文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第5回)

  • 日時:平成29年11月17日(金)
  • 15:00~17:00
  • 場所:文部科学省東館3階3F1特別会議室

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
      (1)リーチサイト等への対応について
      (2)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料
「対応すべき悪質な行為の範囲」の検討(案)(334.8KB)
参考資料1
リーチサイト等への対応に関する主な論点と進め方(178.2KB)
参考資料2
「差止請求の対象として特に対応する必要性が高い悪質な行為類型」に限定する方法の例(49.8KB)
参考資料3
法制・基本問題小委員会(第4回)意見概要(194.2KB)
参考資料4
リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の行為類型(444.5KB)
出席者名簿(47.6KB)

議事内容

【土肥主査】それでは,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会,第5回を開催いたします。

本日は,お忙しい中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。

議事に入ります前に,本日の会議の公開についてですけれども,予定されておる議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないように思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますが,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【土肥主査】はい。それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。

それでは,事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

【小林著作権調査官】お手元の議事次第,中ほどの配布資料一覧をごらんください。

資料としまして「対応すべき悪質な行為の範囲」の検討(案)を,参考資料1としまして「リーチサイト等への対応に関する主な論点と進め方」を,参考資料2といたしまして「差止請求の対象として特に対応する必要性が高い悪質な行為類型」に限定する方法の例として前回お示しした表を,参考資料3としまして前回の意見概要を,参考資料4といたしまして「リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為の行為類型」を用意しております。

不足等がございましたら,お近くの係員までお知らせください。

【土肥主査】ありがとうございました。

それでは,議事の進め方について確認しておきたいと存じます。本日の議事は,(1)リーチサイト等への対応について,(2)その他,この2点となっております。早速議事に入るわけでございますけれども,(1)はリーチサイト等についての対応についてでございます。本課題につきましては,前回対応すべき悪質な行為の範囲に関しまして,民事上の措置の対象とすべき範囲につき,御意見を頂戴したところでございます。前回頂戴いたしました御意見について,事務局において整理をしていただいておりますので,本日はそれを踏まえつつ,更に議論を行いたいと思っております。

まず,事務局からその説明をお願いいたします。

【小林著作権調査官】お手元に資料,「対応すべき悪質な行為の範囲」の検討(案)を御用意ください。こちらには,本日御議論いただく論点等を整理しております。

まず,冒頭に「検討の視点」をお示ししております。ここでは議論を円滑にするという趣旨で,認識を共有いただいた方が良いと思われる視点を示させていただきました。

一つ目として,丸1リンク情報の提供行為は,インターネットによる情報伝達において不可欠な役割を担うものであり,表現行為として憲法第21条1項により保護される。もっとも,表現行為も,絶対無制限なものではなく,公共の福祉を実現するために必要かつ合理的な制約を受けるということ。二つ目に,丸2表現の自由の制約に当たっては,厳格な基準を併用しつつ,利益衡量を行うことが要求される。そのため,検討に当たっては,表現の自由と著作権者の利益保護を比較考量し,公共の福祉を実現するために必要かつ合理的な制約とすることが必要である。また,表現行為を規制する場合,憲法上保護に値する表現行為をしようとする者を萎縮させ,表現の自由を不当に制限する結果を招来するおそれのないよう,規制の対象となるものとそうでないものとの区別の明確性についても配慮する必要があるということ。三つ目として,丸3侵害コンテンツへのリンク情報の提供行為が幇助(正犯の行為を容易にする行為)に該当する場合には民事責任や刑事責任を負うこともあり得るが,リンク情報の提供行為全般について違法と適法の境界を画定するのは必ずしも容易ではない。そのため,今般の検討では,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為による被害状況を踏まえ,差し当たり緊急に対応する必要性の高い悪質な行為類型を取り出して対応検討とすることとする,としております。

3ページまでめくってください。(1)民事について,リーチサイト等による侵害コンテンツへの誘導行為のうち,差止請求の対象として特に対応する必要が高い行為類型はどの範囲かについては,これまでも御議論いただいておりますが,本日は論点1から6の六つの論点を用意しております。

論点1としまして,以前よりお示ししている内容と同じく,差止請求の対象として特に対応する必要の高い行為類型は,誰のどの行為と捉えるかというものです。こちらについては,これまでに頂いた御意見をまとめております。

まず,サイト型としましては,丸1リンク情報を掲載する,削除しないという行為につきましては,実質的には送信可能化と同視でき,著作権者の損害に繋がるとの意味において対象とすべきとの意見などが示されたとしております。「また」以下では,サイトの利用者によって掲載された情報をサイトの運営者が削除しない行為については,その情報が掲載されている状態を放置すること自体が情報の掲載行為と評価され,差止請求が認められた例があることを示しております。

めくっていただきまして,丸2サイトを運営する行為については,過剰差止めによる表現の自由に対する過度な制約となりうるとの意見や,個々のリンク掲載行為が差止の対象となる場合は現行制度の下でも予防措置としてサイト自体の削除が認められ得るとの意見等が示されたとしております。また,アプリ型につきましては,サイト型による場合と技術上の差はあるものの,基本的にはリンク情報を提供する場であるという点については共通しており,特段区別して考える必要はないことから,サイト型と同様に考えればよい旨の意見があったとしております。

続きまして,論点2につきましては,委員からの御指摘を踏まえまして,論点の文言を変更しており,行為者がリンク情報を掲載するサイトの特性(リンク情報の数,侵害コンテンツへのリンク情報である割合,コンテンツの検索を容易にする工夫など)により,差止請求の対象として特に対応する必要が高い行為類型に該当するか否かを区別すべきか。仮に,区別すべきと考える場合,どのような特性を有するサイトを対象とすべきかとしております。

論点2につきましても,これまでに頂いた意見を記載しております。まず,一定数以上のリンク情報が掲載され,一定割合以上が侵害コンテンツへのリンク情報であるサイトであって,コンテンツの検索を容易にする工夫がなされているサイトにリンク情報を掲載する又は削除しない場合に限定すべきとの意見が示されたことについて記載しております。次の段落では,この意見に対するものとして,問題意識については共感が得られたものの,丸1構成上,権利者が著作物を特定してリンクの対象となっているとの構成を取らざるを得ないとの意見や,丸3数値的特性に限定すると容易に潜脱がなされてしまうとの意見,丸5一定のサイトに限定する案がないのが現状ではないかといった意見などを記載しております。5ページ目の「また」以下では,一定数以上のリンク情報が掲載されているサイトにリンク情報を掲載する又は削除しない場合に限定すべきとの意見が示されたこと,及びこれに対する意見を示ししております。

論点3はリンク先の侵害コンテンツがどのようなものである場合に,差止の対象として特に対応する必要が高い行為類型と考えられるか。そのように考えられる根拠は何かとしております。この論点3については,論点3-1から3-3と,更に論点を区切っております。

まず,論点3-1は,市販されているかどうかや商業目的の有無などで対象著作物等を限定すべきか否か。限定するべきとする場合どの範囲とすべきか。また,そのように考える根拠は何かとしております。四角囲みでは,根拠を示していただく際の手掛かりとして,比較考量の観点と明確性の観点から,例えば以下の点についてはどのように考えられるかとして,視点を示しております。一つ目には,市販されている著作物等や,広告収入に係る著作物等,それら以外の著作物等といった違いによって,現在権利者に及んでいる不利益の程度が異なっているといえるかという点。二つ目には,市販することにより得られる利益,広告料収入による利益,その他の方法により得られる利益といった利益の違いによって,保護の要請の度合いが異なるといえるかという点。三つ目には,次のaからdの立場,それぞれの立場の違いによって,対象の明確性の程度,萎縮効果の内容や程度など,表現行為に与える影響が異なるといえるかという点。四つ目には,権利者でない者からの権利行使や,適法な行為をしているにもかかわらず,第三者から違法性を指摘されるといった嫌がらせの問題が増大するとの懸念が示されているという点についてはどのように考えるのかを示しております。

四角囲みの下には,これまでに出された意見としてaからdの四つの立場を示しています。aは,市販されている著作物等に限定すべきとの意見です。7ページ目,bは,市販されている著作物等のみならず,一定の商業目的で提供される著作物等を含めるべきとの意見です。このbの立場を取られる場合には,「一定の商業目的」の具体的な内容についても示していただければと思います。cは,著作物等の範囲を限定すべきではないとの意見です。dは,リンク情報を提供する者が「利益を得る目的」を有しているか否かにより対象範囲を異ならせるべきとの意見であり,具体的には,利益を得る目的を有している場合に,対象著作物を限定せず,利益を得る目的を有していない場合は市販のものに限定するというものです。

ページをめくっていただきまして,論点3-2は著作物等のデッドコピーに限定すべきか否か。そのように考える根拠は何かとしております。デッドコピーとは,一定の単位について全体をコピーしたものという意味です。こちらも,四角囲みの中に根拠を考えていただく際の参考としての視点を示しております。一つ目には,仮に,論点3-1で,市販の著作物等に限定しないとの立場を取り,更に著作物のデッドコピーに限定すべきとの立場を取られる場合には,デッドコピーの対象単位をどのように観念するのかということ。二つ目には,仮に著作物等のデッドコピーに限定しない場合には,例えば丸1いわゆる「歌ってみた動画」へのリンク情報や,丸2マンガの一コマをアップロードしたものへのリンク情報についてはどのように考えるのかとしております。 また,四角囲みの下には,これまでに出された意見として,a.著作物等のデッドコピーに限定すべきとの意見,b.著作物等のデッドコピーに限定すべきではないとの意見を紹介しております。

続きまして,9ページ目,論点3-3では,「発行後一定期間」の著作物等に限定すべきか否か,そのように考える根拠は何かとしております。こちらについても,論点3-1でお示しした視点を御参考いただければと思います。これまでに出された意見としましては,a.「発行後一定期間」の著作物等に限定すべきとの意見,b.限定すべきではないとの意見を紹介しております。

次に,論点4は,どのようなリンク情報が提供される場合に,対象として考えられるかとしております。

続きまして,10ページ目,論点5は,どのような主観を有する場合に,差止請求の対象として特に対応する必要が高い行為類型と考えられるかとしております。この点につきましては,これまでに「侵害コンテンツであることを知りながら」との主観的要素が必要であるとの意見が複数出されている状況を踏まえまして,今回は,「侵害コンテンツであることを知りながら」という要素に加えて,別の主観的要素が必要か否か,必要と考える場合についてはどのような要素が必要か。その理由はなぜか,について議論してはどうかとしております。また,例えば,「利益を得る目的」や「著作権者等の利益を害する目的」といった別の主観的要素が必要であるとの立場をとる場合には,具体的にどのような場合にそれらの目的があると考えるか,について議論してはどうかとしております。

また,「侵害コンテンツの拡散を助長する目的」という要素については,これまでに必須であるという意見や,リンク情報の数やサイトの中の侵害コンテンツへのリンク情報の量といった部分は,このような拡散を助長する目的を裏付ける事実として考慮をすれば良いとの意見等が示されております。これらのような意見を踏まえまして,「侵害コンテンツの拡散を助長する目的」との主観的要素についてはどのように考えるかについても御意見を頂ければと思います。

