団体連合会様からでございます。2ページ目を御覧いただければと思いますけれども,冒頭で研修普及啓発活動の重要性を述べられつつ,教育団体としてもその促進を支援していくとされております。それから,御要望の具体的内容としましては,1.で異時送信についても無償の権利制限の対象とするべきであるということで,更に仮に補償金請求権の付与を検討する場合には,複製,同時公衆送信を補償金の対象とすることは慎むべきだということ。3.としまして仮に異時の送信だということだと思いますが,補償金額は通常の市場価格よりも低額に抑え,簡便なスキームによるべきだとされております。

資料1-5をお願いいたします。こちらは全国専修学校各種学校総連合会でございます。こちらも1ページ目は異時送信に関するニーズに関して書かれておりまして省略をいたしますが,2ページ目の方でございますけれども,まず1.目,こちらでは著作物の他の教員や教育機関等との共有について,これも権利制限として認めるべきだという御意見でございます。2.目は異時送信に関する御要望でございますが,一番下のパラグラフ,異時公衆送信につきましても,教育の公共性等の観点から可能な限り廉価な補償金の権利制限とすることが適切とされております。また,補償金徴収分配団体を設立すること,それから,包括的な補償金支払手続等を定め,学校その他の教育機関の負担とならないようにというふうに御要望がございます。

4ページ目をお願いいたします。権利制限を超える場合の利用につきましては,ライセンス制度ということになるわけですが,その手続負担の軽減といった観点から集中管理の体制整備や廉価な使用料の設定を行うことが求められております。それから,3.目でございますけれども,MOOCなどの一般人向け公開講座に関して,公共性があるといった理由から非営利目的のものについては廉価な補償金付きの権利制限することが適切とされております。次に4.でございます。改正法や新たに定める規定の解釈,運用など著作物利用の適正な取扱いに関して研修その他会議の開催を通じて積極的に普及・啓発に努めるよう具体的な取組を実行したいとされておられます。

では,次に資料2をお願いいたします。こちらは権利者団体の方々から御提出いただいた資料でございます。教育利用に関する著作権等管理協議会の設置についてでございます。冒頭,趣旨が書かれておりますように,現在,文化審議会で権利制限に関する見直しの議論が行われているということを踏まえ,教育分野での著作物の円滑な利用と著作権者の権利保護を両立させるという視点が述べられております。こうしたことからライセンス等,適切な制度の受皿作りを検討するための協議会を設置することとしたとされております。参加団体としましては,言語,写真,美術,音楽といった著作物に関する団体の方々が参加されております。予定を含め計37団体とされております。

次に資料3をお願いいたします。こちらは教育の情報化の推進に関する当事者間協議の検討経過報告でございます。これは先ほど主査からも御紹介がありましたが,2パラ目にありますように本小委員会におきまして,異時送信に関する検討をするに当たって制度論の議論と並行して関係規定が適切,円滑かつ適正に運用される環境や体制の整備に向けた運用面の検討も必要であるとされたことを受けて,本協議会が設けられたものでございます。

具体的な取組内容につきましては,(1)から以下3点ございます。まず,1点目としましては著作権法上の教育関係規定の解釈,運用の在り方についてでございます。とりわけ35条の解釈につきまして,現在,権利者団体の定めたガイドラインがございますが,状況変化等も踏まえまして今後,教育関係団体と権利者団体が協力して新たにガイドラインを策定する必要性を確認したとされております。また,このガイドライン策定に当たりましては,国において一定の考え方を整理して示すということを求める御意見もございました。今後,この協議におきましてガイドライン策定の具体化に向けて検討を進めるとされております。

次のページをお願いいたします。(2)教育機関における著作権に関する研修・普及啓発について,先ほど各教育関係団体の意思表明につきましては御紹介したところでございますが,こちらでも協議,この協議におきましてこの普及啓発の重要性を確認したとされておられます。また,具体的な普及啓発のプランについて様々な事例も挙げて意見交換が行われた旨が記載されています。最後のパラグラフですが,今後この取組の具体化に向けた検討を引き続き行うとされております。次に(3)でございます。契約により著作物等を利用する際の利用円滑化方策等についてでございます。教育関係者の方からは申請窓口の一元化,分野横断的な検索システムの整備,電子申請,包括ライセンス,それから,教育目的に特化した使用料規程の整備や明示などを含むライセンススキームの構築が要望されたとされております。

こういったことも踏まえまして,権利者団体としまして先ほど御紹介をいたしました教育利用に関する著作権等管理協議会が設置されて,ライセンス環境の整備に向けた検討も進められていると聞いております。また,日本書籍出版協会様とされましてもワンストップショッピングを含む利用者にとって,より利便性の高い制度を作り上げることに最優先して取り組むという方針が示されております。本協議会においてもライセンス環境の整備充実に向けた検討を引き続き行うとされております。

御説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。

それでは,今御報告がありましたけれども,教育関係団体及び権利者団体におかれまして,このような具体的な成果として御報告を頂ける。しかも,非常に短い期間でこういう成果をまとめていただいたことを非常にうれしく思います。関係の方々のその御苦労に感謝いたしたいと存じます。御説明のあった内容のうち,当事者間協議については本委員会の今村委員も御参加になっている。あるいはオブザーバーとして出席されている。このように承知しておりますし,事務局も参加されている。このように承知しております。この当事者間協議を含めて御質問,あるいは御意見があればお伺いいたしたいと存じます。いかがでございましょうか。

松田委員。

【松田委員】今の御説明を私なりに整理しますと,35条対応の公衆送信については,これは制限規定を設けるということになりそうであります。それについては,制限規定にプラスして何らかの補償金制度と組み合わせるという,こういう理解でおります。そのためには権利者団体側の協議会が既にできているという御説明でありますけれども,あと学校側の団体も同じようなものが作られて,団体対団体の協議によって補償金についての協議が行われていく,こういう理解でよろしいのでしょうか。それが第1点です。

次に,ライセンスのこともこの説明の中にありましたが,特に学校側はライセンスの部分についても低廉な費用でできるようにという要望が,それは当然のことながら各資料には出ているわけですが,しかし,これはライセンスをする場合の低廉な費用というのは何らの制限規定を介さないで低廉になるのかということは,私には分からないのですが,ここまでの話の中で,それは一体どのように考えているのか。法改正としては,ライセンスとしては制限規定を入れないのか,ないしは何らかの対処が必要なのか。対処が必要でないとするならば,権利者の協議会と学校側の協議会でライセンスについても話し合うことで足りるのか,この点です。この二つを御説明願いたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございます。

それでは,2点お尋ねいただきましたので,これは権利者側はもちろん一元化,ワンストップの窓口ができるということでありますけれども,利用者の側もできるのかどうか,これを事務局ですか。

【秋山著作権課長補佐】補償金制度の導入につきましては,これから審議会で御議論いただくことだろうと思います。ライセンスにつきましても,しかし,当事者間協議の方でも環境整備ということは,各教育関係団体から推薦を受けた方がお入りになって議論されておられますので,そういったことに対して団体の皆さんも御関心が高いのだろうと理解しております。当然,契約条件といったことの交渉に当たって,団体として対応することがより望ましいということでありましたら,そういったことも教育関係団体にもお伝えしまして,そういった環境整備のための支援も文化庁としてもやっていきたいと思います。

【土肥主査】松田委員,よろしゅうございますか。今の御回答,状況なんですけれども。

【松田委員】審議に進んだ段階でまた。

【土肥主査】ほかにございますか。特にございませんか。井上委員,どうぞ。

【井上委員】何度か申し上げてきたことではありますけれども,教育関係の権利制限規定というのは,真の受益者はエンドユーザーである学生・生徒,そして,次世代の育成という観点からしますと社会,そして国の利益にも関係してきます。ガイドラインの策定,補償金の決定に関して,当事者間の協議というのは非常に重要ですが,それのみならず中立的で公益の観点から意見を述べられるような有識者なり,国なりが一定の関与をした場で決定されていくということが重要だと考えております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

そのように今後進捗していくということを期待したいと存じますけれども,ほかにございますか。松田委員,どうぞ。

【松田委員】先ほどの協議会の御説明ですけれども,これは何らかの形で法令上といいますか,ないしは文化庁長官の何らかの行政処分によって定まる協議会というようになるのでしょうか。私は,そうしなければいけないのではないかなと思っておりますが,その点の御説明はいかがでしょうか。

【秋山著作権課長補佐】まず,現状の御説明をさせていただきますと,この協議は経緯としては文化審議会の要請を受けて設立がなされましたが,その位置付けは,当事者が自発的に集まった民民の協議会でございます。国なり第三者的な立場での関与といいますのは,今村委員にオブザーバーとしてお入りいただくとともに,文化庁としても事実上運営に御協力を申し上げているという状況でございます。ほかに先ほどの御議論でも一定の公的な関与を行うべき旨の御指摘がございましたが,どういった方法がこのほかに考えられるのかということにつきましては,皆さんの御助言も頂きながらまた考えていきたいと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかにございますか。それでは,これまでの議論,本小委員会における議論や本日頂いた関係団体の御意見等々も踏まえて,本課題への対応につき議論を行いたいと思います。事務局において論点を既に整理していただいておりますので,その論点の説明をお願いします。

【秋山著作権課長補佐】資料4をお願いいたします。まず,Iの異時送信につきましては2点,論点を御用意しました。まず,1点目,権利制限規定の見直しに当たっての法の運用上の課題への対応についてとしております。こちらは先ほどの繰り返しになりますけれども,昨年度の小委員会におきまして異時送信を権利制限の対象とするということにつきまして,制度論としましてはその必要性と許容性を支持する御意見が委員の皆様から多く出されたわけでありますが,一方で,この審議会の場でも権利者団体を中心に教育現場におけるコンプライアンス上の課題に対する懸念が表明されたということを契機としまして,法の運用面の課題解決も併せて図っていくということが指摘されたわけでございます。