11ページでは,これまでに出された意見として,a.「利益を得る目的」及び「著作権者等の利益を害する目的」が必要との意見。b.「利益を得る目的」が必要との意見,c.「利益を得る目的」又は「著作権者等の利益を害する目的」が必要との意見,d.別の主観的要素は必要ではないとの意見を御紹介しております。

ページをめくっていただきまして12ページ目,論点6は,今回新たな論点として設けたものになります。その他許されるべき行為は何か(正当な目的を有する場合の取扱い等)としております。こちらは,ここまでの論点1から5に加えて,更に考慮すべき要素があれば,その内容について御意見を頂きたいという趣旨で設けております。 これまでの議論では,正当な目的を有する場合を除外する必要があるとの意見が複数出されているところですが,これまでに示された「コンテンツの批評」や「コンテンツの紹介」といった目的は,正当な目的を有する場合として除外されるべきか。これらの目的のほか,正当な目的を有する場合というものがあるのか。それはどのような場合かについても,御意見があれば頂きたいと思います。

最後に,14ページ目,刑事について論点を一つ設けております。論点1,先に検討した「差止請求の対象として特に対応する必要が高い悪質な行為類型」は,刑事上可罰的であると考えられるか。仮に,可罰的といえる範囲が当該行為類型とは異なると考えられる場合には,どのような行為類型が可罰的であると考えられるかとしております。

資料の御説明は以上となります。御議論のほど,よろしくお願いいたします。

【土肥主査】御紹介ありがとうございました。

ただいまの御説明によりまして,検討の視点,それからこれまで前回ですけれども,論点1と2,こうしたことについては既に御意見を頂いておるところでございますけれども,この検討の視点と論点の1と2,これらについてまず御意見を頂戴して,その後,論点3から6まで一括して御意見を頂戴したいと思っております。

それから,刑事についても今御紹介がございました。前回は,私は次回は刑事ではないかなと思っておったんですけれども,まだ民事が残っておるということでございますので,刑事については時間的な余裕があった場合にのみ扱わせていただきたいと,このように思っておるところでございます。

それでは,検討の視点,それから論点1と2について,御意見を頂戴したいと思います。いかがでしょうか。

【大渕主査代理】詳細に御説明いただきありがとうございました。1ページから2ページにかけての検討の視点というのは今回事務局の方でも非常に濃く書いていただいているところで,これは今後の検討の出発点として重要な観点かと思います。

木下先生のヒアリング結果云々というところの関係で,表現の自由というところと,最後から2行目ぐらいの「明白な場合に限って規制する」という点について少しコメントさせていただければと思います。

まず,表現の自由というのは,憲法と著作権法という論点が出てくるたびに必ず出てくる点ですが,少し著作権から離れて考えてみますと,町を散歩する自由というのは万人に認められており,公道なり合法的に通れるところを通る自由はあるわけですが,散歩する自由があるからといってもちろん他人の土地に不法に侵入してもよいということにはなりません。それと同じことであり,要するに,著作権侵害をして表現をする自由があるのかという大きな論点につながってくると思います。表現の自由といっても,先ほどの散歩の自由とパラレルになってきますが,そこのところはよく注意して,ただ言葉を走らせるのではなく,どのような実質かというところに注目すべきではないかというのがまず1点目です。

それから,それと関係なくもないのですが,「明白な場合に限って規制する」という文言が下から2行目にありまして,「明白な場合に限って」というのと「規制する」ということの関係が問題となります。事前差止めは明白な場合に限るという議論に私は個人的には賛成しませんが,先ほどの文言では,損害賠償についてまでも明白な場合に限ってということになるようであり,やはり気になるので,コメントさせていただければと思います。

その関係では,特許法での無効抗弁における明白性要件という有名な論点との関係と,それから一般の民事訴訟との関係で2点ありますので,順次申し上げます。御案内のとおり,平成16年特許法改正で特許法104条の3という有名な無効の抗弁というものができました。その立法の際には「明らか」要件を課すかどうかというのが大論点になり,結局,現行法としては,「明らか」要件が課されてない,すんなりと「無効にされるべきものと認められるとき」ということになりました。その部分だけを見るとさっと出されているように見えますが,実は大きな議論がありました。こうなった理由は幾つかあるかと思いますが,その一つとしては,聞いてみたらなるほどと思ったのですが,利用者の方に聞くと,明白については,客観的に無効理由が存在するかどうかというのは客観的な判断ができるけれども,当該裁判官なり判断者が明白と考えるかどうかというのは,主観的な判断となり,人によってさじ加減次第で,非常に明白の度合いを高く取る人もいれば低く取る人もいることで判断が主観的となり,不安定となるという批判が強かったと記憶しております。そのようなことになることについては,予見可能性がないと言われた人もいますし,御都合主義になってけしからんという人もいました。それだけが理由でもないのでしょうが,結果的には,やはり法律としては,客観的な,法治という,誰がやっても同じような結論になるということが重要で,個人ごとにさじ加減次第で変わるという,主観的な人治というのは避けるべきであり,そのような点も理由になって,結局,特許法では「明らか」要件というのは入れないことになったかと思います。「明らか」と言ってさらっと流してしまいがちですが,本当に明白かどうかというのは個人によって差が出たりする主観的なものとなると,法的安定性を害するので,哲学論争としてやるのは面白くてよいのかもしれませんが,法学としてやるには国民の権利義務に直結してきますので,判断が主観的にならないという法治の点にも十分目配りをした慎重な検討が必要であると思います。

それからもう一点は,民事訴訟法的には,これは,私もアメリカに留学したとき最初にびっくりしたんのですが,日本だと民事訴訟法の教科書を見ると証明というのは裁判官が確信を抱いた状態だと,ドイツと同じことが書いてあるのですが,アメリカに行くとそうは言われていなくて,証拠の優越,preponderance of evidenceで,物の本などで一般的に言われているのは,51対49なら証拠が優越するから認定できるということのようです。それが果たして日本やドイツでいっている確信と同じかどうかもよく分からないのですが,民事訴訟法で一部議論されているそのような辺りも十分注意する必要があります。そうなると,憲法の先生でアメリカ法前提で研究されている方はどうしてもアメリカ法のベースが前提になっていますので,その先生が言われる明白性というのは,もしかしたらpreponderance of evidenceより高いという意味での明白というのは,我々が思っている確信とむしろほぼ同じレベルになるのかもしれません。先ほど申し上げましたとおり,最後は明白になるかならないかで結論が違ってきますので,哲学論争なら言葉の問題だけで済むのかもしれないのですが,法律論としては国民の権利義務に直結してきますので,そこはきちんと詰めておく必要があります。もう一点は,憲法もアメリカ,ドイツ,イギリス,フランスのもの全部を参照すれば一番よいのですが,イギリス,フランスは無理でも,最低限,日本の憲法を理解するためには,アメリカだけではなくて,日本の憲法学に大きな影響を与えてきたドイツの憲法学は必ず参照する必要がある。その点は,著作権法についても同様というよりは一層そうであると思います。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに御意見ございますか。

じゃあ,きょうは茶園さんから。

【茶園委員】2点お伺いしたいことがあります。1点目は,この検討の視点における憲法のことです。憲法に関してはこの委員会でヒアリングをされました。私はそのときは,すみませんが,欠席していたのですが,ここであえて憲法に関して言われることの趣旨について,お教えいただきたいと思います。

といいますのは,検討の視点の丸1,丸2で書いてあることは,リンク情報の提供行為が表現行為であって,ゆえに表現の自由が問題になるため,きちんと考慮しなければいけないということでしょうが,著作権法においては,通常著作権侵害が問題になる行為は誰もが表現行為と考える行為であると思います。ですから,著作権法で権利侵害かどうかを問題にするときは,正に表現の自由の問題が存在していて,それを真正面から考えているのであろうと思います。

そのことからすると,丸1,丸2であえて表現の自由を取り上げているのは,リンク情報の提供行為が,通常表現行為とは考えられないもので,ゆえに表現の自由を考慮しないおそれがあるのできちんと考慮しましょうという注意喚起のために書かれているのでしょうか。この理解でよいのかどうかを確認させてください。

2点目は,ここでは論点1から6まであって,誰の行為が問題になるかとか,その場合の対象になるサイトの特性とか,その侵害コンテンツがどんなものかといったことが書かれています。これらは,規定を仮に設けるとした場合の要件となりそうなものをイメージされているのではないかと思います。そうだとしますと,要件となりそうなものは,これらの論点のものに限られるのでしょうか。私の個人的な意見ですが,リンクによって権利者に非常に悪影響を及ぼすような場合には,それを規制すべきであって,サイトの特性とか侵害コンテンツの論点は,そういう悪影響を及ぼすような場合を具体化するものではないかと思います。そうだとしますと,例えば,113条5項の音楽レコードの還流防止措置のような,著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることになる場合のようなものを,そもそも要件にすればよいのではないか,そして,更にそれを明確化するために,例えばサイトの特性や侵害コンテンツについて具体的な要件を定めればよいのではないかと思います。今回,緊急に対応すべき必要性の高い悪質な行為類型を取り出すとする趣旨からいっても,著作権者に非常に悪影響を及ぼすという場合ということをまず要件にするということを考えれば,大変分かりやすいのではないかと思います。

以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに手を挙げて……。奥邨さんと……。はい,奥邨さん。

【奥邨委員】まず,1から2までのところ,検討の視点から2までということなので,検討の視点については私はこれで非常によくまとめていただいたということで,私としては賛同するものです。

それからあと,先ほど2ページの下のところで,木下先生の分のヒアリングのところでありましたけれども,最後の3行の,「そのため」以降をどう取るかというのはあると思うんですが,その前の部分ですね。著作権侵害に該当するかどうかというのは,そもそも何が著作物かとか,それから著作権侵害の場合誰が権利者かというようなことであるとか,それからライセンス関係のいろいろな公示とかも全くありませんので,ユーザーとしては著作権侵害サイトや著作権侵害コンテンツにURLを張るのが駄目と言われると,非常に迷ってしまって,リンクを張ること自体が怖くなって萎縮してしまうというのは,これは事実としてあろうと思うんで,その萎縮をさせないようにする工夫としてどういうものがあるかについては,それがどのレベルかというのはあるんですけれども,これはやはり全体を通底して重要なところではないかなと私は思っているということを申し上げたいです。

それからもう一点なんですが,論点の1と2の関係のところで,論点の……あ,そうか,すみません,最初の1ページのところだと,「結果に対して因果的に寄与している」という部分がありますし,3ページのところですと,「リンク情報を掲載する行為は,公衆送信や複製といった結果の発生に関する危険の程度が高く,実質的な送信可能化と同視でき」というような部分があると思います。これは,若干前提条件が省略されていて,そのままですと,後々一般の方ですとか裁判に誤解を与えないかなと思いますので,一言私としては意見を述べたいと思います。 今回の委員会では,そもそもリンクがどういう技術で実現されているかということ自体は,何か所与の事項というようなことで,余り細かくは見てこなかったかというふうに思いますので,それを補う意味もございます。

リンクというのは,技術的実態としましては,リンク先のサイトのURLアドレスを示すHTML命令に過ぎません。例えばリンクが掲載されているサイトを私が閲覧しますと,そのサイトから私のパソコンに対して今申し上げたリンク先のURLアドレスを示す命令が送られてまいります。そして,私がそのリンクを私のパソコン上でクリックしますと,私のパソコンでそのHTML命令が解釈されて,リンク先のサイトにアクセスするわけであります。私のパソコンがアクセスするわけです。したがって,リンクをたどるとか経由するという,例え言葉が使われますので,若干一般的には誤解されがちなんですが,リンクが掲載されているサイトがリンク先へのアクセスに何ら関与することはないということになります。

著作権法は,自動公衆送信を公衆の求めに応じて自動的に公衆送信を行うことというふうに定めてございます。それとの関係で今申し上げた技術的実態を説明いたしますと,リンクは公衆による求めをまず助けているということになります。少なくとも,技術の実態としては,送信者側を助けているのではなくて,受信者,求める者を助けているという状態になります。さらに,そのリンクを掲載しているサイトは,公衆による求めを助けている者,すなわちリンク者を助けているという構成になります。更に言いますと,そもそも公衆自体が,求めることで――先ほどの著作権法の定義ですけれども――それで送信者を助けているわけであります。そして,著作権法は,受信者の行為,求める行為自体は問題なし,適法というふうに位置付けているわけであります。とすると,その適法な公衆を助けるリンク者,そのリンク者を助けるサイト運営者というふうな分析的な理解も可能なわけであります。私はこの理解を皆様に採用してくださいと申し上げるつもりはございませんが,ただ私としては,ここにある結果的に因果的に寄与しているという一言で言う前の段階として,そういった分析的な理解も可能ではあるということ,しかしそれをあえて離れて,見た目の結果に着目してという評価をするんだということなんだとすれば,やはりそれには,分析的な理解を乗り越えるだけの,単にリンクを提供したということよりは,悪質性とか加速性とか促進性などが必要とされるということなんだろうと個人的には理解しております。

基本的には,こちらに書かれていることの,本当は私が先にこれを言ってからこの結論が出たらよかったんでしょうけれども,順番は逆になりましたが,後々のために一言申し上げたいと思います。以上です。

【土肥主査】はい。森田委員。どうぞ。

【森田委員】前回の議論のときにも申し上げましたけれども,ここでどういう問題が設定されていて,何を議論すべきなのかということについて,必ずしも委員の中で共通の理解が十分成り立っていないのではないかという危惧を持っておりましたので,今回「検討の視点」という形で,冒頭でこのように整理していただいたことは非常に重要だと思います。

その上で,ここでの問題設定についての認識ですが,リンク行為それ自体は著作権侵害ではないというのが現行法の立場であって,一般法に照らして考えるときは,それが著作権侵害行為に対して幇助に当たる場合に限って違法になるということであります。幇助になるということは,著作権侵害を容易にするとか,助長する,促進するという客観的な効果を持つということがまず前提となるわけでありまして,決してリンク一般がそのような効果を持っているわけではありません。例えば,ほとんど誰も見ないようなサイトやブログにリンクが張ってあっても,それは幇助としての効果は一切ないわけでありますから,それが違法となることはないわけであります。まずは,リンク行為がそのような一般法によって幇助になるということの客観的要件を充足し,かつそのことについての主観的な要件を充たすことで限定された範囲というのが,リンク行為が違法となりうる一番広いところだと思いますが,更にその中で,ここでは特に悪質で緊急に対応する必要性が高い場合をくくり出して,それをどのようにして明確化するのかというのがこの委員会で設定された問題であるというふうに私は理解しております。

したがって,例えば,単に違法なサイトであることを知りながらリンクを張ってリンク情報を提供する行為を全て違法とすべきであるという意見がありますが,このような見解は,先ほど述べた幇助の定義との関連でみますと,著作権侵害を助長・促進する効果を客観的に有するという幇助行為には当たらないような場合も含めて,単に違法サイトであることを知っていれば,それだけで一律に違法としてしまうということでありますから,むしろ幇助よりも違法行為に当たる範囲を広げるべきであると主張する見解であることになるかと思います。論理的には,そのような意見もありうるかとは思いますが,「検討の視点」で確認されているように,ここで議論をしようとしているのはそういうことではなくて,リンク情報の提供行為が幇助に当たる場合の中で,特に悪質なものを更にどのように限定するかということであったはずです。さらに,幇助に当たるためには,先ほど述べたように著作権侵害行為を助長・促進するという効果を持つという要件を充たす必要がありますが,これも規範的な要件でありますから,それを直接に立証するのは難しいとしますと,客観的要件の充足をどのようにして,より形式的なといいますか,外形的な要素によって押さえていくことを可能とするのかということが求められるべきだと思います。

そのような観点からしますと,今日の資料の論点2ですが,前回サイト全体を捉えて問題とするのか,個々のリンク行為を対象とせざるをえないのではないかという議論もありましたけれども,あるリンク情報の提供行為がそういう幇助行為に当たるというためには,先ほど茶園委員が著作権者に対して非常に悪影響を及ぼすような場合にそもそも限定すべきであるということを言われましたが,そのような効果を有する場合に限定することが必要となるはずでありまして,どのような場合にそのような効果が認められるかということを,リンク情報を掲載するサイトの特性から限定できないかというのが論点2だろうと思います。そのような客観的な要素による限定なくして,主観的要件のみでリンク情報の提供行為一般を違法とするのはここでの問題の設定にそぐわないものであって,サイトの特性などによって限定をした上で,そこで掲載されたリンクのみを対象とするというのがここで進めていくべき議論だろうと思います。

それから,「表現の自由」という概念の意味内容ですが,リンクというのは,インターネットにおいてどこにどういう情報があるかということを他者に伝達する行為でありまして,インターネットの世界においては,どこにどういう情報があるかということを他者に伝達するということは,これはインターネットを組成するといいますか,それが認められなければインターネットの世界は成り立たないわけでありますから,そのような意味においてリンクという表現行為は,まずもって根源的な権利であるということができます。ヨーロッパなどでも,そのような前提に立ってリンク行為に関する議論が進んでいるかと思います。そのような,どこにどういう情報があるのかを他者に伝達する行為が基本権として重要な行為であるとして,これを尊重しようというのを,「表現の自由」というふうに我が国では呼ぶことになるのだと思いますが,「表現の自由」というふうに言い替えると,論者によってやや受け取り方がずれてくるところがあるように思います。インターネットの世界において持っている情報伝達行為の重要性というものをまず前提に考えるとすると,それに対する制約というのはできるだけ謙抑的であるべきであろうし,さらに,それを制約する要件というのも明確でなければ過度の萎縮効果が生ずることになる,というのが私の理解でありまして,「表現の自由」という言葉そのものに余り引きずられない方が良いかと思います。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

今,お聞きになっていて,小林調査官,質問も含めてお答えになる部分がありましたら,お願いします。

【小林著作権調査官】茶園委員からの御指摘の2点目,113条5項の著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることになる場合など,著作権者に悪影響を及ぼす場合を真正面から要件に,という点については御意見と思いますので,その是非についてはこちらで議論いただければと思っております。

茶園委員からの1点目の,表現の自由を「検討の視点」で記載し,そもそもなぜ憲法学者にヒアリングをしたのかということですが,こちらの議論を開始して間もなく,小委員会では,権利者側だけではなくプラットフォーマーやインターネットユーザー協会の方々からもヒアリングを行っております。その際に,皆様に言われたのが,表現の自由でした。そのような状況を受けまして,このリーチサイトの問題を検討するに当たって表現の自由がどのように関わるのかについては,専門家から御意見を伺った方がよいと思われました。委員の皆様には当然の前提かもしれませんが,事務局も含めて広く共有した方が良い問題と思われましたので,ヒアリングを行い,その視点として大切なものを今回記載させていただいております。

【土肥主査】あと,大渕委員から御意見を頂戴していた部分ですけれども,木下先生からのヒアリングを頂戴していた部分についての再現をしていただいていると思いますけれども,その妥当性といいますか,つまりこれ,木下先生がそういうふうにおっしゃってそれをまとめていただいたという整理でよろしいんでしょうか。

【小林著作権調査官】2ページ目に記載している御意見は,木下先生のヒアリングの際に出された御意見の概要から抜粋したものとなっております。前回,木下先生から頂いた御意見の概要を参考資料としてお出ししましたが,その際には木下先生からは承諾を得ておりますので,木下先生の御意見ということで間違いないと考えます。その概要から抽出して「検討の視点」をまとめたのは事務局でございます。

【土肥主査】ありがとうございます。

検討の視点として丸1,丸2,丸3とあって,今表現行為の問題が出ておりましたけれども森田委員が言われるような,そういう文脈の中でここのところは理解をしたいと思いますけれども。我々として,基本的に共有していただきたいのは,要するに丸3の部分ですね。これは本小委の議論をスタートするに当たって我々前提としてここから議論を始めたというところがあるわけであります。差し当たり緊急に対応する必要性の高い悪質な行為類型を取り出して対応を検討するというところ。ここについては皆さん御了解いただけるわけですよね。

龍村委員,どうぞ。

【龍村委員】その点についてですが,まず表現行為に対する萎縮的効果が大きいから特に悪質なものに絞り込むという前提であるわけですけれども,一般に知的財産権の侵害行為は差止め,損害賠償あるいは刑事罰という効果を伴うわけですが,その中でも差止めというものは非常に強力な効果だというように認識されているのだろうと思うわけです。例えば特許権侵害であれば,差止めというのは工場の製造ラインごと止めることを求めるような,非常に強力な効果であると。それに引換え損害賠償はそこまでではない――金額にもよりますので軽いということではないのかもしれませんけれども,比較的,効果としては穏当なものだというような理解があるのだと思います。

しかし,リーチサイト問題の場合は,差止めといいますけれども,別の言葉で言えば削除請求ということであるわけで,別に削除すること自体は作為として容易な行為ですし,違法なものについて削除を求める請求自体はさほどに萎縮的効果が果たしてあるのだろうかという疑問をやや感じます。むしろ,過去分までに及ぶ可能性もある損害賠償や刑事罰,こちらの方は萎縮的効果は確かに高いと思うのですね。差止請求,言い換えれば削除請求,というものは請求された側はサクサクと削除して対応することも可能でして,自分がアップしたものが侵害行為に関連しているということが分かればそれを削除すればいいわけであるだけですから,そこにいわゆる萎縮効果,シュリンク・エフェクト,それはそんなにないのではないか,少なくとも,比較的少ないのではないかというような部分があると思います。その意味で,悪質な行為類型の絞り方というのは,むしろ別の要素,あるいは主観面なのかもしれませんし,侵害コンテンツの対象かもしれませんけれども,そういう別のもので絞り込むというアプローチも一つあり得るのではないかと。その意味で,差止請求を考えるときに行為態様のところで絞り込むというのは,果たしてどうなのかということは感じるところであります。