こうしたことも受けて,教育関係団体の皆様に様々な御検討を頂きまして,本日の意見表明の中では,権利制限規定を含む著作権法の適切な運用の確保のために研修・普及啓発活動に取り組むという旨が団体として表明されたということでございます。また,当事者間協議におきましてもガイドラインの策定を今後進めていく旨が示されたわけでございます。こうしたことをどのように評価し,今後の権利制限の議論と関係させていくのかという点について御議論いただきたいと思います。

次に2.権利者の著作物利用市場への影響への配慮についてでございます。これは仮に権利制限規定の拡張を行うとなった際に,権利者の保護すべき著作物利用市場にどのように配慮するかという論点でございます。その在り方としましては,一つには教育機関のニーズを満たす配信サービス等が権利制限の対象外となるというふうにする方法と補償金請求権を付与するという方法について,あるいはその組合せについて検討が行われたわけでございます。前者の方法としましては,明文上そうした規定を定めるという方法とただし書の解釈に委ねるという方法が議論されました。また,これとも関連して補償金制度の導入の当否や,その導入可能性も検討した上でこの論点について最終的な結論を得るということとされていた次第です。これまでの議論や関係団体の検討状況等も踏まえまして,どのように対応することが適当か御審議いただきたいと存じます。

次に(2)でございます。仮に補償金請求権の付与をするとした場合に御検討いただきたい点を3点掲げました。第1に補償金請求権の対象範囲でございます。前回小委員会におきましては,複製及び公衆送信を全て対象とするべきという御意見と異時送信のみ挙げるべきという御意見がございましたが,いずれが適当か。仮に付与するとした場合に,いずれが適当かという論点でございます。なお,前回の議論につきましては参考資料1の方で御用意しておりますが,本日は,説明は割愛いたします。ポイントとしましては,複製・公衆送信のいずれも対象とするべきだという御意見の論拠としましては,35条ができた昭和46年の状況から相当程度複製技術なども発展しまして,零細・軽微とは言えない利用が複製についても行われているということが述べられたように理解しております。

また,異時送信のみを補償の対象とするという論拠としましては,複製や同時自動公衆送信と比べて異時送信の方が総体として見た場合に利用の総量が増えるなどといったことから,権利者に与える不利益の度合いが大きいといったこと。それから,これまで長きにわたって形成されてきた社会慣行への配慮,現場の混乱への配慮といったことから異時送信に限るべきではないかという御意見があったわけでございます。また,最初の複製・公衆送信が理論上補償金の対象となるべきだとされた先生の中にも,社会の混乱への配慮から異時送信のみに限るという案もあるのではないかという御指摘もあったところでございます。

次に2,補償金の徴収分配団体についてでございます。こちらも前回の議論では補償金の徴収分配団体について単一の指定団体によってこれを担っていただくことによって手続費用の軽減なども図るということが議論としてあったわけでございますが,こういった団体の実際の設立見通しについて見極めを行うことが必要ではないかという論点としております。次に補償金の額の水準についてでございます。この点は本日の教育関係団体の意見書にも寄せられておりましたが,権利制限の趣旨を踏まえて水準の在り方をどのように考えるかという論点でございます。

それから,II.としまして教材共有につきましてですが,この点も本日,教育関係団体からの御要望にもあったところでございますが,これまでの議論でも,いかなる範囲で共有をするのかによっては,権利者に及ぶ利益,不利益も変わるのではないかという御意見がございましたので,権利者に及ぶ影響について考察を深めるという観点からは,教材等の共有に係るより詳細なニーズの把握が必要ではないかとさせていただきました。

最後に3点目,ライセンス環境の整備につきましては,先ほど御紹介申し上げたように,権利者37団体による協議会が設立されて検討が行われているところでございます。こうした取組が引き続き進められるということが期待されるわけでございますが,当事者間協議などについて,特に本審議会として要請いただくべき事柄があるかどうか,御意見を頂きたいと存じます。

御説明は以上でございます。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。

では,これらの論点について意見交換をしてまいりたいと思いますけれども,論点(案)によりますと,I,II,IIIと三つ分かれております。そして,Iのところが1.,2.と分かれておりますので,まずはIの1.です。著作権法の規定の解釈等に関するガイドラインの策定等,こういう方向が先ほど示されたわけでありますけれども,こういう方向性,こういったものをどのように評価するかということが第一の論点でございます。これは適切な運用を確保するためにこういうガイドラインの策定というのは当然必要なことかなと思いますけれども,いかがでございましょうか。ここは異議がある方がおいでになるかということだと思うのですけれども,いかがでしょうか。この点はよろしゅうございますか。こういう方向で検討を進めていただきたいということで,Iについては。Iの1.のところでございます。よろしゅうございますか。こういう著作権法の現在ある権利制限規定の解釈,運用についてガイドラインを策定していくということが考えられておりますけれども――森田委員,どうぞ。

【森田委員】先ほどから議論に出ていた公的な関与については,このガイドラインはどう位置付けになるのでしょうか。この文章だと法の運用上の問題であって当事者間で協議していくということとなっており,それはもちろん必要だと思いますが,その法制上の位置付けについては少しはっきりしないところがあるように思います。公的な関与といいますか,当事者間協議に法令上の位置付けを与えて公的な関与の中でこういう協議を進めていくということにすべきではないかという意見が先ほどあったと思いますが,それに対するお答えはどういうことになっているのかということについて,御説明がありましたらお願いしたいと思います。

【土肥主査】御質問でございますので,これ。

【秋山著作権課長補佐】当事者間協議の議論におきましては,ガイドラインの策定自体に国が直接主体として関わるというところまでは,この協議の場で何か決定されたというふうには承知しておりません。ただ,議論の過程では特に基本的な法解釈に関わる部分などについて,一定の指針のようなものが公的な機関,あるいは中立的な立場で示すということが教育関係者からは意見として希望が寄せられたという状況でございます。

【土肥主査】森田委員,よろしゅうございますか。

【森田委員】はい。

【土肥主査】井上委員,どうぞ。

【井上委員】補足でございますけれども,直接のステークホルダーである教育機関と権利者の側の当事者間の協議,この場があるということは非常に重要なことだと私も認識しております。今村委員がオブザーバーとして当事者間協議に参加されたことは中立的な立場の有識者が関与されたということで妥当だと思います。しかし,二当事者間の協議に有識者がオブザーバーとして参加するという形を一歩進めて,公益的な観点を代表できる立場の者が正式にメンバーに入るという形があってもいいのではないか。

関連して,今回,お配りいただいた論点の記述を見ますと,「今後,その具体性に向けた検討が進められる」となっています。主語が明示されておらず,当事者間のみで検討が進められていくという読み方も可能で,その辺が心配になりました。

【土肥主査】ありがとうございます。

続いて,大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】ガイドラインの位置付けがいつも難しいのですが,私が理解しているところでは,先ほど事務局が言われたように基本的には民民でやっておられて,そこに,利害関係がある人がきちんと入るというのはそうなのですが,それも飽くまで民民で入るというだけの話であって,先ほど言われたようなガイドラインを公的に,法的に位置付けるというと,むしろガイドラインの良さがなくなってくるおそれもあります。これは前から気になっているのですけれども,現行法の35条の解釈論だったら,むしろガイドラインそれ自体というよりは,客観的に立法者の意思を探求するという学者なり実務家がやっているような解釈論になってくるので,それとの関係がやや曖昧なのですが,民民で決めたガイドラインというのは一定程度尊重されるべきではあるものの,元々ガイドラインというのはソフトな位置付けというのが本来の性質であるし,それが良さでもあるので,余り公的な性格を強調しない方がよいといえると思います。

そうはいっても,どういうものをイメージしているのかがやや分からないのですが,普通のガイドラインで,当事者間でよく話をして,共通認識が得られればそれでよしと考えております。そこに通常のガイドライン以上のものを入れるのだったら,また大幅に前提が変わってきますが,ここは先ほど事務局が言われたように飽くまで民民だけれども,しっかりと文化庁の方でサポートするということであって,基本は飽くまで民民だというところは残しておいた方がよいのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかにございますか,この点。井上委員,どうぞ。

【井上委員】大渕先生がおっしゃるのもそのとおりだと思うのですけれども,ここでガイドラインのイメージが論者によって少しずつ違っているのかもしれません。35条の権利制限規定の解釈は,本来,裁判所で最終的に解釈されるべきところ,民民で決めてしまうということに若干の危惧があります。二当事者間といった場合に権利者団体と教育関係機関の代表ということになりますけれども,今までの経緯を見ておりますと権利者団体というのは非常にしっかりした組織を持っていて,自分たちの声をしっかり主張することができるような状況にある。これに対して教育関係の機関というのは,少なくとも著作権に関しては自分たちの立場をしっかり表明するような十分な準備ができていないと感じております。自らの立場を反映することについての力の格差ということを考えますと,当事者間の協議の場を設けるメリットを生かしつつ,国が関与するか,公益的な立場を代表し得るような者が正式に参加できるような形も考えられるかなと思います。

【土肥主査】この問題,何回目でしたか,ヒアリングをやったときに権利者団体の教育関係者において著作物が利用されることに関する現状への御認識,それから,利用者である教育関係者における権利制限規定をめぐる解釈,あるいはその運用上の難しさ,こういうことに意見を頂いておりまして,ここで言われているところは,まずは当事者で話合いをしていただいて,その間の両者の,これまでかなり相当現状における認識の開きがあったなと思っていますけれども,今回,かなりこういう当事者間協議によってお互いに歩み寄っていただいているということは非常にいいことでございますので,そういうところでございますが。

つまり,運用上,それぞれ話し合っていただいて,お互い認識の違いといいますか,そういったものを埋めていただくという形でやっていただければいいと思っています。民間同士の話合いでございますので,行政機関がどうかということもありますが,これまでと同様にオブザーバーの形で入っていただければ余計安心だと思いますけれども,本小委員会としては,基本的にはそういう方向での進め方というものについて了解しておきたいと思います。