【土肥主査】大渕委員,どうぞ。

【大渕主査代理】今,龍村委員が言われたのは私も全く同感の面があります。ただ,悪質なものをどう絞るのかという話で,先ほどどなたかも懸念されたとおり,余りに緊急にそこだけ取り出すというところが前面に出過ぎているように感じます。やはりこれは法体系全体を考えてどこを変えるのか,知的財産の効果としては差止めと損害賠償と刑罰とあるので,そこを考えずに一部だけ走らせてしまうと議論がゆがんでくるのではないという気がいたしました。

先ほど言われた還流レコードなどのように,出発点は正犯ないし基本行為が違法かどうかというところがあって,それで違法だと決まったものに対してそれを助ける,自分で行う人は当然駄目ですが,そういう行為をそそのかす人も駄目だし,助ける人も駄目であるというようにそこから始まってくるので,大元のところを固めるのが一番重要なのだと思います。もちろんどなたか言われたとおり,リンクが非常に重要であることは間違いないのですが,重要だけれども善のためにも悪のためにもなるので,悪のために使うのはやめさせるというのは,やはりリンク自体の重要性とは別の問題として,当然考える必要があると思います。

それから,差止めでまたもう一点言いますと,アメリカ法を中心に勉強されている方が法学者にせよ法律家にせよ少なくないと思うのですが,アメリカ法は,御案内のとおり,救済として,コモンロー上の金銭賠償以外にエクイティー上のインジャンクション(差止め)等があります。インジャンクションに違反するとcontempt of court,裁判所侮辱で,罰金とか,imprisonment,日本語では拘禁と訳していますが,要するにろう屋に入れられるという,刑事のような大変なことになってしまいます。日本法では差止めに違反したからといっても別にろう屋に行くわけではないのですが,アメリカ法の場合には,やはりインジャンクションというのは特別の裁判所の命令ですから,それに違反すると物すごい効果があるということです。やはりどなたかが言われたとおり,効果との比較考量をする際にはアメリカのロイヤーは当然アメリカの制度を中心に考えていますが,日本はドイツに近い法制なので,そこのところは間違えずに効果を考える必要があります。そこの点もきちんと考えた上で,大元のところをどう絞り込んでいくのか,そこで後に出てくるような32条なのか,あるいはノーティス・アンド・テイクダウンなのか,その各論のところが重要になってくるのではないかと思っております。

【窪田委員】ちょっと一つよろしいでしょうか。

【土肥主査】どうぞ。

【窪田委員】ちょっとお話を伺いながら気になっていたことがございます。まず前提として,木下教授の立場を十分に理解しているかどうか分からないのですが,木下先生がこのヒアリングの中でおっしゃっていたときに想定していたのは,必ずしも単純にリーチサイトの話だけではなくて,より一般的な検索サイトにおいて違法に当たる情報が表現された場合に,検索されてヒットした場合どうなるのかということも念頭に置いておられたのではないかと思います。つまり,それぞれの元のサイトで名誉を侵害する,あるいはプライバシーを侵害するといったようなことがある場合に,それが検索サイトでヒットされた場合にどうなるのかということも踏まえつつ,片一方で一定の検索サイトの役割であるとか,そのリンクによって所在を示すということのインターネット上の重要性ということも考えた場合に,それを表現の自由というかどうかはともかく一定の考量がいるということだろうと思いますし,当然に違法なわけではないリンクということについてどう考えるのか。これは森田委員からもお話があったところですが,そうした問題を扱っていたのではないかと思います。

その上で,ちょっと先ほどから気になった点ということになるのですが,差止めといっても結局削除するだけなのだからそんなに大変ではないでしょうと。工場のラインを止めるわけではないということではあったのですが,削除請求されたときにその削除請求が正当なものであるかどうかということは,当然にはリーチサイトのあるいはリンクを張った人には分からないのではないかなと思います。一方で,元のサイトに対して差止めが認められて,あるいは削除が認められてということで,なおその判断が出たにもかかわらずリンクを張っていると,これが違法だということは非常によく分かるのですが,元のサイトに対しては何も言わないけれどもとりあえずリンクしている方にだけ言うという場面の扱いです。ある意味で,検索サイトでもそうなのですが,これに関してそれが名誉棄損に当たるのか。名誉棄損だったら一般的には真実性の抗弁ということで公共性,公益目的性,真実性とかいろいろな要件が必要なわけですが,直接表現したものではないものにそうしたことの当事者になった場合に判断を求めるということが当然できるのかどうか,それほど明らかではないんではないかと思います。

大渕先生からのお話の中にもあったのですが,元のサイトについての違法性が明らかであればということは,明らかになっていれば話は簡単なのですが,そうではない部分にこの問題の難しさもあると思いますし,そうではないにもかかわらずリンクサイトについてどういうふうに扱うのか。これは茶園先生からお話があったとおり,もちろん表現の自由と一方で著作権の衡量というのは,正しく著作権法がそういったいろいろなものを考慮しながら判断枠組みを作っているとは思うのですが,リンクを張るということだけであれば,それが当然に著作権法の解釈から単純に答えが出てくるほど単純ではないのではないか。だとすると,一定の,本来はリンクを張るということ自体は,それ自体としてもう客観的に違法ではない行為について差止めであるとかあるいは損害賠償であるという話をせざるを得ない以上,それについてできるだけ客観的な基準が明確になっていないと。つまり,基準が明確であればそれに対して対応すればいいわけですけれども,明確ではない基準で一体違法と判断されるか不法と判断されるかも分からないということであれば,ある意味で安全策を取ろうと思えば一切しないのがいいということになってしまいかねない,それが萎縮効果の問題なのではないかと思います。木下先生の最後に書かれているのもそういう趣旨ではないのかなというふうに私自身は理解しておりました。

【土肥主査】はい,じゃあ,松田委員,お願いします。

【松田委員】今の意見で,リンクを張っているものが削除を求められたときに当該リンクが適法かどうかを判断することは難しい,そういう問題点があるという指摘でありました。しかしながら,この委員会の中で,主観的要件としてリンクを張る者が知っているという要件は誰も異論なき要件です。違法であると知っている者がリンクを張っているということを前提にして,そして削除ができるように要件を考えようとしているわけですから,違法か適法か分からないものに対しては,当該リンクを削除しろということは要件的にない,そういうことになりはしませんでしょうか。もちろん,実務的には,権利者が違法だよという通知をしてしかるべき事実,証拠を示して通知をした後,これが明確に知っているということになれば,この要件を充足するということになります。果たして適法かどうか分からないという状況の中で請求を受けたときに判断できないということがあるからというのは,そもそもこの委員会の議論の中からは出てこないのです。

【窪田委員】よろしいでしょうか。

【土肥主査】はい,じゃあ続けてお願いします。

【窪田委員】おっしゃる意味はよく分かります。差止めを認める最低限の要件として,違法であることを認識しながらということが入っているということではあるのですけれども,最終的には違法であるということを認識しながらというのがどういうふうに判断されるのかなというのが,私自身はまだちょっとよく分からないことがありまして。つまり,一定の証拠を示した上で違法だということを示して通知をして,少なくともそれがないと当然には差止めできないということになりますよね。

【松田委員】実務的にはそうだと思うんです。

【窪田委員】証拠を示してというふうにおっしゃったのですけれども,ただその上でもよく分からないのは,その証拠が直接の表現者自体ではない,ほかのアニメーションをそのままデッドコピーして載せているようなものであれば単純に分かるのかもしれませんけれども,そうではない場合に,それを判断するということが請求された側というのは,やっぱりそこで分かることは請求者が違法だと主張しているということしかまだ分かってないんじゃないかなというふうに思うのですね。ですから,おっしゃる意味はよく分かるのですが,結局そこの部分で一定の明白性というのを要件としていかないと議論ができないのではないかという文脈での主張だったんではないかなというふうに理解しております。

【土肥主査】じゃあ,続けてどうぞ,松田委員。

【松田委員】今委員が言われたように,明白にデッドコピーであるような場合はともかくと言われていましたけれども,そういう場合のところを削除を要求するというのが議論だろうと私は思います。

ただ,後日になって知らされてというのも,この場合も明白性になる場合はあると。しかし,明白でない場合も委員が言われるようにあると思うんです。その場合には差止めできないんじゃないでしょうか。

【土肥主査】どうぞ。

【大渕主査代理】私,端で聞いていまして窪田先生の御懸念というのは大変よく分かるので,そのために私は,前回,やはりこれ全部を実体だけで絞るのは無理だから,ノーティス・アンド・テイクダウンという形で,これは米国のDMCAの知恵を借りている面はありますが,特定性のある,どこまでノーティスで特定性を要求するか等問題になってきますが,最終的にはその機会を与えられているにもかかわらず下ろさない者について差止めを肯定するという,実体プラス手続の両方で組んでいくしかないということを申し上げました。本当は事務局にその点を本日のペーパーに入れていただきたかったという面はあるのですが,やはり実体だけで絞り込むというのではなくて,実体・手続両方組み込んで初めてバランスの取れたルールとなってくるかと思います。それを入れていただくと,窪田先生の御懸念にも十分配慮がなされると思われます。時系列的に言うと,非常に特定性のあるこれこれこういう権利が侵害されているというのを実務的には内容証明で打ってきて,それで判断していくというように情報は順次与えられてきて,最終的には本裁判では口頭弁論終結時までにどんどん資料が集まってきて,その後でしか判断は出ませんから,最終的には御懸念のあるようなところは,実体面での絞り込みと手続面での保障と両方合わさって両方によってバランスが取れてくると思います。この手続面がペーパー上抜けているので,やはりそこのところは早めに入れていただければありがたいと思います。

それから,先ほどの憲法のところで言わなかったのですが,明白な場合に限って規制するというのは,私も憲法全く素人でもないのですが,やはりそこまで言ってしまうのは表現の自由として言い過ぎだろうなと思って,心配になって知り合いの普通の憲法学者に聞いても,それは内容規制か否かなどいろいろ複雑なことを考えてしかこういうアンサーは出せないということなので,これは憲法論で即このように決まるというよりは,こうなった方が好ましいという程度の話で,明白でなければ差止めないし規制が違憲になるとは言えないだろうと,知り合いの憲法学者も私も思っております。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】今のに関連してなんですが,昔企業の法務部門にいた際に,プロバイダーの法務業務をお手伝いしたことがございます。最初にプロ責法ができた頃でございますけれども,そのときに一番やはり悩ましいのが著作権の場合は著作権者を主張される方から,自分の著作物が無断掲載されているから送信停止してほしいという要請がありましても,市販されている著作物等々であればすぐ対応可能なんですけれども,そうでないと,その請求自体がそもそもどうかということをプロバイダーであっても確かめるというのは非常に難しいところはございました。だからこそ,一般の人だったらなおさらだと思いますので,先ほどの木下先生の2ページのところのように,どっちか迷うよりリンクを張ること自体を,そんなことに巻き込まれるぐらいならやめておこうといって萎縮するというところが私は心配なんじゃないかなと思います。