次に2.のところでございますけれども,ここは大きく申しますと権利制限規定の対象にするのは,異時送信のみなのか,あるいは複製公衆送信のいずれも対象にするのかという大きな問題があったわけでありますけれども,これまでの議論の中では異時送信のみを補償金の対象とし,これまで認められておりました同時送信,それから,複製の部分,これについては特に今回,何らかの手当てをするということは,意見としては強くなかったように思っております。あと,徴収分配団体,あるいは補償金の水準等については,教育という公益性というんですか,将来の人材を育成するということからの公益性というものを十分考慮してやってほしいということは,これまでも再三御指摘があったところでございますけれども,以下においては2.のこの(1)(2),両方同時に,この2.のところでの御意見を頂戴したいと思います。いかがでございましょうか。異時送信について権利制限規定の対象とすることについて御異論がないということでよろしいですね。ここは。

松田委員,どうぞ。

【松田委員】結論について,今の主査が示されたところの私の意見ですが,ここに複製,公衆送信のいずれについても対象とするかというのは,もしするとすれば現行法上の35条の教室内における複製,教育の過程における複製もこの何らかの形で取り込んでしまって,そして全部補償金の対象にして,その補償金の対象は権利者団体の協議会と学校側の代表団体との協議にするということになってしまうわけです。私は,それは現行必要ないと思っています。複製の部分は,もう現行法のままで,特に35条についてはそのままで対処して,これは補償金の対象外とするというふうにすべきだろうと思っております。

【土肥主査】大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】これは前回も議論に出ておりましたし,それから,先ほども事務局の方でかいつまんで御紹介いただいたのですが,理論的には両方大いにあり得て,要するに補償金を付ければ範囲が広くなるし,付けなければ狭い。恐らく現行法は補償金が付いていない分だけ狭くなっているわけであります。補償金を付けることによって現行法ではできないところまで複製を自由にできるようにして,より良い教育をしたいという方向もあれば,逆に補償金の対象を異時送信だけにして,今までどおりの比較的狭い範囲で複製・同時送信するという両方の考え方があるかと思います。これは我々の意見というよりは,教育現場なり当事者の方が何を欲しているのか,トータルに考えて補償金を払ってもいいからやるのかという御判断になってくるものと思われます。諸外国でもあるように,送信と複製を切るのではなくて全部一緒にやるというのも理論的にはもちろんありますが,現状のニーズとして両当事者が何を望んでおられるのかというのをお聞きしていますと,大幅に複製で使いたいということよりは,補償金の対象にすることによっての混乱を避けたいという方がニーズが高いようだと感じました。先ほど主査が紹介されたように複製と同時送信は現行法のままにして,異時送信だけを新規に補償金の対象にするというのが当事者の御希望であれば,それに沿ってやっていくというのが現実的だろうと思われます。複製等についても補償金を付けて権利制限の対象を大幅に拡大した方がいいかというのは,また今後の課題なのでしょうが,現状としては先ほどのものが一番現実的な路線ではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに。今,お2人の委員の御意見を頂戴しましたけれども,このお2人の御意見を違う御意見の方,おいでになりますか。井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】複製公衆送信と異時送信を分けるというお話なのですけれども,最初まず複製があって,それから,公衆送信がある。更にその公衆送信に使ったもの,複製したものを後々異時送信に使うという流れになってくると思うのですけれども,そういうときに異時送信まで認めてしまうと,その後のコントロールが効くのかどうかというところで少し疑問を感じております。また,恐らく,実務的に簡略化した手続を利用者も権利者も望んでいらっしゃると思いますので,これらの観点からすると,同時送信と異時送信を区別して,後者だけを新規に補償金の対象とするというのは問題を複雑化させるだけで意味がある区別なのか個人的には疑問に思います。

【土肥主査】異時送信をする,つまり,するかどうかというところで,そこはコントロールはできるのだろうと思いますけれども,技術的に,いや,異時送信,複製同時送信については現状のままなのだけれども,それを異時送信する際にそこだけ,ここは補償金のかかる部分であるということがコントロールできないのかどうか,これは当然できるでしょうね。ここは。異時送信については補償金の対象とするということがきちんと分けることができるかどうかということだと思うのですけれども。

松田委員,どうぞ。

【松田委員】それは異時送信の段階になったときに,送信について課金をするというか,これも協約でやっていくのでしょうけれども,ということはもちろん,すみ分けはできるわけですが,今,井奈波委員が言われたのはサーバーに複製して,同時送信でもそれを使い,更に異時送信でもそれを使うじゃないか。その段階のときに同時と異時ということを別々に処理するということは余り現実的ではないという,多分,そういう意見なのだろうと思うのですが,そうするとサーバー蓄積のときに何らかの協定に基づく補償金が課金されるというのか,計算されて,そして,その後の利用については同時であろうが,異時であろうが,言ってみればあとは利用のボリュームでそれを処理していくということの設計になるわけですが,そういうふうに大きく切り分けた方が権利者団体も,それから,学校側も現実の制度を作るときに作りやすいというのは私もよく分かります。

そこで,そういう案になりますと,同時送信も課金するということになります。同時送信に課金するということは現行法上の35条で教室内に使うために,あるサーバーにそれを蓄積するというような,こういう作業は,これは課金の対象になる,こういうことになります。これはもう立法として大きく切り分けをしてしまうのか,それとも利用の対応ごとにそれを課金の方法を変えるのかという設計の問題になると思うわけですが,私はどちらもあり得ると思っていますし,今少し悩んでいます。技術的には全部可能だろうとは思うけれども,果たして協議会方式でやっていって,結局は年間の契約でこの分野で言う,いわゆるブランケット契約のような契約をしてしまって,そしてそれの飽くまでも利用と配分の問題はサンプル調査で,両団体でそれぞれやっていく。

こういうふうにしてしまうということに多分なるのだろうと思うのですが,それになりましても異時,同時を分け,ないしは同時の中の内容も分け,異時の内容も分けて課金の報酬を決めていくのかどうか。それと今言うように全部サーバー蓄積の段階で決めていくのかどうか。これは私としては分からないのですが,問題は後者の方がいいと思っています。細かく分ける方がいいと思っています。ただ,現実の問題として両団体の協議でそれができるかどうかということでは悩んでいます。済みません,問題提起みたいな形で申し訳ないのですが。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】私も技術的な点は,余り細かく分かっているわけではないのですが,ただ,同時送信というのは飽くまで中継している,同時中継しているわけですが,異時送信というのは,サーバー上に貯めておかないといけないということなので,外形的にもやはり異なるということでしょうし,現実的にも今,同時送信をやっても異時送信をやらないということで運用がされているはずなので,外形的に異なるのではないかなという気がいたします。ただ,もちろん各学校に,異時送信をやっているんですか,やっていないんですかということを一々聞いていかないと補償金が徴収できなくなるというのは,確かにそれはそれで手間でありますので,何らかの管理団体ができた場合,その分のコストがアップするということは多分あり得るのだろうとは思います。

ただ,一方で複製の場合に関し言えば,複製というときにどこまでを対象とするかという議論もありますが,極端に言えば紙の複製も全部入るわけでありますから。

そうしますと,その紙の日常的な使用方法,例えば今日,朝,新聞でこんなことがあったよといって授業を取り上げるときの,それも全部補償金かという,また,そこまで議論が戻ってしまうわけです。しかも,先ほどからお話が出ていたように,学校サイドも含めてできるだけ現状を維持しつつ,また新しいものに対応していくという両方のことを考えると,手間を減らすという点では確かに一緒にしてしまうというのもあるのかもしれないのですが,別の手間であるとか影響が起こるのかなという,その辺を少し心配いたしますので,私としては今のような形で異時だけということで切り分けてすすめ,もちろん将来更に環境が進んでいって,先ほど大渕委員からありましたようにもっともっと使いたいから,もっともっと対象を増やしてほしいというようなことは十分余地はあると思うのですけれども,まず,小さくスタートするということであっても構わないのかなという気がいたしております。

【土肥主査】井奈波委員,どうぞ。

【井奈波委員】恐らくこの問題は補償金制度ですとか,補償金を徴収するシステムの作り方と関係してくると思うのですけれども,一つの考え方としては,例えば学生,生徒1人当たり1年幾らという形で,もう全ての教育機関から,いわば強制的に包括徴収するというようなシステムを仮に採用するとすれば,これ,異時送信で払うのか,同時送信ないしは教室内の複製で払うのかという区別というのは,もうほとんど付ける必要もないし,意味がないと思いますので,そういうシステムを採用するならば,これはわざわざ異時送信だけ別にする理由もないので,同時送信,複製のみ完全に無償だとする意味も余りなくなってしまいますから,ある意味では権利者への適正な対価還元という理念に鑑みて複製,同時送信についても補償金の対象としているというふうにしてしまった方がきれいなのではないかと思います。

他方,例えば教育機関ごとに使用,利用に応じて従量制的な形で補償金を徴収するというような仕組み,これは非常に大変だと思いますので,私は余り賛成ではないのですけれども,そのような仕組みにするとすれば,これは例えば教育機関ないしは教員の側が財政上の問題で本来だったら異時送信もしたいのだけれども,それには補償金を支払わなければいけなくなる。だったら,うちの学校,あるいはうちの学級は全て同時送信と教室内の複製だけにしましょうというふうに誘導されてしまう可能性がないとは言えない。もちろんICT活用教育を推進するというのが国の政策でもありますし,そのようなことはないと思いますけれども,むしろ,ICT活用教育を抑制する方向に働くのではないかという気がしますので,私は複製及び同時送信についても併せて補償金の対象とした方がよいのではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございます。

それでは,大渕委員。

【大渕主査代理】今までも補償金なしで現行の35条の範囲で複製と同時送信はできていて,理論的にはそれ以上やる場合にはライセンスをきちんと得るということになっており,今後も同じ話であります。そして,教育団体の方も複製や同時送信も補償金の対象にした方がもっと自由に使えて教育効果が上がるという可能性も総合考慮した上で,やはり混乱を避けたいということを言われているので,どなたか言われたとおり,今後また複製,同時送信についてもニーズがあるのなら,また追って検討すべき問題と思われます。現段階でも,理論的には全部統一した方がきれいで心引かれるところはあるのですが,現状としてそれが現実的かといえばそうではないように思います。

ただ,どなたか言われたように徴収等のこと考えると,区別するとかえって事務経費がかかって大変になるという不都合も生じますが,そのような点も十分検討した上で,御判断をやっていただくしかないのかなと思います。これは元々が理論的にどちらかでなければならないというよりは,本当は一緒の方がいいけれども,新しい制度を導入することによる混乱を避けるというところが前面に出ているようであります。

異時送信に使うための複製はどうなるのかなど,細かいことを言い出したら切りがないのですけれども,類型的に切ってしまうしかないので,PDFなどの複製で配る場合には現行のままだし,タイムシフトのない同時送信の場合には現行法のままで払わないが,タイムシフトである異時送信の場合には払うという形で切ってしまうしかなくて,そこで切ったために,かえって費用がかかるなどというのは,全て考慮の上で下されるべき決断ではないかと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。

河村委員,どうぞ。

【河村委員】御意見をお伺いしていて,今,教育の質の問題ですとか,子供たちの経済的な問題ですとか,奨学金の問題ですとか,大きな社会問題となっています。教育は国の力,今後,将来の活力の問題でもあるし,文化の問題でもあるところ,違和感を覚えるところがあります。課金するのが大変だから一緒くたにしてしまうという議論にも大変違和感を覚えますし,むしろそんなに大変なことであれば異時送信も含めて公益的な教育のことであれば補償金の対象にしなければ一番シンプルであると考えるわけです。

教育の中で著作権の大切さを学び,学生が社会に出たときには,様々なビジネスとして起こしていくことが権利者の方たちにとっても一番よいことであろうと思います。学生たちが世の中に出たときに著作権を守って,きちんとコンテンツをビジネスにつなげていくということのために教育はなるべく自由で,また安価であることもそうですけれども,教育をなさる人たちが心を煩わせることなく利用できることが大切ではないでしょうか。大きな損害を与えることはもちろんいけないですけれども,損害を与えない範囲で自由にコンテンツを活用した教育ができるべきだと考えます。もちろん複製と同時送信に対して課金するというのは,私は反対ですし,異時に関しても難しい問題をクリアすることを一生懸命考えるぐらいだったら,そこも公益的な利用ということで無償にするという選択肢が議論されてもよろしいかと思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

松田委員,どうぞ。

【松田委員】同時について35条対応の公衆送信については無償にすべきだという御意見は傾聴に値すると私は思っています。しかし,異時についても公共だから全部無料にして,こういう複雑な制度は要らないというのは,これは一方の見方にすぎないように思います。同時も異時も全部無料だとすると出版事業とかコンテンツ制作というものはどうなりましょうか。というのは,大学も含めて教育の現場で使うということの書籍,コンテンツの利用,使用というのは,極めて大きい市場です。特に学術文献や教育資料については最大の市場です。この部分についてサーバーに一度入れたら,教育目的だからほかの学校で使おうがみんな自由ですよというふうにやったら,恐らく教育,学術出版社は潰れてしまいます。そんなことを避けるために今議論しているわけですから,河村委員の後者の部分については,私は大反対です。

【土肥主査】今日は,この教育の情報化の問題だけの審議かというと,この後,先ほど御紹介いたしましたようにデジタル教科書の問題もございますし,リーチサイトの問題もまたあるわけでございます。従いまして,大体論点としてはまだ残っていることは十分承知をしているわけですが,この資料4の論点ということに関しましては,Iに関する御意見を頂くというところでとどめたいと思います。教材等の共有の問題,これも非常に重要な問題でございまして,教育関係団体から意見書にもございますけれども,権利制限の対象とする方向で検討してほしいというような要望があるわけでございます。教育資源というものをもっともっと活用する上で,この問題は重要だと思っておりますけれども,これも重要といいますか,今後更に検討を進めていくということでIIというのが,しておきたいと思います。

それから,ライセンス環境の整備,これももちろん重要でございます。今回,37団体がお集まりになって一つの窓口を設置するという方向に進んでおいでになるということは非常に大きな進歩であると思っております。こうした枠組みを設けていただくという,検討を進めていくということについては,本省においても更にお進めいただくということでお願いしたいと思っております。もちろん,その際,公益としての教育の配慮とか,取引費用というものを最小化していくような,そういう努力をお願いしたいと思っております。

それから,1でございますけれども,これは35条の問題,現在,紙で,教科書で行われているものについて,そしてまたそれが同時送信ということなのですけれども,これは飽くまでも教室の授業がそのままということでございますので,35条の問題というところが,その紙をベースにした理解があって,そこにおける著作物の利用というものはそんなに深刻なものがないという理解は,まだ依然としてそれは成立するのだろうと思っております。そういうこともあり,それから,35条のところに何か見直しをするようなことがもしありますと,これによる現場の混乱も相当あり得るところでございますので,少なくとも皆さんの御意見を伺うと,異時送信について補償金付きの権利制限の対象にするということについては御了解が得られていると思います。それ以上に同時送信も含めるかどうか,そういうこと,御意見を頂きましたけれども,しかし,そういう方も異時送信を対象にするということについての御異論はないのだろうと思います。

それからあと,いわゆる配信サービス等の取扱いについてでございますけれども,ここは特に本日,御意見を頂いておりませんけれども,ただし書の運用等をしていただくというようなことを期待しているところでございます。それから,補償金の徴収分配を担う指定団体の設立については,これは現在進んでいるということでございますし,更にその実現可能性を含め,最終的な見極めも行う必要があろうかと思いますので,この進捗については事務局を通じて更に関係団体の皆さんに要請をしていただければ有り難いと,このように思っております。特に37団体の方々がこの一元化を図っていただくということについては,私も非常にうれしく思いますし,更に今後尽力を頂けるようお願いしたいと思います。恐らくまだ御意見を頂きたく必要があるのだろうと思うのですけれども,何分,せっかく教育,デジタル教科書に係る著作権制度について御要望も伺っているわけでございますし,担当官の方にもおいでいただいておりますので,もし最後に時間が余ったときに,この点についての御意見を頂戴できればと思います。

恐縮ですけれども,次のデジタル教科書の問題に入らせていただきたいと思っております。このたび文部科学省におきましてデジタル教科書の位置付けに関する検討の最終的な取りまとめが行われたとのことでございますので,本日は,その結果について文科省の御担当から報告を頂いた上で,著作権制度上の課題への対応についての議論を行いたいと思います。まずは文部科学省初等中等教育局教科書課の望月課長,本日は,どうも御苦労さまでございます。説明をよろしくお願いいたします。

【望月教科書課長】教科書課の望月でございます。本日はお時間を頂きましてありがとうございます。私から簡単にデジタル教科書の検討の方向性について御説明をさせていただきます。

皆様御承知のとおり,我が国において教科書は,全ての児童生徒が必ず学校において使用する唯一の教材です。学校教育法をはじめとする様々な法令におきまして,他の教材とは異なる特別の位置付けを持っているものです。そういった中で,戦前,戦後を通して,紙媒体のみが教科書として認められており,それを前提として法令も作られているわけでございます。

資料5の最後の11ページを御覧ください。現在,教科書紙面をデジタル化したものとデジタル教材を組み合わせたいわゆるデジタル教科書が,教科書発行者から一般に販売をされており,これが電子黒板の使用等とあいまって,徐々に学校現場に普及しつつあります。教師用のいわゆるデジタル教科書はかなり進んでおり,多くの発行者によって制作されております。児童生徒が使用する,いわゆる学習者用のデジタル教科書についても徐々に制作が進んでおり,一般社団法人教科書協会の調べによると,予定も含めた製作状況について,小学校用は54.2%,中学校は51.5%となっております。

そのような中,資料を戻っていただいて恐縮ですが,1ページ目で,平成27年の6月に閣議決定された日本再興戦略,あるいは同年5月の教育再生実行会議の第7次提言におきまして,教科書のデジタル化の推進に向けて教科書制度の在り方,あるいはそれに応じた著作権の在り方などの課題についての専門的な検討を行うということが提言されています。学習の手段,あるいは学習環境としてのICTの可能性,将来性ということも見据えて,児童生徒の学びを質・量ともに向上させるという観点から,教科書のICTの活用の在り方,いわゆるデジタル教科書の在り方についての検討を進めてきたところでございます。平成27年5月から約1年半にわたりまして協力者会議において議論を行い,先般,その最終まとめが取りまとめられましたので,その概要について御説明をさせていただきます。

3ページ目を御覧いただきたいと思います。後ほど著作権制度との関係についても御説明しますけれども,まずは,この「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議において取りまとめられました,いわゆるデジタル教科書の内容・範囲,それから,基本的な考え方について先に御説明をさせていただきます。

先ほど申し上げましたが,我が国においては,教科書というものが全ての国民にとって身近な存在であり,基礎的・基本的な教育内容の履修を保障するものです。そのため,教科書検定によって,その質を担保し,原則として全てのものを学習内容として学ぶということとなっております。

情報化の流れにより,デジタル化に不安を感じる方も多い一方で,先ほど申し上げた,いわゆるデジタル教科書というものが教材として学校現場に普及しつつあるということもあります。現行制度上では,いわゆるデジタル教科書のみを使用した形で教育効果,あるいは健康面の影響について本格的に実証するというのは事実上困難がございます。したがって,最終まとめにおきましては,そうした状況も踏まえて,デジタル教科書の導入後も含めて調査研究を更に続けて知見を蓄積しながらも,段階的かつ慎重にデジタル教科書の導入を進めていくことが適当であるとした上で,現在の紙の教科書の内容を過不足なくデジタル化したものをデジタル教科書と位置付け,教科の一部の学習(単元など)について紙の教科書の使用義務を外し,教科書の使用義務の履行をデジタル教科書のみをもって可能とするような特別の教材としての位置付けをするということが適当と提言されてございます。