一方で,プロバイダーも困るからこそプロバイダー責任制限法,ノーティス・ノーティス・テイクダウンという仕組みを取っておりますし,更に信頼性確認団体という仕組みも持っていたりして,できるだけ簡便になるように,できるだけ市販のものとか何とかに限るようになっているんだと思う。ですから,これは後の議論に続くんだと思っております。

それからついでに申し上げておきますと,そもそも著作権法に何か所か「知りながら」とか,「情を知って」みたいな規定がありますけれども,これどのレベルまで知るべきかというのはいろいろ議論があろうかと思います。関連する判決の中には,確定判決じゃなくてもいいけれども公権的判断が出る必要があるとしたケースもあります。それで確定しているとは言いませんが,議論があるところですから,今回なんかは特に萎縮を考えるんであれば,余りカジュアルに侵害と言ってきたからといってすぐ落とせばいいという次元ではなかろうと。かなりレベルの高い,確度の高い情報が来て初めて落とす落とさないという議論をすべきであって,その辺は経済的なことだけが問題になるときとはまた違ってくるのかなというふうにも思っております。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

お聞きしておりますと,異なる御意見の部分も確かにございますが,共通する部分もある。つまり,窪田先生がおっしゃるようなところ,あるいは松田委員がおっしゃるようなところを実はよく聞いてみるとそんなに矛盾するわけではない。つまり,そもそもリンク行為というのはインターネット上の中性的な技術であると。ただそれが,知りながら侵害著作物をリンクしていって,その様々なエレメントを付けて悪質性の高いものについて捉まえていくというふうにつながっていく場合は,これはそこにおけるリンク行為というのは法的に何らかの対応が必要な対象になり得るわけですが,もともとリンク行為というのは,言ってみれば必須のインターネット上の技術であるとすれば,そのことも我々は十分認識しておかないといけないんだろうと思います。その上で,きょう確認していただきたかったところは,この際著作権の実効性を確保すべく広く規制を考えていくのか,あるいはここに書いてあるように,差し当たり研究に対応する必要性の高いところ,そういう部分を捉まえて,今回この部分についての案をまとめていくのか。ここは非常に大きく違うところだろうなと思っております。

しかし,我々がこの委員会で議論をスタートしたのは確かにこのペーパーに書いてあるこの立場であったことは皆さん覚えておいでになると思います。差止請求,損害賠償がどうだこうだという話もございますけれども,やはりないところに差止請求が認められるというのは大きいところでありますので,そこはやはり重々意識をしなければならんだろうと思っております。

そこまで申し上げて,我々の基本的な認識としては,この丸3に書いてあるこのところをベースにおいては認識して共有しておいていただきたいと,こういうことであります。そのベースにおいて認識をしていただいた部分では,著作権の実効性を欠くような場合が生ずるのであれば,そこは考えさせていただきますけれども,ベースのところにおいて実効性が確保できるんであれば,そこはそこの上に立ってまた次を考えていくというふうにせざるを得ないんじゃないでしょうか。時間を,実は本当は1時間も掛ける予定ではなかったわけでありますけれども,いかがでございましょうか。検討の視点としてはこれで了解していただけませんか。よろしいですか。

御異議はないということでございますので,検討の視点としてはこの形で,その先は実効性を確保すべくいろいろなものを考えていきたいと思います。

民事の点において,例えば丸1,丸2について,幾つか頂きましたけれども,例えば余り出てない意見としてアプリの問題があります,アプリ型です。サイト型については皆さん大体頭の前提,検討の前提にされておられると思うんですけれども,アプリがまた複雑なところがありまして,2タイプあるわけであります。そういう場合にあっても同じだとおっしゃる方もあるし,考えてみますと私は違うんじゃないかなとも思ったりするところもあるわけであります。

そこで,皆さんに御意見を頂戴したいのは,この論点1のところにおいて,アプリ型というのはサイト型と同じように考えていいのかどうか。それについて一言御意見を頂ければと思うんですが,いかがでしょうか。

奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】アプリ型については,技術的なところが必ずしも明確になっていないかと思いますので,全く同じように評価していいのかというのはちょっとあると思います。この情報埋め込み型というのは,これはサイトとリンクがセットということかと。掲載者とサイトを作った人とがセットということと近いんではないかなとは思われるわけです。そのボタンを押せばそのまま行くということは,リンク自体も提供している。 ただ,次の外部情報取得型になると,誰が提供した情報をどの――そのアプリを作った人も情報を提供しているのか,それとも第三者の情報を取り込んでいるのかという辺りが仕組みとしても違います。そうすると,アプリで見るのか,それとも立てているサーバーで見るのかというようなことは,これは技術的に見ていかないと本当は分からないところだろうと思います。というのは,アプリアプリと言っていますけれども,外部情報取得型のアプリというのは実質は単なるブラウザと変わらないという見方もできるんですね。汎用性があるかないかだけの違いです,情報を取り込んでくる場合。しかも,その取り込んでくる情報がもしかしたら違法情報と適法情報と混ざっているという状態になってくると,アプリだけの問題なのか,提供する情報を送り出すサーバーの問題なのか,そうしたらそのサーバーに載っける人の問題なのかということで,関与者は多分増えてくるだろうというふうに思います。甲乙丙のほかに丁とかもっと増えてくる可能性がありまして……。

【土肥主査】その丁というのは,サーバーの管理者ということになるんですか。

【奥邨委員】サーバーの管理者になる可能……あ,サーバーの管理者は丙かもしれません。それからあと,このアプリを配っているサイトというのが別途戊という形で出てくるかもしれません。したがって,こう簡単に割り切れるかどうかというのは細かく見ていかないといけない。だから,逆に言うと,今書かれているのは同様と評価できるのならば同様に扱えるということなんであれば構わないですけれども,もう少し違う関与者が,先生おっしゃったようにリンク情報のサイトの管理者もありますけれども,そこへ情報を提供する人,更にアプリを作る人,アプリを提供するサイトの管理者等々登場人物が増えてくる可能性がありますんで,物によっては少し分けて考えざるを得ないのが技術的なところではないかなと私は思います。

【土肥主査】先ほどの実効性の話もありましたけれども,ここをちゃんと実態をきちんと捉えて考えておかないと,せっかくサイト型についてはきちんと対応ができても,アプリの方が抜けてしまうとこれは本当に意味がないことになってしまいますので,ここについてもう一方ぐらい御意見いただければ有り難いんですが,いかがでしょう。

【大渕主査代理】奥邨委員が技術に集中した一番初めの御発言ぐらいで言われたのですが,技術はいろんなものが出てきて幾らでも変わってくるので,むしろ一番肝になるのは丸2でしたか,正犯の行為を容易にならしめると,これは大元のところは先ほどのように分かるか分からないか,客観的には全くの違法だというのを助長しているのかで,あと手続とかいうことになってくるので,先ほど奥邨委員も同様とすればというふうに言われたのですが,法律で制度を作り込むときには,一々技術を列挙し出すと――それこそ前の何かの会議でありましたけれども,技術を列挙し出すと翌年になると技術自体が変わってしまって使えなくなるということになってしまいますので,技術自体ではなくやはり法的に絞り込むしかないと思います。念頭に置くものを一個一個シミュレーションする必要はありますが,技術はいかようにでも変わるし,潜脱するために変えることもできますので。そこのところは,大元が違法なときに違法と知りながらリンクを張る人はやめてもらうということなので,そこの法的な勘所を押さえることが重要であると考えております。一々技術に落とし出すと毎年使えなくなるし,技術を少し変えたら免れることになりますので,事務局ペーパーとしては,まず頭をサイト型で作ってみて,そのサイトではなくてアプリという技術を使うけれども,結局そのサイト型と同じような法的利益状況になるようなものは押さえるという御趣旨だから,割とあっさりと作っておられるのだと思います。技術的にはアプリだけれどもサイトと同じ法的利益状況のものは,等しきものは等しく扱うべしということなので,等しきものは等しく扱うという,そのような法的な建て付けになると思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。等しきものは等しくと,もちろんそのとおりですけれども,アプリ型で埋め込み型のものについては,これはサイトと同じように考えていけばいいんだろうと思うんですが,取り込みのところはやはり奥邨委員が言われたような,そういう誰が誰に対して請求するのかというところの問題に絡みますので,事務局におかれましてはそこのところは少しきちんと精査していただいて,今大渕委員が言われたような,ここの記述があっさりしているようでございますので,よろしくお願いいたします。

それで,論点1と2についてよりも,本日のメインは3から6までだったわけでございます。3から6までですね。この3から6までについてどこでも結構でございますので,3-1,3-2,3-3,そういう枝はありますけれども,どこでも結構でございますから御意見を頂きたくお願いいたします。

松田委員。

【松田委員】3について意見を述べます。3の中の一つの意見として,既に市販されているものに関する違法コンテンツのサイト,これを対象にすべきだという意見があります。確かにこれは違法性が高いなということは類型的には思わないではありませんが,しかし市販されていなくともこれから市販しようとしている著作権者が,違法サイトによって将来の販売――もちろん販売は物としての販売のほかに送信もありますが――を阻害されてしまうようなことを防げないと意味がないと思います。したがいまして,少なくとも市販されているという限定だけで,これに限定してという意見については反対したいと思います。

【土肥主査】将来市販された段階で規制が掛かるのでは駄目なんでしょうか。

【松田委員】駄目です。

【大渕主査代理】駄目なのでしょう。

【松田委員】なぜかというと,例えば映画であれば上映からビデオ化,送信,それから放送。このようにいろいろな使い方を分けて,そして収益最大化を図るということになります。それ以外のコンテンツにおきましても,例えば放送した後市場の状況を見てビデオ化するかもしれませんし送信するかもしれません。そういう状況を待っているときに,先に違法サイトが出来上がって,なおかつそれにリーチサイトがあるとすることによって,おおよそ市場が先に侵害されてしまうような場合に,その後に,市販しましょうか,送信しましょうか,ビジネスを組み立てましょうかということ自体が成り立たなくなってしまうわけです。ですから,現に市販されていることを要件とすべきではないというふうに思います。

【土肥主査】著作権者のその間における利益状態において違いはないと,こういうことのようでございます。

ほかの点についても結構でございますが,いかがでございましょうか。

前田委員。

【前田(健)委員】どういう場合が著作権者に対して大きな損害を与えるのかということですけれども,今の松田委員の御意見でも市販される著作物の市場に対してダメージを与えるということが良くないという御意見だったと思います。つまり,現在のそういった市場にダメージを与えるのは当然駄目ということですけれども,将来のそういう市場に対してダメージを与えるということも併せて保護すべきじゃないかという御意見だと承りました。

そうだとすると,有償で提供又は提示する,市販するというところが最も大きな著作権者が守られるべき利益としてあって,そこが第一の対象となるだろうということなのかなと思います。そういう理解だとしますと,広告によって収入を得ているというものは将来のものを含める意味で言えば差し当たり除外しても構わないということなのかなと思います。