ただし,障害のある児童生徒にとっては,その障害の内容の程度によっては,紙の教科書による学習が極めて困難であるといった実際上の問題もございます。そうした児童生徒のうち,デジタル教科書の使用による学習が効果的である者に関しては,より積極的にデジタル教科書を使用することを可能とすることが望ましいとされています。

飛びますが,5ページの最後のところのデジタル教科書の導入時期についてです。現在,次期学習指導要領が約10年ぶりに検討をされており,先週,中央教育審議会で答申が取りまとめられたことは新聞等でも御承知の方も多いと思います。小学校において次期学習指導要領が実施される平成32年に合わせてデジタル教科書を活用できるよう,環境整備,あるいは制度面での整備を行っていくことが望ましいという観点から取りまとめがされてございます。

このように最終まとめにおきましては,紙の教科書を基本的に過不足なくデジタル化したものをデジタル教科書とした上で,紙の教科書の使用義務の履行の一部を認める特別な教材として位置付け,それを前提とした関係制度の方向性を示してございます。

4ページ目のデジタル教科書の基本的な在り方のところ,それから,関係制度の検討の方向性というところに書いてあるとおり,例えば教科書検定制度については,教科用図書検定調査審議会において,この最終まとめの方向性に基づき具体の審議が別途進められているところです。基本的には紙の教科書と同一の内容であるということから,改めての検定は不要とするという方向性での審議が行われております。

また,現在,副教材として販売されているいわゆるデジタル教科書には,音声や動画,あるいは様々な参考資料,問題集といったデジタル教材が,附属していることもあります。それが一つの利点ですが,これらについては,飽くまで教材として一体的に使用することができるのみで,検定を経ることは要しないこととされております。ただし,その質をある程度担保しなければいけないという観点から,その選定の観点や方法等についてガイドラインを策定することが適当とされております。

それから,価格や定価について,紙の教科書につきましては発行者が書店等において販売価格を定めることができる著作物の再販制度の対象であるとともに,法令によりその定価を文部科学大臣が認可するということになってございます。デジタル教科書は,その性質上,著作物の再販制度の対象ではない上に,また,デジタル教材と一体となって販売されている実態に鑑みましても,国が個々の販売価格に関与することは現実的でなく,デジタル教科書の価格については,基本的には教科書発行者が決定するようになると考えてございます。ただし,教科書の使用義務の履行を一部認めるという特別な教材としての位置付けに鑑みますと,可能な限り低廉な価格であることが望ましいということから,今後,デジタル教科書の規格,あるいは機能の標準化等についても検討をするということが必要と考えてございます。

そして,この関係制度の検討の方向性の最後に,著作権に関する御意見も出てございます。また,関係の団体も含めて教科書を発行している教科書発行者からも,著作権の権利制限の在り方は,デジタル教科書の導入については大きな課題であるという形での御意見が出てございます。具体的には,資料の6ページ目,7ページ目を御覧ください。現行の著作権法におきましては,一定の要件の下で個々の権利者に許諾を得ることなく,教科書に著作物を掲載することを可能とする権利制限規定が設けられていることは御承知のとおりでございます。一方で,現在,補助教材として販売しているデジタル教科書の制作に当たっての適用については,権利制限規定はなく,現在販売されているいわゆるデジタル教科書の中には,紙の教科書面の内容の一部掲載をされていないものもあり,学校現場から改善を求める声が出ているように聞いてございます。この「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議の最終まとめにもございますが,この権利制限に関することについて検討をお願いしたいと考えてございます。

また,デジタル教科書特有の課題として,供給の在り方についても課題になると考えてございます。8ページ目のとおり,紙の教科書については,発行者の責任の下で,法令に基づき各発行者が各学校,あるいは児童生徒まで供給するという仕組みになってございますが,実際のところは民民の契約により多くの教科書の供給会社,あるいは全国3,000箇所以上の一般の教科書取扱書店において,網の目のような形で教科書を供給するという仕組みになっております。それがデジタル教科書を導入した場合には,8ページ目のデジタル教科書の導入に当たって想定される検討課題のところに書いてございますとおり,様々な形態が供給の方法としては考えられるわけです。ネットワーク環境の整備状況,デジタル教科書の使用実態に応じていろいろな方法があると思いますけれども,例えば,将来的にはクラウドの利用によるデジタル教科書の使用に当たっては公衆送信を行うケースもあるのではないかと考えてございます。

9ページ目に具体に考えられるデジタル教科書の供給の流れを示してございます。最終まとめにおいては,一斉授業における使用も想定した上で,少なくとも導入段階においてはネットワーク環境を利用しなくてもデジタル教科書を使用することができる形態とすることが適当とされております。したがって,基本的には情報端末にダウンロードすることを想定した上で,その後の調査研究などを通じましてクラウドによるデジタル教科書の使用の可否を検討することが必要とされてございます。

ほかには10ページ目に検討会議の各委員,各団体,あるいはパブリックコメントにおける著作権に関する主な意見を掲載させていただいてございます。その中に,やはり関係団体の方からは,権利制限規定について検討してほしいという意見等ございますが,これは一方で,やはり著作権制度そのもの,他のことと関係することがございますので,本小委員会におきまして具体の審議を是非ともお願いしたいと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【土肥主査】ありがとうございました。

続きまして,事務局においてデジタル教科書への対応に関する論点というものを整理していただいておりますので,これについて説明をお願いします。

【秋山著作権課長補佐】資料6をお手元に御用意ください。時間の関係で省略して説明申し上げます。(1)現状と課題の1は既に教科書課の御担当者から説明があったとおりでございますが,33条につきましては教科書の教育上の意義といったことも踏まえて規定されているところでございまして,2パラ目にありますように33条の対象となる教科用図書は文科大臣の検定を経た教科書若しくは文科省が著作の名義を有するものでありまして,これは学校教育法上の34条の使用義務の範囲と同様ということでございます。こうしたことも踏まえて,今回の権利制限規定について対応を御議論いただきたいということでございまして,あとは教科書制度の意義等やデジタル教科書に関する検討状況については,ここに記載させていただいたとおりでございます。

2ページ目をお願いいたします。(2)著作権制度における対応の要否及び方向性として論点を二つ御用意いたしました。第1としましてデジタル教科書について,上記のような学校教育制度上の見直しが行われることを念頭に置いた場合,デジタル教科書の学校教育制度上の位置付け及び現行著作権法第33条の趣旨・内容を踏まえ,デジタル教科書も同条の対象となるべきと考えてよいか御審議いただきたいと思います。第2に,仮にデジタル教科書も33条の対象となるべきと考える場合に,制限すべき支分権の範囲をどう考えるか。先ほどは供給方法については公衆送信なども必要になってくるといった御説明もございましたが,そうしたことも踏まえて御議論いただければと思います。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。

では,先ほどの望月課長からの説明を踏まえ,ただいま事務局において紹介していただいた論点,この1と2というものが用意されておりますけれども,この二つの論点について,どちらからでも結構でございます。御意見があればお願いいたします。

前田委員,どうぞ。

【前田(健)委員】デジタル教科書の扱いにつきましては,通常の教科書と同一の内容であって,利用される目的や範囲というのも基本的には同一だということだと思います。ですので,論点1に関しては,そういうことを踏まえれば当然デジタル教科書も33条の権利制限の対象となるべきと言えるのだろうと思います。

論点2についてですけれども,現状だと33条で教科書への掲載が可能になっていて,更に47条の10でその目的のために譲渡することもできるということだと思います。それで,その掲載と供給の場面が,有体物というものを念頭に権利制限されているということなのだと思います。デジタル教科書になりますと有体物とは流通の方式が必ずしも一緒ではなくて,若しくはそもそも掲載する段階でも有体物の場合とは必ずしも一緒でもないかもしれません。ですので,今までは主に複製と譲渡を制限すれば対応できたものが公衆送信等についても制限する必要が出てくるということがあろうと思います。

ここで1点,私から申し上げておきたいのは,今の場合だと掲載,それから,譲渡と割とシンプルな形で制限がかかっているので,いろいろな場合に対応できると思うのですけれども,例えば公衆送信を権利制限の対象にするときに,余り現状の流通過程というものに細かくフォーカスし過ぎて権利制限規定を作ってしてしまったとすると,今後,どういうふうにこれが発展していくかというのは予測できない部分もあるのではないかと思いますので,余りそういった形での技術的な限定はしない方がいいのではないかと思っております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。

ほかに,この点,御意見ございませんか。

【大渕主査代理】今言われた部分に尽きるかと思いますが,これはかなりシンプルな話で,今,紙の教科書でやっているものをデジタル教科書にするのであれば,実質的に同様の内容の対処をするということはほとんど異論もないところで,紙の教科書だけ権利制限してデジタル教科書は権利制限しないというのはあり得ない話と思います。それから,紙の場合には掲載と譲渡とシンプルなのですけれども,そこはデジタルですので,当然,公衆送信的に供給するのでしょうから,素直にスライドしていけばいいだけの話と思われます。供給の形態など考え出すと複雑にいろいろあり得るのでしょうけれども,シンプルに今の紙でできている教科書をスライドするような形でやっていけば,余り問題はないのではないかと思っております。

【土肥主査】ほかに。前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】デジタル教科書が紙の教科書と同一の内容である場合はおっしゃるとおりで,今出されている御意見と同じように,紙の教科書と同一扱いとすることでいいのではないかと思います。ただ,先ほどの資料5に基づく御説明によりますと,紙の教科書と同一の内容であるだけでなく,動画や音声等がくっつくという,つまり,動画や音声という紙の教科書にはないものをくっつけるという部分もあるのではないかと思うのですけれども,同一の内容であるということと,動画,音声がくっつくということとがどういう関係にあるのかがよく分かりませんでした。

その点は置いておくとして,紙の教科書と同一の内容であれば紙の教科書と同じように権利制限規定を置くべきであり,流通過程に即して公衆送信も権利制限規定の対象とすべきであると思います。更に言うと,公衆伝達についても権利制限が必要な場合もあるのかなと思います。

以上です。

【土肥主査】最初のお尋ね,では,望月課長,お願いします。

【望月教科書課長】すみません,私の説明が不足していたと思います。最終まとめにおいては,今の紙の教科書と同一の内容をデジタル化したものをデジタル教科書とするという方向性ですが,紙の教科書にない特性として,教科書に付随する,関係教材を一つのデジタル媒体の中で使用することができるということがあります。いわゆるデジタル教科書・教材のような形での使い方ができるという意味でございます。つまり,今,紙の教科書というのは当然動きがないものでございますけれども,この動きがないものに,教材として,関連する動画,あるいは音声というものを附属させることができるということです。ただし,その部分は,飽くまで教科書ではない教材として一体的に使うことができるということでございます。

以上でございます。

【土肥主査】ありがとうございました。

前田委員,どうぞ。

【前田(哲)委員】そうしますと,権利制限規定の対象とすべきということで今議論されているのは,デジタル教科書の部分だけではなくて,「・教材」の部分を含めて権利制限の対象にすることを今求めておられるということでしょうか。

【望月教科書課長】正にそこのところについて,議論をお願いしたいと思っているのですが,我々としては,もう教材の音声や動画といったものにつきましては,これは飽くまで実際の教科書ではない,付随する,関係する教材の部分であり,まず基本的には紙の教科書と同一の内容に限ったところの部分をデジタル教科書と考えてございます。したがって,そのデジタル教科書の,音声や動画を除いた部分の権利制限について,議論をしていただきたいと考えております。その上で,プラスの教材の部分をどうするかというのは別途もしかしたらあるかもしれないと考えてございます。

【土肥主査】今のところですけれども,資料5の3ページの図があるのですけれども,3ページの図で下のところにあるデジタル教科書のイメージで,紙の教科書には当然,教材は付いておりません。しかし,デジタル教科書は赤でくくってあるところが紙の教科書と同一の内容になりますが,その隣にデジタル教材等という青が伸びておりまして点線ではない。ここの部分をおっしゃっているわけでありまして,今現在,教科書と同じように権利制限の対象にしてほしいとおっしゃるのは,この赤でくくってある部分ということだろうと承知しております。

これ以外にデジタル教材についてどういうふうになるのかというのは,これはさっきおっしゃったように平成32年までにどうにかしたいという,こういう,32年には同時にスタートしたいということのようでございますので,ただいまこの場ですぐに我々,意見をまとめる必要はないということと承知しております。従いまして,当面,お尋ねがあったところは紙の教科書と同じ範囲の部分について,デジタル教科書についても紙で認められるのと同じ権利制限を認めてほしい。それからもう一つは,供給方法,紙とは違う有体物でないわけでありますから,既存の供給方法ではない形態が当然考えられるわけでありますけれども,ここについての対応をどうするのかという,そういうことでございます。

ほかに御意見ございますか。基本的には紙で認められることは同じようにということだと思いますが,今村委員,どうぞ。

【今村委員】お時間を頂戴して済みません。論点1と論点2に関して,紙の教科書を同一の範囲でデジタル化することについては特に大きな障害があるようには思いませんでした。一つお伺いしたいのが,このデジタル教材等に関してというこの3ページ目で言う併用と書かれている緑の下の部分のデジタル教科書の赤枠から突き出ているデジタル教材等というところは,現状では検定を経ているわけではないということですよね。

でも,将来的にデジタル教科書がこのメーンの教科書的なものとして世の中で使われるようになる際には,やはりデジタル教科書の方も検定というような何か,そういうことを経るような俎上に乗って,そうなってくると,この紙の教科書から紙の教科書をデジタル化したものというような形ではなくて,このデジタル教科書の方がメーンの教科書として使われるような状況が将来的には生じ得るわけですよね。その場合にはさらに,現状デジタル教材等として突き出て示されている部分も検定を経るという枠組みになる可能性もあるでしょうか。そうしたら将来的には権利制限に関して更に論点が様々追加されるということにはなってくると思うのですが。

【望月教科書課長】御質問,ありがとうございます。最終まとめの中では,基本的には,今の紙の教科書が義務教育段階においては無償であり,そして教科書検定を経ているという,この現行の仕組みについては基本的に維持して,紙の教科書は全ての児童生徒に配りつつ,デジタル教科書についても,併用する場合には一部の使用義務を外す形で使用してもいいということになってございます。

したがって,仮に,検討会議の中でも指摘されておりますが,紙の教科書かデジタル教科書か,いずれかを選択してもいいという制度を今後改めて検討した上で,仮にデジタル教科書のみを使用して使用義務を満たすものができるといったような制度になれば,それは検定の在り方や仕組みも,その際に改めて検討しなければならないとされております。現段階では紙の教科書はそのまま存置した上で,その上で,教育効果や学習効果があるなど必要に応じて,使用義務を満たす教材として使用することとされております。併用性を前提とした考えで,その上で改めて検定は必要ないという方向性で教科用図書検定調査審議会の方でも議論をしているところですので,今の御質問について,将来的なこととしては可能性としてはあるかもしれませんが,現時点では出ていないということでございます。

【土肥主査】ありがとうございます。

いずれにしましても,現在,同じ扱いになっていないが故に,紙の教材の方では,教科書の方では許諾なくして補償金を払うことで取り込めるわけですけれども,デジタル教科書を作成するとなると,補償金の仕組みではないものですから取り込めないという,許諾が得られないというような事態も起きているようでございまして,いわばそういう教材が必要とされるような人たちに情報アクセスという点で問題が生じているのではないかと思いますので,この問題を今後,本小委においても検討を継続していければ,このように思っております。何分あとリーチサイトがありますので,このデジタル教科書については基本的なところを伺った上で次へ入りたいと思います。それでは,いずれにしましても,前向きに本小委としては今後この問題を考えていくということにさせていただきたいと思います。少なくとも紙と同じようにはなるという方向については,御異論はなかったように承知しました。

次に,リーチサイトへの対応についての議事に入りたいと思います。本課題に関しては,前回,関係団体からのヒアリングを実施し,リーチサイトに関する現在の状況について関係団体からのヒアリングを実施したところでございます。まずは,前回のヒアリングの概要とリーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の類型について,事務局において情報を整理していただきましたので,これについて説明をお願いいたします。

【小林著作権調査官】それでは,まず,資料7に基づきまして,前回の小委員会における関係者ヒアリングの結果の概要を説明させていただきます。資料7を御覧ください。前回の小委員会では,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の実態及び課題,それから,著作権制度に対する要望について七つの関係団体から発表を頂いたところでございます。その結果を整理させていただいておりますが,本日は,時間の関係上,簡単に紹介させていただきたいと思います。

まず,1.の実態及び課題についてでございますが,マンガ関係者から示された内容としましては,1)リーチサイトは市販されている作品が権利者の許諾なく,そのままダウンロードできるサイトのリンクが掲載されている形態を基本構造としているということ。2)の後半ですけれども,大手リーチサイト,14サイトの合計訪問者数は1か月に延べ6,000万人の訪問者があったということでございます。3)ですが,リーチサイトには発売直後の漫画雑誌やコミックスの違法ファイルのリンクが掲載されているということでございました。次,飛んで5)ですけれども,汎用検索エンジンではサイバーロッカーに蔵置されている違法ファイルを直接見つけることはできないけれども,リーチサイトにはこのようなユーザーが検索エンジンでは見つけることのできないファイルのリンクが数多く掲載されているということでございました。

次に7)でございますけれども,リーチサイトにより正規版の売上げが最大25%減るケースが相当数見られたとの調査結果があるとのことです。次に,10)ですけれども,リーチサイトに掲載されているサイバーロッカーのリンク先を削除しても,別のリンクを掲載されてしまうのでユーザーにとっては常にリーチサイトからダウンロードできる状態があるということで,つまり,ユーザーと違法ファイルを結ぶ結節点であるこのリーチサイトを潰さなければ,ユーザーが違法ファイルをダウンロードできるという状態が続いてしまうということでございました。それから,13)サイバーロッカー,リーチサイトのサーバーが海外にあり,全ての発信者情報を得ることが非常に難しい。また,運良く情報を手に入れたとしてもログの保存期間が短いケースが多いので,リーチサイトの運営者やファイルのアップローダーを特定することができず,権利行使や刑事での立件が難しいという問題があるとのことでございました。

次にアニメ関係者から示された内容としましては,4)に飛んでください。リーチサイトにはブログにリンクがまとめられて掲載されている形態もあれば,Q&Aサイトの回答としてリンクが掲載されている形態のものもあるとのことです。5)リーチサイトのリンク先としては,サイバーロッカーや動画配信サイトがあるとのことです。3ページに参ります。8)ですけれども,リーチサイト運営者は,著作権侵害はしていないなどと言って削除要請に応じないとのことです。

次に音楽関係者の1団体目から示された内容としまして,1)リーチサイトにはユーザーがストリーミング再生できるタイプとダウンロードできるタイプがあるとのことです。3)リーチサイトは全て一見無料であるけれども,広告収入やダウンロードするときに会員制の対価を求めるという方法で稼いでいるとのことです。6)リーチアプリの中には音楽が組み込まれてはいないが,アプリを介して中国の無許諾音楽配信サイトに接続し,そこから音楽を再生することが可能になっているとのことです。

続きまして,音楽関係の2団体目ですけれども,1)リンクによる誘導行為としましては,ハイパーリンクによるものとエンベッドによるものの二つのタイプに分かれるとのことでした。次の4ページ目を御覧ください。2)ですが,リーチサイトがなければユーザーはコンテンツにたどり着けない。リーチサイトは違法ダウンロードなどを可能にしている存在であるとのことです。5)インターネット広告事業団体などに対して,広告遮断を求めても法的根拠が曖昧であるとして応じてくれない場合があるなど対応が限定的であるとのことです。

続きまして,放送関係者から示された内容としましては,3)の後半ですけれども,リーチサイトには適法な公式サイトへのリンクが一部含まれている場合もあるとのことです。4)過去に意図的に違法動画を集めている疑惑のあるリーチサイトがあり,その運営者との交渉は何度も行われ,解決までには1年以上かかったということでございました。