私は,もともと市販されているというところさえ差し当たり保護すればいいのではないのかと思っていたわけですけれども,将来のそういったものに対しても保護すべきだという御意見,それはそうなのかなと思います。ただ,もし将来のものまで含めるとなると,範囲が不明確になりやすいところが問題かと思います。もし何らかの方法で将来市販される予定があるということを明白に示す手段があって,そういう手段が示されたものについては将来の市販の可能性があるものも保護するようにできるのであれば,それはよろしいのではないかと思いました。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

じゃあ,茶園委員,お願いします。

【茶園委員】まず,先ほど申しましたように,一つの要件として著作権者が得ることが見込まれる利益が不当に害されるというものを設けるべきとは思いますが,このような要件は様々な事情に基づいて判断されるもので明確性を欠くでしょうから,これとは別に明確な要件を定める必要があって,コンテンツに関して一つの明確な要件を設けるべきだろうと思います。規制される行為が明確でないと,私はこの問題に関して萎縮効果があるかどうかというのはよく分かりませんが,萎縮効果が仮になくても,問題になるような行為が普通に行われていて,社会に蔓延するという状況は望ましくないでしょうし,この行為は駄目なものということを明確にすれば,多くの人はそれを避けるようになると思いますから,その点からも明確性が必要で,明確性を導くことのできる要件を定めるべきであると思います。

ここからは,先ほどの前田委員と同じような考えですけれども,まず市販のものというのは,これが権利者の利益に悪影響を及ぼす典型的な場面であると思いますから,それを対象にすべきでしょう。そして,仮に将来に市販されるものを含めるとすると,先ほど前田委員がおっしゃったように不明確になってしまいますので,ここはある程度の割り切りで,まだ市販されてはいないけれども,今後市販されるものの多くは発行後一定期間のものに限られるだろうと思いますから,発行後1年とかそういうのを含めることで対応することでよいのではないかと思います。その場合でも権利者の利益をさほど害しないのであれば,先ほど言いましたように権利者の利益が不当に害されるという要件を別に設けていますから,この要件を満たさないということにすればよいであろうと思います。以上です。

【土肥主査】前田哲男委員。

【前田(哲)委員】コンテンツ産業から見ますと,視聴者や読者等から対価を取って提供するのと,広告主から対価を取って広告モデルで提供するのとの二つの道があり,Aの道もBの道も共に,コンテンツの対価を回収する手段であり,方法の違いがあるにすぎないということだと思います。市販されている著作物等に限定するということは,視聴者あるいは読者から対価を取るモデルについては対象になるけれども,広告主から対価を得る広告モデルのものが対象から落ちてしまうことになり,対象が狭くなり過ぎるのではないかと思います。商業目的ということで規定ができればいいのですけれども,先ほど事務局からも御説明がありましたけれども,対象を一定の商業目的で提供される著作物とする場合,具体的に何をもって商業目的というのかその定義が難しいので,なかなか商業目的で提供された著作物等という限定の仕方は難しいのではないかと思います。

私としては,権利者の利益を害する目的があるならば,すなわち,権利者の利益を害するという客観的な事実がまずあって,かつ主観的にもその目的があるのでしたら,対象を市販されている著作物等に限定する必要はないのではないかと思います。

それから,デッドコピーに限定するかという論点3-2ですけれども,一定の単位について全体をコピーしたものをデッドコピーというと資料1には書かれておりますけれども,この一定の単位というのは何かという定義が非常に難しいと思いますので,この点についても,権利者の利益を害する事実があり,その目的があることにより制限を掛けることによって,論点3-2については特に限定を掛けないということでいいのではないかと思います。3-3についても同様に,発行後一定期間というのは明確な要件かもしれませんが,発行後一定期間が経過したからといって著作物等としての要保護性が極端に下がるということではないと思いますし,また発行前の著作物はもっと要保護性が高いということもあるでしょうから,論点3-3についても,この限定をすべきではないと思います。

それから,論点2の場の設定,サイトの特性のことなのですけれども,サイトの特性が侵害コンテンツの流通を目的とするような,権利者の利益を害することを目的として開設されたようなサイト,いわゆるリーチサイトとはそういうものだと思いますが,そういうリーチサイトに投稿することが権利者の利益を害する目的が認められる典型的なケースであるということになろうと思います。しかし,典型的なリーチサイトに掲載する場合以外の場合でも,権利者の利益を害する目的があるならば,リーチサイトに投稿する場合と同様に,それと同視できるものとして対象に含めていいのではないかと思います。以上です。

【土肥主査】じゃあ,はい。

【大渕主査代理】どなたかが,違法か適法か分からないというのが困るので,どちらか割り切ってと言われましたが,それはむしろクリアにすべきであると思います。今の関係からいいますと,もう論点2は終わっていて,もう数などは関係ないし,その点は既に前回言いましたので飛ばします。先ほど言われたのは,結局皆商業的なものを念頭に置いていますが,むしろ商業だろうがもともと一部プロモーション目的で出しているものもありますので,それはもともと黙示の許諾というか,むしろ一部だけ出して残りを売るためにやっているようなものは全く適法なのだと思います。そのようなものを除けば,普通は,どなたか言われていましたが,まだ市販に至っていなくても,これからコンテンツ立国で生きていこうとしているのに直前にいろいろとやられているときがあって,これからビジネス化を図りたいのに,商業には該当しないからという形式的な理由でどんどんリーチサイトで拡散してよいということになるとコンテンツ産業を潰してしまいます。もちろんその産業にとって最初からプロモーションでちらっと出すというのはどんどんやっていただいてよいのですが,そのような許諾がなくて明らかにやってほしくないようなものであれば別ですが,それ以外にいろいろな制限を掛けると,かえって商業かどうかと,恐らく市販と広告は全くそうなのですが,それ以外にもバナーを付けたりなどいろいろなもうけ方があるかと思いますので,種々のものをくっつければくっつけるほど予測可能性がなくなってしまいます。許容されているもの,むしろやってほしいもの,ないしは一つあるとしたら非常にde minimisというか,非常に小規模だからこのようなものは社会的に許容されているといえるようなものを除いてはむしろ原則的には,きちんと後で「知りながら」等で絞り込んでおりますので,ここのところでまで絞っていくと,結局ばらけることにより脱法したりとか,フライングして早く潰すのなら潰せるなどいろいろな弊害が出てきます。そこが先ほど龍村先生も御心配になられたところになってくるかと思いますので,余り別のところで絞りを掛けるべきではないと思います。また,ここで細かく分けていき出すと結局はだんだん判断がつかなくなってくるのではないかと懸念いたします。

【土肥主査】奥邨委員,どうぞ。

【奥邨委員】一言だけ。実は,一言・二言ありますが,論点2については,まだ私自身はこれは重要だと思っているということは申し上げておきます。先ほど出ましたんでね。この論点2の中で,まず「多数」という概念にすると不明確になると書いておりますけれども,ここは非常に納得のいかないところで,そういたしますと公衆概念という極めて重要なものを私たちは「多数」で済ませているわけですので,「多数」がいけないということはなかろうと思います。

それからもう一つは,潜脱の恐れがあるからこういう形でするぞというんですけれども,正に表現の自由が問題となっているような場合は,潜脱の恐れがあるから仕方がないので全部ひっくるめてというよりは,水も漏れないというわけにはいかないけれども,最低限に配慮してということの方がやはり,一般の方から御理解を得やすいんではないかなと個人的には思っております。

もう既に大渕委員からありましたように,終わったことだということもありましたけれども,私は終わってないんですが,とりあえず次に行きますと,論点3との関係で申し上げますと,今いろいろ議論が出ていますけれども,著作権法――先生方の前で申し上げるのも恐縮ですが,つらつら見ますと,まず前回出ました有償著作物という概念を私たちは使っております。ただ,これは刑事だけですけれども。それから,商業用レコード,市販の目的を持って製作をされるレコードの複製物という概念を私たちは使っておりまして,これで貸与権を与える与えないという区別を付けておりますし,更に期間経過商業用レコードという概念もありまして,時間がたつと排他権が報酬請求権に変わるという制度も持っております。さらに,商業用レコードについては,国内頒布商業用レコード,すなわち国内で市販するレコードだけ特別に並行輸入を禁止する,しかも,それも期間の経過で解除されるという仕組みを持っております。さらに,映画の盗撮の防止に関する法律というのがこれは別法律でありますが,その中で明確に著作権法の特例だと書いてある条文では――特例ですから実質的に著作権の一部だと思いますが――映画館において観衆から利益を受けて上映が行われる映画に限って,しかも公開後8か月に限って個人による盗撮も差止めを含めた民事・刑事の制裁の対象とするという仕組みがございます。

したがって,こうやって見ますと,市販であるとか観客から料金を得るとか一定の期間に限るということは,何も今回初めてやるわけではなくて,結構いろいろなところで私どもはやってきているんではないかなと思います。しかもそれで,そういう縛りを掛けてきた理由というのは,ほとんどが権利者や利用者との間の経済的な利益等々の調整が中心に今まで行われてきた部分も多かろうと思います。ところが,今回は表現の自由も絡む問題ですから,経済的な問題で調整ができたのに今回は調整ができないというのはなかなか私自身も腑に落ちないところですし,一般の方にも御理解が頂けないんではないかなと思います。むしろ,やはり積極的に調整して限定を掛けるという議論の方が必要ではないかなと思います。

一言申し上げると,今までいろいろなところでダウンロードの違法化であるとか,非親告罪化のところで私ども非常に一般の方がどういう影響を受けられるか,どういう懸念をされるかと懸念してまいりました。今回のリンクの問題は,それらの問題にも増して一般の方を巻き込む部分が多いわけですから,よりこういう形で限定を掛けていくということは,私としては必要なことではないかなと思う次第であります。以上です。

【土肥主査】奥邨委員に一言付け加えていただきたいんですけれども,論点4について,何か。

【奥邨委員】論点4。

【土肥主査】申し訳ないんですけれども,論点4は余り御意見がなかったので一言お願いします。

【奥邨委員】一言です。論点4は,私はaだけだと思っております。bまで行きますと,例えばじゃあ本に書いて売った場合もとか,どんどん広がってまいるところを止められないと思いますので,とりあえずは一旦はハイパーテキストでリンクですぐ飛ぶということがより問題が高いという。もちろん,寄与する云々を広げていけばどんどんなりますけれども,それはリモートネスだというふうに私は思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