次にゲーム関係者から示された内容としましては,1)大手UGCサイトにはゲームの違法コピーが蔵置されたサイトへのアクセス方法から,そのダウンロード方法までを指南する解説とともにコメント欄に違法コピーの蔵置サイトのアドレスが掲載されているものがあるとのことです。この場合,そのサイトでは一つのリンクしか掲載されていないのですけれども,こういった問題点は複数のリンクが掲載されている場合と同じと考えているとのことです。

次に侵害対策機関から示された内容としまして,次の5ページ目を御覧ください。4)に飛びますが,大手検索エンジン会社にリーチサイトを検索結果に表示しないように求めても,法的位置付けが不明確であるので対応は難しいと対応を保留されてしまう。5)現在は若年層がパソコンを持たずにスマートフォンしか持っていないという状況があり,ユーザーを違法コンテンツへ誘導するアプリが非常に問題になっているとのことでした。最後の10)まで飛んでください。刑事手続については正犯の検挙が困難であるために,その幇助に当たるリーチサイト・リーチアプリ運営者について,日本の刑事手続を踏むことが困難な状況であるということでございました。

続きまして6ページ目でございますが,次は2.の著作権制度に関する要望についてでございます。一番上の丸ですが,デジタル海賊版の窓口であるリーチサイトについて,迅速な対応をお願いしたいとのことです。三つ飛ばしまして五つ目の丸ですけれども,違法コンテンツと知りながら拡散するためのリンクを張る行為については,たとえリンクが一つであったとしても違法としてほしいとのことです。最後の丸ですけれども,法改正により国内のリーチサイト,アプリ運営者を刑事摘発できるようにすること,海外のリーチサイトを検索エンジンの検索結果から表示されないようにすることを求める。その法改正に当たっては,違法コンテンツにリンクを張って公衆を誘導する行為で,こちらに書かれている主観要件を満たすものをみなし侵害行為として差止め請求,それから,刑事罰の対象とすることを要望するとのことでした。

ヒアリング結果については以上でございます。

続きまして,資料8を御覧いただければと思います。資料8は前回の小委員会におけるヒアリングの結果を踏まえまして行為類型を整理させていただいた資料でございます。表紙に書いておりますとおり,今回のヒアリング結果から誘導行為としましてはサイト型とアプリ型の二つの行為類型が確認されましたので,それぞれについて説明させていただきます。

次のページを開いてください。まず,サイト型ですが,こちらは違法にアップロードされた著作物等へのリンク情報をウェブサイトに掲載して,ユーザーを著作物等へ誘導する行為類型でございます。流れとしましては,まず,直接侵害者が著作物をストレージサイトにアップロードし,次にサイト運営者がリンク情報を掲載できるサイトを立ち上げるとのことです。この1)と2)は順番が逆になることもあります。次にリンク提供者がこのサイトに著作物等のリンク情報を掲載し,こちらがリーチサイトとなるわけですけれども,次にユーザーがリーチサイトにアクセスして,リーチサイトに掲載されている情報を利用してストレージサイトにアクセスし,これに対して6)ですけれども,ユーザーの求めに応じて著作物を送信し,7),ユーザーに戻りまして,著作物等をユーザーが複製,視聴するという一連の流れになっております。

次のページを御覧ください。次にアプリ型ですけれども,こちらはアプリケーションソフトを介して違法にアップロードされた著作物等へのリンク情報を提供してユーザーを著作物等へ誘導する行為類型でございます。同じく順に説明しますと,まず,直接侵害者が著作物をアップロードし,アプリ提供者がリーチアプリを提供いたします。こちらのアプリを介したリンクの提供方法につきましては複数のパターンがありますので,詳しくは次のページで説明します。次にユーザーが3)でリーチアプリをダウンロードし,4),ユーザーはリーチアプリを介して提供されるリンク情報を利用してストレージサイトにアクセスし,5),ユーザーの求めに応じて著作物等が送信され,ユーザーが複製,視聴するという流れになっております。

最後のページを御覧ください。先ほど説明したアプリ型におけるアプリを介したリンク情報の提供方法の詳細ですけれども,提供方法は大きく二つに分かれておりまして,一つにはアプリ内にリンク情報が埋め込まれているタイプ。それからもう一つには,アプリ内にはリンク情報がないのですけれども,外部のサーバーに蔵置されたリンクの情報を取得するというタイプに分けられます。こちらはまた更に細分化されておりまして,1)アプリ提供者が外部サーバーに蔵置したリンク情報を取得するタイプですが,その中には更に1)-1アプリ提供者が蔵置したリンク情報のリストを取得するタイプと,1)-2検索エンジンを使用させて,その結果としてリンクを取得させるタイプがございます。

下の2),アプリ提供者以外が外部に蔵置したリンク情報を取得するタイプですけれども,2)-1でございますけれども,アプリに組み込まれた条件で外部の汎用検索エンジンを使用させて,その結果としてリンクを取得するタイプでございます。それから,2)-2でございますが,ユーザーに特定サイト内の検索エンジンを使用させて,その結果として特定サイト内のリンクを取得させるタイプでございます。

説明は以上でございます。

【土肥主査】資料9についてもお願いします。

【小林著作権調査官】では,こちらについても御説明させていただきます。資料9には,こちらに論点として2点示させていただいております。まず,第1の論点といたしまして,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為のうち,一定の悪質な範囲については,現行法との関係において民事責任や刑事責任の対象になるのではないか,について御議論いただければと思います。これに関して事務局として現在見られる見解などを下の点線枠内に示しております。

こちらを読み上げますと,侵害コンテンツへのリンクを経由してユーザーに対して実際に送信が行われた場合,当該リンクを張った者には直接侵害者の公衆送信を容易にしたとして公衆送信権侵害の幇助が成立するとの見解がある。また,侵害コンテンツへのリンクを経由してユーザーが受信した場合に,ユーザーの受信行為に複製権侵害が成立する場合,当該リンクを張った者には複製を容易にしたとして複製権侵害の幇助が成立し得るとの見解がある。そして,この著作権侵害の幇助が成立する場合には,損害賠償請求や刑事罰の対象になるものと考えられる。ただし,差止め請求の可否については裁判や学説において肯定・否定の両説が見られる点,明らかではないということでございます。

次の第2の論点といたしましては,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為については,現行法における対応に加えてどのような対応策が考えられるか。また,その検討に当たって留意すべき事項は何かについて御議論いただければと思います。よろしくお願いいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。時間の関係でかなり早口で読んでいただいて本当に恐縮でございます。

このリーチサイトの問題,2回目でございますけれども,前回のそのヒアリングの意見をまとめていただいたのと,それから,行為類型,侵害コンテンツへの誘導行為の行為類型について図解していただきました。そして,その上で本日議論いただきたい論点として二つということでしょうか。いわゆる悪質なリーチサイトというものが存在することは承知しているわけでございますが,これらは現行法どの関係において民事責任,さらには刑事責任の対象になるのではないか。二つ目の論点としては,現行法における対応に加え,どういう対応策が考えられるのか。これ,つながっている話でもございますので,どうぞ御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。当然,大渕委員にもお話しいただきますけれども,最初からお話しいただいても構わないですね。では,お願いします。

【大渕主査代理】きれいに事務局の方で資料9におまとめいただいたとおりだろうと思いますが,要するに「一定の悪質な範囲」という線引きのところが最終的には非常に難しくなってきて,これをどうするのかという微妙な判断が迫られることになるかと思います。

論点1で書かれているのは現行法でできる範囲ということで,論点2が更に立法的な措置が必要ではないかということで,これは異論もないところかと思います。現行法でいうと,最後の「ただし,」で始まる差止め請求の可否の点についてはいろいろ争いがあります。この差止め請求ではなくて損害賠償や刑事罰の方であれば,一定の範囲で幇助は類型的に成り立ちます。細かく分析していくと,公衆送信の幇助,あるいは複製というのは30条1項3号の複製の関係の幇助だということになるのであれば,損害賠償や,場合によっては刑事罰もあり得ます。刑事事件であるWinny事件最判も,公衆送信権侵害の幇助につき,多数意見では,故意は否定されていますけれども,客体の部分については多数意見でも認めているぐらいであります。よって,これは対象になるけれども,もちろん刑事罰の場合だと故意が立証できなければいけませんし,民事の場合も故意過失が立証できなければいけないから,類型的には認められるとしても,個別にはなかなかそう簡単に認められないと思われます。

あとは,差止め請求の関係では,そもそもヒットワン判決のような幇助に対する差止めができるのかという論点もあります。また,前から繰り返し申し上げているとおり,そもそも幇助と事後従犯とは,全く異なるものなので,混同せずに明確に区別する必要があります。犯罪行為・侵害行為が終了するまでの間に――犯罪行為・侵害行為を幇助するのが幇助であり,犯罪行為・侵害行為が終わった後にその侵害物の拡散を助長するのが事後従犯であります。先ほどの場合には公衆送信や複製だと幇助になるかと思うのですが,送信可能化の話になってくると,別に幇助しなくても送信可能化ですので,その関係で事後従犯の問題になってくるのではないかと思います。

論点2の方に行きまして,幇助者に対する差止めというのは,私はこれも現行法の解釈論でも可能であるという立場なので確認的立法になりますけれども,事後従犯関係ですと現行の113条1項2号,頒布は入っているけれども送信は入っていないというあたりに関係してきます。そこに送信を入れるとなると線引きが非常に難しい大変な作業になってくるかと思います。今申し上げた中でも幇助と事後従犯だけでも混同してしまったら議論が大混乱となってしまいますので,リーチサイトもあればリーチアプリもあるというように個別の事案を細かく場合分け,分析していかないと議論が混乱するだけですから,そこのところはしっかりお願いできればと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに。奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】ありがとうございます。リーチサイトの定義が何か,悪質な範囲が何かというのは問題なわけですけれども,仮に有償著作物のデッドコピーをしているものに対して,営利目的で多数リンクを張るということであるとするならば,それを野放しにできないということについては,私は全く賛成でございます。

ただ,問題はそういう悪い人がいるからということで,余り現行法の解釈にしましても何にしましても頑張り過ぎて,個人の行為について過大な萎縮効果を生まないようにするということは極めて重要ではないかと思います。特にリンクというのは,インターネットを成り立たせる上で極めて重要な機能であります。しかも,これは個人が情報を発信するときに,すなわち正に表現の自由として言いたいことを言うときに,全てを自分の中に取り込むのではなくてリンクを見てくださいという形で利用するわけです。リンクがハイパーリンクとも言われるのは,いろいろな形でクモの巣のように行ったり来たりすることにおいてこそ――これはテッド・ネルソンが提唱したわけですけれども――非常に意味のある行為であって,私たちは正にそのおかげで現在の情報社会の恩恵を享受できているわけであります。

その関係からしますと,大枠については,私は全く賛成なのですが,やはりこの点線の中は,個人のする行為に対する配慮が弱いのではないか。このままでは,例えば個人がTwitterで,こんな動画見つけたよと言ってどこかにリンクしたら,そのリンク先が著作権侵害だった場合,損害賠償も刑事罰もあり得るかもしれないというようなことを言ってしまうと,これはかなり法理論は別としても一般の方に対しての萎縮効果が強いのではないか。特に一般論として言えば,やはり損害賠償,差止め請求,刑事罰という順にだんだん厳しくなっていくので,その適用範囲も狭まっていくべきだろうと思うのですけれども,今のペーパーは,書き方の問題もありますけれども,損害賠償と刑事罰が並んで書いてあって,何か差止めだけがよく分からないというようなことになっている。これはかなり一般の方に対する心配,萎縮効果というものが大きいのだろうと思います。

むしろ,やはり一般の方の行為について,そういうことについて私たちが積極的にこれは刑事罰の対象になり得るとか,そういう誤解を持たれるようなことまで踏み込む必要は全くなくて,必要であれば定型的,類型的な悪いものだけをみなし侵害で捉えれば良い,個人の行為とか,そういう細かい行為の積み重ね云々は議論しなくても良いのではないか,なぜなら,みなし侵害というのは本来的には侵害であろうがなかろうが構わず,法律でいきなり侵害と認めてしまう仕組みだからです。個人の行為の議論はまず横に置いて,先ほどの御議論の中にもありましたけれども,連接点,結節点を潰してしまえば,ほとんどの拡散行為が止まるわけでありますから,まずそこに絞って私は議論すべきであって,余り踏み込んで個人の方の誤解を招いたり,また場合によってはそういう萎縮を招く事態が実際に起こることを招かないようにすべきではないかなという心配をいたします。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかにございますか。では,上野委員,どうぞ。

【上野委員】リーチサイトに関しましては,私もいろいろコメントしてまいりましたけれども,今日の資料9におきましては,現行法の解釈論でも,違法ダウンロードという違法複製のみならず,侵害サイトからの違法送信を容易化していると評価できることを理由として,現状でも幇助が成立し得るというお考えが示されています。ここでは,侵害サイトへの送信可能化ではなく,侵害サイトからの公衆送信を容易にしたと評価できるということが,幇助が成立し得る根拠になっていますので,何らかの意味で公衆送信を「容易化」したと言えなければならないのだろうと思います。既に違法サイトにアップロードされている著作物につきましては,既に送信可能化状態にあるわけですので送信可能化を容易化したとは言えず,違法サイトからの公衆送信を容易化した,そしてそれが悪質だというためには,例えば,広く一般に知られていないサイトであるとか,通常,検索エンジンでヒットしないサイトであるとか,そういったようなケースが念頭に置かれているのではないかなと思います。

ただ,この枠囲みの中に書かれておりますように,実際にリンク先の違法サイトから公衆送信が行われたというだけで,常に違法な公衆送信を容易化したと評価できると言ってしまいますと,例えば,私人がSNSで権利侵害を含むYouTube動画へのリンクをつぶやくことも違法な公衆送信の容易化に当たり,常に幇助罪に当たることになりかねませんので,これはやや広過ぎるのではないかと私は思います。

従いまして,たとえ解釈論として,現行法でもかなりの対応が可能だといたしましても,やはりこれは先ほど奥邨先生の方から個人の行為についての配慮という御指摘もございましたし,より要件を明確化するためにも,基本的にはみなし侵害を中心とした立法をすべきではないかと私は思っております。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかにございますか。よろしいですか。前田委員。

【前田(哲)委員】今,上野委員からこの公衆送信の幇助と言い得るためには,一般には知られていないサイトなどへのリンクであることが必要となるのではないか,そうでないと容易化したということにはならないのではないかという御指摘がありましたけれども,既によく知られているサイトであったとしても,当該リンクをたどってきた要求に基づく公衆送信については,それを容易化したという評価になり得るのではないかと思います。

それだと広過ぎるのではないかという御指摘がありましたけれども,幇助になり得るためには,少なくとも刑事罰の対象になるのは故意がある場合であって,侵害対象物が違法にアップロードされていて,その送信を幇助することの認識,認容が認められる場合のみ刑事罰の対象になるわけですので,このような主観的要件を合わせて考えるならば,一般に知られていないサイトへのリンクのみならず,よく知られているサイトへのリンクであっても幇助になり得る場合があるのではないかと思います。

【土肥主査】大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】先ほど言われた知られていないリンクでない限りいけないというのは,どういう趣旨で言われたか私も理解し難いところがあります。知られていようが,知られていないだろうが,容易化に当たれば,現行法としてはやはり幇助になるわけであります。あとは故意過失の問題です。先ほど申し上げましたとおり刑事であれば故意だったり,民事であっても,差止め請求は故意過失は要りません。そちらの問題にはなっても,知られていなければいけないというのは,何でそのような要件が必要なのかというのは,なかなか現行法としては理解しにくいと思われます。

【土肥主査】茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】論点1について,今おっしゃった幇助については,私も知られていないということは特に必要ないように思いますが,やはり差止め請求は現行法上難しいと思います。論点2については,現行法上差止め請求は難しいと考えることから,法改正によって対応すべきであるように思います。

この点に関して,現行法の113条1項2号は,情を知って侵害物を譲渡する場合をみなし侵害としていますので,侵害コンテンツを同じように拡散する行為についても,少なくとも情を知ってという要件の下で,侵害とみなすことができるのではないかと思います。先ほど個人等についていろいろ配慮すべきではないかということが指摘されていましたが,少なくとも情を知っての要件を定めるのであれば,個人であるかどうかは特に気にする必要はないのではないかというように思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございます。

時間も過ぎておりますので,最後に大渕委員にもう一つ御意見を頂戴して,それで,二つ?それでは,大渕委員,上野委員というところで簡単に要領よくまとめていただければと思いますが,この問題は議論をすれば切りがないんですね。このリーチサイトの問題,今日でおしまいというわけではございません。今後に議論を継続していきたいと思っておりますので,委員の方におかれましては,その点も踏まえて御意見をお願いします。

【大渕主査代理】私も最初に見たとき,何で頒布だけかと思ったので茶園委員のお気持ちは分かるのですけれども,これにはかなり深い意味があって,頒布の方は一般的に擬制侵害としてよいけれども,公衆送信は分かっていながらなかなか線が引けないから今日まで来ているかのではないかと思います。

私は現行法でも幇助者に対する差止めはできると思っていますけれども,現行法では直接侵害者限定ドグマという御異論が強いことも承知しています。現行法でできるものについての,確認規定であるというのはハードルは低いのですけれども,やはりこの擬制侵害というのは現行法で侵害でないものを法律上侵害と擬制するという大きな創設的な意味がありますので,そこのところは,リンクの有用性も十分に考えた上で,先ほど奥邨委員が言われたように,悪質なものは捕えなければいけないが,善良なものまで捕えてはいけないということであって,きれいな形ではそこの一線が引き難いので今日まで皆,悩んできているかと思います。リーチサイトについても,この線引きには非常に難しいところがありますが,そこは悪質であるもののみを捕えて,そうでないものは捕えないようなきちんとした線引きを図っていくという努力が必要になってくると思います。

【土肥主査】では,上野委員,どうぞ。

【上野委員】誤解があったかも知れませんので,少し補足させていただきます。もしリンクについて違法サイトからの公衆送信を容易にしたという点のみを根拠にして幇助が成立するというのであれば,私人がSNSで違法なYouTube動画へのリンクをつぶやくことも容易に幇助罪に当たることになるように思いますし,先ほどのヒアリングの中にも,リーチサイトがなければユーザーはコンテンツにたどり着けないといった御指摘がありましたので,これを踏まえて,通常知られていないようなサイトでないと公衆送信を容易にしたというふうには言いにくいのではないかということを申し上げた次第でありますが,実際に法改正をする場合は,規制の対象についてそのような限定をすべきという意見を持っているわけではないということを補足させていただきます。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

いずれにいたしましても,このリーチサイトの問題,このところ非常に深刻な問題があるという,そういうことについては委員の間で了解,認識が共有されているものと思っております。この論点1,2に関して既に本日の段階においてもある程度,その考え方が示されているところでございまして,どういう対応策かということに関して,例えばですけれども,そういうみなし侵害をきちんと線引きというんですか,個人の行為に及ばないとか,その容易化の問題とか,様々な観点が当然あろうと思いますし,そういうきちんとした線を引かないとハイパーリンクの問題について行き過ぎたところがあってはならんわけでありますので,デジタルネットワーク時代において適切なコンテンツ環境というものを図るためにどういうふうに考えたらいいのか,今後この問題を継続的に検討していきたいと思っております。

時間が超えておりますので,本日はこのくらいにしたいと思っております。事務局から連絡事項がございましたらお願いします。

【秋山著作権課長補佐】次回小委員会につきましては,改めて日程調整の上,御連絡したいと思います。どうもありがとうございました。

【土肥主査】それでは,本日はこれで第4回の法制・基本問題小委員会を終わらせていただきます。本日は,ありがとうございました。皆様,良いお年をお迎えください。

―― 了 ――

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