どうぞ。

【大渕主査代理】いつも奥邨委員と逆で恐縮なのですが,bならそのまま貼って使う人は多いと思います。aだけにすれば単なる脱法になってしまう懸念があります。それから先ほど言われた関係は,要するにやはり出発点は正犯なので,正犯の部分は先ほど言われたようないろいろなことで切っているのですけれども,今回問題になっているのは,何ゆえか差止めであります。大元は違法だからそれを幇助した人は損害賠償を何億円も払わされるし刑務所に行くけれども,差止めだけはできないというところなので,そこのところは大元のところはそれでもって全部三者とも絞られるか広がるかでバランスが取れているのですが,今回はもともとすごくこれは法律家ほど引っ掛かっているかと思うのですが,刑務所に行く人が何で差止めだけされないのかというのは,恐らく普通の法律家の理解を超えるものと思われます。このような基本的な点で引っ掛かっている点が,今回の問題の大元にあると思います。それから間接侵害ももう一回見てみましたら,反対の先生も見解をよく見ると,幇助者に対する差止めの可否のところは,112条は駄目だけれども,112条の類推適用だったらいいといった実質は御賛成の方も多いのであって,やはり,幇助者について損害賠償も刑罰も肯定されるが,何ゆえか差止めだけはできないというのは極めて違和感のあるところであります。そこのところに関して,今回表面化するような形で,絞ってしまえばしまうほど,刑務所には行くのに差止めはできないという著しいアンバランスが生じてきます。やはり悪質な行為というのを絞り込む必要はあると思うのですが,それを変な形に絞り込むのは,やはり悪質なものはきちんと押さえるべきなのであり,そこだけは悪質なのに漏れるということでは不平等も生じてきてしまうという問題が生じてくると思います。

【土肥主査】一つお伺いしたいのは,文字列の提供の場合だとものすごく長い文字列を,実際にURLの枠の中に入れていくということですよね。

【奥邨委員】今大渕委員がおっしゃったのは,多分コピペすればいいんじゃないかということをおっしゃったなと思うんですが,ただ,今実際に問題になっている,名前出していいのかどうか分かりませんが,この前逮捕事件があったとかいうのは,そういうリンク集ではありません。実際はインラインフレームリンクということで,そこにサムネイルが載っていてそのサムネイルを押したら漫画が直接そのサイトで見られるとか,コンテンツが直接見られるものです。そうやってむしろ逆にそこからはリンクの文字列を取り出してわざわざ入れるなんてことはできないような,そこは経由しないとできないようになっているようなものだったりしますので,したがってそこで見せるのでそこの広告のページビューで稼いでいますというような話になりますんで,厳密に言うとこういうことになるのかもしれませんけれども,実際に今問題になっているリーチサイトと呼ばれているもののほとんどは,裸でURLを見せているというよりは,URLを押すとその本来の違法コンテンツが見えちゃうというような形になっていますので,どちらかというと,本当に捕らえたい悪質な行為ということであれば,aとほとんど同じということになるんだろうと思います。むしろbのようなことをしても,誰もアクセスしないんではないかなと思います。

【土肥主査】それから,論点で行きますと,主観の問題は既に「知りながら」というような形で出てきておるわけでありますけれども,この「知りながら」は恐らく全員の共有している主観的な要素だと思いますけれども,それ以外の要素,例でいいますと,図利加害目的とかそういう点についての問題をどのようにお考えなのか,必要あるいは必要でない,こういった点について御意見を頂ければと思います。

窪田委員,お願いします。

【窪田委員】著作権法の世界の外から発言するような形になって申し訳ないんですけれども,ちょっと私自身がやはりまだよく分からないという部分がありますのが,先ほどの市販されているものかどうか,市販されて一定期間なのかという議論もそれに関わってくるんですが,これ,一般的な民法の発想から言うと,市販されていようがいまいが,著作権があってその著作権が侵害されるという状況であれば,一定の要件を満たすのであれば当然損害賠償が,あるいは差止めがということが認められるということになるんだろうと思います。

先ほどから伺っていますと,何か一方で民法的な観点も含まれた上で著作権侵害との関係でという議論がある一方で,ここでは正しく経済上の利益の保護という観点からもやっぱり絞るべきではないかというお話が出ているんだろうと思います。明白性の話というのは実はどっちでも考えらえるのであって,明白性を取ったら要件を絞らなければいけないとか要件を外さなければいけないということではないんだろうと思います。

その上でちょっと気になりますのは,市販されているものでなければならないとか,あるいは本来であれば恐らく違法であることを認識しているんであればもう不法行為法の世界だったら十分要件としては足りるのだろうと思うんですが,それ以外に利益を得る目的であるとかそういったことを要求するというのは,多分経済上の利益を保護するという,更に一つ重ねた形での問題を扱っているのだろうと思います。著作権法の世界で,特に一定の具体的な問題が生じている場面においてそういう対策をするということが考えられるんですが,どうも例えば市販されてから1年以内,じゃあ1年たったらもう侵害していいのかというと,当然そうではないわけで,それが誤ったメッセージになってはいけないという意味でも,ここでの話が差止めであるとか損害賠償の一般の話ではなくて,もし仮にそういう要件を付けるのだとすると,営業上の利益の保護のためのこれこれの制度といったような形での枠組みを明確にしていただく必要があるのかなというふうに思いました。これ,どれに賛成とかという話ではないんですが,この議論が一体何をしているのかという点を含めて,一般法の救済というのが非常に分かりにくいものではあるのだろうとは思いますが,それについて誤ったメッセージにならないように,あるいはそれを制限することにはならないようにということを,できたらお願いしたいなと思って伺っておりました。

【土肥主査】ありがとうございました。

それじゃ,龍村委員,お願いします。

【龍村委員】主観面の論点5に関連してですけれども,リーチサイトは正犯に対する幇助だということが前提で議論をもちろんされているのですが,少し見方を変えますと,例えば刑法に贓物罪という犯罪がある。物を盗んできてそれを店頭で並べて売る,これは贓物故買罪,これは現在は名称が変わって盗品等関与罪ということになるわけですけれども,それのアナロジーで考えれば,リーチサイトというのは違法コンテンツという犯罪組成物をいわば店頭に並べるようにウエブ上に並べてあるという意味で,ある種,贓物犯的な捉え方というのがあり得るのではないかと。贓物故買罪には,有償処分のあっせん行為も構成要件として設けられているわけですね。そういう意味では,リーチサイトにURLを並べるというのは,そのようなあっせん行為に極めて近い行為ではないかと思うわけです。

そうしますと,贓物罪にも言われていると思いますけれども,これは本犯助長的性格があり,事故従犯的あるいは本犯助長犯的犯罪類型とも言えるかと思います。その意味では,主観面として拡散を助長する目的というような要件を設けることは,いわば屋上に屋を重ねるようなもので,行為の性質から当然助長しているわけですから,要件としては要らないのではないかというように思います。

そのほか,主観面については,利益を得る目的,利益を害する目的というものも,民事の差止めの関係で必要なのかは,刑事の問題と民事の問題を分けて,必ずしも差止対象行為と刑事の構成要件が同じである必要はないのではないか,個人的な感覚ですけれども,行為があればそれでほぼ足りて,営利目的は要らないのではないのかと。大抵は営利目的を伴っていることが多いでしょうし,あるいは少なくとも利益を害する目的は伴っている,例えば営利目的がなくて愉快犯的なリーチサイトだってあり得ると思うのですね。そういうものについてもやはり対象には含めなければならないと思いますので,民事差止めとの関係では営利目的は必ずしも不可欠ではなく,すなわち11ページでいうと「d.別の主観的要素は必要でない」という辺りになってくるのではないのかなというように感じられるわけであります。

それと,少し戻ってもよろしいですか。先ほど論点3でしたか,3-1で先ほど対象物で絞り込む議論がありましたけれども,その中で広告モデルを入れるかどうかという話が一つあったと思いますけれども,広告モデルになりますとちょっと広過ぎないかというような印象がございまして,例えばテレビのニュース番組などでもスポンサーが付いている場合もあるわけです。すると,広告モデル上は有償著作物に入ってしまうわけですけれども,そのニュースというコンテンツの対象,性格からして,これはそこまで何も入れる必要はないのではないのかという気は少しいたしました。やはりメインは市販されているもの,あるいは特にテレビ番組なるわけですが,放映後すぐにアップされてしまうということで,連続タイプのドラマのDVDビジネスが毀損してしまうという意味で,市販されていなくても含める必要がある。その定め方は,恐らく前田健先生がおっしゃったような辺りになるのではないかと。例えば,制作者が後に商品化することを自ら明示しているようなケース,このようなものは含めるべきであると思います。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかに。

じゃあ,深町委員,お願いします。

【深町委員】ただ今,刑法の議論との関係で龍村委員の方からお話がありましたので,私から補足をしたいと思います。今お話のあった刑法における贓物罪,現在では盗品等関与罪といいますが,盗品等関与罪を規定する条文は刑法256条1項及び2項でして,龍村委員がおっしゃった話は主として刑法256条2項の盗品等有償譲受け(かつての贓物故買),あるいは盗品等運搬(贓物運搬),あとは盗品等有償処分あっせん(贓物牙保)といった犯罪類型に関わる話です。龍村委員が事後従犯性・本犯助長性と言われましたことを端的に言いますと,泥棒が物を取るときに,それを将来誰かがそれを買ってくれることが保障されているような場合,例えば盗品マーケットが存在するような場合には,将来の泥棒行為が促進されるといった趣旨でございます。要するに,刑法256条2項の行為は,泥棒が盗んだ物を誰かが買い取ってくれるのであれば将来また盗むインセンティブが生じるであろうし,あるいは名画とかを考えてみれば分かりますが,盗品というのは処分するのがなかなか大変であって,盗んだ絵を全て自分の家に飾って喜ぶ人は余りいないのであって,そうした盗品を処分する仲介者やマーケットがあれば,将来さらなる窃盗行為が行われやすくなるというのが,事後従犯の本質です。

こうした事後従犯の趣旨からリーチサイトについて考えるということであれば,要するにリーチサイトを作ることによって,違法アップロード行為が将来増加するようなインセンティブを与えることになるかどうかという議論をしなければならなくなります。私の理解では,リーチサイトを作ることによって,違法なアップロード行為が将来増加するのだというのであれば,盗品等関与罪と同じように考えるというアナロジーが成り立つし,そうではなく,リーチサイトの存在は違法アップロード行為を増加させるような効果はないというのであれば,盗品等関与罪とのアナロジーは成り立ちにくいということになります。

一つだけ更に補足しますと,最近問題になったいわゆる「はるか夢の址」事件におきましては,違法アップロード行為者と「はるか夢の址」の運営者とは結託している可能性があり,それは事後従犯ではなく,単なる普通の共謀と評価される可能性があります。すなわち,報道されている内容からすると,違法アップロード行為についての共謀共同正犯となる可能性も,――もちろん事実関係はなおはっきりとしていない以上は明確には言えないものの――見受けられるところでございまして,このような場合にはリーチサイトがあるからこそ違法アップロード行為も増加するという関係が成り立っていると見ることもできます。違法アップロード行為者とリーチサイトの運営者との間にこうした共謀が存在しない場合に,リーチサイトが存在することで将来の違法アップロードが促進されるという関係があるかが,盗品等関与罪とのアナロジーを成り立たせる上では重要です。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

どうぞ。

【大渕主査代理】私は今窪田先生が言われた点にも,今深町先生が言われた点にも大変共感いたしまして,どなたか前に言われたように,私権のもともと著作権というものがあって違法な侵害があって,それを助けているのなら一般的に差止めになるべき。今日は資料に掲載されていませんが「知りながら」やっているというので前回申しましたとおり,ノーティス・アンド・テイクダウンを掛ければ,刑法でも考えられないほど確定的に知りながらやることになるという,非常に悪質な行為に限定されてくるので,本日時間がなくてやっていない議論ですけれども,32条や黙示の許諾等々を全てくぐり抜けて全くの真っ黒になったものだけが対象になるということにおのずからなってきます。そうなると,それ以外のいろいろなところで限定するというのはやめた方がいいのではないかということであります。今の関係で,「知りながら」とやっても結局特定性のあるノーティスなら極めて高度の確定的故意に限定されてきますので,そうなると先ほどあったような話となります。それから,私は前回も,営業上のというのは,愉快犯みたいな人でも物すごく今だと甚大な被害を与えるのに,それを野放しにしてしまったら文化審は何をやっているのだということになりかねないと申し上げました。それか,ないしは愉快犯を装った裏でつるんでいる人などいろいろなものについての脱法が可能になってきますので,そのようなところで絞るべきではないと思っています。それから加害目的は深町先生が前回言われましたので繰り返しませんが,拡散の目的というのは,拡散しないリンクというのはあり得ないので,その意味で,拡散の目的,幇助の目的というのはおのずからビルトインされていると思います。また,以前も言ったのですが,事後従犯の話に関しては,従犯と事後従犯の二面あるということであります。すなわち,事後従犯としても捉えられますが,そのほかに,将来の送信の従犯のおそれとしても捉えられるということであります。事後従犯というのは終わった後で助ける話だし,従犯というのは完成前に助ける話なので,差止めの場合には,将来なされるであろう送信等の関係では事後従犯ではなくて普通の従犯になってきます。事後従犯の面については先ほど御議論されたとおりなのですが,むしろそれよりは普通の従犯の面が強いかと思いますので,さほど御心配いただかなくてもよいのではないかと思っております。以上です。

【土肥主査】前田委員,お願いします。

【前田(健)委員】今回の議論ですけれども,いわゆるリーチサイト上でリンク情報が提供されている行為をどう規制するのかというところから議論が始まったと理解しております。

立法により規制の対象とするべき行為がなぜ規制の対象になるのかというと,リンク情報を提供することによって侵害コンテンツの公衆送信という著作権侵害行為が幇助される関係にあるからだと思います。そこがまず議論の前提としてあると思います。さらに,それだけではなくて,より緊急性の高い行為を対象にするということで,著作権の背後にある著作権者の経済的な利益に対して損害を与える行為に限って規制の対象にしようということだと思います。先ほど来の議論だと,特にその利益として想定されているのが,現在若しくは将来の市販によって得る又は得られるであろう利益だということだと思います。

一方で,なるべく余すことなく侵害の対象にした方がいいというのはありますが,侵害コンテンツを対象にリンク情報を提供するという行為は,今までは基本的には著作権侵害の対象ではなかった。それもあって,最初の方に森田委員もおっしゃったように,リンク情報を提供する行為というのはインターネット上で基本的な表現行為としての重要性を持っていて,様々な人が言論活動というか表現活動の一環としてリンク情報の提供を行ってきた経緯があると思います。そういったものを不必要に規制して,表現を萎縮させないようにすることに配慮しなければならないと思います。主観的要件をどうするか,侵害コンテンツの対象をどう絞るか,又はリンク先をどのように絞っていくべきかという議論は,全部そういう文脈でのお話だと私は理解しております。

今は主観要件の話をしているということだと思いますので,主観要件について今の文脈で申し上げますと,単に著作権侵害を助長するということではなくて,それプラスアルファで著作権者のかなり重要な経済的利益を害するというところまで求めるということだと思います。そうだとすると,主観目的として「情を知っている」というだけでは不十分な場合もあろうかと思います。私としては,例えば営利目的であるとか,著作物を提供,提示する対価を著作権者が受けることを害する目的があるとか,そういう場合に限ってもいいのではないかと考えております。その趣旨は,著作権者に現実に損害を与えるであろう行為はその要件を問題なく満たすでありましょうし,一方で,個人が日常的に表現行為として行ってきたリンクというものが捕捉されてしまう危険性というのを減らすことができるのではないかと思うからです。私の意見は以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

それじゃ,森田委員,どうぞ。

【森田委員】ただいまの前田(健)委員の御意見とも共通するところでありますし,また,最初に申し上げたこととも関係しますが,ここで「知りながら」という要件が必要であるということについてはコンセンサスがあるというのは,その要件すら不要であるという意見はおよそ成り立たないからにほかなりません。どなたもそういう考え方はないというのは,ありうる考え方の中で一番対象を広くとるものが「知りながら」という主観的要件があれば足りるとし,およそそれ以上の限定はしないという立場であろうと思います。

最初に申し上げましたように,ここでは一般法に照らして考えますと,リンク情報の提供行為はそれが幇助に当たる場合に違法となるということは,それが著作権侵害を容易にするとか,助長・促進するという客観的要件を充たす,つまり,そのような危険性がある行為であるという場合に初めて違法となるのであって,違法サイトであることを知っていれば,それにリンクを張る行為はそのような主観的要件のみで全て違法になるという見解は,これは幇助に当たらないような場合も含めて違法となる範囲をよりも広めるということになるわけであります。したがって,そのような考え方は,当初設定されたここでの議論の土俵からは外れるものではないかと思います。

これに対し,「知りながら」という要件のほかに,「利益を得る目的」や「侵害コンテンツの拡散を助長する目的」という要件を必要とする見解については,それは単に主観的要件を加えて絞りをかけるというよりも,先ほど前田(哲)委員が言われたように,論点2の方で,対象となるリンクが掲載されているサイトの特性の設定において「リーチサイト」というものをどのように要件化するかを考えるときに,違法コンテンツを拡散して権利者の利益を害することを目的として開設されたサイトというように,対象となるサイトという「場」の設定のところで,侵害コンテンツの拡散を助長する目的とか,営利目的というような一定の主観的な要件を立てながら対象となるリーチサイトを定義した上で,そのような目的がどのような場合であれば認められるかということの具体的な指標としては,リンク情報の数であったり,コンテンツの検索を容易にする工夫がされているといったような客観的・外形的な事実があれば,そういう目的ないし意図が認められるというふうに主観的要件の充足を認定していくという方向が考えられるべきであると思います。ここでは,幇助に当たる場合というのを客観的な事実によってどのように押さえていくかを問題とすべきであって,これは,論点5の主観的要件のみの問題であるというよりは,論点2と5とに共通する問題として検討すべきであって,そのような客観的要件と主観的要件の双方によって限定することが最低限必要ではないかと思います。

このように考えますと,主観的要件として「知りながら」という要件だけで足りるという考え方は,むしろ違法となる対象を幇助に当たる場合以外にも広げていくということであって,適当でないと思います。 なお,違法ダウンロードについて「その事実を知りながら」という主観的要件のみで違法とされていることとの関係について付言すると,違法ダウンロードは,私的使用のための複製という権利制限,つまり,エクセプションに当たるかという問題であって,本来著作権侵害に当たる行為から権利制限としていかなる行為を除くかというものであるのに対し,ここで問題としているリンク情報の提供行為は,それ自体としては本来幇助に当たらなければ違法でない行為であって,更に悪質性の高い行為をどう絞り込むべきかを議論しているのであって,「知りながら」という主観的要件が問題になるといっても,その意味するところは全く異なると思います。以上です。

【土肥主査】ありがとうございました。

本日,様々な御意見を頂戴いたしましたけれども,まだ御発言いただいてない方で,例えば論点の6とかこういうところにまだ入っておりませんが,井奈波委員が挙手をされておられますので,お願いします。

【井奈波委員】まだ発言しておりませんでしたので,論点3の部分から論点5の部分を中心にお話させていただきたいのですが,まず論点3に絡む問題ですけれども,個人的には著作物の範囲を限定すべきでないという考え方に賛成です。そもそも根本的に著作物の種類というか,有償の著作物かどうかですとか,広告目的で頒布されているかどうか,広告モデルで提供されているものかどうかといった,著作物の種類によって,またデッドコピーかどうかという著作物の性質によって区別を設けるということ自体に違和感を覚えます。本来著作物であれば保護されて当然の問題なので,そういった区別をあえて設ける必要があるのかどうかという点に疑問を感じております。

例えば,ネットでよく起こることですけれども,著作物で,最初は無償で提供されていて,その後ネットで火がついて,それからその著作物の評価が高まってくるというのは非常によく起こりがちな事象ですが,そういったことが起こった場合に,最初は無償だから保護の対象になりません,で,評価されるようになってから保護の対象にしますということになるとすると,むしろ混乱が起こってしまうのではないかと考えております。

論点5のa,b,cについては,経済目的で提供しているものに限定しましょうという趣旨と思います。この点に関して私は,別の主観的要素が必要でないという意見に賛成です。この「知りながら」という要件ですが,市販されている著作物に限定すべきとか,デッドコピーだったらどうかという問題,個々の著作物の種類に関する問題ですとか,そういった問題は,どれだけ違法性を認識していたかという主観を判断する材料ではないかと思います。そういう意味で先ほど「知りながら」というというのはより厳格な要件を課すものであるという御意見もありましたけれども,その見解に賛成です。

【土肥主査】ありがとうございました。

ほかにございますか。よろしいですか。時間がちょうど5時1分前ぐらいになっておりますけれども,よろしいですか。きょうはこのくらいにさせていただいてよろしいですかね。

【大渕主査代理】せっかくだから。

【土肥主査】一言?

【大渕主査代理】一言というほどでもないのですが,123条の辺りでこういうものがあるということで参考として10ページに出されているのですが,これは先ほど言ったものとは全く別の話であります。わざわざ構成要件上有償性などで絞った上で,独立の新たな犯罪構成要件を作るのであれば,絞った上でしか作れないともいえますが,今回やっているのは既に119条で違法で犯罪になっているものにつき,刑法総則の関係で幇助だから処罰できるし,普通に考えれば差止めもできるものを更に絞り込むということなので,全く別次元の話であります。つまり,新たな構成要件を作るのだから絞り込むのは当然というのとは全く別の話であります。非親告罪の話も出ていましたが,これも訴訟条件の問題であって,全く別の話であります。要するに,新たな構成要件,すなわち新たな正犯を作るという問題や,非親告罪のような訴訟条件の問題などとは全く別次元の,既存のものを更にどう絞るかという話ですので,両者を混ぜないように混同しないようにすることが肝要だと思っております。

【土肥主査】ありがとうございました。

本日は差止請求の対象として特に対応すべき行為の範囲につきまして,論点3以下につき様々な御意見を頂戴したところでございます。この頂いた御意見等については,また事務局において再度整理していただいて,次の検討に進めたいと思っております。

時間もちょうど参りましたし,特にないようでございましたら,本日はこのくらいにしたいと存じます。

事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【小林著作権調査官】本日はありがとうございました。次回の小委員会につきましては,改めて日程の調整をさせていただき,確定次第御連絡いたします。

【土肥主査】ありがとうございました。

それでは,以上をもちまして文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第5回を終了させていただきます。

本日は,御協力ありがとうございました。

―― 了 ――

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